さらば、掲げろ。平和の象徴。   作:チョキ

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さらば、担げ。平和の象徴(仮)

 荒んだ街に怒号、爆音、コンクリートがガラガラガラドンと崩れる音が響く。

 また強盗だろうか、それとも殺人? まあ、私に被害がなければ関係のない話である。

 いや、別にそんなこともないか。

 横を歩く金髪の幼馴染を見て思い出す。

 そうだ、こいつがいるだけで街の犯罪行為は全て私の『関係ある』の範疇にいつの間にか入っているのだ。

 

 厄介事の配達員こと八木俊典は私の幼馴染である。

 度を超えたお人好しのこいつは、今みたいに街に犯罪が起きると、個性がないくせに現場に急行しようとする。

 ヒーロー免許もなく、個性もないのだから、できること、というかしていいことがあるはずがないのだが……、本人曰く、体が勝手に動くのだそう。何かしらの病気の前兆だよ、と進言してもまともに相手にしない。病気だと思うんだけどなぁ。

 

 そんな彼はやはり今日も変わらずこの現場に急行しようとしている。

 

「ねえ、また今日も行こうとしてるでしょ」

 

「ああ、当然だ。行かなきゃいけないんだ。私が行けば一人でも多くの人を助けられるかもしれない」

 

 この暴力装置(個性)と呼ばれるようになった超常の力がひしめく世界では滅多に見る事の出来ないお人好しであるこいつはやはり今日も行くらしい。

 やはり、病気ではないだろうか。

 

「……はあぁ、仕方ない、行こう。トシはそこらへんで鉄パイプ探してなよ。私は先に行く」

 

 こんなのに付き合ってやっている私もなかなかのトンチキ野郎なのかもしれないと思う。

 

 

 

 

 音の鳴る方向に私は空を飛んで移動すると、崩壊した建物を見つける。周辺に爆音の元凶であろう犯罪者も5人程度。

 建物は先ほどの爆発で火事でも起きたのか、もくもくと煙が空へとたなびく。煙たい。

 

「ほい、水」

 

 鞄に入れていた水筒を空からぽいっと放り投げる。空中でニ、三回転した後に、容器が溶けるようにして消えていき、放り投げた水筒の内容量を大きく超えた量の水が建物へ降り注ぐ。

 瞬く間に消火活動を終えた後、砂煙を立てながら犯罪者の元へと着陸する。

 

「お前、噂の……!」

 

「どこで噂なのか知らんけど、ここらへんで活動してるヒーローもどきなら私だよ。何回目なのよ、この問答。あれもこれもそれもぜぇーんぶトシのせい」

 

「やっぱりかよ、そんじゃ死ね」

 

 異形の男が、腕がナイフのように鋭い男が、単純に銃を構えた男が、カマキリのような見た目をした女が、全身火だるまの女? 男? が、一斉に襲い掛かってくる。

 

「はぁー……、最近のモラル教育じゃ人を個性で差別しちゃいけないと教えられるけど、私はやっぱりこの光景を魑魅魍魎の跳梁跋扈する社会以外には考えられないねえ」

 

 ポケットからハンカチを取り出し、個性を使う。ハンカチはたちまち消える代わりに、軽い全能感に浸る。テストの一夜漬けみたいな程度だが。

 

「それじゃ、終わりね」

 

 背後から水が矢の様に飛び出し、犯罪者たちを射抜いて気絶させる。

 

「ふぅ、終わり終わり。これで今日も平和、あいつも満足でしょ」

 

 

 

 

 私たちの住む街は治安が悪い。日本全国似たようなものだけれど。

 そんな街に住んでると、家族を失うなんてことは往々にしてあるわけで。

 私もトシも、残念ながらその例に漏れず……ということだ。

 

 そのせいなのか、それとも本人の生来の物なのか果たしてわからないが、トシはとんでもないお人好し、狂人になってしまった。

 無個性だから、役割がないから~ってアホか。お前は私の幼馴染だぞ。役割なんていくらでもあるじゃろがい。

 私がこんな歪んだ個性を日常的に使えるのもお前の存在があってこそなんだぞ。もっと自信持てよ。

 

「はぁ、あいつはもう……」

 

 先ほどトシといた方向の道を見るが、姿は見えない。

 おかしい、個性はないけどあいつは筋肉をバカみたいに鍛えてるからいつもならもうついてるはずだけど。

 

「……まさか、別の場所行ったの、あいつ」

 

 靴を対象に個性を発動する。靴は掻き消え、私は空中に舞い音の方へと向かう。

 くそ、トシめ。こっちを私に任せて今事件が起きたほうに向かったからこっち来てないんだろ。

 前兆見つけたんなら先に私に連絡よこせっての。ホントムカつく! 

 

 

 

 少し飛ぶと、トシと地面に倒れ伏した犯罪者数名を発見する。そう、地面に倒れ伏した犯罪者たち。

 なぜ倒れてたかって言えば、それはその光景を見ると明らかだ。

 

 そこには既に、ヒーローがいた。

 

 

 

 

 

「何見とれてんだトシィ!」

 美人ムチムチ女ヒーローがタイプかよテメー! 

 

 

 

 

 

 空中からのかかと落としをトシに食らわせて着地した私は、ヒーローと対面する。

 

「どうも、トシを助けてくれたんですよね。ありがとうございます」

 

「ああ、いや、それはいいんだ、いいんだが……大丈夫か、彼は」

 

「大丈夫ですよ。鍛えてますから、こいつ」

 

「鍛えてるからとかじゃない威力だったと思うけど」

 

 蹲るトシを足蹴にしつつ会話をしてるいると、何となく抗議の雰囲気を感じるが知らない。見とれてたお前が悪い。

 それにしても、この人美人だし、スタイルもいい。嫉妬しちゃう……、いやいや、私はまだ成長期の範疇。心配することは何もない。

 

「それじゃあ私たちはこれで。ヒーローさんもお気をつけて。ここらへん、質は低いけど数は多い犯罪者って感じなんで」

 

「忠告、感謝するよ。君たちも気を付けて、登校中だろう?」

 

「あー、まあ、そんな感じっすね。うす」

 

 それぐらいのことを話して会話が終わりそうな雰囲気を感じ取ったのか、トシが勢いよく起き上がる。足を乗せていた私がバランスを崩すがトシがなんなくキャッチする。やるやん。

 

「待て! 待ってください! ヒーロー、頼みがあるんです」

 

「ちょっと、トシ。迷惑をこれ以上かけるなってば」

 

「少女、気にしなくていい。私の手の届く範囲内なら聞いてあげるよ」

 

 なかなか現実的なことを仰る。

 

「ありがとうございます。頼みなのですが……お願いです。私を弟子にしてください!」

 

 

 

 

 トシてめえ! 

 こいつ、遂にそれに辿り着きやがったな。

 私が必死に遠のかせてた道だぞそれ、やめろや! 

 

「ちょいちょいちょい、何言ってんのお前。お前も私も、ヒーローなんか務まんない……は嘘だけど、やめとけって。弟子なんてヒーローさんに負担になるから! 早く取り消しなって!」

 

「少女の自己肯定感が高めなのはわかった。だが少年、すまない。君の頼みは聞けない。他を当たってくれ」

 

 ほら、ヒーローさんもこう言ってるぞ。諦めろ。

 

「そこをなんとか!」

 

「無理なものは無理だ。帰るよ」

 

 トシの首根っこを掴み、引っ張って帰る。時々力負けしそうになるので、髪留めのゴムに個性を使う。体を動かしやすく感じる。

 手刀で首裏をぶっ叩き、気絶させてトシを俵担ぎで持って帰る。重い。

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