さらば、掲げろ。平和の象徴。   作:チョキ

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さらば、掲げろ。平和の象徴(卵)。

 あのムキムキムチムチ女ヒーローさんと出会って一日。

 結局あの後トシを担いで私は学校まで向かった。もちろん遅刻した。まあ、学歴なんてほぼ関係ない社会になってしまった今なら何も問題はない。教師だっているのは国語教師だけだ。

 体育教師は数少ない生徒を個性犯罪者から庇うために死んだ。その他はそれを見て逃げ出した。残った国語教師は今の社会には似合わない情に厚い人だ。尊敬できる。

 

 そして、今日。トシはあのムキムキムチムチ美人女ヒーローの追っかけをしに行った。

 今朝、家まで迎えに行ってやったら私への伝言として『昨日のヒーローがいたから弟子入りを頼んでくる、学校は行っておいてネ!」とかいう張り紙が玄関扉にしてあった。ふざけた野郎だ。

 

 結果として私は今、国語が5時間、道徳が1時間の中学校の授業を受けている。地獄が過ぎる。

 くそ、放課後になったらすぐ探しに行ってやる。ふしだらな関係になってたら正してやるからなあの野郎。

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。下駄箱で靴を履き替えてトシからもらった髪留めを放り捨て飛行開始。最高速でぶっ飛ばす。髪がびゅんびゅん乱れるが知ったことではない。

 建物が崩壊してほぼ平らとなっているそこはとても人を探しやすく、すぐに見つけることができた……、なんか楽しそうだな。

 土手のような場所で会話をしている二人の間ぐらいに着地する。

 

「おや、昨日の少女。こんにちは」

 

「こんにちはどうもうちのトシがすみませんでしたほら帰るよ!」

 

「待て待て、もういいんだよ少女。俊典は弟子に取ることにした」

 

「……え、昨日あんなつっけんどんに断ってたじゃん、私の制止にも同意してたじゃん!」

 

「俊典の話を聞いて気が変わった。それと、君には自己紹介をしていなかったね。私は志村菜奈。ヒーローだ」

 

 一日でその気の変わりよう、何があったんだ。

 というか、トシはどういう心持ちで今この場に……。

 

 なんか食べてる。何食ってんの? 私にもくれよ。 

 

「えっ!? ……げほっ」

 

 飲み込んでむせこむって、何食ってんだよお前。

 

「いや、その……お師匠、やっぱり話しちゃダメですか」

 

「ああ、ダメだ。こればっかりはな」

 

 こいつら、もう二人だけの秘密~♡なんてもんを作ってやがる。

 というか、トシをヒーローにするの私反対なんですけど! 本人にも15年ずっと言ってきたんですけどね! 

 般若の顔を浮かべるつもりで怒っていると、トシに向き直られる。

 

「な、なんだよう」

 

「えっと……そうだな、すまない。私はヒーローを目指す。そのために、雄英高校へ行く。お師匠の盟友がいるらしい」

 

 私にも個性があった~、とても有用なものだからヒーローを目指せる~とか矢継ぎ早に語られたそれ。

 

「私でなくてはいけない。もう既に私でなくてはいけなくなった。それに、私には役割がなかった。それができるのであれば私がそれをすべきだ……キミにも、ずっと言っていただろう?」

 

 ……ハァ、と溜息を一つ溢す。

 

「もう知らない、ムキムキムチムチ美人ヒーローとよろしくやってな! 私何も手伝わないから!」

 

 あいつ、あれだけ理想並べてたくせに、そのくせして、もう! 

 空を再び走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 自分が嫌になる。

 トシと志村さんがよろしくやりだすようになってから一週間。私は結局毎日顔を出していた。

 

「少女もトレーニングするか?」

 

 草木の影に隠れた私を志村さんはすぐに見つける。

 そのたびに、別に大丈夫です! って言いながら帰っていたが、気が変わったのはトシの個性を使っている様子を見てから。

 フルパワーを放ってみろと志村さんに言われたトシが空中に向けて放った拳。

 それは容易に天候を変え、雨を降らせた。

 

 埒外の力だ。まさしく超常のそれ。私の個性であそこに辿り着こうとすれば鍛錬などに全てを捧げる必要があるだろうそれは、確かにトシがヒーローになることができると思わせる物だった。現在ヒーローとして活動している者たちも蹴散らせることができるであろう力。

 

 しかし、トシは慣れない個性に腕を痛めたようで右腕を抑えている。

 ……あー、もう。

 隠れていたところから出て、トシに近づく。

 

「……え、来てくれてたのか!」

 

「なにニコニコしてんの。治してあげるから手出して」

 

 トシに差し出された腕を片手で掴み、残った手で指を鳴らす。

 

「おお、治った! ありがとう!」

 

 ぐっぱーぐっぱー、と腕の感触を確かめるトシ。感謝しろよ、これ結構疲れるんだ。

 

「別に、怪我させたままにするほど嫌いではないし」

 

「素直じゃないな! でもほんとありがとう!」

 

 なんとなく照れくさくなった私はそっぽを向く。その先には志村さんがいた。うげー。

 

「少女、今のは? 君の個性か?」

 

「まあ、はい……そんな便利なもんじゃないですよ」

 

 会話がそこで止まる。気まずい。

 そんな雰囲気を感じ取ったのかトシが私の肩を叩く。

 

「なあ、まだヒーローになることを応援してくれてないのか?」

 

「当たり前じゃん。確かに個性はすごかったけど、それだけ。今だって一発使うだけで腕痛めてんじゃん。犯罪者と戦ったらあんた大けがじゃ済まないよ。今みたいに治療してくれる人もいないし」

 

「そ、それはまだ慣れてないからで……私はこの国の柱になるんだ。絶対にそんなことにはならないさ」

 

 頼もしい言葉だ。でも違うんだよ。欲しい言葉はもっと違うやつ……いや、別に違くない。別にいいんだ。別に、別に。

 

「……あっそ! 好きにしちゃえ! 志村さん、頑張ってトシ鍛えてください! それじゃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私には幼馴染がいる。

 名前は知らない。15年間一緒にいた、子供の頃からの知り合いだというのに今もなお知らない。

 容姿はかわいい、お師匠が美しいとするなら、彼女はかわいかった。

 

 彼女は優しい。無個性の私に付き合って、なんなら前線に立ち私がヴィランと対峙せずに済むようにしてくれている。それが私は歯痒くて仕方なかった。情けなかった。

 

 お師匠と出会い、義勇の心を紡いできた先人の力を受け取った。私もそれに倣って自らを平和のための礎に捧げようと思った。

 その時ふと蘇ったのは、ある日の彼女だった。

 

 持ち手しかなくなったバットをポケットに突っ込んだ、骨を折った私とそんな私を助けてくれた君の病院からの帰り道。今思い出しても情けない記憶だ。

 背を向けて歩く君。なぜトシがヒーローなんて危ない職業にならないといけないのか。そう言っていた。

 彼女は泣いていた。顔を見なくてもわかった。声が震えていたから。

 

 そうか、と自分自身がしたいことを理解した。

 心はいつも怯えているこの国の人々を安心させる平和の象徴。それだけではない。

 

 目を腫らした君が二度と悲しまないように笑える。そんなヒーローになること。私がなりたい、ならなくちゃいけないのはそれだ。

 でも、今の私では君を安心させることはできない。だから、外ならぬ君の力を借りる。私が知る限り、お師匠にも匹敵するぐらいに心も何もかもが強い君の力を。

 

 

 

「おーい! やっと見つけた! 家にもいなかったからどこに行ったかと思ったんだ」

 

 夜の瓦礫の山を歩く彼女の後ろ姿を見つけた。

 彼女は歩みを止めてくれたが、顔は見せてくれない。

 

「……どうしたんだよ、志村さんと仲良くやってんじゃないの」

 

「仲良くって、お師匠は夜になったらヴィラン退治に向かうんだよ。昼しか会ってない」

 

「あっそ。で? 何の用」

 

「改めて、説明させてほしい。それで、応援してほしい、認めてほしいんだ。ヒーローになることを」

 

「好きにしろって言ったじゃん。頑張りなよ」

 

「それじゃダメだ。私は君に安心してほしい。だから、見ていてくれ。私のことを見守っていてくれ。それなら君も安心できるだろう?」

 

 だいぶ傲慢な、自分勝手な、普通だったら納得できない、今と別に変わってないじゃん! ってことを言っている自覚はある……あれ、これ本当に説得できるのか? 

 い、いやでも、でも、彼女はこういう時は必ず。

 

「……もう! 分かったってば! 応援もする! 認めもする!」

 

 甘えさせてくれるって知っている。

 ……内心めちゃくちゃホッとした。

 

「そうか、よかった!」

 

「はいはい、分かった。雄英に行くんだっけ? じゃあ私もそこに行かなきゃいけないのか。もー、高校進学は適当なところでいいと思ってたのに。そこそこ勉強しないとじゃん。国語5時間の学校でそれは辛いって」

 

 えっ。

 

「確か雄英ってヒーロー科と普通科ってあるんでしょ? 私は普通科でもいいかな……や、トシを見守るってんならヒーロー科じゃないとダメか。うげー、じゃあヒーロー科のあの試験も受けないとなの? めんどー」

 

「え、いや、何の話をして……?」

 

「受験の話だけど。だって、私に見守ってほしいって、一緒にヒーローになってくれって意味じゃないの」

 

 目を腫らした彼女がニコニコしながら振り返り聞いてくる。

 

「い、いやァ、別にそこまでは言ってるつもりじゃなかったっていうか、辛いときはちゃんと頼るからってつもりで言ってたんだけど……」

 

 しばし沈黙。

 

 彼女が頬を風船のように膨らませて顔を赤くさせ始める。

 

「そんなん勘違いするじゃんかもおおぉぉぉ!」

 

「だって、名前も知らないのに高校は誘うとかおかしいだろう!?」

 

 ピタッと止まる君。

 

「それはそうだけど……」

 

「そうだろう? そうだ、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか! 教えてくれよ!」

 

 私の言葉を聞いて考えを巡らせた彼女が間をおいて答えた。

 

 

 

「私の名前なんて、知っても仕方ないよ。いつかどうせ、消えちゃうかもしれないし」

 

 その時の彼女の表情の翳りを私は結局晴らすことができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、まァ、こんな感じかな。緑谷少年。君が見たって言う私の記憶……。私の幼馴染についての記憶」

 

 過去を思い出し、出会いについてを粗方話し終わる。

 お茶をごくりと飲み、仮眠室で私の対面に座る私の弟子である緑谷少年を見遣る。

 

「オールマイトにも青い春があったんだ……!」

 

「HAHAHA! 緑谷少年、私を何だと思っているんだい。私にだってそういった話の一つや二つあるさ。全部その幼馴染との話だけどね!」

 

「うーん……あれッ、オールマイト、その幼馴染さんってヒーロー科に所属したんですよね」

 

「ああ、そうだよ。彼女はプロヒーローにもなった」

 

「その幼馴染さんのヒーロー名って? 僕、聞き覚えがなくて……」

 

 答えに詰まる。

 記憶に影がかかったような、それともその記憶だけが転がってパーツから外れてしまったような、違和感。

 でも、そんな違和感は既に何十回と感じていた。

 

「……さァ、ね。さっき話したけど、彼女は自身の存在を知られたがってなかったんだ。内緒さ。緑谷少年がそれらしき人と出会ったら聞いてみるといい」

 

 えぇ!? とリアクションする緑谷少年をHAHAHA、と笑い飛ばし、なぜ私は今本当のことを言わなかったのかと考える。

 しかし、答えはすぐに出た。

 

 仮眠室の扉の外から、在りし日の彼女の声が聞こえたような気がした。

 それに、相澤くんの声も……。エッ、幻聴じゃないのこれ。

 

「うん? 相澤先生、誰か叱ってるのかな」

 

 やっぱり幻聴じゃないのコレ!? 

 急いでマッスルフォームとなり、仮眠室の扉を開ける。

 そこにいたのは──―。




終わった感じだけどまだ続きます。
雄英高校入学から18歳ぐらいまでの予定です。

以下主人公プロフィール

名前:不明
性別:女
容姿:かわいい系。
個性:内緒。
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