特級術師 伏黒恵 〜困ったら即マコラ〜 作:第9の式神 立ち絵無し
「おとーしゃんを馬鹿にするなぁぁ!」
伏黒恵、幼少期。
伏黒家が歪ながらも、かろうじて形を保っていた数ヶ月。
母と父を同時に失うまでの、最後の数ヶ月。
これはそんなときに起こった出来事であった。
「ばかにばかって言って何がわるい!おまえのおとうさん男につけるなまえと女につけるなまえまちがえてるじゃん!」
「そうだ、そうだ!それにおまえのおかあさんはずっとねたきりじゃないか!」
発端はなんて事無い子供同士の喧嘩。
しかし、不運だったのは彼らの言葉に少し呪いが籠りすぎていたことと、
「もう、おまえらはぜったい、ゆるさない!」
相手が、その呪いを兆倍にして返す能力を持っていた事だった。
「ふる、べ、ゆら、ゆら」
呪詞も、掌印も、身体に刻まれていた。
彼はそう名付けた者の望み通り、才能に恵まれていたのだ。
────空間の雰囲気が変わる
悪ガキ共は、その変化だけで逃げ出していった。
────循環と調和、法陣が現れる。
呼び出した本人は、訳が分からず泣き出すももう何もかもが手遅れだった。
────狼たちの遠吠えが響き渡った
『
────顕現するは、最強の式神
しかし、その敵意は主人であるはずの
「ひっ、た、助けて!おとうさんッ!」
彼を切り裂かんと迫った凶刃は、
「────恵!」
今でも彼の最も尊敬する父の手で、防がれたのだ。
───────────
─────
──
その後の顛末とその結果起こった奇跡について、少しだけ話をしよう。
結論から言えば、幼子の父・伏黒甚爾は魔虚羅に打ち勝った。
決め手となったのは、彼の得物である天の逆鉾と彼自身の遊びの無い戦闘スタイル。
天の逆鉾が術式効果である適応を遅延して、多くの特級呪具で速攻をかけたのだ。
加えて、彼が禪院家出身だったこともこの速攻の判断をより揺るぎないものにした。術式の知識が彼にはあったのだ。
曰く、彼が自分の生まれに感謝したのは後にも先にもこの一度だけという。
という訳で、彼は勇敢にも子を守り切った訳だが……とんでもない副産物もついてきたのだ。
────通常、二人以上で行なった調伏の儀は無効となる。
しかし、彼こと伏黒甚爾は世にも珍しい呪力0の天与呪縛。
即ち、呪術的には
つまり、それが何を意味するのかと言うと……
「この学校、呪霊の数が多過ぎるな。……ああもう、面倒くさい!
───布瑠部由良由良」
特級術師・伏黒恵、爆誕。
▲
『五条悟を殴りたいときは伏黒に金を積め』
呪術高専では、よく知られた身内ネタである。
曰く、五条の無限バリアは出会った時に4ガコンされて適応されており、以後は伏黒がムカつくたびに陰から飛び出すマコラパンチがバカ目隠しをぶっ飛ばしている。このせいで五条の反転術式の精度はとんでもない事になってしまった。……多分首チョンパしても身体が生えてくるとのこと。
因みにガコンは伏黒本人が作りだしたマコラの適応の脳内単位で、彼は戦闘力や技、術式の性能をこの単位で考えている節がある。1ガコンで対象の全技に適応した場合は哀れなものを見る目を向けられるとか。
そんな彼は今日も今日とて、バカ目隠しこと五条悟をぶっ飛ばす事で頭が一杯だった。
「素晴らしい、鏖殺だ!」
原因はどういう訳か、特級呪物が受肉していた事。
というのも彼は特級呪物の回収の為、仙台に有るある高校を訪れていたのだが、なんと封印が解けかけた特級呪物に呪霊が群がっていたのだ。
十種の式神の全てを駆使してプチプチと潰し回っていたのだが、肝心の特級呪物が見つからない。
見つからないという事を上司兼保護者の五条悟に連絡したところ、彼が任務先の学校を間違えていた事が発覚。……間違って行った学校にも別の呪物があったで結果的にはどうなんだという話ではあるが。
急いで向かったが、そちらの現場は既に手遅れだったのだ。
「くっ、こうなったら仕方ない。呪うなら五条先生を呪え…… 布瑠部由良由良」
「「は?」」
受肉先の少年、虎杖悠仁と呪いの王、両面宿儺の驚く程息ぴったしに重なった言葉は音のスピードを超えてぶっ飛ぶ彼ら自身の身体に置いていかれた。
ピッチャーはマコラ選手、ホームランである。
「ちっ、無駄に頑丈だな。マコラ!1ガコンで硬さに適応しろ!……あと、苦しまないように葬ってやれ」
しかし手応え的に殺れていない事を、マコラを通して確信していた伏黒は鵺を飛ばして偵察させつつマコラに適応を指示。
「済まないな、これで最後だ」
───その言葉と共に彼ら?がめり込んだ山の方向にすっ飛んで行ったマコラは
「ストォォォップ!恵、ほら、よく見て」
「いてて……あれ、なんで俺ドラゴンボールみたいにめり込んでるんだ?」
現代最強の術師介入(パンチ)によって止められた。
「……マコラ、五条先生をぶっ飛ばせ」
「あれ?なんでこっちくんの?オーイ、恵くぅぅぅん?この式神反抗期ですよー。くぎゅっ」
五条悟、クリボーみたいに潰されて身長が半分に縮むの巻。因みに回復まで三秒である。赤キノコでも食べたのだろうか
「たっく、やめてよねー、この子が怖がっちゃうでしょ、恵?」
「怖がるも何も処刑対象です。先生のミスでこうなったんで先生が責任持って殺してください」
鵺に乗って現場にやってきた伏黒は不機嫌さを隠そうともせずにそう言った。
「まーまー、そう固い事言わないで。彼はあの両面宿儺に対して完全に自我を保てる特異体質だ。このまま殺しちゃうには惜しいと思わない?それに恵、同級生いないし、先生も生徒が一人しかいないから張り合いがないんだよ」
「は?先生まさか……」
「そう、虎杖悠仁君を呪術高専に入学させまーす」
五条悟は高らかにそう宣言した。
▲
「げっ、隣かよ。空室なんて他にいくらでもあったでしょ。それに俺、夜は式神と戯れるんでコイツにとっても迷惑だろうし」
「おっ、俺をぶっ飛ばした人!」
「……伏黒恵だ。お前は?」
「虎杖悠仁、よろしくな!」
あれから2日程が経った日、伏黒は五条悟によって学校案内をされている虎杖と寮で出くわした。
結局、虎杖は本来の時間軸と同じく五条パワーにより救済され晴れて呪術高専生となったのだ。
しかし伏黒にしてみれば元はと言えば、殺そうとした相手。
全くその事を意識しない程、彼は人を捨てていなかった。
故に遠ざけようと冷たく振る舞ったが、虎杖の前では無意味だったようだ。
「あと、先輩達を助けてくれてありがとう!あっ、あとあの時出てきて俺をぶっ飛ばした筋肉隆々のサムシング、すっげーカッコよかった!」
「……お、おう」
「ハハっ、恵が光属性に押されてる。ウケる」
「……布瑠部由良由良」
伏黒は五条に煽られると反射で掌印を組む。これは出会った時から変わらないらしい。
「ストォォォップ、恵!悠仁の荷物と部屋が全部消し炭になっちゃう!」
「……はぁ、生徒の荷物と住居を人質にするとかあなたそれでも教師ですか」
いつもなら、子供のじゃれ合いとして甘んじて受け入れてきた五条が流石に制止すると伏黒はそう毒づいた。
「ふるべ?ゆらゆら?」
「あぁ、悠仁。この呪詞の意味は出た時のお楽しみって事で。きっとビックリするよ?色んな意味で。あっ、あと二人とも。明日はお出掛けね」
「……明日は一ヶ月ぶりのオフです。野暮用だったら布瑠部りますよ」
最早動詞になった呪詞を向けるも、五条悟は意に返さず言葉を続ける。
「いやいや、恵にとっても休日を突っ込む価値のある大事なことだよ?三人目の一年を迎えに行きまーす!」
かくして、彼らの呪いと共にある青春は廻りだしたのだ。