特級術師 伏黒恵 〜困ったら即マコラ〜 作:第9の式神 立ち絵無し
「釘崎野薔薇。喜べ男子、紅一点よ」
新たな一年、釘崎野薔薇と原宿にて合流した呪術高専新一年一行の予定は五条悟に騙されて無事呪霊退治と相成った。無論、伏黒は知ってはいたが腹が立ったので布瑠部った。オフを木っ端呪霊に潰された憎しみは深いのだ。
というのも、正規の時間軸と違い伏黒は特級術師。総監部を単身でボコボコに出来るのは当たり前であるし、五条悟無双が出来なくなった五条家からは物凄く存在を疎まれ、唯一特級術師を持たないため御三家から格下げされそうになっている加茂家からは逆恨みされ、当たり前のようにドブカス一族、禪院家からも嫌われている。その結果、任務先がタンザニアやらタスマニアやらの海外出張が多くなるという嫌がらせを喰らってるのだ。彼が今だに布瑠部っていないのは奇跡である(無論、勢力に対してではなく個人に対してなら何回かやってしまっている。焦眉之赳は1ガコンだった)。
さて、そんなこんなで五条悟を雑巾みたいに絞った伏黒は無事二人の初任務生還を見届けたのち、強奪した五条悟の財布で銀座の寿司屋に行ったのだ。
これが彼らの日常の始まり、その筈だった……。
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記録────2018年7月
西東京市 英集少年院
運動場上空
特級仮想怨霊(名称未定)
その呪胎を非術師数名が目視で確認。
緊急時のため高専一年生"2名"が派遣された。
以下に本件の情報を記す
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「は?アイツらが特級任務に?!馬鹿げてる。この前術師になったばかりだぞ!それで場所は?ちっ、『貫牛』!間に合うか……!」
その知らせは突然伏黒の元にやってきた。沖縄で発生した珊瑚の特級呪霊との戦闘を終えた伏黒は明らかに作為的なタイミングで携帯に入った連絡に憤ったのだ。因みに五条悟は今、ケニアにおり時差的を考慮すると夢の中だ。
……改めて、伏黒は自分達の嫌われ具合を認識し呪術界の腐敗具合に辟易とするも、取り敢えず自分に出来る事をやる事にした。
十種影法術の式神の一体、貫牛。その性質は指数関数的な距離による運動エネルギーの増幅。
直線的な軌道限定ではあるが、この性質は攻撃だけではなく洋上などの開けた空間の移動にも使えるのだ。
「よし次だ、『鵺』!」
美ら海から一気に東京湾まで到達した伏黒は、障害物が多い東京都を突っ切る為に式神を鵺に切り替え空路を進む。
マコラで玉犬以外の残りの八種の式神を調伏するという奇妙な事をやった伏黒は本来の時間軸より式神を使用している期間が長い。
故に鵺の有人飛行もこの通り、二人までだったら容易にこなすのだ。因みに搭乗人数が二人なのは自分と津美紀しか乗せないからである。五条は自前で飛べるので置いていっても保護者気取りで着いてきていたが。
そんなこんなで、沖縄から30分で現着した伏黒は
───呪霊の消失反応?!そして、この気配は……
「
しかして、間に合わなかったのだ。
「……どうしてオマエが自由になってる」
顕現した宿儺に対して、伏黒は掌印を結びながら啖呵を切る。
「ふむ、良いだろう。今は機嫌が良い。少し話そう」
「端的に言えば、何の縛りもなく俺を利用したツケだな。小僧は女を逃した後、不遜にも対価無しで俺を利用して呪霊を倒させたのだ」
───やはり、呪術の基礎が抜けていたのが仇となったか。
伏黒はそう歯噛みするも、もう全てが遅かった。
「ただまぁ、流石の俺もあの式神相手に指2本では分が悪い。運悪くあの雑魚に領域を使ってしまっているしな。そこで―取引だ」
「取引……?」
「俺が今回は何もせず小僧の命を助ける……では、お前相手だと足し引きが釣り合わんか。普通に断る理性も肝も有ると見た。ならば不本意だが、この小僧に俺が力を貸すというのはどうだ?」
「……対価は?」
「俺の頼みを任意のタイミングで聞いてもらおう。無論、この頼みは虫共……非術師やお前の同胞を殺傷するものでは無いと保証しようか」
「待て、その括りに俺自身が入っていない。取引成立した瞬間に自害しろ、とでも言われたら間抜けが過ぎる」
「おお、そうだった、そうだった。無論、お前の"身体に"害を及ぼすもので無いと保証しよう。ただ、この取り引きをした記憶は忘れて貰おうか」
───これは、どうする?
伏黒は判断を迫られた。相手はどういう訳か死をあまり恐れている様子が無い。交渉が決裂したら問答無用で虎杖を殺すし、刺し違えるつもりなら伏黒とてタダで済む保証は何処にもない。五条悟と違い彼は本体性能はピーキーなのだ。
───無視して虎杖ごとマコラで叩き潰す。恐らく、それが理屈の上では最善だ。
伏黒は自分の価値、自分に出来る事の脅威度を正しく認識している。特級術師が一時とは言え、特級の呪いの言いなりになる事にどれ程のリスクを持つ事になるか。
───不平等な現実のみが平等に与えられている
「誰かを呪う暇があったら、大切な誰かの事を考えたいの」
彼の頭に、たった一人の姉の言葉が過ぎる。
───因果応報は全自動じゃない。
己は善人ばかりが損をする世の中を正す機構の一部である。
彼はそう自認している。
───俺は不平等に人を助ける。
最後にあの日の父の背中を幻視した。
悪人が気紛れに見せた至上の善意、彼はそれを今でも信じている。
「分かった、条件を呑もう。ただ虎杖に力を貸す際の認識の擦り合わせはキチンとして貰うぞ」
「良い、それでは一つ催し物をしよう。今からお前が俺と戦って小僧が戻ってくるまでにお前が一撃でも俺に入れる事が出来たなら、"小僧に俺の術式を貸してやろう"。負けた場合も応じない場合も貸すのは呪力出力だけだ。それでも指を全て集めれば破格だがな。応じる場合はいつでもかかってこい」
宿儺はその伏黒の答えにこれ以上無い程上機嫌になりながらそう答えた。
「『貫牛』!」
───伏黒はそんな宿儺の笑いを切って捨てた。
彼我の距離を瞬く間に詰める猛牛の式神から戦いは火蓋を切ったのだ。
「ほう、キチンと他の式神の練度も高い。一つの式神に頼り切りという訳では無いようだな」
初見の筈の宿儺は横に少しズレてやり過ごした。この辺りの観察眼は16年しか生きていない伏黒では太刀打ち出来ない。
「『脱兎』、『貫牛』、拡張術式『一角』」
なればこそ、伏黒は初見の技を仕掛け続ける。次の技は脱兎と貫牛を混ぜて作った拡張術式。風貌は一本の角が生えた兎と言った具合か。
攻撃能力を持たない脱兎に僅かながら殺傷能力を持たせるこの術式は兎に角攻撃を当てなければならない時に重宝する。脱兎より少し燃費が悪いので召喚数が半減してしまうのが玉に瑕だが。
『一角』を全方位に隙間なく飛ばして宿儺を詰ませにかかる。
「応用も良し。だが、まだ少し頭が固いと見える。『解』」
しかし宿儺はマンホールを破壊して地下に逃れる。貫牛の性質を持つ『一角』は方向転換が難しく、追尾は叶わない。
「ちっ、領域展開による術式の焼き切れはやはりブラフだったか。『鵺』!」
下方向の安全が確保と、"もう一つの目的"の為、伏黒は素早く離陸した。
───呪力が遠い、『鵺』を使って空中に逃れたか。安全確保?いや、違うな。
そんな宿儺の思考を読んだように伏黒は叫ぶ。
「その通り、『万象』!地盤ごと潰れろ!」
暴力的な質量が下水管ごと押し潰さんと降ってくる。アフリカゾウ程度では普通、地面は陥没しないがそこはそれ。本来の世界より練度の高い万象の質量はそこそこのビル一軒分にも及ぶのだ。
「『捌』……発想もまた良し。つまらん小僧のせいで気乗りのしない受肉だったが、とんだ掘り出し物に出会えたな」
宿儺は『捌』により先に下水管より高い地面を消し去る事で技を受け流す。
「……何故、式神を直接攻撃しない」
落下後の無防備の万象に対してもノーアクションな宿儺に対して、何かを察した伏黒はそう尋ねた。
「それはそんな目立つ法陣が式神達に入れ替わり立ち替わりついているからであろう?大方、その法陣を持った物に術式や拳で攻撃すると、あの式神と戦う時恐ろしく不利になるだろうからな」
そう、伏黒の狙いはハナからマコラによる決着。今までの試合運びは全て、宿儺の打撃や術式を引き出し、式神に適応を肩代わりさせてマコラの致命的ダメージを防ぎつつ勝率を上げるためのモノだったのだ。
「バレバレだったって事か。なら出し惜しむ意味はもう無い、
───布瑠部由良由良」
「良い、魅せてみろ!伏黒m……ちっ、小僧。少しは空気を読め」
宿儺の紋様が消えかけていた。
「『八握剣異戒神将魔虚羅』」
タイムリミットはあと30秒
最強の式神が顕現する───!
今回は一角だけ、オリ拡張式神です。今後もちょくちょくキメラ作ります。
追記・式神による適応の肩代わりに関する説明を少し修正し、分かりやすくしました。