幻日のヨハネはU-NEXTで観てる関係で、今は11話までしか観ていません。
仕事とやる気の関係で数週間に1回投稿できたらと考えてます。
残暑が残る9月の夕方の東富士演習場の中で、1両の74式戦車が駒門駐屯地に向けてエンジン音を鳴らし砂塵を巻き上げながら道路を走っている。
「やっと駐屯地に戻れる」
その戦車を操縦しているのは俺、志田俊男だ。
陸上自衛隊に入隊して今年で3年目だ。職種は機甲科、つまり戦車兵である。階級は陸士長。年齢は28歳、そろそろ30代になろうかという年。
なんで18歳で自衛隊に入っていないのかって? そもそも大学へ合計6年間いたからさ。それなりに高いレベルの大学に入学したはいいが、元々サボり癖があった俺はすぐに遊び呆け、大学3年生を3回繰り返してしまった。親からこれからどうすんのって「話し合い」をした後に、大学を中退して自衛隊へ入った。
自衛隊を選んだ理由はミリタリーオタクだったのが大きい。特に戦車が好きだった。決して女子高生が戦車乗る某有名なアニメに影響されたわけではない。あと駐屯地の中で基本的に生活するので金が貯まりやすいのというもある。
自衛隊に入ってからはまず約半年間教育があり大変だったが、楽しかった。89式小銃を初めて触ったときは感動したし、職種が機甲科となり戦車に初めて触ったときも感動した。戦車は戦車乗員として基礎や整備・点検のやり方、戦車乗員として必要な
部隊配属後は今まで同期に囲まれてたのが、急に先輩や上司の元で仕事をすることになるので下っ端としての仕事を覚えなければならないのが大変だった。些細なミスで怒られ、作業が遅ければ怒鳴られ。装填手で乗ってるときに戦車砲弾の装填動作が遅かったり、機関銃の故障排除が遅いと車長から怒鳴り声とともに蹴りや拳が飛んで来る。
自分が部隊に着隊してから1年後に後輩が来て、少しは楽になるかと思った。しかし逆に今度はそいつらに対して仕事を教えなければならなくなった。後輩が何かミスをしたらお前らがしっかり教えてないからと怒られた。
仕事の内容も毎日戦車の整備か演習で、時間があれば駆け足をするだけ。演習場へは、所属している部隊の関係で幹部の学生の教育支援が多い。自分の中隊で独自にやる訓練はほぼない。上から降りてきた教育支援の依頼で毎年同じ教育をする。
今は最初に部隊配置された時よりも自由度が増して外出もよくできるようになった。でも自衛隊の生活に疲れてきた。外出してもただ御殿場から沼津へ行ってネットカフェか大学時代に覚えてしまったパチンコをするだけ。たまに伊豆の下田市にある俺の実家へ帰ってそこに置いてある入隊1年目の冬のボーナスで買ったゲーム用のパソコンでゲーム三昧。最近はPCゲームすら飽きてきて、正直外出の楽しみも無くなってきた。
「おい、志田。今日は駐屯地に帰ったらざっくり足周りを見て良ければ撤収して終わりにするぞ。給油や洗車は来週やろう」
車長が駐屯地に着いてからの行動を説明する。
「分かりました」
今日は土曜日。休日になんで
なるべく早く帰る為俺はアクセルを踏み込んだ。74式戦車のエンジンに付いてる強制冷却ファンが回る音が高くなり、どんどん加速していく。
50年前に開発された戦車だけれども、720馬力を出すエンジンの性能は本物だ。2ストロークのツインターボチャージャーは伊達ではない。
加速した戦車は、起動輪のスプロケットと履帯をガタガタと大きく鳴らしながら履帯さらに速く回し駆け抜けていった。
次の日。
俺は私服に着替えウエストポーチを肩に提げ、当直から外出証をもらい、これから駐屯地の正門を通ろうとしていた。
歩哨に10度の敬礼し、身分証と外出証を見せる。
「どうぞ」
点検が終わった後に再度敬礼をし、外へ出る。
「ふう、やっぱり外の空気は柵の中とは違うな」
外出できたことによる若干の解放感を噛みしめながら、駒門駐屯地の最寄り駅である御殿場線の富士岡駅へ歩き出す。とりあえず沼津へ行くか。
富士岡駅に着いた後、沼津行きの電車に乗り込む。座席から、出発後すぐに見える駐屯地と演習場をぼんやりと見つめる。
演習場に生えているすすきは、先月に比べて黄色がかかってきた。流石に9月、季節は着実に変わっているのだろう。実際に昼間は日射しが暑いが、夜になれば蒸し暑くなくなっている。
それよりも駅に着いたら何をしようか? 駅南口前にあるパチンコ屋でも行くか? それとも駅北口にあるゲーセンで時間潰すか?
そんなことを考えながらポケットからスマホを取り出し、第2次世界大戦がテーマのカードゲームをやり始めた。
数十分後、電車は沼津駅に到着した。
すぐに駅から出ようと思ったのだか、昨日の教育支援で疲れていたのか急に眠気が襲ってきた。
仕方がない、少しだけでも寝るか。
そのままホームにあるベンチに深く座り込み、目を瞑る。
パァン!!!!!
突如雷鳴のような音が頭に響いた。
思わず驚き、顔を上げて周囲を確認するが周りはまるで何事もなかったかのように人が歩いている。
なんだ? 線路の架線のショートか? それとも落雷か?
線路側へ近づき上を見上げると、澄みきった青空が広がっている。
線路のバラストやレール、架線にも変化がない。
「なんだ、気のせいか」
いよいよキチガイにでもなったかと冗談半分で思いつつ、またベンチに戻る。
とりあえず寝よう。起きた後にこれからの行動を決めよう。
そして彼は微睡みに落ちて行く。決して交わる事はない世界に向かって。