ある兵隊の夢   作:トーチカU

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目覚め

パッと目が覚めた。

 

やっべ、スマホのアラームつけるの忘れてたわ。

 

時刻を確認しようと腕時計を確認すると、5分ぐらいしか経っていない。

 

なんだ、いつの間にか寝落ちしてた割には全く時間は経ってないのか。

 

眠気でぼんやりする頭で辺りを見渡すと、何か違和感を感じた。

 

まずホームの外観が違う。沼津駅は地上にホームがあるはずなのに、ホームから見える景色が地上より高い。電光掲示板もない。案内板の文字が漢字以外まるで文字化けしたようなよく分からないものになっている。

 

おかしい。沼津駅はこんな構造じゃなかったはず。実は静岡駅まで行ってて寝ぼけてそのままホームのベンチに座ってまた寝たのか? そんな器用なことはできねえだろ。実際にそれができたとしても目の前はビルがいっぱい建っているはず。でも目の前にそんなものはない。

 

たちまち不安に駆られて、心拍数が上がっていくのが感じ取れる。

 

これはある種のドッキリ企画か? それとも夢か? いや、少なくとも前者は俺にそんなしょうもないことをする必要がない。後者のほうがよっぽどましだ。

 

とりあえず駅から出よう。現状確認だ。

 

 

 

ズボンのポケットに入っていたはずの切符が磁気タイプではなく硬券タイプに変わっていた。これで改札通れるのかと疑問に思いながらも改札口で駅員に切符を渡したらすんなり通れた。

 

沼津駅南口と思われる方面へ出ると、ロータリーの構造は変わっていないがあるはずの物がなくなっていたり、逆にないはずのものがあった。

 

それは路面電車だった。線路が沼津港の方面へ伸びている。

 

沼津に路面電車はねえんだけどな。

 

沼津駅南口にはそれなりに高い建物があるはずなのだが、それが中世ヨーロッパに建てられた建築物みたいな建物に置き換わってる。そしてこの時間帯ならよくいるタクシーやバス、駅まで送迎に来ている車が見当たらない。信号機もない。

 

街行く人の格好も全然違う。

 

駅周辺の地図を探してみるが、すぐに見つかった。

 

漢字以外読めねえ。でも日本語っぽいな。

 

よく分からない文字を推測しながら解読する。

 

道路は俺のよく知っている沼津の道路の構造そのものだった。

 

夢であるのならいいが、異世界の可能性も出てきた。

 

とりあえず近くの山でも行って街全体を見てみないと分からない。そうとなればすぐに行動しよう。

 

俺は沼津駅から少し離れた所にある香貫山へ歩き始めた。

 

 

 

香貫山から沼津から三島、富士と箱根から続く天城の山と、御殿場を確認するために俺は展望台に続くと思われる道を歩いていた。

 

沼津駅は存在してるが、駅の案内板などに書かれている文字が漢字以外よく分からない文字になっている。正直漢字の読みから文字を推測することしか出来ない。

 

きさらぎ駅にでも迷い込んだのか? いや、起きたときは昼間だ。きさらぎ駅の話は深夜の話のはずだ。俺が沼津駅のホームのベンチで眠くなってうとうとしただけであらゆる物が変化していた。

 

途中自販機や店で飲み物を買おうと思ったが、異世界であるなら買い物をしようとしても元の世界の通貨は使えない。なので、我慢することにした。

 

ここまでまで歩いていると、ここ数年から主流となった異世界転生モノの物語に出てくるような建物があると思いきや高層建築物もあった。街行く人も格好が現代風ではない。電波塔や高圧電線も確認できていない。技術水準がいまいち分からない。そしてスマホの電波もしっかり圏外となっていた。

 

「きさらぎ駅なら電波は繋がっていたんだけどなぁ」

 

たらればを言っても何も始まらない。とりあえず、現状を確認しなくては。

 

香貫山の展望台に到着し、沼津市全体が見える場所を探す。

 

駒門駐屯地の隊舎の屋上からよく箱根から天城山系の山と、香貫山がよく見えていたのでわざわざここへ来たのだ。

 

富士の裾野市から小山町にかけてある日本第2位の広さがある演習場や駒門の駐屯地の建物、伊豆縦貫道や東海道新幹線や東名高速があるか確認してみる。

 

だが、富士山と愛鷹山から箱根の山の谷になってる部分にはまばらにある家と林ぐらいで、富士の演習場や駒門の駐屯地らしきものは何も見つけられなかった。富士から天城山脈にかけての地形は何も変わらないが、大きな幹線道路や新幹線も見当たらない。ただ三島や沼津周辺の建物が減ってやたらと緑豊かになっている。

 

 

 

これは実は夢かもしれん。頬をつねったり自分の顔を殴ったりすれば目が覚める、てか夢オチであってほしい。

 

まず自分の頬をつねってみる。つねる力を強くしてみるが、ただ痛くなるだけで何も変わらない。

 

「こうなったら顎に向かって自分でパンチじゃ」

 

そう言った後に自分の顎に思いっきり自分の拳をぶつける。その瞬間、顎に痛みが襲い、視界がふらつき始めその場に倒れる。

 

「痛ってえ。とりあえず、今目の前に起こってる事は現実かぁ」

 

はぁ、とため息とつき痛む顎を撫でながらこれからの事を考え始めた。

 

俺は異世界へ来てしまったようだ。沼津駅着いたら南口前へパチンコでも行こうかと思ってたんだけど、気がついたらこんなことになるとは思ってなかった。

 

中隊にどう報告しようかなぁ。親にも連絡しないといかんな。てか連絡手段がないじゃん。このまま帰隊時間超過して中隊で捜索になるんだろうなぁ。そしてその内に行方不明隊員となって数週間で捜索打ち切りか? いや、身分証持ってるしそれの捜索でもっと長くなるか。 

 

上半身を起こし、肩から提げていたウエストポーチからタバコとライターを取り出し、火を付ける。ここへ来るまでにタバコはまだ吸っていなかった。

 

煙を深く、ゆっくりと吸い込む。

 

「ハアァ~」

 

ため息を出すかのように気の抜けた声を出しながら、眼前の景色を再び眺める。腕時計の時刻を見るとかれこれ沼津駅を出てから数時間は経っていた。疲れが少し出てきて、今とんでもないアホ面晒してると思う。

 

タバコをギリギリまで吸いきり、本当はダメだと思いながらも適当に投げ捨てた。

 

「下山するかの」

 

 

 

 

 

 

しばらく山道を下って行くと何かが聞こえてくる。

 

耳を澄ましてみるとそれは歌声だった。

 

「誰かが歌の練習でもしてるのか?」

 

そのまま下山を再開しようと思ったが、何故かこの歌声に引き寄せられる気分がした。というよりも、声の元へ行かなければならないという使命感に駆られた。

 

 

 

ボサをかき分け、歌声の方向へ道無き道を進んでいく。すぐに、開けた場所へ出てきた。その開けた場所の中央に、半径数mはあるであろうまるでステージのような大きな切り株の上で青みがかかった緑色の髪の少女が歌っていた。その周りには、観客だと思われる小麦色に近い茶髪の少女と、やたらとデカい犬(?)が豚か猪なのかよく分からない動物がいた。

 

少し駆け足気味で進んでたため息が上がっていたが、そんなことはどうでもよくなるぐらいに少女の姿と歌声に見とれてしまう。まるで魔法が掛かったかのように周囲の風景も変化し、彼女の歌に込められた情景が頭に入り込む。

 

自分の心にじんわりと感動と共感を覚える。

 

彼女の心境を表しているはずなのに、入隊したときに持っていた目標や意気込みはとっくになくなっていた俺に語りかけるようにも感じる。

 

ふと気がつくと、いつの間にか自分の服装が変化して作業帽に装甲戦闘服に装甲戦闘靴となっていた。もちろん、戦闘服にバッジと部隊章、ネームに士長の階級章もついていた。

 

「なにこれ」

 

ただ困惑しかない。

 

一つ思い当たるとすれば、あの少女の歌の歌詞がかなり共感できたからなのだろうか?

 

そのように考えるのがどうでもよくなり、着実に彼女の歌声とダンスに引き込まれていく。

 

頬には涙が伝っていた。

 

歌で感動するなんていつ以来だろうか?

 

まだ自衛隊で冷えてたと思っていた心は冷めきってなかったのか?

 

歌には力があるって誰かが言ってたけど、こりゃ本当なんだな。

 

 

 

やがて少女の歌が終わると共に服装も普段着であろう服装に変化した。

 

それと同時に、空中から杖状の棒が現れたではないか!

 

「これって、もしかして魔法!? やっぱり私って特別だったんだ!」

 

先ほどまで歌っていた少女が、歓声を上げる。

 

「すごいよヨハネちゃん! やっぱりヨハネちゃんの歌はすごいパワーを持ってるずら!!」

 

明るい茶色の髪の少女も歓声を上げる。

 

ずら? 伊豆でも全く聞かない方言をここで聞くとはなあ。

 

「ヨハネちゃんには歌があるけど、マルにはこれがあるずら。はい、どうぞ」

 

「あ、ども……」

 

ヨハネと呼ばれた少女(以後ヨハネ)がパンを気まずそうに貰う。

 

「ヨハネちゃん! おかえり!」

 

小麦色の髪の少女が微笑む。

 

ヨハネは目にうっすら涙を浮かべ恥ずかしながらも、「うん!」とうなずいた。

 

ああ、数少ない親友との再会かな?

 

気がつくと、自分の格好も元の私服に戻っていた。

 

俺は感謝を伝える為に草むらの影から拍手をしながら出ていった。こんな歌が歌える少女に興味が湧いてくる。

 

全員が俺の方向へ顔を向ける。

 

「いやー、いい歌だったよ。ついこの近くを通ったときに君の歌声が聞こえてきたから思わず来てみたんだけど、本当に素晴らしかった。俺こんなに感動したの久しぶりだよ」

 

「あなた誰?」

 

ヨハネが質問をしてきた。

 

ネットで使ってるハンドルネームでも使おうかと一瞬思ったがそんなふざけたことはやめて普通に伝えよう。

 

「俺の名前は志田俊男。トシとでも呼んでくれ。まあ、一から説明すると長くなるから省くけど、どうやら別の世界から迷い込んだ人って所かな?」

 

「はぁ?」

 

ヨハネが「ふざけてるんですか?」と疑いの目を掛けてくる。

 

別になんもふざけてねえんだけどなぁ。

 

「いや、ふざけているとかじゃなくて本当の話さ。気が付いたらこの世界にいたんだ」

 

二人の少女がポカーンとしている。

 

「話の内容が正直理解できねえと思うけども、とにかく俺はこの山から降りようとしてたらたまたま君、ヨハネちゃんだっけ? の歌声を聞き付けてここに来たってこと。そしたら君の歌声とダンスに感動しちゃってさ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

ヨハネが礼を言った。

 

「やっぱりヨハネちゃんの歌はマルだけじゃなくて他の人も感動できるぐらいすごいずら~」

 

「さあ、俺の自己紹介も軽くしたことだし君たちのことも教えてくれるかな?」

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