【3話完結】呪術廻戦〜平子真子という呪術師〜   作:アイナll

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綱彌代時黄泉に刺された平子真子。そんな彼が見たのは高専時代のホロ甘い悪夢。
同期と切磋琢磨していたが、不運とも言い難い災難に遭い半数以上が亡くなった。

一度は呪術師から遠のいた彼は何を背負って今、呪術師をしているのか。
平子真子という呪術師の物語、最終章。


その3

 平子真子が綱彌代時黄泉に斬られた翌日の夕暮れ。

 

「あ、起きた」

 

 あぁ、知ってる天井。

 …ここは浦原商店の寝室だ。俺は布団に寝かされ、その横に五条悟がいた。

 

「寝起きはどうだい?」

 

「最悪や。何もかも」

 

「そっか〜」

 

 あの男はニヤけていた。何が楽しいんや。

 あれやろ。犯人を知っている状態で人が推理小説に苦しんどるのを見て笑うタイプや。今回の黒幕やその目的を知ってんや。コイツ。

 

「あれは何や。受肉体か」

 

「おぉ〜そこまで気がついてるのか!こりゃ驚いた!」

 

「アイツの気配、何か混ざっとんな」

 

「うん。綱彌代時灘。綱彌代家の初代当主にして九天鏡谷の製作者」

 

「初代が現在当主に受肉して現代で何かをしようとしとる。それを知ってて本家の連中は無視し、上層部も触れれない。何故なら相手は特級呪物を所有しており総監部を作った人物やから」

 

 初めて綱彌代時黄泉に出会った違和感。呪術師として何かがいるのはさほど珍しいことでは無いが、コレは別ベクトルの不気味さ。受肉体だと分かって全て合点いった。

 綱彌代家そのものが時灘にとってのタイムカプセルだったという真実。

 五条悟を使わない、ないし使わせないようにしているのは上層部。でも放置できないからどっち着かずの高専卒一級呪術師を犠牲に口実を作り殴り込み?馬鹿言うな誰が捨て駒や。

 

「どうする?タクシーくらいならなるよ」

 

「どうするて、言うまでも無いやろ。連れてけや」

 

「ははは!良いねぇその生意気さ。外行こうか」

 

 自分の呪具を手に取り、包帯が巻かれたまま服を着て外に出る。そこへ五条先輩が地面に陣を書き手を合わせる。

 

「先輩にケツ拭かせるなよ」

 

「たりまえや。パイセンはここで茶飲んどき」

 

 先輩は軽く鼻で笑い、掌を合わせた。

 すると一瞬で何処だか分からない山道に飛ばされた。

 

「やっぱり来たんっすねぇ〜」

 

 手を袖に隠した男は飄々とした表情で近づいてくる男。浦原喜助。

 足元にある杭で分かる。五条先生の術式を付与した杭を打ち込み、この場と浦原商店を“繋いだ”。

 最初からこうするつもりだったんかい。

 

「目の前にあるこの山そのものが儀式であり呪具っす。受肉した綱彌代時灘は、この山で一回限りの天逆鉾を再現し九天鏡谷の封印を解く気っす」

 

 浦原も五条先輩と同じく全て見通していた。

 

「ボク個人として、平子サンには行って欲しくない。でも、行くんすよね」

 

「勿論や」

 

「どうして」

 

「そんなもん決まっとる。ーーーーーーー」

 

 そう。死ぬかもしれない。そんな場所に行く理由なんて簡単だ。

 

「敵わないなぁ。狂ってる」

 

 人払いの結界を越えて山へ入る平子の背中を見て、浦原はため息を漏らさずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 山そのものが一級呪具というだけあって不気味そのものだ。木々の至る所に札が貼られており、また獣道の一本も何かしらを形作っている。しかし、分かりやすいことにこれらは全て中心の一点へ向けて作られている物。よってこれを辿れば、件の場所にたどり着く。

 

 山の中央に近づいた辺り。そこには人1人入れるくらいの幅の洞窟があった。近づいてみれば、怪しいお坊さんが1人入口の横にもたれかかっていた。

 相変わらず、あの謎の前髪が腹立つわぁ〜。毎回髪を結う時に前髪だけ垂らしてんかな?オモロw

 

「お久っす夏油のパイセン。早速ですまんが、そこどいてもらえんか」

 

「相変わらず生意気な後輩め…通るといい」

 

「感謝はせぇへんで」

 

「かまわないさ」

 

 てっきり邪魔をしてくると警戒していたが呆気なく通された。何のために立ってたんや?ジム戦前のアドバイザー的なやつか?

 

「そうだ、これを持っていくといい。何かの助けになってくれるだろう」

 

 先輩からドス黒い玉のような物を投げ渡される。これは、何度か見たことがある呪霊操術で取り込む時になる呪霊の玉。

 俺の手に渡った時、紫のミミズのような呪霊になる。コレは…何かを格納する呪霊か?

 どんな物が入っとるか知らんが、何がしたいねんあのパイセン。

 

「なぁ、今からでも遅く無い。私と共に来ないか?」

 

「俺に呪詛師になれ言うんか」

 

「猿共が消えた世界に呪術師も呪詛師も変わらないさ」

 

「辞めとくわ」

 

「…そうか。足止めして悪かった」

 

 先輩は真面目だから色々考え過ぎてしまうのだろう。まぁ俺には関係ないが。

 

 

 

 

 

 洞窟の中に入ると一瞬で感じた。肌に突き刺さるような異質さ。間違いなく、この山を使った儀式は全てここに集結している。

 今回は一切の油断をしない。始めから一級呪具をケースから出して進んでいく。戦闘前につけている香水を数回噴かし、しばらく歩けば開けた空間へ出る。

 

 そこは山の中央であり、天井が吹き抜けのまるで火山の火口のような形状になっていた。壁に等間隔で置かれたロウソクが照らし、中央には八つの柱と中央の祭壇に突き刺さった九天鏡谷。そして全ての元凶である綱彌代時黄泉…いや、綱彌代時灘がいた。

 

「よぉ。さっき振りやな」

 

「…ほぉ。特級が入り口に居たと思うが」

 

「のして来た」

 

「小僧め…約束を違えたな」

 

 それに関してはホンマ同意見。俺もあの先輩何がしたかったんか分からんわ。

 

「それにしても、あの怪我(致命傷)からよく生きていたものだ。完全に殺ったと思ったのだが」

 

「頑張ったんや」

 

 そう。こちとら悪夢見ながら頑張ったんや。

 

「反転術式が使えたか?いや、確か…高専に他者へ反転術式をかけれる者がいると聞いたことがある。そいつに直させたのか」

 

「どうでもええやろ。アンタこそ、こんなアホみたいな儀式を現代でして何の意味があるんや?」

 

「現代で…ね。もう全て気がついているのかな?」

 

「探り合いは時間の無駄や。お前はここで何を企んどる」

 

 呪具の切先を向ける。面倒な問答は無しだ。

 

「…この九天鏡谷は仮の姿なのだ。この山は地脈も霊脈も最高の位置にあり、二代目から当代まで木に一本、獣道一本に至るまで私の予想通りに作ってくれた一度限りの天逆鉾。これで九天鏡谷の封印を解き、真の姿をあらわにする。そして、“全ての人間に術式を授け”呪術師の世界を作るッ!」

 

「…バカかお前」

 

 全人類に術式を与える。何故、どうして、何をどういう思考回路をしてれば思いつく。

 

「実現すれば、この世界に呪霊は生まれず呪術師が迫害されない世界を作れるぞ!」

 

「知るか。そんなもん」

 

 一瞬で距離を縮め、間合いに入れた後呪具で斬り上げる。

 呪術師を辞めていた時、ボクシングの試合を見たことがある。そのフットワークは巨体と重量では考えられない速さがあった。俺は何を思ったのかそれを真似ていた。

 当然基礎トレしてフットワークを鍛えて…というものではない。俺にある呪力を活かせないかと。そうして真似た結果、考えることをやめた力技高速移動 瞬歩。呪力で足を強化し、予め決めたルートをスマートに全力ダッシュする。

 ぶっちゃけ地面がへこんでバレるにはバレるが、初手で意表を突くには十分な速度だった。

 

「はぁ。所詮君のような一介の呪術師には分からない世界か」

 

「ふっ!」

 

「…この程度かい?一級」

 

 不意打ちをしたものの頬を掠った程度の傷。浅い、ではなく躱されたのだ。コンマ1秒に避けられた。

 綱彌代時灘(コイツ)は間違いなく、格上!

 

 

『奉れ』九天鏡谷

 

 

 時灘は祭壇から九天鏡谷を抜き取り、一言だけ発した。

 

「ッ!」

 

 次の瞬間、俺の頬からほのかな痛みと血液が垂れていた。まるで鋭利な刃、そう刀で掠ったような傷がつけられた。

 これが綱彌代家の九天鏡谷!これが“反射”か!

 

「さて、機は熟した。九天鏡谷の真の姿をお見せしよう」

 

 日が暮れ、月明かりがこの空間を照らす。

 その光は刃に当たり眩い輝きを放つ。

 

 

『四海啜りて天涯纏い、万象等しく写し削らん』艶羅鏡典

「さぁ、死んでくれるなよ?」

 

 

 輝きに目を閉じた間に、時灘の影から生まれた白と黒二匹の犬。

 目を開いた時には同時に襲いかかる二匹の犬、刃の無い柄を握った拳。

 

 平子は状況理解を後に回し、眼前の状況処理を優先した。呪具に呪力を纏わせ、黒犬を横一閃。白犬は蹴り払い、拳には拳をぶつけて相殺。

 二匹の犬は黒い液体のように地面へ溶け消え、相殺したはずの拳は籠った呪力量、握り込み、フォーム、総じて“力”に押し負け背後の壁に飛ばされる。

 

 瞬時に防御体制をとり、予想通り来た衝撃はなんて事なかった。衝撃でたった土煙を払い時灘を探すが視界に捉える事は出来ず、気がついた時には自分の真横に顔面から突っ込んでいた。

 平子が壁に衝突してから一連の出来事は1秒にも満たなかった。

 

 咄嗟に距離を取るも、直線となった時灘が真横を通り何かで擦った暖かさが頬に残る。そして直線上の壁には土煙がたっていた。

 

 似た事象を思い出した(・・・・・)平子は土煙の方向へ体を向け両腕をクロスさせた防御体制をとる。ゆっくり両目を閉じる。今度は光が眩いからではなく、視界に頼らず敵を捉えるため。耳で動き出す音を捉え、肌で空気の動きを捉え、全神経で呪力の流れを捉える。

 

 刹那に感じる「来るッ!」という野生に近い反応速度。

 

 そして三度目となる高速移動に両者の感覚が“合わさった”。

 

 二度速さに振り回された時灘は三度目にして命中し、二度速さに惑わされた平子は三度目にして呪力の防御が間に合った。

 

 しかしこの場にこれで満足する者はいない。間髪入れず両者、次に備えた。

 

 この場を誰よりも知る時灘は次の移動ルートと“次の手段”を。

 移動原理を“知っている”平子は全ての防御姿勢を一度崩し再度防御姿勢を。

 

 両者の間で言葉無くして発せられる よーいドン。

 

 時灘は壁伝いに大外周りで距離を詰める。

 瞳を閉じて全神経を集中させた平子はクロスした両腕をその方向へ向ける。

 

 そうなる事を予測していた時灘。壁を蹴り、柱を蹴り、あたかも稲妻の様な軌道を描いて内側から迫り、艶羅鏡典の柄を握るその拳に呪力を集中させる。

 そうなる事を察した平子。クロスしていた片腕を時灘に合わせ、全身の呪力を肘から手首の間に集中させる。

 

 四度目となる高速移動による勝負。

 感覚を掴んだ両者の衝突は、ボッキリと腕を折るダメージを負わせた時灘の勝利となった。

 

 平子の完全にガードさせたはずの腕が。肘関節と手関節の間にある橈骨と尺骨にもう一つ関節がある様に、人体において在らぬ方向へ折れていた。アドレナリンのお陰か、折れた痛みは不思議と少なかった。折れた腕を見ても「なんかジンジン来るなぁ」くらいだった。

 考えはその“折れ目”に向いていた。

 

(この折れ目、腕のジャスト7:3(・・・)にある。それにあの高速移動、ひと昔に見た禪院直毘人(禅院家現当主)と同じ感覚…)

 

 奇しくも腕のダメージが相手の手の内を確信させる物だった。

 

「艶羅鏡典の能力は“術式の模倣(・・)”かぁ!」

 

「その通り!反射は仮の姿で、真の能力はこの世のありとあらゆる術式を“家系・血統関係なしに”使用できるさぁ!」

 

 初めに見せた二匹の犬は影を媒介とした式神を使役する、禅院家の十種影法術。あの高速移動は1秒を24フレームに見立てて予め設定した軌道に動く、同じく禅院家の投射呪法。腕を折ったのは対象を線分して7:3の部分が強制的に弱点となる、ナナミンの十劃呪法。

 

 術式は基本1人に1つ。それを3つ同時にとかチートも過ぎる…と言いたいがおそらく何らかの誓約があるはずだ。

 まず、確実なのは時灘の右手。柄だけになった艶羅鏡典をずっと握っとる点から呪具を持つ行為は絶対やろ。

 ここからは考察やが、俺が気になった点として威力が低い。十種影呪法は正直あんま知らんが、投射呪法と十劃呪法に関しては明らかに精度が落ちとった。まぁ俺が知っとんのがプロの使い手やからってのもあるやろうけど。

 

 投射呪法は直畏人のジッさん程の精度でも変態軌道でもない。十劃呪法に関してはナナミンがやれば俺の場合腕が千切れとった。そして艶羅鏡典の術式開示(?)の時に言った“使用できる”という言葉。使えはするが…スケールはあくまで時灘に合わされるっちゅうことか。

 

「ほんま、恐ろしい呪具やな。それ」

 

「恐ろしいのは呪具だけかな?」

 

「ッ?!何でおんねん!」

 

 片腕が使い物にならなくなった平子は一部ロウソクを消す事で影を作り、柱の影に隠れて腕を固定する応急手当てをしていた。そこら辺の崩れた長めの岩を黒い縄(・・・)で結びつけて。

 対する時灘は呪具のせいか常に呪力が全開の状態になっていた。隠れていながらも捕捉できるほどだった。

 

 隠れてながら捕捉していたはずの時灘が次の瞬間自分の真横にいた。

 相手の攻撃には常に十劃呪法だと仮定する。当たった場所が強制急所になるため、この場合の最適解は攻撃に当たらない。殴り合いを避け、鬼ごっこに徹するのだ。

 

 地面に呪力をブチ込み、土煙で目眩し。投射呪法は動きを予め設定するため、目が見えない状態で使えば逆にダメージを追う危険性が高い。

 

 時灘が土煙を払っている間に隠れる…と見せかけて気配を消して背後へ回り込む。

 自分を探しているその隙に背後から身体の左半身 心臓のある点を狙い、まるでビリヤードのように突く。

 

 刃が羽織りを破り突き刺したと感じたその時、

 

(手応えが無い?!)

 

 羽織りを貫いた刃に肉を裂く感覚が伝わってこない。

 

「こういうことも、出来るんだよ」

 

 そして羽織りを脱ぎ捨てた時灘の真正面から放たれる一撃。

 咄嗟の瞬歩でなんとか躱わせたが、あの動きは今までのどれでも無い。つまり、新しい術式だ。

 

「また逃げるのかい?」

 

 術式が変わってもやる事は変わらん。鬼ごっこに徹底する。

 

「戦略やこのハゲ!」

 

 そして一手一手分析して付け入る隙を探る。

 柱ではなく、再び壁を背に刀を腰に構える。そして俺が考えうる最善の一手。

 

 シン・陰流 簡易領域 “俺ver”

 

 壁を背にしたのはこのため。平子を中心に二層(・・)の簡易領域を展開する。

 考えあってか無くてか、再び影から現れた白い犬と連携して迫る時灘。

 そして犬の鋭い爪が最初に平子の簡易領域(エリア)に侵入する。平子の使う簡易領域は通常のシン・陰流とは異なり二層構造になっている。第一の層は平子から半径2mに展開した“掌握するための”領域。

 コンマ数秒後に時灘の拳が侵入する。

 この領域は五条悟の「ニュートラルな無下限呪術」を半再現したものである。第一の層で侵入した物の質量、速度、形状、呪力の強弱から危険度を選別し、続く第二の層で対処する。

 犬の方は式神。腰からの薙ぎ払いで破壊、時灘の呪具にはバカみたいな呪力が込められている。それに反して体を覆う呪力はかなり少ない。

 

(当たればヤベータイプ。せやけど、)

「こちとら、“あの特級(先輩)”2人にしこたまシゴかれてんねやぞ!」

 

 あの日以降。俺は狂ったように自分を鍛えた。任務は率先して受け、それ以外の全ては強くなることに捧げた。

 俺は常に向き合ってきた。あの理不尽な速さと常にクリティカルのジャブ、常に最適解をぶつけられる無限に近い手札。だからこそ、この手の理不尽には十分立ち向かえる。

 

 時灘の移動速度が再び上がった。謎の術式から投射呪法に戻したな?

 さすが当主と言わざるを得ないセンス。今このタイミングでも術式を理解し、移動すればするほど精度が増している。

 

「せやけど、術式の根本は変わらんよなぁ!」

 

 投射呪法は1秒を24フレームに区切って動く呪術。1フレームは約0.04秒!

 俺が求めるモノは0.000001秒。これは狙うものではない。ただ“予感”がするのだ。なんかイケる気がする。

 

 簡易領域・抜刀では圧倒的に遅い。もっと簡潔にもっと単純に。斬撃ではなく、直接呪力を叩き込める拳で。

 集中して、1フレームを見極めて、打ち込むッ!!

 

 打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した時、空間は歪み呪力は黒い稲妻となり弾ける。

 

「グハッ、、」

 

 移動中に突如、打ち込まれた黒い稲妻。人体急所の一点である章門から全身に迸る黒い稲妻の衝撃は時灘の人生で初となる吐血を迎える程だった。

 

「もういっちょ!」

 

 身動きが止まった瞬間に再び黒い稲妻が時灘の水門にクリティカルヒット。あの時灘でさえ数秒間の呼吸停止に吐血。黒閃によるダメージは甚大だった。

 

 投射呪法には2つのデメリットが存在する。1つは物理法則を無視しすぎた動きをできないという点。そしてもう1つ、動きに失敗すれば1秒間全く身動きができない点。

 平子が黒閃を打ち込んだ瞬間は投射呪法の1フレーム。これにより動作が成立せず、時灘を襲う全身を走る稲妻の衝撃と問答無用の1秒硬直。艶羅鏡典を持つ手に常時呪力のほとんどを持っていかれており、胴体を覆う呪力が薄いのもあり、その衝撃は計り知れない。

 さらに硬直した間に打ち込んだ2連続目の黒閃。並の呪霊なら跡形もなく祓われているところだが、並ではないのが時灘。

 硬直が終わるや投射呪法を解除。再び第4の術式を展開し、止血を行いながらも攻撃する手を止めなかった。

 

(今ここで攻撃を緩めれば平子真子がペースを握ってしまう!やるべきは立て直しでなく、奇襲!)

 

 平子は当然攻撃の手を緩めない。狙うは当然3度目の黒閃。それは時灘もわかっていた。だからこそこの攻撃は避ける事ができなかった。

 打撃に集中する平子に謎の痛みが襲う。鋭い何かで突き刺したような痛み。

 

(血ッ!?つまり加茂家の術式か!)

 

「ハハ。流石にバレてしまったね」

 

 時灘の使う4つ目の術式 加茂家の赤血操術。体内の血液を操作する。

 体内の血液を活性化させて身体能力を高める赤鱗躍動による身体能力上昇だろう。更には吐いた血液を操作し、血の槍を作りだした。

 

「なら、得物持ちと大差無いな!」

 

 見えない死角から攻撃を受ける事を前提として時灘の距離を詰める平子。

 赤血操術が来ると分かった以上迂闊に飛び込む訳にはいかない。だがこれはチャンスでもある。赤血操術は数ある術式の中でも特に指向性が必要になる。俺の術式の格好のエサになる。

 拳による攻撃は諦め、呪具による攻撃に変える。

 

 赤血操術 百斂・穿血

 

 手のひらを合わせた構えの指先から放たれる血の弾丸。

 避ける事は絶対不可能。故に平子のとれる最善策は既にダメージを負っている左腕を切り捨てることだけだった。

 体を傾け左腕に弾丸を通すように切り落とす。左腕は折れ目から大量に血を振り撒きながら。

 痛みはあるが、この時の平子はドバドバ溢れる脳内麻薬によりろくな痛みを感じていない。故に可能な狂気の所業。

 

 懐へ飛び込み刀を腰に構える。

 

 シン・陰流 簡易領域 “抜刀”

 

 発動させた簡易領域から最速の一撃を放つ。胴から首にかけて斬り裂こうとする。

 時灘も警戒するも動きが一瞬遅れてしまう。先程使用した穿血は体内の血液をレーザーのように発射する術。いくら使用血液量を抑えたからと言っても、いくら天才的なセンスを持つ時灘と言っても、体内から経験した事ない量で血液を失い貧血の症状が発生してしまう。

 

「もろたで」

 

 平子は勝利を勝ちとった。

 

 かのように思われた。

 

「ッ!!!」

 

 時灘に近づくに連れて、刃が動かなくなる。

 

「やれやれ、慣れない事はするものじゃないな。けど、これで安全だ。いや、“最強”だ」

 

「無下限術式かぁ!」

 

「正っ解!」

 

 刃が止まったところを、時灘の呪具よる攻撃を受ける。

 呪具で受けてダメージは抑えるも、形状的に耐久性が低いため刃が2つに折れてしまう。

 

 …なぜ。今殴った?

 無下限術式が使えるなら蒼と赫でゴリ押せばいい。五条パイセンみたいに。それをしないという事は…決まりや!艶羅鏡典は呪術師が使う術式ではなく、術式そのものの使用!

 つまり原子レベルに干渉する緻密な呪力操作が必要な無下限術式はほぼニュートラルな無下限呪術のみで、指向性が必要な拡張術式の恐れは無い!呪霊操術や赤血操術などの外的要因(呪霊や血)を操作する術式は今手の中にある物のみ。

 

 相手の術式の底が見えた。これだけ見れれば、うん。そろそろやな。“仕込み”の最終段階に入るか。

 

「なぁ、いい加減君の術式を見せてくれないか?持っているのだろう?」

 

「アホ言え。俺は生得術式を持っとらんわ」

 

「嘘だね。術式の無い人間が“領域”を習得できるわけない」

 

「知っとんかい」

 

 領域。自身の心象風景とも言える生得領域を自身の外に展開し、そこへ術式を付与する事で圧倒的有利となる呪術戦の頂点。

 俺が領域を使える事は知っとる。まぁ時々任務で使うとるからそこはしゃーない。別に黙っとるもんでもないし、晒し回るもんでもない。せやかて、術式は知らない。

 ならそろそろ“頃合い”やな。挑発に乗るんは癪やけど。

 

「そんなに見たいなら見せようやないか。俺の術式(マジ)

 

「ほぉ!では、私を止めたまえ!」

 

 

 

「余裕や」

『倒れろ』逆撫

 

 

 

 艶羅鏡典の刀身が戻り、その刃を振おうとした時灘。しかし俺の呪力のこもった言葉を聞くや否や動きがビシッと止まってしまう。

 

「へ界世の様逆。そこうよ」

 

「こ、これは…マズい!」

 

「、待とっょち、あ」

 

「逃げ、グハッ、」

 

「やき聞は告忠の敵。ろやたう言て待』

 

 再び艶羅鏡典の刀身が消え、時灘は…投射呪法で地面へ全力ダイブした。

 これだけで分かる。時灘はこれ以上ないほど完璧に俺の術式“逆撫”にハマっている。

 

「ろやいロモオでいたみプッラトのーゲち落?やうど。でや理無はんるれ慣。やんるすに様逆(・・)を覚感の後前右左下上は果効。“撫逆”式術得生の俺たっとっがた見が前おがレコ」

 

「くっ」

 

 見える方向の上下左右前後を逆さまにする。俺の術式はたったそれだけだ。…たったそれだけが効くのだ。特に強者には。

 強者の戦いは感覚の世界に近い。達人が繰り出す最適解とも思われる咄嗟の動き。だがこの逆撫の術中にあればこれ以上ない大きな隙となる。

 通常は屋外で使うが、この洞窟空間内という環境も良い。背景に大した差が無いがかなり違和感がある、という絶妙にウザい環境が出来上がる。

 

「でうまでん死とう言に的端、ぁま…ずれきえ耐に荷負のそが脳り上へ頭は液血の内体もに間るとしうこ今。や直正は体もてし解理で脳、どけええもんう言…態状直硬ままのこ。どけうろや理無ぁま。やんるすにまさ逆後前右左下上で内脳をて全のき動。でや単簡は略攻」

 

 自分の状況を理解した時灘は目を瞑り棒立ちになる。

 

「かよしにい終、なほ」

 

 動かぬ敵の首を落とすのは簡単だ。しかし相手は曲がりにも名家の初代当主。様々な呪術をセンスで使い分けるバケモノだ。この逆様に慣れないうちに、反転術式でも治せない首の切断をするのが先決。

 

 

 

「…待っていたよ。君が首を狙うのを!」

 

 

「!?、かさま…!んへか動が刃?!ッ」

 

 

 

 そう、天才綱彌代時灘は考えた。この圧倒的不利な条件下では下手に動けない。だがこのまま何もしなければ死んでしまう。

 そして気がついてしまった。この状況は“平子も同じ”であることに。いくら術式に慣れていようが身体機能は素直だ。放っておけば死んでしまうのは平子も同じ。

 ならば自分が大きな隙を見せれば必ず殺しにくると。

 

 今までの攻撃と彼の言葉から、反転術式を警戒して必ず首を切り落としにくると読んだ時灘。

 艶羅鏡典の全術式リソースを無下限術式に当て、自分の首周りにニュートラルな無下限術式を発動させ首を全力で守った。

 平子はまんまとエサにかかってしまったのだ。

 

 

 

 

「ふはははははっ!これで俺のか…ち…」

 

 

「?んやう思、と」

 

 

 

 動きを一瞬止めた折れた刃は徐々に動き出す。

 

 

 

「術式が掻き乱されている?!ッ!なんだ…その黒い紐(・・・)は!!?」

 

 

「!ァなのめたるめ止ェ根の息の前お。やんもり送のらか輩先なき焼話世」

 

 

 

 それを見つけたのはこの戦いが始まって間も無い頃だった。

 片腕を折られて物陰に隠れた時、夏油パイセンから貰った呪霊から偶然黒い縄が見えた。その縄でとりあえず腕を固定していたが、逆撫を使用した時に平子だけ術式効果が無効化された事から術式を乱して相殺する効果があることを理解した。

 夏油の先輩は恐らく艶羅鏡典の能力を知っていたのだ。知った上で、封じる手を用意していたのだ。

 

 

 

(このまま死ぬのか私は…子孫を利用してまで貫いた野望が…こんな呪術師に………)

「そんな事、あってたまるかぁぁぁぁッ!!!!」

 ピィィィィィィッ!!

 

 

 

 刃が喉に触れるそれよりも早く、時灘は首から下げていた笛を全力で吹いた。

 するとその笛は形を変え、50匹ほどの小さな虫型呪霊の群れとなり平子の視界を塞ぎ、洞窟の吹き抜けからは無数の3級呪霊が雪崩のように流れ込んできた。

 

 

 

(もう儀式なんてどうでもいい!せめて一瞬ッ!一瞬の隙さえ作れればッ!)

「これでだぁ!平子真子ィィィィィッ!!貴様には万に一つの奇跡も無いィ!!」

 

 

 

「でやとこのレコ(・・)は“転逆”の物本、は跡奇の物本…」

 

 領域展開━━━逆様邪八宝塞(さかしまよこしまはっぽうふさがり)

 

 

 

 平子の言葉により結界が洞窟を覆い、まるで世界が停止したかのように動きが鈍る。そして平子足元から黄金の台座が浮かび上がり、繭のように平子を閉じる。

 繭の外に取り残された無数の呪霊は呪霊同士で、まるで何かの仇を打つように全力で殺し合い、結果全て再起不能になってしまった。それと同時に結界が崩壊し、止まっていた時間が動き出す。

 領域展開から崩壊までの時間、実に1秒!

 

 

 

(こ、これが平子真子の領域…だが、領域を“使わせた”っ!ヤツの剣は折れて、呪霊目眩しにのけ反った!私には届、か、な、)

 

 

「言うたやろ。コレが本物の奇跡で逆転やて」

 

 

 

 綱彌代時灘の首元には、折ったはずの…ほんの数秒まで折れていたはずの刃が触れていた。

 

 

 

(刃が、伸びている(・・・・・)?!)

 

 

 

 そして首元に触れた刃は、その鋭利な切先で血液を散らしながら首と胴体を別った。

 

 

 

 宙を舞う時灘の首は薄れゆく意識の中で確かに聞いた一言があった。

 

 

 

『は、ハァゲェェ』

 

 

 

 ボイスチェンジャーに通したかのように、水で溺れる中必死に上げた声のように汚く澱んだ女性の声だった。自然界にはまず存在しないその声の心当たりが一つだけあった。

 

(じ、“呪霊”かぁ…)

 

 気がつけばこの戦闘で初めてだった。平子真子の背中を見たのは。

 この洞窟の中に入ってから、彼は常に壁や柱を背に立っており、敵に自らの背を見せる事はなかった。

 そして、戦闘中何度も平子の位置を特定するのに使用したあの甘い香水の匂い。

 

 全てはジャケットの裏に隠れた鬼面のような呪霊を隠すためだったのだ。

 領域展開で大量に呪力を消費し、術式が焼き切れていたとしても主従契約している呪霊には問題がない。

 

(腕が治っ…反転術式か…)

 

 また、先ほどまでボッキリ折れて、切り離された腕も元通り治っていた。

 反転術式が使えたのか。

 

 

 

 綱彌代時灘は薄れゆく時の中で、敗北を噛み締めていた。

 誰がなんと言おうと、完膚なき敗北。野望を砕かれるには十分だった。

 

「さ、最後に一つ聞かせて…くれ。…なぜ私を止めた」

 

 時灘が絞り出した最後の問い。今日1日で何度も聞かれたその答えは、何度も返したものと変わらない。

 

 

 

「知らんのか。悪いモンをブッ飛ばすと、スカッとするんやで」

 

「はは、それは…敵わない…訳…だ…」

 

 

 

 綱彌代時灘。この件の始まりとなった九天鏡谷の製作者。全ての黒幕の野望は打ち砕かれた。

 “悪者をブッ飛ばしたしたい”という単純明快な理由だった。

 

 綱彌代時灘 敗北。

 

 

 

 時灘の死後、刀身の消えた艶羅鏡典は元に戻り、ただの刀になった。

 触れて分かった。これは俺でも使える。なるほど、上層部が危険視するわけや。

 

「これを、ほいっ!」

 

 艶羅鏡典の刀身をパイセンから借りた黒い縄を全力で叩く。

 すると刀身から“何か”が消え、黒い縄は一瞬で全て焼けこげた。

 再び刀を触ってみるが、単なる呪具。という印象を受けた。等級は2級が関の山か。

 

 

 

 その後、山を降りると外から全てを見ていたであろう浦原喜助と五条先輩が迎えてくれた。呪具を渡し、任務の報告を先輩に丸投げした後家に帰ってゆっくり眠った。

 

 翌日は某所の宗教団体へ出向いた。

 

「礼拝はあちらですよ」

 

「夏油っちゅう前髪が変な奴に“可愛い後輩が借りを返しに来た”て伝え」

 

「…少々お待ちください」

 

 受付のめっちゃ美人なお姉さんはそのまま奥へ行った。程なく戻って来て、俺を客間まで案内してくれた。扉を力強く閉めていた。何か怒らせることをしたものか。

 

「真奈美ちゃんすごく怒ってるんだけど、何言ったの?」

 

「さぁ。な〜んかよう分からんけどキレとんよなぁ」

 

 客室で待つのも数分、相変わらず変な前髪の先輩が入って来た。

 

「あ、コレ返しに来ただけやから」

 

 あの後、高専で探した適当な木箱へ入れて黒い縄を入れた。そしてそれを夏油パイセンへ渡す。

 

「うん?うん…まぁ…うん。確かに返してもらったよ。…ねぇ、なんで全部焦げてるの?」

 

 受け取った木箱を開き、燃え尽きた黒い縄を見た夏油は冷や汗をかいた。

 

「なんでて、そりゃ…艶羅鏡典の術式破壊に使ったからや」

 

「そっか〜…全部かぁ〜。…どう言い訳しよ(汗)」

 

 余談だが、この黒い縄…特級相当呪具:黒縄(こくじょう)は夏油の配下 ミゲルより特別に一部借りたものである。来る日(・・・)に向けて呪霊を集めていた夏油は綱彌代時灘の復活とその思惑、そして事の対処に可愛い後輩が派遣されたのを聞きつけ、後輩のために借りつけた物だった。

 当然、事が終わったら返す約束だったのだが、当の夏油もまかさ全て使うとは思いもしなかった。全体の一部とは言え特級相当の呪具であるためかなり貴重な一品である。

 

「そんじゃ帰るで。もう貸し借り無しや。次会うたら五条パイセンにチクルで〜」

 

「ちょっと、待ってくれ!」

 

 必死に言い訳を考える夏油を他所目に帰る支度を済ませ、席を立つ平子の手を掴む夏油。

 

「最後にもう一度いいかい?シンジなら分かるはずだ。呪術師の扱いがこのままでは良い訳がないと。この現状のままでは猿どものせいで呪いは見境なく増え続け、同胞の屍が増え続ける一方だ!同胞が亡くなる悲しみは君も知っているだろう!僕と猿どものいない楽園を作ろうじゃないか!」

 

 夏油は感じていた。平子真子は間違いなくこっち側であると。

 非術師により無尽蔵に産まれる呪霊を屍を出し続けながら祓う術師。平子も七海も夏油も例外ではなくその“呪いの連鎖”によって大切な者を失った共通点がある。

 シンジなら分かってくれる。万人が笑ってもシンジだけは笑わない。そう信じる夏油は最後の勧誘を行なう。

 

「大切な人が去っていく辛さはよう知っとる。それでも俺は“そっち側”に行かへん」

 

「何故だ」

 

「俺は正直何が正しいくて何が間違っとるとか、どーでもええ。非術師を守りたい訳でも殺したい訳で同い。でも、“そっち側”に行ってしもうたら…ひよ里にドつかれてまうわ」

 

 予想にもしない答え。正論を返す訳でも否定する訳でもない。シンジの生き方。

 これはまさしく、

 

「…呪い(・・)だな」

 

「せやな。気持ちの悪い呪い(生き方)や」

 

 非術師の皆殺しを目論む夏油だけではなく、誰かの線引きした向こう側には行かない。

 それがどう言う事を意味するかは本人も十分に分かっている。しかし、これが平子真子。

 

 これこそが、五条悟と夏油傑の後輩にして、同期の死を乗り越えた平子真子という呪術師なのだ。




〜用語解説〜
・五条の無下限転移
 無下限を書き込んだ特殊な杭を使い、自分と杭までの瞬間移動を可能にした。

・綱彌代の山
 初代当主 時灘が設計図を残し、現当主まで木々の一本に至るまで作った山。木々の配置や獣道で術式を作り、中央の祭壇であらゆる呪術を解除できる天逆鉾を再現している。一度使用すれば山の術式をも無効化されるため二度と発動できない。

・九天鏡谷
 綱彌代の特級呪具。その能力は状態の反射。自身の怪我などを相手に与えることができる。が、本当の姿は別にあるようで…?
 BLEACHに出てくる聖文字のAntithesis的な効果。

・艶羅鏡典
 九天鏡谷の真の姿。その能力はあらゆる術式の使用。使用できる術式に制限はないが、九天鏡谷・艶羅鏡典の刃で受けた術式しか使用できない。
 あの後、ただの呪具となった艶羅鏡典は高専の手に渡り2年後、とある男(乙骨憂太)が使用し粉々になる。
 〜使用術式〜
 十種影法術:式神の調伏ができないため、元から使える玉犬白/黒しか出せない。
 投射呪法:時灘の圧倒的センスによりたった3回でコツを掴んだ。禪院直毘人ほど指向性を持たせるのは難しいが十分速い。
 十劃呪法:基本使用できるが、拡張術式の瓦落瓦落は使用できない。その昔、九天鏡谷で受けた事がある。
 赤血操術:天才的なセンスを持つ時灘だから使えたが、呪霊でもない人間の肉体では生命維持に必要な量と慣れない感覚により貧血になってしまう。
 無下限術式:緻密なコントロールが要求されるため、身を守るニュートラルな無下限しか使用できない。また、圧倒的な情報量を持つためこれ以外の術式と併用すればガクッと出力が下がる。

・シン・陰流 簡易領域 “俺ver”
 簡易領域で最も有名なシン・陰流に五条の無下限を参考にした我流改造を施したもの。
 領域を二重に構え、一層目で侵入した物の質量、速度、形状、呪力の強弱から危険度を選別し、続く二層目で最小・最適な手段・ルートで対処する。
 前面に特化したために背中がガラ空きになってしまうので遮蔽物などで守らなければ使用できない。

・黒閃
 打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した時に起こる現象。黒閃が発生した攻撃の威力は平均で通常の2.5乗で、術者はアスリートで言う“ゾーン”に入る。
 平子は過去に1度、呪術師を辞めていた時に気まぐれで祓った呪霊で発生させた。間接的だが呪術師に戻るきっかけになった。それ以来黒閃は起こらなかったが今回2度目となる黒閃を経験した。

・逆撫
 平子の生得術式。
 発動に必要なのは逆撫(呪具)の呪力に“当てられる”事と『倒れろ』という呪言を耳にすること。
 逆撫(呪具)から放たれる呪具は甘い匂いがするのだが、平子はそれを逆手に取り香水として再現。匂いで釣ることでこの条件を達成しやすくしている。2つ目の呪言は狗巻の家系故。
 術式の対象には自分も含まれているが、今回は黒縄を持っていた影響で無効化された。
 
。るすに様逆を覚感の後前右左下上は果効式術

 →作者は特殊ルビの左寄せと逆読み変換(外部サイト)で逆さまを表現しました。

・一級呪具:逆撫
 術式と呪具の名前が同じの珍しいタイプ。
 柄の先にリング状の持ち手が付き、刀身に穴が空いた刀の呪具。
 刀身の穴から呪力が流れており、甘い匂いがする。刀身は形状上、他の刀より軽いが脆い。

・黒縄
 夏油がミゲルより一部借り受け、平子に託した物。
 術式をかき乱し、相殺する効果がある。
 戦い後にこれをミゲルへ返した夏油はガチビンタされたとか。

・呪霊の笛
 儀式前に夏油が渡した。超簡易的な呪霊操術を再現した物。
 笛のそのものが50匹ほどの虫型低級呪霊の塊で、発動後この虫が触れた物体・生物へ周囲の呪霊が襲いかかる。
 しかし…まぁ、平子の領域を知っている夏油。タチが悪い。

・領域:逆様邪八宝塞(さかしまよこしまはっぽうふさがり)
 学生時代に発動した未完成な領域 八宝塞の完成形。
 必中効果は平子を中心に領域内の生物全ての「周囲の敵・味方の“認識”を逆転させる」というもの。領域が展開されて解除するまで平子自身は攻撃できない代わりに攻撃できない。攻撃しない事を縛りに出現した繭はめっっっちゃ硬い。
 必殺ではなく、必中効果そのものは無害なため領域の押し合いに極めて強く、術式発動も無類の強さを持つ。
 想定外の副作用として、認識を逆さまにする効果の影響で領域を閉じて1分以内なら反転術式の使用が可能になる。今回の場合は黒閃の影響もあり反転術式の行使がかなり速かった。
 学生時代はよく夏油先輩の使う呪霊で試しており、とある時に成功・完成した。

・構築術式“馘大蛇(くびきりおろち)
 平子が隠し持つ切り札 怨霊:猿柿ひよ里の術式。
 どこでどう入手したかまでは、平子が断固として語らない為誰も知らない。
 構築術式の利点である自由な構築形状を自身が使う逆撫の刀身に限定することで術式リソースの削減。そのリソースを「この術式で構築した刃は“首”に近ければ近い程威力が増し、首を斬る時は呪力量・物理硬度を無視して斬れる」という追加効果にあてている。
 人や動物のように首があるなら追加効果発動し、虫や魚、物のような首の概念がない場合は追加効果そのものが発動せず切れ味はよく切れるナイフ程度になる。
 呪力の燃費は従来の構築術式と同じく非常に悪い。刀身を全て作ると全呪力が無くなる程。戦闘中なら作れて30cm、追加効果を発動させるための呪力は刃を作った時点で込められる。
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