季節は夏を超えて過ごしやすい時期になった秋である10月。俺は家の近くの公園にあるベンチに座って空を見上げている。ちなみに公園なので子供達が楽しそうに遊んでいる声がよく聞こえる。元気なのはいい事だな
ちなみに何故、空を見上げているかと聞かれたら俺にも分からない。だが、人はたまには意味の無い事をする時もある生き物であるので空を見上げる
「どうするか」
俺はそう言って携帯を取り出してある人のメールのやり取りを見返す
【無視するんだ】
【ねぇ?見てるんでしょ?】
【返事して】
【返事】
【返事してくれないんだ。そうなんだ】
【もういいよ】
【ねぇ】
【…………今から行くから】
うん。なんか俺が悪いのは十分承知しているんだが、ちょっと怖いし最後なんか場所知らないのに会いに来れるのか?と思うが、あいつなら来れそうなのでさらに恐怖が湧いてくる
どうしてこうなったのか簡潔に言うと。普通に用事があってその時に送られてきたメールなので返事が出来ずにそのまま。気がついて直ぐに返事をしたが、その返事に関しては既読すら付かなかったわけで
「雄磨?」
「ん?あ、朝比奈か」
必死にこの山場をどう乗り切るかを考えていると知ってる声で話しかけられる。その声の方を見るとそこには朝比奈が立っており、手には買い物でもしたのだろう買い物袋が持たれていた
「ちょっとこれから戦場にな」
「戦場?」
「これだよ」
俺は朝比奈にメールのやり取りを見せる。さすがの朝比奈でも表情は変わってなかったが何処か怖かっている様子であった。まぁ、そうなるのが普通だろうな
とりあえず朝比奈は袋を俺の横に置いて反対側の所に座り聞いてくる
「雄磨、ちゃんと謝ったの?」
「いや、まず第一になんで俺が悪い前提?」
「だって、雄磨よく既読無視するから」
「……」
そんな事無いとは口が裂けても言えないので黙るしか無い。だが、今回に関しては既読無視ではなく本当に見れなかったので仕方ないとは思う
「今回は違うんだ」
「そこ、今回は。なんだね」
「あぁ。俺は嘘はつかない」
「それにしても、絵名って雄磨の事になると人が変わるよね」
「お前も大差ないけどな」
「ありがとう」
「褒めてない」
「しかし、本当にどうするかなんだよな」
「逃げれば?」
「その後は?」
「……雄磨の事は忘れない」
見捨ててるじゃん。と言うのは無視をして。今は本当にどうするかを考えないと朝比奈にお世話になる事になるので、必死に考える。考えるんだが、そう簡単に思いつくわけもなく。気がついたら東雲からメールが届いた
【私、今あなたの後ろにいるの】
「っ!?」
後ろを振り返るとそこには目が怖い東雲が携帯を片手に立っていた。俺は直ぐに東雲から離れようとする。なんでここがバレた?
「東雲、まずは話をしよう」
「いいわよ。遺言は聞いてあげる」
「骨は拾うね」
朝比奈がもう俺が死ぬ前提で話を進めている気がするが、俺は東雲に必死に説明することに
「今日は本当に見る暇が無かったんだ。用事があったんだよ」
「うるさい」
「いや、聞いてくれるんじゃないの?」
「じゃ、用事って何よ」
「店の買い出し」
「なら許す」
何とか東雲の怒りを鎮めることが出来て良かったと安心する。てか、それで納得するのね。すると、東雲は俺の横にあった袋を無言で見つめてくるので俺は袋を膝の上に置いてみると東雲が横に座る
「にしても、まふゆ久しぶりね」
「そうだね」
「ん?お前ら会うの久しぶりなのか?」
「うん。だって有名画家さんだから、なかなか会う機会が無くて。さすが有名画家さん」
「なんか煽られてる気がするのは私だけ?」
「そんな事ない。有名画家さん」
「喧嘩なら買うわよ」
「有名画家さん」
「よし。買った。もう許さない」
「待て待て」
喧嘩するほど仲がいいとはよく聞くが、それは間に誰もいない時に使える言葉であり。間に俺がいるのだから喧嘩はしないで欲しい。てか、朝比奈のやつ俺を盾にしてるから必然的に俺が東雲に喧嘩を売られてる絵が完成
「事実なんだからそこまで怒らなくても」
「まふゆに言われると嫌味にしか聞こえないのよ。雄磨だってあるでしょ?」
「まぁ、料理上手いねとか言われた時は皮肉か?って思って……………痛い痛い」
まだ最後まで言っていないというのに朝比奈に叩かれてしまう。しかし、朝比奈に褒められたとしても素直に受け入れられないのも事実。なぜなら朝比奈はなんでも出来てしまうので皮肉に聞こえてしまうからだ
「私だって出来ないことくらいある」
「何よ」
「雄磨なら分かるはず」
「俺?」
「そう」
「朝比奈に出来ないことか。結婚?」
「それは絵名」
「とりあえず雄磨は殴らせて」
「八つ当たりだろ」
怒っている東雲とそれに対して防御している俺を無視して朝比奈は急に話を始める
「ちょっと絵名達に聞きたい事があるんだけどいい?」
「何?」
「ちょっと待て。この状況で話出来るか」
「最近、作詞でちょっと悩んでる所があって」
「まふゆにしては珍しいわね」
この2人は頭がおかしいのかい?なんで俺が必死に東雲を止めてる時に会話が出来るの?てか、張本人が話してるのは本当におかしい気がする
しかし、そんな俺の考えを無視して2人は話を進めていく
「恋愛系なんだけど」
「……」
「……」
朝比奈の口から絶対に出ないであろう言葉が聞こえた気がするのは気のせいだろうか。東雲も俺と同じ思いなのか目を開いて固まっている
「私、恋愛とかした事ないから分からないから。2人なら分かるかなって」
「えっと。何?新しいジャンルを取り入れようとしてるのか?」
「まぁ、そんな所」
「ちなみにそれは宵崎とかには」
「言ってないけど。でも、私達も毎回同じ感じだと飽きられるかもしれないから。たまには冒険してみるものありかなって」
「へぇ。東雲はどう思ってるんだ?」
「ごめん。私も恋愛とかした事ないから分からない」
「いや、そうじゃない。取り入れるほうだ」
「あ、そっちね」
誰が人の恋愛話を聞きたいと思うんだ。残念ながら女子では無いので恋バナとかには興味が無い。すると、東雲は少し考えた後に口を開く
「でも、まふゆの言ってる事は正しいわね。たまには違う方向性の音楽を作るのもありだと思う」
「絵名」
「でも、なんで恋愛系なの?他にもっとあるでしょ」
「例えば?」
「例えば、カッコイイ系とか」
「1年前にやった」
「可愛い系とか」
「半年前にやった」
「落ち着いた感じとか」
「2年前に」
「暗い感じ」
「いつもの」
「……失恋系」
東雲さん。それ、恋愛系よりもハードルが馬鹿みたいに上がってますけど大丈夫?しかし、なぜ朝比奈は急にそんな事を言い出したのだろうか。特に朝比奈達の人気度は下がってる訳でも無いからいつも通りでいいと思うのだが
すると、朝比奈は俺の膝の上にある袋から雑誌を取り出してあるページを開き見せてくる。俺と東雲はそのページを見て納得する
「あぁ。女子受けを狙うって事ね」
「まぁ、お前達のファンは少しだが男性が多いからな」
「だから。絵名教えて」
「私?無理に決まってるでしょ」
「意外だわ」
「は?」
「すいません」
東雲なら恋愛はしたこと無くても恋愛系は分かると勝手に思っていた俺がいたが思い過ごしだったらしい。恋愛系と言ったら暁山になるのか?いや、あいつに聞いたら変な事になりそうだな
「雄磨、教えて。お金なら払う」
「いや、悪いが俺にも分からない。そう言うのは暁山とかに聞いたらどうだ?」
「……」
「どうした?」
「あのね。最近、瑞希仕事が忙しくて話が出来てないの」
「そうなのか?」
「作業にも顔だしてなくてさ」
「でも、連絡は出来てるんだろ?」
「それが出来てないのよ」
「そうなのか?普通に俺には連絡来てるけど」
「携帯貸して」
「あ、はい」
東雲に言われた通りに携帯を渡すと、慣れた手つきで恐らくだが暁山にメールを送っている。さすがに暁山も馬鹿じゃないから返事なんか来ないと思うのだが
「そんなので釣れるか?」
「雄磨っぽい感じで送れば返ってくるわよ。で、電話まで繋げたらこっちの物よ」
「やってる事が悪徳業者だな」
「瑞希が悪いの」
そんな簡単に返事が返ってくるわけが無いと思っていた俺は朝比奈が言っていた方向性のことを考えていた。確かにいつも通りだと飽きられる可能性は高い。現に人なら誰しも飽きて捨てたり辞めたりする生き物だ
「雄磨的には、いつも通りでいいと思う?」
「そこに関しては俺には分からないかな。いつも通りでいいって人も居るし、たまには違ったのも見たいって思う人も居るからな」
「難しいね」
「音楽ってそういうものなんじゃないか?知らないが」
「恋愛系」
「それはやめた方がいいと思う」
「そっか」
「よし!繋がったわ!」
急に大きな声を出したと思ったらベンチから立ち上がりガッツポーズを取る東雲。暁山には悪いが本当に傍から見ると悪徳業者にしか見えないのは気のせいだろうか
「お前が直接行くのか?」
「そんな訳ないじゃない。まずは雄磨に行って貰って話をしてもらうのよ。そして、連絡を取らなかった理由を聞き出して」
「その後は?」
「理由によっては、まふゆを向かわせるわ。そして囲んでから」
「やってる事が怖いんだが」
「瑞希が悪いのよ。って事でこれからここに向かってちょうだい」
携帯を返されて、画面を確認するとある場所の写真が写っていた。行かないと言った所で無理やりにでも行かされそうなので大人しく俺は写真の場所へと向かう事にした