ここは悪の組織・ロケット団本部。
ボス・サカキの秘書を務める女性・マトリは厨房でサカキの為にコーヒーを入れ、社長室まで運ぶ…これは毎朝のマトリの日課だ。
コンコン…
「サカキ様、失礼いたします。」
「入れ。」
サカキの返事を待ってから、マトリは重い扉を開いた。そこには恰幅の良い只者ならぬオーラを纏った男性…サカキがソファーに腰を下ろし、膝の上で相棒のペルシアンを撫でている。
「コーヒーをお持ち致しました。」
「ああ…。」
サカキはマトリの手からカップを受け取ると口に運び、それからジッとマトリを見据えた。
「…何か?」
「いや、お前がここに来てからどの位になるのかと思ってな。」
「もうすぐ2年になります。」
「そうか…早い物だな。」
サカキはそう言うとコーヒーを一口啜った。
2年前…18歳だったマトリはロケット団の扉を叩いた。普通、ロケット団員は何年も訓練を受けてからやっと下っ端として採用される…しかしマトリはその利発さや強い志をサカキに認められ、なんと下積み時代なしでサカキの側近という高い地位に就いた…勿論、それをよく思わない団員も多いのだが。
「お前は毎日幸せか?」
マトリは一瞬迷ってから…でも直ぐに口を開いた。
「幸せです。毎日サカキ様のお側にいられて…私、サカキ様の悪いお顔を拝見する事が何より好きなのです。」
「ふっ…面白い事を言う。」
サカキは怪しくニヤリと笑い、腰を上げ窓の方に移動した。
「あの計画はもうすぐ完成する…マトリ、お前も喜ぶだろう。」
「あの計画…?」
サカキの顔は逆光でよく見えない…しかし、マトリの大好きな『悪い顔』をしていた。
***
サカキはマトリの端正な顔をジッと見据えた。綺麗に切りそろえられた黒髪が頬にかかっている…僅かに幼さの残る彼女はゾッとする程に美しい…まだ男を知らないが故の女の色気が溢れている。
「…何か?」
怪訝に思ったマトリが首を傾げる。
「いや、お前がここに来てからどの位になるのかと思ってな。」
「もうすぐ2年になります。」
「そうか…早い物だな。」
2年前、マトリがここにやってきた日の事をサカキははっきりと覚えている。この世界に絶望しきった様な暗い顔をして…しかし、その瞳には強い野望を宿した若い娘…マトリに一目でサカキは恋に落ちてしまった。
(私とした事が…倍も歳が離れた女に惹かれるなどと…。)
サカキは自分が話す壮大な野望や悪巧み…世界征服の夢を憧れの眼差しをしながら熱心に耳を傾けるマトリを見るのが好きだった…彼女の喜ぶ顔を見る為ならばどんな事でもしてやろうとさえ思う。
サカキの野望は『全てを支配し、秩序ある世界を創ること。』
「あの計画はもうすぐ完成する…マトリ、お前も喜ぶだろう。」
「あの計画…?」
サカキは朝日に染まる街を見下ろしながらニヤリと笑う。