今度こそ、ゴールテープを   作:古野ジョン

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第五話 因縁

 さくらのおかげで、クラスの皆とも少しずつ会話するようになった。過去のことがバレたらどうしようかと思ったが、もう何年も前のことだ。そう簡単にバレるわけでもないか。

 

 今日の日付は五月一日。いつものように教室に入り、席に座るとさくらが話しかけてきた。

「相原くんってさ、彼女とかいるの!!??」

毎度毎度唐突な奴だな。

「どうしたんだ、いきなり」

「隣のクラスのね!!黒木さんと白田くんが付き合い始めたらしいの!!まだ五月なのに早くない!?」

「別にいいだろ」

「すごいなあ~って思うわけよ!それで、相原くんは彼女いるの!!??」

コイツ、俺の話を聞いているんだか聞いていないんだか分からない奴だな。俺は頭の中である二人のことを思い浮かべていた。

「……まあ、いないと言ったら嘘、かな」

「え!!本当!!誰、誰!?どのクラス!?」

「同級生の奴じゃあねえな」

俺の年齢で高校一年生と付き合っていたら、いろいろとまずいだろう。

 

 さくらとそんな会話をしていると、ホームルームの時間になった。いつものように笹野先生が来て、連絡事項を伝えてくる。一通りの連絡事項のあと、笹野先生が付け足した。

「それから、今日から教育実習の先生がいらっしゃいます。皆さん、仲良くしてくださいね」

転校生じゃないんだから仲良くってのはおかしいだろう。そんなふうに心の中で先生にツッコんだ。

だが、そんな余裕があるのもここまでだった。

 

 笹野先生が教室の外に行き、待っていた教育実習生を招き入れる。

「では、入ってらっしゃい」

コツンコツンと音を響かせて、スーツ姿の女が入ってくる。その顔を見た瞬間、俺の頭は真っ白になった。

(まい)……!!」

ガタンと音を鳴らし、思わず立ち上がる。教室内の視線が一気に俺に集まり、笹野先生もこちらを見た。だが、舞だけはこちらに視線を向けずに教壇に向かって歩いて行く。

「あ、相原くん……?どうかしたの……?」

「……いえ、何でもありません」

驚いて声をかけてきた笹野先生に対して俺はそう返し、席に座った。

 

 舞は驚く様子もなく教壇に立った。

大和田舞(おおわだまい)です。科目は英語で、私もここの高校の卒業生です。よろしくお願いします」

やはり舞だ。そうか、本当だったら俺も大学四年生。もと同級生の舞が教育実習に来るというのも不思議ではないというわけか。

 

 その後も舞は何か話していた気がするが、放心状態の俺の耳には届いていなかった。ホームルームが終わり、笹野先生と舞が教室から去ると、さくらが話しかけてきた。

「相原くん!!さっきの何!!??」

どんなときでも元気な奴だなあ。

「いや、何というか……知り合いなんだよ、あの実習生」

「えー!!そうなのー!?すごい偶然だねー!!」

ただの知り合いってだけなら、どれほど良かったことか。

 

 その後、三時間目までの授業は何事もなく終わった。が、問題は四時間目だ。四時間目は笹野先生の英語の授業だ。当然、舞も来るだろう。正直、アイツにどんな顔をして会えばいいのか分からない。申し訳ない顔をするのも違うが、偉そうにふんぞり返るのも違う。何も分からないまま、時間になった。

 

 今日の授業は笹野先生が進めていた。舞は教室の後ろでそれを見ながら、何かメモを取っていた。

「では……相原くん?この空欄に当てはまるのは何か答えて」

「はい、"with"です」

「そうね、それが正解ね」

授業自体は何事もなく進んでいく。だが、後ろには舞がいる。どんな感情でいれば良いか、どんなことを考えれば良いか、全く分からなかった。

 

 何とか四時間目の授業も終わった。はあーと大きくため息をつく。さて、昼飯でも食べて気分を変えようかね……

「大和田せんせー!!相原くんと知り合いって本当ですかー!!?」

バカ!!!!と思うより早く、さくらが教室に残っていた舞に話しかけていた。舞はそれを聞いても表情ひとつ変えず、「そうよ」と答えた。

「えー!!どんな知り合いなんですか、聞きたい聞きたいー!!」

「おい、さくら……」

と制止しようとするが、さくらは聞いちゃいない。すると舞がさくらにある提案をした。

「井野さん、ゆっくりとお話してあげるわ。相原くん、あなたもいらっしゃい」

そして、舞は俺の方を見た。どういうつもりだ、舞。

「えー相原くん、何があるのー!!??」

「さくら、行ってから話してやるよ」

もうどうにでもなってくれ。

 

 俺とさくらは、舞に導かれて屋上にやってきた。普段は閉鎖されているが、舞が職員室から鍵を拝借してきたらしい。教育実習初日でそんなことして大丈夫なんだろうか。屋上で、俺、舞、さくらは円をなして立っていた。

 

 そして、しばらく沈黙が流れた。さくらは最初はわくわくした表情をしていたが、流石に俺たちの関係が楽観出来るようなものではないことに気が付いたようだ。いつまでも黙っているわけにいかず、俺から口を開いた。

 

「俺がいること、知ってたのか」

「ええ、知ってたわ。実習前にクラスの名簿を見たとき、あなただと分かったわ」

「そうか」

「ねえ、相原くん……いえ、翔太。どうしてあれ以来連絡してくれなかったの?」

「それについては悪かったと思っている。けど、連絡できる状態じゃなかった」

「あれから何年経ったと思っているの?」

「……すまない。けどお前だって見舞いにすら来なかったじゃないか」

「それは……そうだけど」

あれ以来、初めての会話だな。互いに言いたいことはたくさんある。

「ねえ、翔太。どうしてこんな年になってまで高校に入り直したの?」

「……別に、何でもいいだろ」

「もう一度やり直そうって気持ちなのかもしれないけど、情けな

 

「相原くんをいじめないでよ!!!!」

 

さくらが舞の話を遮った。

 

 またも沈黙。が、今度はさくらが口を開いた。

「結局、大和田先生は相原くんの何なんですか!!」

「井野さん、教えてあげるわ」

舞はそう言って、俺の方に近寄った。

「おい、何をする気だ?」

「別に、あなたの足で屋上までご足労いただいたお詫びよ」

そう言うと、舞は背伸びをした。そして、

 

俺の頬に、キスをした。

 

「……!!」

さくらは顔を赤くし、俺と舞を見ていた。

「いい?井野さん」

舞はさくらに向かって、静かに言った。

 

「翔太はね、私の彼氏よ。六年前からね」

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