上から見下しててコイツらムカつくな…せや!!(神全滅) 作:一途一
ある日の主
『ダンまちって神様が現実に居るんか〜…あ”〜現実に神様落としてぇ〜^^』
昔、神々を打ち倒し、あろうことか頭を垂れさせた男が居た。
男は悲運であった。両親を亡くし、愛する者を亡くし、故郷を焼かれ、自身も辱めを受けた。
男は訪れた運命から目を背けようと、世界中を駆けずり回った。
神の存在は到底信じられなかった。…しかしある時、見たのだ。見てしまったのだ。神の姿を。
男は憤慨した。私に救いは無いのか、と。
穢され切ったこの体を酷使し、修行し、世界中から吸収したその呪力を使い、その神に祝詞を言い放った。
『懸けまくも畏き我が身に神々の力を捧げよ』
直ぐにこの男を倒してくれようと考えていた神は恐れ慄いた。何故この男に力が吸い取られるのだ、と。
そして男は手に入れた力を使い、神々を蹂躙して回った。
しかし、男は神を完全に殺さなかった。
男は神を人へ落とした。人間と同じ体にし、『二釘衆』と言う監視役を付けた。
『二釘』は、
神の力を封じた男は最後に、一つの勾玉に全ての力を込めて、地球の奥深くに落とした。
地球の内核で弾けた神力は世界中にバラ撒かれ、人々に『魔術』という形でその力が与えられたのだ。
これが、この世界の始まりであった。
◆◇◆◇
ここは日本のとある都市。
神々が
2000年前、神々は神界にて所持していた無限の寿命以外の全てを剥ぎ取られ、世界中に放逐された。最初は人類と共に生きていくことが出来たが、時代が進むごとに神への風当たりは強くなり、権力者に買われて傷物にされた処女神や、死なない労働力として買われた男神も発生した。
しかし、神々をその様な姿に堕とした張本人はあろうことか神を保護した。『日本の地だけでも神々と仲良くし、共生せよ』と。
男が取った措置はいう為れば、巻き込んでしまった“一部の無実の神”の為の救済措置であった。だが、それ故に日本は神々との交流が深くなり、永い間神々の安寧の地として重宝されている。
『二釘庁』は明治に『二釘衆』から名前を変え今まで通り神々の監視を務めて来たが、ここ最近は面倒を起こした神々の処理役のような仕事が多くなっている。
そして机に突っ伏しているこの男、
「Z...zzz..zzZzz...」
最近は秋になって漸く涼しくなるかと思いきや、残暑は九月の終盤まで続いている。一釘は心底早く残暑が終わってくれれば良いのに、と感じていた。一昨年の九月に左遷されてからもう二年経っても特にすることは無く、一週間の内の三日間は大体(朝)昼(夜)寝している始末だ。
男の寝息と経年劣化で床が軋む音だけがその空間を支配していた。この庁舎も建てられてから既に百年は経過している。度々建て替えの案は出されたが、『
「管理官?また寝ているのですか?部屋、這入りますよ?」
外から声が聞こえてきた。きっと彼女は補佐官の
ここ最近…いや、半年前ぐらいにここに配属されたらしい。珍しく自分から此処に配属される事を希望した
ドアが軋みながら開き、不器用に彼女を歓迎する。宮薙はまたか、という顔で一釘を睨んだ。
「管理官?どうせまた寝た振りでしょう?ほら、起きて下さい。」
ぺしぺし、と書類のような物で頭を叩かれる。だが、一釘はこれでも頭を上げない。
「管理官ともあろう人間が午後一時から昼寝なんてしているのがバレたら大変ですから、起きて下さい」
それでも一釘は顔を上げなかった。そして少し宮薙の顔が
「……舐めるのなら私の靴と今にも剥がれそうな床のどちらが良いですか?」
「お早う御座います」
「…おはようございます、今日は
敗北を悟った一釘は渋々顔を上げた。これで『宮薙君の靴を舐めたい』なんて言った暁には顔面から靴の裏で蹴り飛ばされてガラス窓を突き破りながら下へ落ちていくのがオチだ。というか一釘自身が以前に体験していた。
いつも通りのやり取りを終えて一釘は部屋の外に出る。日差しがガラスを無視して、軽く天然なパーマが掛かっている一釘の頭に照りつける。もうこれだけで汗が止まらない物だが、部屋に戻りたいという気持ちを抑え玄関へ向かう。
宮薙の侍らせている車はセンチュリーだった。たしか此処には公用車は無い筈で、車を使いたいなら自分で購入する必要がある筈なのだが…一体何処から金が湧いて出て居るのか。一釘はそんな一抹の疑問を抱きながらも、まあ冷房が効いてるなら良いや、と車に乗り込むのであった。
◆◇◆◇
到着したのは郊外、奥多摩だった。生い茂る木々の中に聳え立っている洋風な五階建ての豪邸はかの稲荷大明神の自宅だ。
彼女は二千年前自身が人間に成った瞬間から行動を始めた数少ない神の一人である。自身を信仰する者達を片っ端から集め、彼女はまだ未熟も未熟であった商業を始めた。産業全体の神である稲荷の手腕で急速な発展を遂げた大和、日本経済は現在も低迷する事無く、世界での威権を示している。
先程宮薙が『天照の所に行く』なんて事を言っていたのに此処に来たのには、ある理由がある。今回の依頼(半強制)に大きく関わる事だ。
そんな考え事を一釘がしている間に、二人はいつの間にか表門の直ぐ側に来ていた。到着と同時にノールックで宮薙は巨大な扉の横に付いているインターホンを押した。
「どうも、二釘庁の宮薙と申します。今回のご依頼の件で伺わせて頂きました」
こういう時はしっかりするのが宮薙の良い所だ、と一釘は思った。同時に、その礼儀を俺にもしてくれ、と。
扉は少しして、無言で開いた。ゆっくり開くのが一釘には妙に癪に障ったが我慢して中に這入る。
玄関では狐耳の女性が待っている。初手から
「どうも初めまして、二釘庁の皆様。ようこそいらっしゃいました。私は
恭しくお辞儀をする姿は何故か一釘に嫌悪感を与えた。二千年以上も生きているのだから頭の中が得体のしれない物に溢れているのは想像が付くから、余計に話掛けにくい。
「で、依頼というものは何でしょうか?」
このまま押し黙るわけにも行かないので、話を進める。一釘は相手にペースを握られないように割と必死だった。
「そう急かさなくても宜しいのでは?…まあ、ここで留まっているのもアレなので場所に向かいましょう」
宇迦之は踵を返し館の中に這入っていった。一釘達もそれに続く。
―――館の中は照明が点いていないのも関わらず、適度に窓から光が差し込み幻想的な空間を作り出していた。ここが観光名所ならば気軽に探訪できるのにな、と一釘は考えた。
「…館内は大変広いので、なるべく一人で行動することは避けて下さいね」
確かに館の中は非常に広い。五階までの階段に辿り着くまでに五分掛かってしまった。それにどの階もさほど景色は変わらず、赤いカーペットの両端に確実に一人では使い切れない部屋の数々が張り付いているだけだ。
そしてその最奥。光が差し込まなくなった時点で宇迦之は足を止めた。入り口と見られるドアには『五〇九』と書いてあるだけだった。
「ここが天照様のいる場所ですよ。それと、今回の貴方達への依頼は天照様を外に連れ出して貰うことです。」
宇迦之は遠くを見るような眼差しで語り始めた。
「遠い昔…まあご存知でしょうが、天照様は人間に墜とされてしまいました。突然持っていた力が消え失せ、下界に落とされてしまったのです。幸い私と出会ったので路頭に迷う事はありませんでしたが、天照様は自分の存在意義を見失ってしまいました。神格を失い、誰かを率いる事も無くなってしまった彼女は引き籠もってしまったのです。それ以来、二千年間ずっと影に潜み、表舞台に出ることもなく生活しています。」
宇迦之は一呼吸置き、鎮痛な表情を浮かべて続きを話し始めた。
「私は見るに耐えなくなってしまいました。彼女を日陰に置いておくのはもう限界なのです。しかし、今は名ばかりとはいえ、我々八百万の神々の主神を部屋から引き摺り出すのは気が引けるのです。なのでどうか…天照様を日の当たる所に出してあげて下さい。」
まあ、要するに主神を助けたいけど自分たちは手を汚したくないから、お前ら人間は神に敬意なんぞ払っていないから代わりにやってくれよ、という事か。確かに“二釘庁らしい”仕事だ。
「私が居ると少し厄介な事になるのでお暇させて頂きます。もし何か問題が起こった場合は各階の階段に設置されている非常ベルを鳴らして下さい」
そう言って宇迦之は部屋の鍵を一釘に渡し、そそくさと廊下から去って行った。
「…それで、ここからどうすれば?」
「……俺に言うなよ」
宮薙は困ったように此方を見てくる。正直一釘もどうすれば良いのか分からなかった。今まで神々のお悩み相談はしていても、お悩み解決はした事が無いのだ。
「うーん………!」
宮薙が何か思いついたようだ。大抵こういう時は碌な事にならないのは何時もの事だ。
「ふんっ!」
宮薙はドアを蹴り破り、中に這入り込む。宮薙の場合は『コイツ本当に頭どうかしているじゃないのか?』なんて事は考えるだけ無駄だ。
「お邪魔しますよ〜」
扉をぶち破った割にはのんびりした声で宮薙は中に這入り込む。実はこれも魔術の力だったりする。基本的な能力を向上させる『永続魔術』と言うものだ。少ない魔力消費で使用できるのが魅力だが、解除した時の違和感に長年悩まされる人も存在するので気を付けなければならない。
「うわっ、ゴミだらけじゃないですか」
宮薙が電気を付けて明るくなった室内は良くも悪くも汚いと表現するのが正しかった。パンパンに膨れたゴミ袋が辺りに散乱しているし、それに混じってエナジードリンクの塔もぽつぽつ建っていた。
更に奥の部屋を見つけたので這入ってみると、デスクトップPCが置いてある部屋に辿り着いた。此処は比較的片付けられている。部屋の電気は点いておらず、PCから発せられる光がこの部屋の中では頼りだった。
「電源は何処でしょうか……あ、あった」
電気が点き、光が部屋の中を照らす。すると、軽口を叩いていた宮薙が動きを止めた。
「なんか異世界転生しそうな部屋です、ね…」
「…何か俺の顔についてるか?」
「いや、後ろ…」
「え、」
一釘は後ろを向く。
「私の部屋で、何をしているんだ」
「「………」」
ボサボサに伸びきった髪に隈が酷い目。服装もおおよそ普通の人が着るような物ではなく、妙に黄ばんだTシャツだった。それに大きいおっp(ry。
至近距離で顔を見ていた一釘は顔を驚愕に染め、宮薙と共に動きを止めてしまった。
「出ていけ、此処は私の部屋だ」
そう言ってボサ髪の女性…変わり果てた
「―――ちょっと空気を持ってかれそうになりましたが…私達は宇迦之御魂神様から貴方を連れ出して欲しい、と依頼を受けているのです。依頼の期限は今日までなので、準備して下さい」
「私は此処から出ない」
「そんな子供みたいな…ほら、椅子から立って下さい」
そうして宮薙が天照に触れようとするが、その手は弱々しく跳ね除けられた。何時の間にかその目は震えていて、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「私はっ…もう世界に必要とされていないんだ…!神としての力を失くし、死ぬにも死ねず…!だけど、外に出るのが怖くてっ、こうして穀潰しとして生きてるんだっ!!貴様らには分からんだろ!この苦しみが!どれだけ血を流しても死なず、希望も無い!」
天照は頭を抱え、机に突っ伏した。
「私が居なくても外では太陽が輝いている…私は要らない子…」
宮薙はドン引きしていた。一釘は早々に退室する準備をしていた。
「そんな急に…所謂うつ病、って奴ですかね」
「そうだな…帰るか」
「何言ってるんですか。これに幾ら依頼料掛かってると思ってるんです。嫌でも遂行しないと
「…どうする?」
「取り敢えず車に乗せましょう。管理官、出番ですよ」
「…ああ。―――『弐式:封印箱』」
一釘がそう唱え、指で孤を描くと天照の足元に魔法陣が出現した。そのまま魔法陣は天照を包み込み、十センチ平方メートル程の光を発する立方体になった。
「やはり『二釘流』は便利ですね。余計な詠唱も必要ないし、何より強力だし。管理官様々です。」
「それは感謝していると受け取って置くか」
そう言って人釘は立方体を手に取った。これは全ての感覚を遮断して相手を封印できる代物なので、交渉が決裂した時などによく使う。但し魔力消費が多く、十分しか持たないのが欠点だが。
「兎も角、これで今回の依頼は達成ですけど…ここからどうするんですか?」
「俺に聞くなよ」
一釘はこっちが知ったもんじゃない、と思った。本来なら失業した人間は再就職する物だが、曲がりなりにもコレは神様だ。書く書類の量も社会に進出するための時間も人間とは段違いである。
「―――一旦何処かに置いておくのが賢明だが…確か庁舎は、居住することが基本的に禁止されてるだろ?」
「確かにそうですね、何処かに捨てるのは流石にアウトですし…」
此処でまたもや宮薙がアイデアを思いついたように『あっ!!』と言った。一体どんな酷い提案なのだろうか。
「―――管理官の家に置いとけばいいじゃないですか!………拒否権は無しで」
一釘はがそれは無いだろ…という前に宮薙は部屋を出て行った。このままだと多分車中で封印が解けてしまうので、解けてしまった時に暴れないように箱の中に催眠術式を張っておく。…これで封印が解けても暫く目を覚ますことは無い筈だ。
一釘はため息をつき、宮薙の後を追っていった。
◆◇◆◇
車は山を降り、町を抜け、見覚えのあるビル群に向かって進んで行く。
「…何でお前は俺の家の場所を知ってるんだ」
「自分が仕える人間の個人情報は知っておくのが吉、と古事記にも書いてありました」
「だからといって俺の帰り道を完璧に辿っていくのはどうかと思うが」
「―――…偶然では?」
一釘は此処まで白々しく応対する宮薙に一種の尊敬さえ抱きそうになった。
車は何時の間にか一釘の家の前に止まっていた。外観はよく見るアパートそのもので、最近色を塗り直したので見た目(だけ)は綺麗になっている。
「じゃあ、私は車で待ってますんで。さっさと置いてきて下さい」
アパートの駐車場に車を停めるなり宮薙は一釘に天照をおぶらせ、車の中から追い出した。
「――応俺って
そんな嘆きも、扉の向こうで涼みながら待っている宮薙には届かなかった。
次回投稿は未定です。
主は褒められると伸びるタイプなので評価してくださったら筆が乗ります(何様)