それでは、どうぞご覧ください。
side:ハクア
デザイアグランプリ一回戦が終わり家に戻ってきたその日、兄さんは有馬先輩から頼まれた仕事の話を僕たちにしていた。
「へぇ、それってどんな作品?」
「あぁ、『今日は甘口で』っていう少女漫画原作のやつ」
それって、確か……
「あぁ~あれか~、お兄ちゃんの部屋にあったやつ?」
そう!それだ!
「そうだけど……お前、俺の部屋に勝手に入って漫画読むなよ」
「え~いいじゃん!減るもんじゃないし!」
「そうかもだけど……」
「じゃあ、問題ないね!」
「……あぁ」
「相変わらずだねぇ~」
「……本当にいいの?あれで?」
お母さんは相変わらずだと言うが、兄さんは姉さんにどことなく甘い気がする……僕に対してもだけど……。まあ…仲が良いのはいいことだよね!
「でさ、兄さんはどんな役なの?」
「最終話に出てくる悪役らしいわよ」
一緒にいたミヤコさんがそう言う。にしても、悪役か……僕はあまりやったことのない役だ。やれないということはないのだが…普段の声の印象が強いのだろう、僕にはそういう役があまりこないのだ。
「ネット局のドラマだから、今から見れるけど「「見る!」」……分かったわ」
お母さんと姉さんが即答するので、みんな見てみることになった。
そして、ドラマが始まったのだが……
『人間は嫌い……だって皆自分のことしか考えてないから』
『オマエ、カオシテタノシイノ?』
……うん?
『ナンダ、ワラエバカワイイジャン』
『からかわないで!』
……あれ?
『オレノオンナニテヲダスナ』
『ハァ、ナンダテメェ』
『けんかはやめてー』
……え?
「「「「「……」」」」」
想像以上の出来の悪さに、ミヤコさんが思わずパソコンを閉じてしまった。
みんなで何かを言おうするが、酷すぎたのか誰も話そうとしない。
「『今日あま』って……こんな作品だったっけ?」
「概ね……こんな感じじゃないかしら?」
「こんな…感じだと思うよ…私も……」
「いや絶対思ってないでしょ、お母さん」
ミヤコさん、そしてお母さんが擁護?しようとしているものの、流石に無理があるだろう。僕も少し読ませて貰ったことがあるが、少なくともこんな感じではなかったはずだ。
そんなことを考えていると、姉さんと目が合った。……うん、多分姉さんも同じことを思っている。
そして、僕たちから出た言葉が
「「なんていうか……ひどいね!」」
「ルビー、それにハクア、ストレートに言い過ぎよ」
正直、ストレートに言った自覚はあるが…一言で表すとしたら、これ以外に言葉が見つからない。
「それにしてもさ」
「「「「?」」」」
「これ、先輩本気出してないよね……」
「あぁ、言われてみれば……」
まあ、周りが下手過ぎるせいで自分から合わせにいっているのだろう。
「え?先輩の演技が下手なんじゃなくて?」
「うん…まあ、事情があるってことだよ」
「へぇ~…」
この状況で、兄さんはどうするのだろうと思い、ふと兄さんの方を向くと
「これは……やりようがありそうだ」
兄さんは原作の漫画を見ながら、面白そうなものを見る顔をしていた。
そうか……兄さんは
とにかく、兄さんがこの現場でどんな演技をするか、一役者として楽しませてもらおう……。
それはそれとして……
「ねぇ、ミヤコさん」
「?何かしら?」
「少し相談したいことがあって―――」
side:アクア
「はぁ!?アンタの妹そんなこと言ってたの!?死ねよあいつ!?」
「おい、妹に向かってなんだそれは?ふざけんなよ、お前」
「マジですいませんでした」
『今日あま』を見てから数日後、俺は有馬に誘われて打ち合わせに来ていた。
「それにしても、流石ね…アンタの弟は。こっちの事情を一瞬で見抜くなんてね」
「そりゃあ、ハクアだからな」
「アンタ、相変わらず……もういいわよ…」
そして、打ち合わせは進み……
「というわけで…撮影は明日!」
……明日?
「オンエアは来週だから!」
……来週?
「撮影後、即編集、即納品!本読みすっ飛ばして即リハ即撮影だからよろ~」
……は?
「いや、よろ~じゃねえよ。ウチの監督でももうちょっと丁寧だぞ。……スケジュール終わってんな、これ」
「そういえばさ……ハクアのことなんだけどさ」
「?」
俺の弟がどうしたというのだろう?
「なんか……初めて会った時と変わったわよね」
「変わったって……?」
そりゃあ、初めて有馬と会ってから10年以上も経っているんだ。成長して何かが変わっていてもおかしくはないだろう。
「気付いてないのアンタ…確かに、演技とかはレベルが高くなっている…もちろん声優としてもね。けど…」
「けど?」
「それに比例するように、楽しんでいる感じがなくなっているのよね……。何かの目的のために、演技をしている気がするの……あ、でも演技に手を抜いているって意味じゃなくて寧ろその逆というか――」
……その言葉に、俺はあの時のハクアの言葉を思い出す。
『お前は…何のために戦っているんだ……?』
『……もう一度、出会うため』
「……少しだけ、心当たりがある」
「?」
「ハクアは前に誰かを探しているとか言っていた。だから……」
「なるほどね……。つまりは、有名になればその誰かさんに見つけて貰えるってことね……」
ハクアはあの時、ああ言っていた。だが、ハクアは前にも何かしらの願いを叶えているはずだ。
俺たちが参加する前のデザイアグランプリ……俺たちの知らないハクア……お前は何を願ったんだ……。
side:ハクア
ミヤコさんに
そうして歩いていると、目当ての病室からある会話が聞こえてくる。
「息子さんの手術……できますよ!」
「……え?……いや、だってそれには大金が必要だったはずでは……?」
「先程、ある方から資金援助がありまして……」
良かった……ちゃんと、届いてたのか。
その言葉を聞き、僕は静かにその場を去った。
「一体、誰から……」
「確か……『名無しの黒狐』という方から――」
side:???
ここは、とある部屋。
そこから、病院から去ったハクアを見る一人の人物がいた。
『星野珀亜……お前の真の目的は何だ……』
その人物は、黒いマントを羽織り顔には仮面をつけていた。
『お前の行く末、見させてもらうぞ……』
仮面の人物はそう呟くのであった……
読んで下さりありがとうございました。
今回は、前の二話と比べると短めです。次回は、三つ子の入学のお話をやりたいと思います。
良ければ、感想と評価の方をよろしくお願いします。
次回もよろしくお願いします。