女神の子   作:アキ1113

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 今回は、前回の続きからです。

 この話では、あの出来事が起こりますが、ハクアはどう動くのか……。

 それでは、どうぞご覧ください。


演舞Ⅱ:理想の形

 side:ハクア

 

 東京ブレイドの稽古が進み、本番まで後、二十日となった。今日は、脚本家のGOAさんが来ているらしく、金田一さんの隣に座り話をしていた……今なら訊けるのでは?

 

 「……あかね先輩」

 

 「?どうしたの?」

 

 「訊いてみたら?」

 

 「えっ!?」

 

 僕はそう言ったのだが、あかね先輩は驚いたような表情をしていた。

 

 「だ、ダメだよ……!」

 

 「え?何で?」

 

 「いや、だって………」

 

 まぁ、そういう反応になる理由も分かる………けど、僕はそんなあかね先輩を余所に……

 

 「すみません、ちょっといいですか?」

 

 思い切って訊きにいくことにしたのだ。

 

 「ほら」

 

 「う、うん」

 

 そうして、僕たちはGOAさんと金田一さんに鞘姫が原作のイメージと違うことについて、訊いたのだが……

 

 「予想通りだったね……」

 

 「理屈は分かるけど……」

 

 思った通りの回答しか得られず、渋々納得することになった……すると、

 

 「はーいお疲れー!今日はスペシャルゲストがお越しでーす!」

 

 雷田さんがそう言いながら入ってくる。そして、その後ろからある人たちが現れる。

 

 「『東京ブレイド』作者のアビ子先生!……と、その付き添いの吉祥寺と申します」

 

 この舞台、『東京ブレイド』の原作者の鮫島アビ子先生と、『今日あま』の作者である吉祥寺先生がいたのだ。

 

 「吉祥寺先生、お久しぶりです!」

 

 「有馬さん、『今日あま』の打ち上げ以来ですね!アクアさんも、またお会いできて嬉しいです!」

 

 「光栄です」

 

 有馬先輩と兄さんは笑顔で吉祥寺先生に挨拶されていたが……

 

 「先生、お久しぶりです……」

 

 「あ……どうも」

 

 「「………」」

 

 メルト君に対しては、凄い冷たい感じで挨拶を返していた。

 

 「な、なんか俺だけ反応が……」

 

 「まぁ、あの演技だったしね………この舞台で汚名返上すればいいよ」

 

 「そ、そうだな………親の仇を見るような感じだったけど……」

 

 「……」

 

 メルト君とそんな話をしていると……

 

 「あぁ、それと……ハクア!」

 

 「?」

 

 何故か兄さんに呼ばれて、先生たちのもとに行く。まぁ、挨拶するつもりだったけど……。

 

 「俺の弟のハクアです」

 

 「初めまして、星野ハクアです。吉祥寺先生、お会いできて光栄です。アビ子先生も――」

 

 そう、挨拶をした……が、

 

 「……!」

 

 何故か、アビ子先生は吉祥寺先生の後ろへと隠れてしまった……。

 

 「あ、あの……?」

 

 「……」

 

 「……僕……何かしました……?」

 

 そう、訊いてみると……

 

 「ほら先生、ちゃんと挨拶して……」

 

 「無理……イケメンと美少女は目を合わせただけでもテンパる」

 

 「気持ちは分かるけど……ハクア君がかわいそう……」

 

 どうやら、アビ子先生は人見知りらしい……まぁ、作業でこもってばかりだろうし、人と接する機会が少ないのだろう。

 

 「ごめんなさい……先生こういう場所に来ると、こんな感じで……」

 

 「あぁ、いえ……僕は全然……」

 

 僕たちが先生たちに向かって挨拶していると、他の共演者の人たちも続々と挨拶しにやってくる。僕たちは、それぞれが稽古に戻るが、アビ子先生は他の共演者たちに対してもあんな感じだった。

 

 それから少しして、各々が稽古に戻ったのだが……

 

 「あの………脚本って、今からでも直せますか?」

 

 アビ子先生が雷田さんたちにそう口にしているのが聞こえた……そして……

 

 「も、もちろんですが……どの辺りを……?」

 

 「どの辺りというか………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全部

 

 『!?』

 

 アビ子先生は声のトーンを低くして、そう口にしたのだ………それから脚本家のGOAさんが先生に謝罪をしたものの、アビ子先生は脚本のダメ出し……というか不満をぶつけまくっていた。

 

 「……今日の稽古はバラシだな。帰る」

 

 そんな状況を見てか、姫川さんはそう言って帰ってしまう。僕と兄さん、GOAさんと吉祥寺先生はアビ子先生とその担当編集者、雷田さんが話をしている部屋の扉の傍に立ち、中の会話を聞いていたが………

 

 「子供みたいな人だな……」

 

 「漫画家はこだわり強くて、社会性に著しく欠けている人多いから………もちろん、アビ子先生は極端な方だけど……」

 

 中ではアビ子先生が脚本やGOAさんのことを好き放題言っていたのだ……それどころか、先生自身が脚本を書くとかこの舞台の許諾を取り下げるとかも口にし始める………

 

 「……いいんですか?」

 

 「え?」

 

 「大分好き放題言われてますけど……このままじゃ、本当に降ろされちゃいますよ?」

 

 兄さんと僕は、GOAさんに向かってそう言うが……

 

 「仕方ないよ……脚本家の地位って、君たちが思っているよりもずっと低いんだ」

  

 「上の人が何か言ったら、簡単に首を挿げ替えられる。こんなのはね、よくあることなんだよ」

 

 僕も原作者と脚本家のこんな場面は何回も見たことあるけど……。

 

 「いいものを作ろうと努力しても、原作者の趣味と少し違えば憎まれ嫌われ、つまらなかったらファンから戦犯のように晒し上げられ、面白かったら全部原作の手柄……プロデューサーの趣味をねじ込まれて、大手事務所には出城を増やせと圧をかけられて………それでも、作品として成立するようにしなきゃいけない………リライティングというのはね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地獄の作業なんだよ」 

 

 「「「……」」」

 

 そして、アビ子先生たちと雷田さんの話し合いが終わり、今日のところは解散となったのだった……そして翌日………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「というわけで……一旦脚本が白紙に戻った。原作サイドとの交渉の後、新しい脚本が上がり次第連絡する。それまで稽古は休止とする」

 

 金田一さんから、そのようなことが告げられた。まぁ、脚本がないんじゃ稽古のしようもないしね………けど、僕たち演者サイドとしては、稽古が中断されるというのは痛いことだ。

 

 「なんか大変なことになっちゃったね?」

 

 「原作者が許諾しないものを、勝手にやることはできないからね~」

 

 「稽古中断は痛いなぁ……今回はステージアラウンドだし、稽古期間は多めに取りたいんだけど……」

 

 あかね先輩も同じことを思っている。他の役者陣も一緒だろう………あ、そういえば……

 

 「僕、ステージアラウンドって見たことないなぁ……」

 

 そう呟くと……

 

 「「えっ!?」」

 

 「え?」

 

 「ま、まさか……見たことなくて稽古してたの!?」

 

 「もちろんステージアラウンドを知ってはいるけど……見たことがないから、イメージが……」

 

 「むしろ、分からないであそこまでやれるんだ……」

 

 「実際、どんな感じなの?アニメのイベントで、生アフレコするみたいな……?」

 

 僕自身、知識として知ってはいるが実際に見たことはない。演技の師匠である五反田監督が映像の方の人なので、僕も自然とそちら方面の知識に偏ってしまっているのだ。

 

 「うーん……それとは流石に違うかなぁ………あ!」

 

 そんな話をしていると、あかね先輩が何か閃いたように言う。

 

 「ハクア君って……ステアラで舞台見たことないんだ~?ふーん?」

 

 「な、何?」

 

 そんなふうに言うあかね先輩に、僕は戸惑ってしまう。すると……

 

 「せっかく時間出来たんだからさ、ちょっとデートしようよ!」

 

 「……!」

 

 そんな提案をされたのだった。そして、あかね先輩は……

 

 「演劇は映像よりも上位の体験型コンテンツ(・・・・・・・・)だってこと、教えてあげるね」

 

 こうして、僕たちはステージアラウンドの舞台を見に行くことになったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side:あかね

 

 「ほらハクア君、行くよ」

 

 「う、うん」

 

 善は急げだ……そう思い、ハクア君の手を引いてスタジオを抜け出した。

 

 稽古が休止になったことにより、時間ができたので私たちは前々から気になっていた『卓球の王子様』という人気漫画原作の舞台を見に、目当ての劇場にタクシーで向かっていた。

 

 チケットの購入はタクシーでの移動中に済ませておくことにした………よし!取れた!

 

 「ハクア君、チケット取れたよ!もう少しで売り切れるところだった……」

 

 「平日なのに売り切れになるんだ……どんな舞台なの?」

 

 「これも2.5次元の舞台だよ。『卓球の王子様』って漫画なんだけど……」

 

 「もちろん!……というか声優としてアニメには出てたしね」

 

 そうだった……ハクア君は声優として様々な作品に出ており、この『卓球の王子様』にも主要キャラクターの声として出演していたのだ。

 

 「でもあれ……舞台でできるのかなぁ……」

 

 そう、ハクア君が言う。確かに、ハクア君の疑問は最もだろう……けど、

 

 「できなかったら、平日に満員になんてならないよ?」

 

 「それもそうだね」

 

 「まぁ……見れば分かるよ」

 

 私からは、そうとしか言えない……さて、どんな反応をしてくれるか楽しみだなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、舞台を鑑賞した私たちは、劇場の隣にあるカフェで一息ついていた。

 

 「で……どうだった?」

 

 私は早速ハクア君に感想を訊いてみる。そして、返ってきたのが……

 

 「……想像の数十倍面白かった」

 

 「!そうでしょーー!?」

 

 「それに、原作のあの動きのイメージもできたしね」

 

 そんな感想だった。そうだよねー!やっぱりそう思うよねー!………そんなことを思って嬉しくなっていると……

 

 「……」

 

 「えっ?」

 

 スマホのシャッター音が聞こえてきた……そこには、スマホで何かを確かめるハクア君がいて………

 

 「うん、よく撮れてるよ」

 

 そう言った後、私にある写真を見せてきたのだ。その写真というのは…… 

 

 「!?そ、それ……!」 

 

 もの凄く嬉しそうな顔をしている、さっきの私の姿を収めたものだった………何だか急に恥ずかしくなってきたかも……。

 

 「な、何で撮ったの……?」

 

 「何でって……可愛かったから?」

 

 「……!?」

 

 「それに、いつもこういうのはあかね先輩からなんだからさ、偶には僕も……ね?」

 

 そう言って、ハクア君はいたずらっぽく微笑んだ……や、やられた………けど、ハクア君もこういうことをしてくれたってことは……少しは前に進んだってことだよね……?

 

 そんなことを思っていると……

 

 「それってどんな感じで撮れたの?」 

 

 「それは―――って!?」

 

 「え!?」

 

 突然、私たちに声を掛けてくる人がいた。その人というのが……

 

 「やぁやぁ!お二人ともお揃いで!」

 

 「「雷田さん!?」」

 

 舞台『東京ブレイド』の総合責任者である雷田さんだった……。

 

 

 

 

 

 

 side:ハクア

 

 舞台を見た後、隣のカフェであかね先輩と話していると、雷田さんが声を掛けてきた。

 

 「もしかして、この舞台って……」

 

 「そうそう!この舞台も僕が担当していてね。落ち込んだときなんかは、出ていく客の顔を見るんだ。客の反応は素直でねぇ……楽しんでもらえたら笑顔だし、イマイチなときは澄まし顔……見ていたら、やる気に繋がるんだよ」

 

 「なるほど……そうしていたら、僕たちを見かけたと」

 

 雷田さんは楽しそうに語っていた。……どの時代でも、こういうことをしている人は本当に舞台というものを愛している。ミュージカル然り、歌舞伎然り……どんなエンターテインメントでも……だ。

 

 「そうそう!ハクア君もいい顔をしていたよ~!おじさん嬉しくなっちゃったな~?」

 

 「「!?」」

 

 み、見られてたんだ………どういう顔をしていたのかは分からないけど……。

 

 「ねぇねぇ!どんな顔してたの?」

 

 「!いや、それは……」

 

 「もう一回してみてよ~!今度は私が撮ってあげるから!」

 

 「そもそも自分じゃ分かんないからね……?」

 

 さっきのお返しとばかりに、あかね先輩がスマホを持ちながら迫ってくる……。

 

 「挨拶がてら二人を追いかけてきたんだけど……邪魔しちゃったかな?」

 

 「いえ、そんなことは………あ、そう言えば脚本の件って……」

 

 僕は無理矢理話題を変え、雷田さんにそう訊いてみた……けど、

 

 「あぁ……今日も出版社側とやりあってはきたけど……」

 

 「……けど?」

 

 「原作者の先生頑なみたいでね。脚本家のGOA君は降りてくれと、先生直々に脚本を書き下ろすってね……」

 

 やっぱり、状況は変わらずか……。

 

 「……流石にそれは無理ですよね」

 

 「「!」」

 

 「今日の劇を見て思ったんですけど……東京ブレイドの脚本は、この箱の強みをフルに活かせるようになっていた。少しくさい長セリフも、この箱なら映える。アビ子先生はおそらく……いや絶対に舞台も装置のことも何も分かっていない。多分、高校の体育館みたいなところでやることを想定したものが上がってきますよ?」

 

 「……」

 

 「今日の舞台は、脚本と舞台がかみ合った高度なプロのものだった。いくら売れっ子の漫画家でも、舞台の脚本でいいものを作れるとは思えない………だから、絶対にこの人(・・・)を降ろさせるわけにはいかないでしょ?」

 

 僕は雷田さんに、手に持っていた舞台のパンフレットに書かれていた『脚本:GOA』の部分を見せながらそう言った。

 

 「!……優秀なんだよ、彼は。心から演劇が好きで、勉強熱心で、リライトにも根気強く付き合ってくれるし………彼が書いた脚本の舞台は、いつも客がニコニコで出ていく……降ろしたくなんてないさ……」

 

 「……どうにも、ならないんですか?」

 

 雷田さんの話を聞いて、あかね先輩がそう訊くが……

 

 「厳しいよ~!大手出版社相手にどうにかできるほど、僕らは強くないからね~?」

 

 「でも……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうにかできるのは、雷田さんだけですよ?

 

 「……!」

 

 「ハクア君……」

 

 僕は雷田さんの目を見ながら、そう言い切る。

 

 「それは……そうなんだけどね………」

 

 

 

 

 

 

 

 「……GOAさん、このまま降ろされちゃうのかな……?」

 

 僕と手を繋いで歩いているあかね先輩が、どこか不安そうにそう訊いてきた。

 

 「私も原作視点で見たら、GOAさんの脚本に不満がないって言ったら噓になるけど………全体的に見たらいい脚本だと思うから、従ってたのに……」

 

 「原作者にも脚本家にもそれぞれの主張があるからね………けど」

 

 「けど……?」

 

 「そこにあるディスコミュニケーションさえクリアできれば、どうにかできるはずだよ」

 

 「え?」

 

 「それどころか、より良い舞台にすることだってできる………そのためには……」

 

 僕はそう言ってスマホを取り出し、ある人に電話をかける。

 

 「あ、兄さん?」

 

 『どうしたんだ?確かあかねと舞台を見に……』

 

 「うん、少しそれの関係で話が―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『なるほどな……分かったよ』

 

 「うん………というか、兄さんそれ最初から考えていたでしょ?」

 

 『……やっぱりばれたか』

 

 「何年兄さんの弟やってると思ってるの?」

 

 『約16年……だろ?』

 

 「そこは真面目に答えなくても……」

 

 話終わった後、僕たちはそんなやり取りをし…… 

 

 『じゃあ、気を付けてな?』 

 

 「うん、あかね先輩を送ってから帰るね」

 

 『あぁ』

 

 そう言って、兄さんとの電話を終える。

 

 「ねぇ?一体何をする気なの?」

 

 「あぁ、それはね―――」

 

 そうして、あかね先輩にもさっきの兄さんとの話を話しながら、歩いていくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 読んで下さりありがとうございました。

 原作でアクアがやっていたことをハクアと分担する形にしましたが、いかがだったでしょうか。作者はアニメ勢なので、この東京ブレイド編は探り探りで書いています……。

 そして、ハクアの言う「原作のあの動き」とは一体……?

 良ければ、感想や評価の方をよろしくお願いします。

 それでは、次回もよろしくお願いします。





 追記:アニメ2期のシーンなどを追加・修正を行いました(2024.08.12)。

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