女神の子   作:アキ1113

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 今回は、東京ブレイド編の三話目です。

 タイトルの通り、あのシーンがあります……。

 それでは、どうぞご覧ください。


演舞Ⅲ:説得とトラウマ

 side:アクア

 

 稽古が中断されてから数日後、ハクア、あかね、有馬、メルト、俺の五人は『今日あま』の作者である吉祥寺先生のもとに訪れていた。

 

 「お邪魔しまーす!」

 

 「わぁー!皆いらっしゃい!」

 

 この訪問の理由としては、吉祥寺先生にアビ子先生を説得してもらい、何とかしてGOAさんと直接意見を交換しつつ、脚本を書いてもらうためである。

 

 「すみません先生」

 

 「え?」

 

 「『今日あま』には関係ないのに、僕たちまで良かったんですか?」

 

 あかねとハクアは先生にそう訊くが……

 

 「ううん、全然いいのよ!むしろ来てくれて嬉しいわ!」

 

 先生はそう言い、俺たちを作業場に案内してくれた………まぁ、俺たちは漫画家とは関わりが薄い……ハクアはアニメ関係で関わりがあるだろうけど……そのため、みんな興味津々で作業場を見ている。例外に漏れず俺もそうだが……。

 

 「わぁ~!私漫画家さんのおうちって初めてです……!」

 

 あかねは興奮した様子で部屋を見渡しており、その様子をハクアは後ろから見つめていた。

 

 「お、俺も初めて………え……?」

 

 ………メルトは完全にスルーされていたが……。

 

 「私は映画のときに、何度か遊びに来たことがあるわよ?」

 

 「へぇー、すごーいねー」

 

 「「……」」

 

 こっちもこっちで、あかねが有馬の言葉を流していたが……。

 

 「あの、どうやって描いているんですか?」

 

 「これは液タブって言って……モニターに直接描けるんですよ」

 

 「!全部デジタルなんですねー!」

 

 「うん、最近の主流はそうね」

 

 あかねと先生は、楽しそうに話をしていたが……

 

 「ま、漫画家さんってすごいですよねー!絵も脚本も自分でやるんですからー!」

 

 「……うん、まぁそうね」

 

 メルトに対しては、そんな対応をしていた。

 

 「せ、先生俺に塩対応じゃね!?」

 

 「まぁ、どの面下げてきたって感じだしな?」

 

 「こればかりは……ね?」

 

 その後、先生に用意してもらったお菓子をつまみながら話をしていた。

 

 「そう言えば、みんなっていくつなの?」

 

 そう先生に聞かれたので……

 

 「16」

 

 「16」

 

 「17」

 

 「17」

 

 「16」

 

 「うわ~……若いねぇ……」

 

 俺たちは正直に答えた。……なんか、先生がショックを受けているんだが。まぁ……俺も前世では少し経験があるけど。

 

 そして、しばらく話をした後……俺たちは、本題を切り出した。

 

 「今日、俺がお邪魔した理由は舞台『東京ブレイド』の脚本の件です」

 

 「そっか……」

 

 「今の脚本家の人が降ろされそうになっていて……先生の方からアビ子先生を説得してもらうことはできませんか?」

 

 そう、ハクアから言われた先生は少しの間考えた後……

 

 「ごめんね」

 

 そう言ったのだった。

 

 「原作をいじられることに不満をもつアビ子先生の気持ち……私も良く分かるから。私は人の仕事に色々言うのが得意じゃなくて、メディアミックスとかは割と全部お任せしちゃう人なんだけど……本心はアビ子先生と同じ。出来る事なら愛を持って作品のキャラたちに触れて欲しい。キャラは自分の子供みたいなものだから……スケジュールとかが押してるのは知ってるけど、この件に関しては力になれそうにないかなぁ……」

 

 「そう…ですか」

 

 ハクアが、残念そうにする……だが、

 

 「ならせめて一つだけ」

 

 そう言って、ハクアはある封筒(・・・・)を取り出す。俺とあかねはこれが何なのか知っている。

 

 「これは……?」

 

 「これをアビ子先生に渡して貰えませんか?」

 

 「……中、見ても?」

 

 「もちろん」

 

 先生は封筒の中を確認する。

 

 「……舞台のチケット?」

 

 「はい。今回、降ろされそうになっている脚本家さんが担当している舞台のものです」

 

 封筒の中身は、先日ハクアがあかねと観てきたというステージアラウンドの2.5次元の舞台のチケットだった。

 

 「これをなんで……?」

 

 「……正直に言わせてもらうと、アビ子先生は舞台が今までのメディアミックスとは違うことを理解していません」

 

 ……はっきり言ったな。俺も同じ考えだが……。

 

 「漫画やアニメとは、舞台は見せ方が違う……この舞台を観て、それさえ理解してもらえれば、GOAさんの意図も少しは分かってもらえると思うんです」

 

 ハクアの言葉に、先生は静かに耳を傾けていた。

 

 「脚本家のGOAさんも、東京ブレイドという作品を愛しています。役者陣も一緒です。誰もがこの舞台をより良いものにしようと、必死になっている。みんな、目指している場所は同じ……理想としている形は同じなんです」

 

 「形は……同じ……」

 

 「俺からもお願いします。GOAさんとアビ子先生の意思疎通さえ出来れば、きっと素晴らしい舞台になるはずです。どうか、お願いできないでしょうか……」

 

 俺もハクアに続いて、先生にそう言った。そして、しばらく考えた先生は……

 

 「……分かったわ。降参よ」

 

 「!……じゃあ!」

 

 「えぇ、任せて頂戴」

 

 こうして、吉祥寺先生にアビ子先生を説得してもらうことになったのだった。俺たちができるのはここまで……あとは、本人たち次第になるが……上手くいってくれよ……。

 

 

 

 

 

 

 side:ハクア

 

 吉祥寺先生にあのチケットを渡してから少しして、新しい台本が完成したらしい。中断されていた稽古も再開されることになり、今日は台本が配られることになっている。

 

 そして、完成した台本を見てみると……

 

 「へぇ……こうなったんだ」

 

 「ハクア君、これどう思う?前のやつよりも役者に任せる感じがすると思うんだけど……」

 

 「いいんじゃないかな?これなら、キャラクターも違和感なく仕上がっているしね」

 

 「鞘姫も私の解釈と一致してる!これなら……!」

 

 周りを見てみると、みんな様々な反応をしていた。台本が良くなって喜んでいる人、前にセリフがあった部分が無くなっているのか焦っている人、特に何も反応してない人などだ。

 

 しかし、一つ気になるのが……

 

 「これ絶対、雷田さんあの事言ったでしょ……」

 

 そう、刃の動きが他の人よりも明らかに役者……つまり、僕任せになっている部分が多いのだ。

 

 「それにしても……刃のところ、戦闘シーンは必要最低限っていうか……」

 

 「うん……まぁ、やれそうって言ったのは僕だしね。ここまできたら、やってみせるよ」

 

 戦闘シーンはいいとして、不安が残るのは……鞘姫が倒れた後の動きだ。

 

 兄である刀鬼を庇って、ブレイドに切られる鞘姫……刀鬼は致命傷かと思って絶望するが、『傷移しの鞘』によって奇跡的に目覚める。それを見た刀鬼と刃は涙を流しながら喜ぶというシーンだ。

 

 そこで刃は、鞘姫が切られたことで刀鬼と同じく絶望するが……刀鬼とは違い、ブレイドに対して怒り狂い、戦いを仕掛けるというシーンだ。

 

 このシーンは、僕の演じる刃の一番の見せ場となるところである。ここは、怒りと絶望の感情を全面に出して、ブレイドと戦うべきところだろう。

 

 誰かが死ぬ……殺される……そんな経験は今まで、何回も(・・・)している。母さんが僕の目の前から去って2000年経っても見つからず、デザイアグランプリで目の前で庇われて、母上を失った経験がある。

 

 自分が死ぬこと(・・・・・・・)には慣れているが、家族が死ぬこと(・・・・・・・)は……何度経験しても辛い。でも、ここはそれを思い出すことが、一番の方法だろう。

 

 

 

 

 

 

 思い出せ、あの時の絶望を……

 

 

 

 

 思い出せ、奪ったものに対しての怒りを……

 

 

 

 

 思い出せ、敵に対しての憎しみを……!

 

 

 

 

 

 

 

 そして……

 

 「次。鞘姫がブレイドに切られて倒れたところから」

 

 その時がきたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あかね先輩に、母さんや母上の姿を重ねる……目線を静かにあちらに向けると、そこには憎い敵(ブレイド)がいた。

 

 「お前は……」

 

 「……?」

 

 「お前だけはぁぁーー!!」

 

 「……!」

 

 僕は、ブレイド(姫川さん)に向かって斬りかかる。僕の演技を受けたのかは分からないが、相手も全力でぶつかってくる。そして、刀鬼も怒りに駆られてブレイドに突っ込み、二対一となる。だが、刀鬼は刀を弾き飛ばされ、刃もいつもの戦いができていない。

 

 兄弟で守ると約束した人を……守ることができなかった。その自分の不甲斐なさと絶望を怒りに、力に変えて、ブレイドにぶつけていく……。

 

 しかし、『傷移しの鞘』によって奇跡的に鞘姫が目を覚ました。あぁ……これは、奇跡か……2000年前に消えてしまい、450年前に失った()が……目の前に……。

 

 そして、鞘姫を抱きしめる刀鬼……刀をしまい、その様子を静かに見守る刃……それに気付いた刀鬼と鞘姫は、刃も抱きしめるのであった。

 

 「……OKだ。刀鬼、刃、ブレイド、良かったぞ。本番もその調子で頼む」

 

 「はい」

 

 「……はい」

 

 金田一さんからもOKが出たみたいだ……すると、

 

 「!……ちょっと待て」

 

 「?はい、何か?」

 

 僕は、金田一さんに呼び止められた。何かダメなところでもあっただろうか……。

 

 「お前、手が…」

 

 「手?」

 

 そう言われて、自分の手を見てみると、

 

 「……あ」

 

 さっきの演技で左手を強く握りしめすぎたのか、手のひらから血が出ていた……。

 

 「ハクア君!?」

 

 「大丈夫か!」

 

 「ちょ、あんたそれ……!」

 

 「おいおい……とにかく、止血しよ!」

 

 あかね先輩に兄さん、有馬先輩それにメルト君が駆け寄ってきた。僕は、傷を見つめて……

 

 「……言われるまで気付かなかった」

 

 そう呟くと金田一さんが、

 

 「どんな方法を使ったのかは知らないが……それは何とかしておけよ」

 

 「はい、了解です」

 

 そう言ったのだった。そうして、少しハプニングがあったが(主に僕)ひとまず演技の確認は終わったのだった。

 

 

 

 

 

 今、僕はあかね先輩に手の応急処置をしてもらっている。

 

 「大丈夫?」

 

 そう心配そうに言われたので、安心させるように……

 

 「あぁ……このくらいなんてことは「なくないよ!」……はい」

 

 ……逆効果だったみたいだ。でも、さっき金田一さんに言われたようにこれを本番でやってしまうのは、まずいだろう。すると……

 

 「星野ハクア」

 

 「あ、姫川さん」

 

 姫川さんがこちらにきて話しかけてきた。

 

 「さっきの一体どうやったんだ?」

 

 「あぁ……昔の経験を引き出しただけですよ」

 

 「引き出したって……ダメージは?」

 

 「僕も人間ですから……ちゃんとありますよ」

 

 「そりゃそうか……まぁ、引きずらないようにな」

 

 「はい」

 

 そう言って、姫川さんは去っていった。さて……

 

 「誰かからアドバイス貰ったほうがいいかなぁ……」

 

 「……あれって、感情演技だよね。そういうのが得意なのは……かなちゃんかな?」

 

 そうか……有馬先輩は泣く演技……というか感情演技が得意だ。相談して見るのもありかもしれない。

 

 「有馬先輩」

 

 「あ、ハクア……手は……?」

 

 「あぁ……この程度なら全然」

 

 「そう……で、何か用?」

 

 「はい。有馬先輩って感情演技得意ですよね?」

 

 「えぇ、そうね。元々私は感情が出やすい方だしね。まぁ、感情のない人なんていないだろうし……日頃から感情豊かに生きていれば自然と得意になるものよ」

 

 「へぇ……」

 

 そういう感じなんだ……。

 

 「まぁ、あんたはすごい役者だし大丈夫だと思うけど、なんかあったら彼女だけじゃなくアクアやルビー、私にも相談しなさいよ」

 

 「はい、そうします。じゃあ、早速……有馬先輩って泣く演技するときはどうやっているんですか?」

 

 僕はついでにそう訊いてみた。

 

 「うーん……そうね……感情なきや体なきとかの手法はあるけど、子役の世界で言われているのは……」

 

 それは、僕も聞いたことがあるものだった。けど……有馬先輩も軽い気持ちだったのだろう。寧ろ、善意で教えてくれたのだろう……。

 

 有馬先輩はその高い演技力を駆使して、こう言ったのだ……

 

 

 

 

 

 

 「ハクア君、もしお母さんが死んじゃったら……どうする?」

 

 

 

 

 

 

 「……それ……は……」

 

 

 

 

 

 

 『私のことは、忘れなさい……その方が、きっと幸せよ……』

 

 

 

 

 『怪我は……ない?』

 

 『それでも……可愛い息子が死ぬのは……やだよ』

 

 『あなたは……願いを叶えて……』

 

 「MISSION FAILED」

 

 

 

 

 

 

 お母さんが死んだら……?母さんが……探し続けていた母さんが死んじゃったら……僕は……

 

 

 

 

 side : あかね

 

 かなちゃんに、アドバイスをもらいに行ったハクア君。すると……

 

 「ハクア君、もしお母さんが死んじゃったら……どうする?」

 

 かなちゃんが、そんなことを言い出したのだ。確かに、子役の世界ではよく言われている言葉だ。

 

 でも……

 

 「……!」

 

 その言葉を聞いたハクア君は……

 

 「……それ……は……」

 

 ……どこか声が震えており、そして次の瞬間、

 

 「「!?」」

 

 大きくよろめいて……倒れることはなかったけど、その場に膝をついたのだ……。

 

 「ハクア君!?」

 

 「おい、ハクア!?」

 

 「ちょ、急にどうしたの!?」

 

 驚いてハクア君に駆け寄る私……一番近くにいたかなちゃんも声を掛けるが、あまりあまり顔色がいいとは言えない……。

 

 周りも何事かと、騒いでいる。

 

 「大丈夫!?」

 

 私もそう声を掛けるが……

 

 「うん……大丈夫。少しふらついただけだから……」

 

 そう言うが、

 

 「いや、お前……」

 

 「あんたそれ、大丈夫じゃ……」

 

 「本当に、大丈夫……」

 

 かなちゃんの言葉に対しても、ただ、「大丈夫」と返すだけで、辛そうにしている……。

 

 あの演技の後に、かなちゃんのあの言葉……

 

 

 

 

 

 

 

 ……まさか、ハクア君の……ううん、ハクア君たちの母親は……

 

 いやでも、だったらアクア君はどうなんだろう?アクア君も近くにいたが、ハクア君のような様子ではなかった……少し反応したくらいだったけど……一体、どういう……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 読んで下さりありがとうございました。

 この小説では、ハクアの方にトラウマがあります。そういう経験が多すぎますからね……。アクアはアイが生存しているので、普通に……とまではいきませんが、感情演技が出来ている状態です。

 あかねが正解にたどり着けるのは、大分先になります……。

 良ければ、感想や評価の方をよろしくお願いします。

 それでは、次回もよろしくお願いします。
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