クソ魔術師に恋をした俺がバカだった。   作:烏兎 満

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サブタイトル適当です。





無味。強いて言えばゴム。

 

 

 

 

「いつまでついてくるつもり?」

 

 うんざりするような態度を隠しもせずに目の前を歩いていた少女が振り返る。

 男────ギルはそんな彼女の冷めたような態度にも胸がドキドキしてしまい、これが恋なんだ、と実感していた。少女からすれば傍迷惑な恋心である。

 

「んふふ、いつまでもついてくよ。マイスイートハニー♡」

「ヴッ!? おえ……はぁ、また吐くところだった………。本当についてこないでほしい、主に私の胃のために」

 

 少女は口に手を当てて吐き気を堪えるような仕草をする。

 しかし、ギルはそんなこと気にもせずに言った。

 

「ねぇ、君の名前を教えてほしい」

「は? なんで?」

「籍入れるから」

「………………」

 

 少女は自分の体を抱きしめるようにして身震いする。

 

「ねぇ、君の名前は?」

「そういうの自分から名乗るものじゃないの?」

「よくぞ聞いてくれました!」

「うわ聞かなきゃよかった」

 

 ギルは一つ咳払いしてから、ギル渾身の笑顔を少女に向けながら片膝をつく。

 

「俺の名前はギル。しがない旅人です。どうか俺の妻になってくれませんか?」

「無理。一生旅してろドブカス」

「うわ、クッソ口悪いなお前!」

「幻滅したか?」

「全然、むしろ好き」

「チッ」

 

 幻想的なオッドアイの瞳を濁らせながら、少女は盛大な舌打ちをする。しかし、そんなこと気にもしないでギルは少女に質問していく。

 

「君は何処に住んでるの? というかここ何処」

「教えない」

「一生ついてくよ?」

「言っても言わなくてもついてくるでしょ、君」

「おぉ! すでに俺のことを理解している!? これは結婚するしかないよ! 今結婚するとお得だよ!」

「どこがお得なの?」

「俺の愛がついてくるよ!」

「いらね」

 

 こ、この少女、デレない!?!?

 少女の変わらない冷淡な態度に、ギルの頭は混乱していた。

 最初出会った時はただの照れ屋さんなのかな、とも思っていたが押しても押しても、彼女の態度は変わらない。何が原因なんだろう、とギルは頭を抱えた。

 

 少女は諦めたかのように再び歩き出した。先ほど遭難していた時に見た灯りは、どうやら彼女の魔術によるものらしい。

 

 魔術。

 

 ギルにとって魔術とは、なんかすごい力、という認識だった。

 

 一年位前にパーティを組んでいた魔術師のくせにやけにゴツイ男のことを思い出す。

 

「なぁ、魔術について聞いてくれ」

「は? キョーミねーよ」

「いいから。そも、魔術ってのは世界の真理を解き明かすためにあるらしい。魔術師にとって魔術ってのは神か何か。まるで宗教だよな。俺みたいに魔術を実用的に使ってる奴らのことを本当の魔術師は毛嫌いしてるのさ」

「お前は魔術師だろ?」

「いや、俺は魔術使い」

「なぁ、突然で悪いんだが、今の話とこの魔獣に囲まれてる状況、何か関係あんのか?」

「ない」

 

 

 うむ、懐かしいの。彼奴のことは忘れないぞ。名前は忘れたけど。

 

 しかし、うーん、魔術師。中々ねじ曲がったような性格をしてそうだな、とは思ったが彼女がそうだったのか! 

 

 

 そうこうと思い出しているうちにギルより先を歩いていた少女が足を止めた。

 いつまでも続くかのように思われた林の風景は、ふと開けたような場所に出たかと思うと、そこには一人で住むには大きすぎる木の屋敷が鎮座していた。

 

「で、君どうするの」

 

 早くどっか行け、と言わんばかりの眼差しを向けてくる少女に対して、ギルの腹が答えた。

 きゅるるるる、と可愛らしい腹の音が鳴り響く。

 

 二日間何も食べずにこの森林を歩き回ったのだ。ギルは空腹の絶頂だった。

 

「何か、食べ物を…………」

「ふ、いいザマね。君はそのままくたばっちまえ」

「このど畜生が!」

「なんとでもいえ」

「この魔術オタク!」

「灰にしてやろうか?」

 

 彼女の手に火がついたことを目にし、この少女、本気でヤるつもりだとギルは悟り土下座した。

 ギルのその情けない姿に溜飲を下げてくれたようで、少女は満足そうに頷く。

 

「よろしい。あまりにも惨めだから、食べ物を分け与えてやろう」

 

 少女はゆらゆらと揺れる火の玉を携えながら家の中に消えていった。

 

 

 

 それから少しして、少女が戻ってきた。手には何やら食べ物のようなものが握られており、こちらへと投げてきた。

 

「ほれ、私の魔術を存分に使った最高の栄養食だ。これで一日一食で済むぞ」

「おー、ありがたき幸せー」

 

 受け取った彼女曰く、最高の栄養食だというこの長方形の少し薄緑色の固形物を口に運ぶ。

 齧ると、ゴリッ、という食べ物が出してはいけないような音が鳴り響く。

 ゴリゴリゴリ、と咀嚼音の割に歯にはそこまで負担はかからなかった。

 

 彼女のいう通り一日分の栄養が詰まっているのだろう。

 

 しかし、しかしだ。

 

 

 これ、味がしない。

 

 

 

「無味」

「文句?」

「いえ、文句ではございません。ですから、私に向けて手をかざすのはやめていただけないでしょうか? あ、火つけないで」

 

 再び綺麗な土下座を決めたギルは、地面を額に擦り付けた時、ギルの頭に閃光一刀流が如く、鋭い衝撃が脳内を駆け巡った。

 

 少女の胃袋を掴んでやればいいのだ。

 

 幸いにもギルは、料理が得意だ。いつもパーティを組んだ奴らからは絶賛の声が上がっていて、彼自身もこの固形物よりは美味しく作れる自信があった。

 何よりこの少女に食事の楽しさ、美味さなど実感して、笑顔になってほしいという真っ直ぐな善意が彼の胸中に湧いてきていた。

 

 

 ギルは手に持った残りの固形物を喉に流し込んでから、少女に聞いた。

 

「君はこんな美味しくもないものを食べているのか?」

「は? 私の魔術バカにしてるの? え、何文句?」

「いえ、とんでもございません!!! んんっ、よし、俺が本物の料理というものを教えてやるぜ! 式場で待ってな! マイスイートハニー!」

 

 ギルはそう言い残してから、林の中へと消えていった。

 

「おーう、二度と戻ってくんなー」

 

 一人残された少女は彼の背中を見つめながらそう呟き、結界魔術の強度を上げたのであった。

 

 

 






今作のヒロインは、ヒロイン審査とかあったら不合格だと思います。
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