遊戯王GX~もしも万丈目兄弟の仲が良かったら~   作:カイナ

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第九話 月一試験スタート(前編)

 デュエルアカデミアにはオシリスレッド、ラーイエロー、オベリスクブルーの三つの寮がある。

 この学校に通っている生徒にとってはもはや周知の事実ではあるが、全員が一貫してオベリスクブルー女子寮に所属している女子生徒はともかく男子生徒は所属寮の昇格・降格が行われる事がある。

 その基準は多岐に渡り、日々の生活態度は勿論授業の出席状況に授業態度、授業での課題の提出率、そして学科や実技の成績等。これですら一例であり中には教師達の間でだけ共有される機密情報も含まれるらしいがあくまで噂であり、それらを総合し教師間での会議や、時には候補止まりのところを学校側から特別な課題を出してそれをクリアできるか否かの判断等を以て随時寮の昇格・降格が行われる。

 そしてその寮の昇格・降格が行われやすいのが毎月一度行われる筆記と実技の試験、通称月一試験。定期的に行うため前もって教師間で昇格・降格を行う候補の生徒を決めやすく、さらに学科と実技の実力を試験という分かりやすい形で見る事が出来る。試験終了時、この月一試験で良い結果を出せば昇格、逆に悪い結果を出せば降格が即座に通知される事もある。

 そして一年生にとってはこの試験を皮切りに寮の昇格・降格が解禁されるため最速での昇格あるいは降格が行われる可能性もあるという緊張の行事だというのはデュエルアカデミアの先輩の話だった。

 

(まあ、俺にとってはあまり関係のない話だ……日々努力し、然るべき場所で確実に結果を出す。ただそれだけだ)

 

 準はそう考えながら目の前の解答用紙にペンを走らせる。

 何を隠そう今日がその月一試験、そして今は筆記テストの真っ最中だ。

 

(それにしても遊城のやつ……)

 

 少しは別の事を考えるくらいの余裕もあり、その時に思い出すのは筆記テストが始まって三十分程経った時のこと、理由は分からないが遅刻した十代が静かにするべき試験中に彼の友人である翔と私語を挟んで騒いでおり、注意をする時につい自分も声を荒げてしまっていた。

 そしてそんな遅刻をした十代は現在いびきをかいて寝てしまっている。

 

(あいつの実力は俺も知っているが、筆記をここまで疎かにしているとは……これでは奴は今回のところは余程の事でもない限り、オシリスレッド残留確定だな)

 

 十代の日々の授業態度・生活態度は、無論準の知る限りという前置きがつくが可も不可もないというか不可寄り。

 彼の知らないところで実はめちゃめちゃボランティア活動に勤しんでいる等生活態度や教師からの評価がすこぶる良いとかの別情報がない限り、前情報でそれな上に筆記テストも振るわないとなれば余程のこと、例えばラーイエローでも屈指の上位やオベリスクブルーを撃破するなどがなければ覆すことは難しいだろう。

 その上実技試験の相手は基本的に同じ寮。下の寮の者の昇格もしくは上の寮の者の降格を決める際にそれぞれ上や下の寮の者と戦うくらいだがそれにしたって上の寮の者の下位、下の寮の者の上位が相手に割り振られることが多い。

 なんらかのハプニングやアクシデントで生徒の数が合わなくなり、急遽本来なら相手に選出される事のないランクの生徒が割り当てられる事もない事はないとはいえそんなに滅多に起きる事ではないとも先輩から聞いた事はあるが、そんな事でも起きてしかもそれ相手に十代が勝つ事でもなければ昇格は危ういだろうと準は切り捨て、気を取り直して問題用紙に向き合い直す。

 

(フィールドが次の状況の場合、自分が相手プレイヤーに与えられる戦闘ダメージは最大いくつになるか答えなさい。またそうなる過程を答えなさい。か……)

 

 次の問題はデュエル学を応用した計算問題であり、問題用紙にはデュエルモンスターズのカードとフィールドのイラストが、デュエルの状況を表すように描かれている。形としては詰めデュエルの問題に近い。

 しかしモンスターゾーンに置かれているモンスターの情報は歯抜け。イラストとカード名、あと種族は書かれているが一部のモンスターはステータスや効果が空白になっており、魔法・罠もイラストとカード名はあるが効果部分は空白。

 無論印刷ミスではない。イラスト及びカード名からステータスや効果を思い出して計算をしろというわけだ。もっとも馴染みの先輩、というか現在三年の亮によれば「一年の問題はカード名や種族といった一部の情報が残るだけまだ優しい。二年の後半にもなるとイラストだけで情報を全て判断するくらいになる」らしい。イラスト、つまり実際のデュエルにおいて立体映像(ソリッド・ビジョン)に投影される姿を見ただけでそのカードの情報を全て頭の中から引き出せるくらいになるための勉強だそうだ。

 

(こっちのフィールドのモンスターは[アマゾネスの賢者]、[コマンド・ナイト]、[アクア・マドール]が全て攻撃表示。アマゾネスの賢者に[稲妻の剣]と[伝説の剣]が装備されていて、さらに[連合軍]が発動済み……相手の場は[ゴブリンエリート部隊]が攻撃表示と、[裸の王様]が発動済みか……)

 

 ちなみに亮によればイラストしか情報がない、正確にはカード名を隠蔽している場合は例えば「アマゾネスの賢者」に「A」という仮の名前を割り当てて説明を行っているらしい。

 

(……ふむ)

 

 準はフィールドを確認し、少々考える。

 カード名とイラストは分かるがモンスターのステータスはほとんど空白、種族は全て書かれているが属性は空欄。またステータスが見えるのはヒントなのだろうか、アクア・マドールの攻撃力が1200とゴブリンエリート部隊の攻撃力が2200という部分だけだ。そして魔法・罠含めて効果は全て空欄になっている。

 ちなみに問題文には「図中に表記されているステータスはカードに記載されている元々の攻撃力・守備力であるとする」と書かれていた。

 

(……巧妙な引っかけがいくつか隠されているな)

 

 心中で独り言ち、ペンを走らせる。

 

(まずは[裸の王様]、その効果は「フィールド上の全ての装備カードの効果は無効になる」というもの。つまりアマゾネスの賢者に装備されている稲妻の剣(装備モンスターの攻撃力800アップ)伝説の剣(装備モンスターの攻撃力300アップ)はその効果が無効になる。そして連合軍、その効果は特定の種族の数を参照した戦士族モンスターの攻撃力アップ)

 

 ここにまず一つ引っかけがある。連合軍、それは特定の種族の数に比例して戦士族モンスターの攻撃力をアップさせる永続魔法。

 だがその特定の種族が肝だ。連合軍の効果で攻撃力をアップするために参照する種族、それは戦士族モンスターと()()使()()()()()()()()。つまり戦士族であるアマゾネスの賢者とコマンド・ナイトだけではなく、魔法使い族であるアクア・マドールも、連合軍の効果により攻撃力が上げるために参照する数に含まれる。そして連合軍は永続魔法のため裸の王様の効果では無効にならない。

 

(連合軍の効果は戦士族モンスターと魔法使い族モンスターの数×200、戦士族モンスターの攻撃力を上げるもの、つまり攻撃力は600ポイントアップする。そしてコマンド・ナイトにも戦士族モンスターの攻撃力を400ポイントアップする効果がある。つまり戦士族であるアマゾネスの賢者の攻撃力は2400、コマンド・ナイトの攻撃力は2200となる)

 

 相手の場に存在するゴブリンエリート部隊の攻撃力は2200、これで裸の王様の効果で装備カードの効果が無効にされているとしてもアマゾネスの賢者で戦闘破壊が可能。

 

(まずアマゾネスの賢者でゴブリンエリート部隊を攻撃する。この時点で相手に200ポイントのダメージが入り、そしてアマゾネスの賢者の効果により相手フィールド上に存在する魔法・罠カード一枚を選択して破壊する。これによって裸の王様が破壊される)

 

 裸の王様が破壊された事で装備魔法の効果が有効になる。装備魔法を装備しているのはこの時点で攻撃を終えたアマゾネスの賢者だけなので一見関係ないように思えるが、実は違う。ここにもまた引っかけが隠されている。

 

(稲妻の剣には「フィールド上に表側表示で存在する全ての水属性モンスターの攻撃力は500ポイントダウンする」という効果もある。つまり水属性のアクア・マドールの攻撃力は500ポイントダウンし、攻撃力は700ポイントになる……助かったぞ、五階堂)

 

 あまり目立たない水属性へのメタとなる効果。中等部時代に自分を慕っていた後輩が戦士族を主体とした装備ビート使いだったため、その相談に乗っていた名残りで覚えていたものがここで役に立った事に準はその後輩こと五街堂に心の中で礼を言った。

 

(つまり相手に与える戦闘ダメージはアマゾネスの賢者とゴブリンエリート部隊の戦闘の余波で200、コマンド・ナイトのダイレクトアタックで2200、稲妻の剣の効果で弱体化したアクア・マドールのダイレクトアタックで700。合計3100……これが答えだ)

 

 一応コマンド・ナイトでもゴブリンエリート部隊と相討ちには出来るが、そうなれば戦士族の数が減る分連合軍の攻撃力上昇幅も減る上にコマンド・ナイトの効果も失われる事でアマゾネスの賢者の攻撃力は1800まで落ちこむ。

 裸の王様の効果で稲妻の剣の効果が失われたことで弱体化していないアクア・マドールを先に攻撃させ、その後でアマゾネスの賢者で攻撃したとしても合計ダメージは3000、ギリギリで届かない。攻撃力で劣るアクア・マドールにゴブリンエリート部隊との戦闘を行わせるのは論外。

 よって合計ダメージ3100になるこのルートが正しいはずだ。と万丈目は結論づけて次の問題に移っていったのだった。

 

 それから筆記テストの時間は進んでいく。ちなみにさっきのような問題としてフィールドの状況が「(まるで重力解除でも発動した後のように)相手の場は攻撃表示のハネクリボーと守備表示のE・HERO フレイム・ウィングマン。自分の場は古代の機械巨人と古代の機械工兵が守備表示。自分フィールドに魔法・罠はなく相手の場の魔法・罠はフィールド魔法ゾーンで発動している[摩天楼-スカイスクレイパー-]のみ」から始まる「フィールドが次の状況の場合、自分が相手プレイヤーに与えられる戦闘ダメージは最大いくつになるか答えなさい。またそうなる過程を答えなさい。なおこの時点はメインフェイズ1開始時とする」という、なんかどこかで見たようなカードを使った問題が出ていたのは別の話。

 

「ん?」

 

 残り20分を切った頃、準は視界の端で試験官である大徳寺――オシリスレッドの寮長で授業では錬金術を担当している教員だ――が歩いているのを見る。試験の監督として不正がないよう見回っている……わけではないようだった。何か気になってつい視線を走らせる。

 

(宇佐美?)

 

 その歩く先にいるのは彰子。やけに部屋の奥且つ教室の出入り口に近い位置にいる彼女は大徳寺に解答用紙を渡すと彼にぺこぺこと頭を下げ、いやいや別にと言いたげに手を振っている大徳寺に最後に深くお辞儀をすると他の生徒の邪魔にならないようこっそりと部屋を出ていく。それから大徳寺もその解答用紙を確認、試験官席に戻っていくのを準は不思議そうに眺めていた。

 

(なんだ? まあいい……)

 

 解答用紙は埋まり、あとは見直すのみ。ケアレスミスで下手に点数を落とすなど笑いものだ、と準はテストに意識を戻すのだった。

 

 

 

「これで筆記テストは終了~。なお、実技テストは午後二時から体育館で行いま~す」

 

『うおおおぉぉぉぉー!!!』

 

 筆記テストの全ての科目が終了、解答用紙を全て回収した大徳寺の間延びした声での筆記テスト終了宣言が出た瞬間、生徒達は一斉に教室を走り出ていく。

 

「万丈目さん! 俺先に行きます!」

 

「あ、おい待てよ取巻! 失礼します万丈目さん!」

 

「ああ……」

 

 取巻と慕谷もその例に漏れず、特に取巻は妙に焦ったような浮足立ったような様子で、席に座って回収されなかった問題用紙を見ながら教科書を確認している準を置いて教室を出ていき慕谷もその後を追う。

 

「おぉ~万丈目、熱心じゃのう。筆記はもう終わったというに」

 

「山本か。なに、少し気になった問題があってな。合っていたにせよ間違っていたにせよ確認しておかなければ午後の実技試験中に集中が途切れる原因になるかもしれん」

 

 そんな準に声をかける女子――山本百合に準は教科書に目を走らせながらその気になったという箇所を確認、よしと頷いて教科書を閉じてカバンにしまうと思い出したように百合に話しかけた。

 

「そういえば筆記テストの終了直前で宇佐美が部屋を出ていったのだが、何か知らないか?」

 

「ん? ウサミン、万丈目に話してないのね。別に気にしなくていいわよ、どうせ購買に行くんでしょ?」

 

 何故ここで購買が出るかは分からないが準は首肯。わざわざブルー寮に戻ってそこの食堂で昼食を済ませるよりは購買で適当に弁当か何かを買って食べて、空いた時間を午後の実技試験に向けてデッキの最終調整や気分転換、精神集中に使った方が効率的だろう。それに何より――

 

「今日は昼休みに新しいカードパックが大量入荷するからのう。にしてもおぬしは慌てておらんの、大抵の生徒は大慌てで購買に行ったというに」

 

「これも特権、予約は既に済ませてある。お前もそうだろう?」

 

「まあねー」

 

 準と百合はそう話し合う。この月一試験の昼休みに新作のカードパックが大量入荷するというのは前々から告知されており、少しでも多くの生徒に行き渡らせるためにおひとり様三パックまでという前もっての購入制限までかけられている程。

 しかしそこで光るのが上の寮即ち成績優秀者に対する優遇措置。この月一試験前最新の小テストの結果を寮分けしたオベリスクブルーの上位五名はそのおひとり様三パックを予約して確定入手でき(当然DP前払いだが)、五位未満のブルーも二パック予約可能。ラーイエローの上位五名は二パック予約可能、五位未満からおおよそ上位半分くらいまでは一パック予約可能、そしてラーイエロー下位半分及びオシリスレッドは予約不可となっている。ちなみに女子はオベリスクブルーと同じ待遇だ。

 そしてその小テストでトップを取った準は既に三パック分予約完了済み。つまり別に新作カードパックを買うために慌てて購買に向かう理由がないのだ。なお取巻と慕谷は上位五名に入れなかったので予約は二パックまで、最後の一パックを手に入れるために急いだわけである。

 

「デッキの調整もほぼ万全だ。余程汎用性に富んだ強力なカードや俺のデッキに合うカードが手に入ったというわけでもなければ、下手にぶっつけ本番で放り込むのは逆に計算を狂わせかねん」

 

「ふ~ん。ま、私はデッキに合うカードが封入されてるって噂あるから取りに行くけどね……それじゃあ、また後でのう」

 

 たしかに他の生徒が知らない新カードを入手できれば情報アドバンテージで優位を取れるだろう。しかしそれを使いこなせなければ逆に自分が不利になりかねない。取り返しがつくようなフリーのデュエルならまだしも大事なテストなら使い慣れているカード達の方が信頼できる。

 そういう意味でも焦って新パックを買う理由はないと語る準に百合はそう言い残して走り出し、準もカバンを持つと悠々と歩いて購買に向かうのだった。




《後書き》
 今回は月一試験。なお書いていたらめっちゃ筆が進みまくって思いついた展開を次々放り込んでたらクソ長くなって、もう実技テストに入る前段階どころじゃない時点で一万文字超えて「あ、これ小分けにしないとクソ長くなるわ」と察したので小分けにして投稿する事を決めました……日常というか会話フェイズだよこれ……?(汗)

 そして今回は一応筆記テストの部分に当たりますが、ただ筆記をやってました~って描写するだけじゃつまんないと思ってちょっと問題作りました。多分これで合ってるはず……。
 ちなみにこの問題の自分なりの意義は作中でも言わせた通り「一部の情報が歯抜けになっていてもすぐに必要な情報を頭の中から引き出すためのテスト」です。
 無論ルール的に相手に許可を取って確認って事も出来るけど、プロがデュエル中にそれをやってたら流れが壊れるし観客もしらけるから自分で覚えろ最終的にカードイラスト(ソリッドビジョンの投影)見た瞬間そのカードの情報引き出せるくらいになれっていうプロデュエリストを目指す教育の一環というイメージで作りました。
 なんならプロは自分で覚えるのが当然、知らないカードがあったのは勉強不足の自分が悪いから自己責任。そんなものに相手や観客を巻き込んで流れを壊したりしらけさせるわけにはいかないから知らないカードに対してはどんな効果持ちか分からないままアドリブで切り抜けやがれみたいな業界的な暗黙の了解がある(だからカード効果を確認しない)って考えたら歴代のあれらに説明つくかも……?

 んで最後にチラッと話させましたが、今回はあのクロノス教諭が新作カードパックを買い占めて万丈目にレアカードを横流しする展開はありません。先に言っておきます。
 その代わりにというか所謂「上の寮所属生徒(成績優秀者)への優遇措置」の一環として上の寮の所属(さらに成績による順位分けあり)の生徒はカードパックの購入に際して予約が出来ますって語らせてみました。成績優秀者への優遇っていうのなら上の寮の生徒が下の寮の生徒への差別意識を持って接しているのを教員が黙認している空気が蔓延しているよりも、生徒が努力した結果をこういう形で還元してる方が健全だと思います。(※なお、空気が蔓延していないだけでじゃあそういう生徒や教員がいないとは一言も言っていません)

 一応今の時点でデュエル開始直前までは書けていますので、続きは明日の午前九時頃に投稿を予定しております。そしてデュエル編は……まあその後でしょうね。(実はこの続きからデュエル開始までの時点で一万文字いきました)
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