遊戯王GX~もしも万丈目兄弟の仲が良かったら~   作:カイナ

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第十話 月一試験スタート(後編)

 私はクロノス・デ・メディチ。このデュエルアカデミア高等部では実技担当最高責任者をやっておりマスーノ。そして今は午後の実技テストに向けて職員室で、実技テスト即ちデュエルを行う生徒達の対戦カードの最終調整中ナノーネ。

 体調不良での筆記テスト及び実技テストの欠席、筆記中に体調不良を起こしての実技テストの辞退、実技テストまでの休み時間中に不慮の事故や怪我で保健室に行くことになっての実技テストの辞退、その他諸々で急に対戦カードが組めなくなるのはいつもの事。だから筆記テスト終了後から実技テスト開始までのこの時間は最高責任者として持ち場を離れられない大忙しの時間ナノーネ。

 え?今日大量入荷する新作カードパックを買い占めて優秀な生徒に横流し?そんな事出来るわけないノーネ、入荷するカードパックは予約含メーテ購入制限まで厳密にかけられてマスーノ。買い占めなんて出来ないノーネ。まあ、万が一売れ残りなどアレーバ優先的に購入させてくれと購買のトメさんにお願いはしてマスーガ。

 そもそも対戦カードの最終確認に忙しくてカードパックの買い占めどころか職員室を出るのもままならないノーネ。

 

「ん~と、今のところ昼休み中の急病や怪我の連絡が鮎川先生から来ることもないし。対戦カードはこんなもんナノーネ?」

 

 筆記テスト中に体調不良を起こして退場、実技テストは棄権という生徒の連絡は数人来たがそこを踏まえての対戦カードも組みなおせた。

 実技テストが始まるまで油断は出来ないが、とりあえずはこんなところだろう。と、クロノスは対戦カードの作成・確認を終えて生徒達のPDAに所謂「この時間からこのデュエルフィールドで実技テストを行う」という旨を伝えるデータを送信する。追記として「様々な事情により急にテスト時間及びテスト場所が変更になる場合があります。時間に余裕を持った行動を心がけて下さい」という注意を送るのも忘れない。

 

「ふぃ~。とりあえず肩の荷は下りたノーネ」

 

 クロノスは肩をコキコキと鳴らして伸びをする。

 

「失礼します」

 

「アジャパー!」

 

 その時職員室に入室する者がおり、驚いたクロノスは独特の悲鳴を上げながらずっこけた後、立ち直して入室した者を見る。

 

「おぉ、シニョール三沢。どうかしたノーネ?」

 

「いえ、実技テストを棄権するという言伝を受けまして。清水なんですが――」

 

「あー、ラーイエローの清水(しみず)季也(としや)君デスーノ? それなら朝に樺山先生から病欠の連絡を受けて実技テストも欠席として処理してるから心配ありまセーンノ」

 

 清水季也。中等部でも優秀な成績の生徒だと話には聞いていたが高等部への編入について重要なテストの日に体調を崩して全力を発揮できず、惜しくもラーイエローでの編入になった生徒だと聞いている。そんな彼がオベリスクブルーに最速で上がるチャンスを失った事は残念だが仕方ないと、クロノスは既に連絡は受けているから心配ないと三沢に声をかける。

 

「あ、いえ……」

 

 しかし三沢は困ったような笑みをクロノスに向けていた。

 

「そっちの清水ではなく、清水(しみず)(つよし)君の方です。オベリスクブルーの」

 

「あぁ、季也君の弟の……ええっ!? ど、どうしてデスーノ!?

 

 三沢の言葉を聞いたクロノスが自分の担当する寮の生徒を思い出しながら頷いた後、血相を変えて三沢に問いかけると彼も「はい……」と困ったように頷いて話し出した。

 事の始まりは今朝、季也が急に熱を出して今日の筆記及び実技テストを欠席する旨をラーイエローの寮長である樺山に伝えた後のこと、偶然彼と会った三沢は彼の弟である剛への伝言を頼まれたのだ。「体調を崩したから今日のテストを欠席する。アルティメットブラザー、俺の分まで頑張ってくれ」と。

 それから筆記試験が始まる前にそれを伝えようとしたのだがどうしても見つからず、やむを得ず筆記試験終了後、季也を探していたのだろう教室内を彷徨っていた剛を見つけてその伝言を伝えたら彼は大慌て。

 

「ア、アルティメットブラザーがまた病気!? オ、オデこうしちゃいられないど! み、三沢! クロノス先生にアルティメットブラザーの看病に行くから実技テスト行かないって伝えてくれど!」

 

 そう言い残すや否や彼は超特急で教室を飛び出していき、止める間もなかった三沢はとりあえず彼に頼まれた通りクロノスに伝言を伝えに来たというわけだ。

 

「すみません。俺が軽々しく伝言を承ったせいでご迷惑を……」

 

「あーいえいえ。過ぎた事を言ってもしょうがないノーネ、伝えてくれてありがとうナノーネ。シニョール三沢はもう行って、午後の実技テストに備えてほしいノーネ」

 

「はい。では失礼します」

 

 困ったように頭を下げる三沢にクロノスは笑いながら答え、三沢はぺこりと頭を下げて職員室を出ていく。

 それを見送ってから、クロノスは参ったように頭を抱えたのであった。

 

「こ、困ったノーネ……シニョール清水剛ニーハ、ドロップアウトボーイの相手をさせるつもりだったノーニ……」

 

 清水剛。中等部時代の学科の成績は平均より少し上、本来ならオベリスクブルーに上がれるほどの成績ではないが、その学科の成績を補ってオベリスクブルーにのし上がった程の実技即ちデュエルの強さを持つ。

 そんな剛なら実技テストでドロップアウトボーイこと遊城十代を倒してくれるだろうと見積もっていたクロノスは困ったように頭をかく……が、そこで彼は何かを思いついたように「ヌフフ」と怪しい笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 一方、筆記テストの確認が終わった準は購買へとやってきていた。

 購買のレジは二つ、その内の一つが購買に常駐している職員であるトメさんとセイコさんが二人がかりで件の新作カードパックを購入しようとしている列を捌いている。

 そしてもう一つのレジでは――

 

「あ、万丈目さん。いらっしゃいませ」

 

「宇佐美、何をしているんだ?」

 

「こ、購買のお手伝いです……」

 

 レジ番をしている少女――きちんと購買の制服を着用している彰子の姿に困った目を向ける順に、彰子はてへへと笑いながら説明する。

 数日前から月一試験の日の昼休みに購買の手伝いを募集しているポスターが貼られていたが、トメさんによると参加してくれる人がいないとのこと。新作カードパックの大量入荷もあって忙しくなることも目に見えているのに人手が足りないと困っている彼女を見て彰子が手伝いを申し出たのだそうだ。

 

「たしかにそんなポスターがあったな」

 

 言われてみれば購買で買い物をしていた時にそんなポスターが目に留まったが、そこまで気にしていなかった。と思い返すと共に準は例によって先輩から聞いた話を思い出す。

 月一試験の日は生徒達が今回のような新作でなくとも新しいカードパックを買って午後の実技テスト前に少しでもデッキを強化したいとか少しでも早く食事を終わらせてデッキの最終調整をしたいとかの理由でごった返す。

 購買もそれによる人手不足の対策として生徒対象の短期アルバイトを募集しているのだが、そもそも生徒からしても「他の生徒が購買に来るより早く購買に行かなくてはならないため、必然的に自分が筆記テストを受ける時間が短くなる」「他の生徒が食事やデッキ調整などを行える休憩中に働かなければならず、自分が食事や調整に取れる時間が少なくなる上に最悪休憩も取れずに実技テストを受けなければならない可能性がある」等の様々なデメリットがある。(その分バイト代として支給されるDPは多めだったり内申点は高くなったりもするし、実技テストの方も教師側が対象の生徒が少なくとも最初の方に出ないよう配慮はするらしい)

 だから早々参加する者はいない(これまた聞く話によればごく稀に開き直ったラーイエロー下位やオシリスレッドとかの月一試験を諦めた生徒が参加するらしいが、これもその生徒がこのまま成績不良や月一試験の結果が悪いなどがあれば寮の降格や最悪退学の可能性があるという警告を学校側から受けているような相手だった場合は月一試験に集中してもらうためお断りを入れるそうだ)のだが、彰子は参加してくれる人がいなくて困っているトメさんを見かねて自分が参加したそうだ。

 ちなみに彼女の担当は「予約分のみ購入のお客様に対する新作カードパックの受け渡し及び新作カードパック以外のカードパック購入及びその他の商品購入のためのレジ対応」であり、今はほとんどの生徒が新作カードパック購入の列に並んでいたり購入が終わればパックを開けてのデッキ調整を行っているため彰子の方に人はいない。少なくとも準がこうやってお喋りをしていても困らないような状態だ。

 

「そ、それに、報酬として新作のカードパック一つ分の購入確定権がありまして……買えるのはお手伝いが終わった後ですけど……」

 

「オベリスクブルーは最低でも二パック予約可能。この手伝いをすれば三つ分が確定入手可能ということか。まあ、話は分かった。とりあえず俺の予約分である新作のカードパック三つを頼む。あとこの弁当だ」

 

「はい!」

 

 事情を聞いた準は、彰子が筆記テストの時に他の生徒より早く退室した理由と百合が言っていたのはこういう事かと納得し、とりあえず予約分の新作カードパックと弁当を購入。彰子に「頑張りすぎて実技テストに支障をきたさないようにしておけよ」と釘を刺して購買を後にし、弁当を食べようと飲食スペースへと移動するのだった。

 

「万丈目さん!」

 

 準が適当な飲食スペースで弁当を食べ、空になった弁当箱をゴミ箱に捨てたところに声をかけてきたのは取巻。どうかしたのかと準が彼に歩み寄ると、取巻はすぐさま頭を下げていた。

 

「すみません! 万丈目さんが買ったカードパックここで開けて見せてもらえないでしょうか!」

 

「ああ……事情は把握した」

 

「ありがとうございます……」

 

 取巻の不躾なお願いに準は納得したように首を縦に振る。この新作カードパックには彼のデッキに合う、というか新たな切り札となり得るカードが入っているというのは聞いている。だがこの様子を見るに、そのカードが当たらなかったから他の生徒とのトレードを狙っているのだろう。

 準は別に今開けようが変わらないとカードパックを開けて中身を確認。

 

「あっ」

 

 取巻が声を出す。彼の狙ったレアカードではない、だがその融合素材となりそして素材とならなくても戦力になる融合モンスターだ。

 

「これは当たっていたか?」

 

「一枚だけ……素材の方も慕谷と協力してなんとか揃えました」

 

「分かった、ならこれをトレードしよう。お前が当てたカードを見せてみろ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 準の申し出に取巻は頭を下げてお礼を言い、トレードを行う。しかし結局取巻が欲しがっているレアカードは当たらなかった。

 

「どうする?」

 

「慕谷があちこち回って当たった人がいないか探してくれてるので、俺も今から探しに行こうかと」

 

 慕谷は取巻のために自分の時間を削って協力してくれているらしい。なら自分も少し聞き回って見るかと考える準がカードを手持ちのケースにしまい、二人が飲食スペースを後にして廊下に出て歩いていた時だった。

 

「あ、見つけたノーネシニョール万丈目にシニョール取巻!」

 

「クロノス教諭。何かご用ですか?」

 

「実はちょっと事情があって、二人の実技テストの相手が急遽変更になったノーネ。新しくデータを送るのもややこしいので悪いですケード、詳しい事はこの封筒に入れたメモを確認してほしいノーネ」

 

 そう言ってクロノスは似た外見というか外見は全く同じ封筒を二人に手渡す。その次にクロノスは取巻の方を向いた。

 

「時にシニョール取巻、アナターの相手は下の寮の生徒デスーガ心配はいらないノーネ。そのデュエルにその相手が勝てば昇格も考えている候補というダケーで、アナタはそれを見定める相手に選ばれたダーケ。別に負けても降格とかそういう事は一切ありませんノーデ、落ち着いて普段通りのデュエルをしてほしいノーネ」

 

「は、はい! 分かりました!」

 

「よろしく頼みましたノーネ。あ、シニョール万丈目の相手はアナタには役不足でしょうケード、是非とも頑張ってほしいノーネ。では失礼するノーネ」

 

 クロノスはそう言うと「あー忙し忙し」と言って走り去っていく。「なんだったんだ?」と二人は顔を見合わせ、まあとりあえず封筒の中身を確認するかと目を落とす。

 

「わー! どいてどいてー!」

 

「「え? ぐはっ!?」」

 

 その時突然何かが二人にどごっとぶつかり、その衝撃に万丈目と取巻はもつれるように倒れ込む。

 

「ご、ごめん万丈目君取巻君!」

 

「だー翔何やってんだよ? 大丈夫か二人とも」

 

 ぶつかった相手――翔の悲鳴のような謝る声に続いて十代が二人に大丈夫かと問いながら、彼らの手から離れて床に落っこちた封筒を拾い上げると立ちあがった二人に差し出した。

 

「ほらこれ、何か知らねえけど二人のだろ?」

 

「ああ、すまんな」

 

「ごめんね二人とも、急いでて……アニキ! 購買に急ごう!」

 

「おう!」

 

 準と取巻がそれぞれ十代から差し出された封筒を受け取り、翔が軽く二人に謝ると十代と翔走り去っていく。その先にあるのは購買、そして二人の会話から察するに今更新作カードパックを買いに行ったのだろう。

 

「間に合いますかね?」

 

「ギリギリだろうな。さて、忘れない内に封筒を確認しておこう」

 

「はい」

 

 二人はそう言って封筒を開け、中身のプリントを確認。

 

「俺は……二番目の組ですね。実技テストが始まってからも少しは探す余裕がありそうです」

 

「俺は最終組か……お前や慕谷のデュエルを見る余裕はありそうだ」

 

「ははは。ありがとうございます」

 

 取巻は最初の組、準は最終組。互いにそんな軽口を叩きながら封筒にプリントを戻そうとした時に取巻が何かに気づく。

 

「あれ? なんか入ってる……なんだこれ? [マル秘・攻略メモ]?」

 

 中身を見られないようにしているように丁寧に折り畳まれたメモ。不思議そうな顔をする取巻に準が溜息を漏らした。

 

「大方仕事をサボってゲームか何かの攻略法でも調べてメモしていたのが紛れたんだろう?」

 

「あらら……ま、武士の情けって事で中身は見ずに証拠隠滅してあげましょっか」

 

「そうだな」

 

 仕事をサボって遊んでいたなんてバレたら一大事だろう。だがまあそんな事わざわざバラす理由もないしと取巻は笑いながら、その攻略メモなるメモをビリビリに破いてゴミ箱に捨てる。

 

「さて、お前の戦力となるレアカードも探さねばなるまい。手分けして探すぞ」

 

「はい!」

 

 そして準と取巻も手分けして探そうと別れるのだった。

 

 少し時間が過ぎて購買に併設されている小さな休憩スペース。

 購買で買ったカードパックを開けたりそれを軽く並べたり、不満があればパックの買い足し等や勿論軽い休憩のために置かれているここで、購買でカードパックを買った十代と翔は他の人の邪魔にならないここで休憩を取っていた。ちなみに休憩スペースはカードを扱う購買に併設されているためか飲食禁止である。

 

「それにしてもギリギリだったな。まさかラスト1パックなんて」

 

「うん。運がよかったよ……それにアニキもよかったね。筆記テストに遅刻してたけど、人助けしてたなんてアニキらしい」

 

「おう!」

 

 十代と翔が一安心という様子で話し合う。

 急いでカードパックを買いに来たものの購入制限があってもなお売れ行きバッチリだった最新カードパックは最後の一個。そのカードパックは十代が翔に譲った事で翔が購入したのだが、そこで十代が今朝困っていたところを助けたというトメさんと再会。彼女からお礼に渡そうと思って取っておいたという最新カードパックを十代も受け取ったのだ。

 そして二人はワクワクしながらパックを開封、中身を見る。

 

「おぉ! なんかすっげーかっこいいカードだ!」

 

 パックの中から出てきたカードに十代が目を輝かせ、翔がそのカードを覗き見る。

 

「[ハネクリボー LV10]……すご! レベル10だって!」

 

「ハネクリボー、なんだか縁を感じるぜ。こいつはデッキ入りだな!」

 

「……あ、待ってアニキ。このモンスターなんか召喚制限あるよ?」

 

「え?」

 

 当たったレアカードを早速デッキに入れようとする十代だが、その時翔が指摘し十代もカードテキストを確認する。

 

「[進化する翼]……ってカードがないと特殊召喚できない!? マジかよ!?」

 

 十代は悲鳴を上げてカードパックを確認、しかしそんなカードはパックに入ってなかった。

 

「翔! お前のは!?」

 

「え? えーと……ご、ごめん、入ってないや……」

 

 慌てた様子で翔に問いかける十代。それを受けた翔も開封したカードパックを確認するがそのカードは入っていない様子であり、十代は「マジかよー」と言いながら大袈裟にのけ反り、椅子の背もたれに身体を預ける。せっかくゲットしたレアカードも出せなければ宝の持ち腐れだ。

 

「お。おーい遊城、丸藤。ちょっといいか?」

 

「あ、慕谷君」

「おう、どうしたんだ?」

 

 そんな二人に声をかけるのは慕谷。翔が彼の名前を呼び、十代が軽く右手を上げる。

 

「いや、実は取巻が今回のパックにどうしても欲しいレアカードがあるって言っててな。けど本人は三パック買っても当たらなかったから探すの手伝ってるんだ」

 

「へぇ、なんてカードだ?」

 

「[VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン]っていう融合モンスターだ。融合素材になるモンスターは元々取巻が持ってたり今回当たったりしたから、あとはそいつさえあればってな」

 

「へえ。けど悪いな、俺は持ってないや」

 

「ぼ、僕もまさか一パックだけでそんなレアカード……」

 

 慕谷の言葉を受けた十代が悪いと言いながら肩をすくめると、翔もまさかたった一パック買っただけで特定のレアカードをピンポイントで当てるなんて無理だろうと言いながら今回買ったカードをもう一度確認――

 

「あ」

 

 ――翔の声が漏れる。「まさか」と二人が覗き込む。彼の手にはまさしく[VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン]が握られていた。

 

「「あ、あったー!!??」」

 

「ま、丸藤! そのカード譲ってもらえないか!? もちろんトレードで構わない!」

 

 驚愕する翔と十代、続けて慕谷がトレードの交渉開始しながら交渉材料として今回買ったカードパック三つ分のカードをテーブルに置く。

 

「あー!!!」

 

 すると今度は十代が声を上げ、慕谷が置いたカードを指さした。

 

「[進化する翼]! 慕谷! そのカードトレードしてくれ!」

 

 なんと慕谷が十代の目当てのカードを持っている事が判明、状況が混沌としてきた。

 それからとりあえず落ち着こうと、慕谷含めて三人は席につき直し改めて確認を開始する。

 

「えーと、まず僕が当てた[VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン]を慕谷君が欲しがっている」

 

 正確には欲しがっているのは取巻だが、まあ現状彼が代理という事でそういう事でいいだろう。

 

「で、俺の持っている[進化する翼]を遊城が欲しい」

 

 次に慕谷の確認に十代が首肯した後、自分の当てたカード――肝心のハネクリボーLV10を覗いた分――を慕谷に並べて見せた。

 

「どうだ慕谷? 進化する翼と交換したいってカードあるか?」

 

「いや、別に……」

 

「あ、アニキ。僕それ欲しいんだけど……」

 

 十代の言葉に慕谷が首を横に振ると、翔が十代のカードの一枚をついと言った様子で指さす。

 

「「「……」」」

 

 慕谷は翔のカードが欲しく、翔は十代のカードが欲しく、十代は慕谷のカードが欲しい。余計に状況がこんがらがってきた。

 

「……待てよ」

 

 すると慕谷がぼそりと呟き、少し何かを考える様子を見せると翔の方を向いた。

 

「丸藤、まずは俺の進化する翼とお前のVWXYZを交換してくれ」

 

「え? でも僕別にそれいらない……」

 

「いいから。と言ってもカードのレア度が釣り合わないから俺の方は何枚かつける」

 

「いいの? それ、取巻君が欲しがってたカードでしょ? 慕谷君が損しちゃうんじゃ……」

 

「その分は取巻に手間賃含めて請求するから心配するなって。ほい」

 

「あ、うん……はい」

 

 慕谷は進化する翼にそれなりに汎用性が高そうなカードを何枚か付けて翔に差し出し、翔も困惑しながらVWXYZのカードを慕谷に渡す。それを見た十代が気づいたようにポンと手を叩いた。

 

「おぉ、そっか。んで、俺と翔が欲しいカードをトレードすりゃいいのか」

 

「あ、なるほど」

 

 二人はそう納得してカードをトレード。これでそれぞれ目当てのカードが手に入ったというわけだ。そうと決まれば話は早い、と慕谷は席を立つ。

 

「じゃあ俺はこいつを取巻に渡してくる。ありがとな、お前ら。実技テストお互い頑張ろうぜ」

 

「うん、ばいばい」

「またなー」

 

 慕谷は連絡を取ろうとしているのかPDAを取り出しながらその場を後にし、翔と十代はそれを見送った後、実技までの間にデッキの調整を始めるのだった。

 

 

 

 それからまた時間が過ぎて実技テストが始まる午後二時が過ぎる。

 今は最初の組が終わっての二番目の組、そこに急遽割り当てられた(クロノスが突然やってきて説明もそこそこにメモを押しつけられた)十代は指示通りのデュエルフィールドにやってきていた。

 

「あれ、クロノス先生? こんなところでなにしてるんだ?」

 

 そこにいる男性――クロノスの姿にきょとんとした顔を見せ、「もしかして俺の相手ってクロノス先生?」ととぼけた事を言う十代。クロノスが「そんなわけないノーネ」と呆れ顔でツッコんだ後、にんまりとした笑みを見せた。

 

「入学試験でこの私を倒した相手の初の月一試験実技テスト、せっかくだから近くで見たいと思って時間を取ってあげたノーネ」

 

「へへ、そいつは嬉しいぜ。じっくり見てってくれよな!」

 

 クロノスの言葉に十代は嬉しそうに鼻を擦りながら言い、周りの生徒も「クロノス教諭が目をかけてるのか……」「オシリスレッドなのに……」とかざわつく中、クロノスは「ヌフフ」と笑みを見せた。

 

(ええ、じっくり見せてもらいマスーノ。アナタがシニョール万丈目に手も足も出ずにやられる姿を……ね)

 

 本来十代の相手をさせるつもりだった清水剛は実技テストを欠席となったが、そこで思いついたのが別の相手を割り当てる時に「もう人がいなかった」などそれらしい理由をつけての、中学主席で現在もオベリスクブルーでトップを走る万丈目準を十代の相手に当てる事。

 いくら十代でもトップである準を打ち倒すのは不可能だろう。今朝仮の対戦カードを組む時点で思いついたもののちょっとやり過ぎじゃないかとか流石に不自然ではないかとか思い止まったが、これは既に割り当てる人がいなかった故の緊急措置なのだから仕方がない。とクロノスは自己弁護する。

 

(シカーモ、シニョール万丈目には対戦相手変更の封筒と一緒に、この前の実技授業の際にシニョール三沢やシニョーラ天上院等の優秀な生徒が分析した、ドロップアウトボーイのデュエルの問題点をまとめた攻略メモを密かに渡してマスーノ。あれがあれば(デーモン)に金棒、もはやドロップアウトボーイに勝ち目なんてありませんノーネ)

 

 この前の実技授業も今回のための策の一つ。クロノスはそんな黒い笑みを浮かべていた。なお実は清水剛にも前もって渡していたのだが、本人全く見てもいないまま失くしてしまっているのは別の話。

 

「あ、もう来てたのか。すみません、遅れました」

 

「イエイーエ、まだテスト開始時間前でスノーデ大丈夫……ナノー、ネ?」

 

 そしてやってきた準にクロノスはまずねぎらいの言葉をかける……ところでちょっと言葉が途切れる。声が準のものではない。クロノスは声をかけてきた相手であるオベリスクブルーの生徒を見た。

 

「シ、シニョール取巻!? どうしてシニョールがここに!?」

 

「ど、どうしてって……クロノス教諭が渡してきた封筒のメモに書いてあった指示に従ったんですが?」

 

 その生徒――取巻太陽の姿に驚いたクロノスの言葉に、取巻は怪訝な顔をしながら封筒とその中身のメモを見せる。それはたしかにこの時間にこのデュエルフィールドで実技テストを行う旨を書いたメモ。

 

(シ、シニョール万丈目に渡したはずのやつナノーネ!? も、もしかして急いでて渡し間違えターノ!?)

 

「ああ遊城、慕谷から聞いたよ。VWXYZの件、協力してくれてありがとう」

 

「俺は何もしてねえよ。お礼ならそれ渡した翔に言ってやってくれ」

 

 呆然とするクロノスを尻目に、実技テストの開始時刻にはまだ時間があるからか二人は時間潰しがてら世間話を開始する。

 

「そうさせてもらうよ……そういえば、お前やっぱ期待されてるんだな」

 

 十代の言葉に取巻は頷いた後、また何かを思い出したように笑いかける。

 

「え?」

 

「クロノス教諭からメモを渡された時に言われたんだよ。俺の相手、つまりお前はこのデュエルに勝ったら昇格も考えている相手なんだってさ」

 

「ホントか!? なんだよークロノス先生、俺にそこまで期待してるから実技テスト見に来てくれたんだなー」

 

 取巻の言葉を聞いた十代が得意げに笑い出し、観客の翔が「やっぱりアニキは凄いんだ……」と呟き、観客達のざわめきも強くなる。そんな中取巻は不敵に笑った。

 

「ま、俺だってそう簡単に負けるつもりはないけどな……クロノス教諭。もうお互い準備オッケーみたいだし、ちょっと早いけど別にもう実技テスト始めても大丈夫ですよね?」

 

「へへ! 望むところだぜ!」

 

「へ? あ、え?」

 

 雑談も終わり、二人は気合い満々にデュエルディスクを構える。

 

「「デュエル!!!」」

 

 そして呆然としていたクロノス置いてけぼりで、二人の実技テストの幕が勝手に上がったのだった。




《後書き》
 今回は月一試験スタートの後半戦……の会話フェイズ。最初にちょっと、前回の後書きでも軽く言った「本作ではクロノスの買い占めイベントやんねーよ」ってのをコミカルに明言させてみましたw
 あと遊戯王もカードゲームだしって事で、「お互いに欲しいカードを探してトレード」っていうトレーディングカードゲームのお約束やってみました。ちなみに言っておくと慕谷は「なんで十代は進化する翼を欲しがったのか」は知りません。いやカードテキストを読めばなんとなく予想はつくだろうけど、そもそも「あー狙ったカード出なかったなー。それより取巻に頼まれたVWXYZ探すかー」くらいのノリだったらきちんとテキスト読んだかも怪しい(それよりVWXYZ探す方を優先)って可能性もあるし

 そして実技テストで十代と戦うのは万丈目ではなく取巻です。流石に万丈目との再戦には速すぎるし何より相手が悪い……。
 ちなみにクロノスは「慌てていて渡し間違えた!?」と思っていますし二人が勝手に話を進めたから深く追及する事なく進めざるを得ませんでしたが、設定的にはクロノスはちゃんと万丈目が十代の相手になるように封筒を渡しています。ただ“クロノスが立ち去った後、二人が封筒を確認する前にたまたま翔が走ってきてうっかりぶつかる→その衝撃で二人が封筒を手放してしまう→落とした封筒を十代が拾って二人に手渡す”の一連のシーンで封筒が入れ替わったのに誰も気づかなかったというお約束のオチですw十代は運が良かったですねw

 次回は実技テストで十代VS取巻。デュエル内容は今構想練ってるとこですけど……手札足りねえっていうかデュエルがギリギリの綱渡り過ぎるというか、原作通り「(本作では)取巻がVWXYZを出す」「十代がハネクリボーLV10を出す」を前提にすると、手札をきっちり調整しないと二人とも自分が余裕で押し勝つか逆にパーツ足りなくてぐだぐだになるか極端過ぎる事になるこのデュエル……と現在頭を悩ませています。(笑)
 いややろうと思えばアニメまんまでもいいっちゃいいんですけど、それじゃつまんないし……。

 それでは今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。
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