「……」
夜、準は自らが所属するオベリスクブルー寮の自室にてある相手に電話をかけていた。今はまだ相手が電話に出ず機械的なコール音が繰り返されているだけ。
何故そうなっているのか。それは今日起きた事、百合からの伝言で校長室に向かってからの事を回想するしかないだろう。
「交換短期留学……ですか?」
デュエルアカデミアの校長室。ここに呼ばれた準はこの学校の校長――鮫島から呼び出された用件の内容を聞かされ、オウム返しのようにその言葉を口にしていた。
「ええ。デュエルアカデミアはここ以外にも姉妹校がある事はご存じですね?」
準の言葉に鮫島が鷹揚に頷き、問い返す言葉に準も頷き返す。
デュエルアカデミアは今準がいる本校の他にも姉妹校がある。アメリカに存在する通称アメリカ・アカデミアの他、本校を中央としてそれぞれの学校が位置する場所になぞらえた
「アメリカ・アカデミアやイースト校、ウエスト校、サウス校、アークティック校は海外なのもあって目立った交流は滅多にありませんが。唯一日本に存在する姉妹校のノース校とは定期的な交流が行われておりまして。一年に一度、一年生を対象に短期の交換留学を行っているのです。そこで今年は万丈目君、君を留学生として推薦しようと思っています」
「……何故僕を?」
「言うまでもなく学業の優秀さや礼節、デュエルの実力。全てにおいて我が校の代表として外部に出すのに申し分ないからです……無論、それだけではありませんが」
鮫島の説明を受けた準が聞き返すと鮫島はさらに説明を重ねた後、年を重ねて皺の見える口角を持ち上げた。
「以前の月一試験で三沢大地君に敗北した後、あなたは落胆したり心を折ったりする事なく鍛錬に取り組んでいる。こう言っては申し訳もありませんが、月一試験終了後、あなたが様々なブルーの生徒や一部のイエローの生徒から次々とデュエルを挑まれているという報告は受けています」
そう言って鮫島は少々申し訳なさそうな笑みを見せる。
言わば月一試験という目立つ場所で敗北した準をよってたかって袋叩きにしようとしているようにも見える構図であり、とはいえやっている事は学校のルールに則ってデュエルを挑んでいるだけのため報告を受けていてなお目立った対処が出来ていない事に申し訳なさを感じている様子だが、その言葉の後に鮫島は優しく微笑んだ。
「しかしあなたはそのデュエル全てに挑み、返り討ちにしている。あの敗北を機にさらに強くなろうという気概をしかと感じさせていただいています」
「当然の事です。僕が目指すのはただプロになるだけではなく、僕がプロとなって活躍する事で敬愛する兄と共に万丈目グループを盛り立て、世界にその名を轟かせる事。敗北一つで躓いている暇などないですし、
「ええ。その気迫こそ、今回ノース校への留学生として推薦する最大の理由です」
鮫島の言葉に準はそう、己の中に決めた責務――万丈目グループの一員として、そしてリスペクトする兄の力になるために己に出来る全力を尽くすと口にする。その言葉を受けた鮫島が再び大きく頷き、口を開いた。
「ノース校はこの本校より実戦的な授業形式、つまりは実技により力を入れた校風となっています。実戦的なデュエルで経験を積もうとしているだろうあなたにとっては良い経験も出来る事でしょう」
環境を変え、実戦的な校風の場所で実戦経験を積む。そう考えれば悪い話ではない。
さらに言えば一度自分が本校を離れればここ最近の「万丈目準を倒して名をあげよう」と考える連中も自分が短期留学を終えて帰ってくる頃には落ち着いているだろう……
(だが……)
そこで準は少し何かを考えていた。
「ここで答えを出してくださいとは言いません。ゆっくり考えてください」
「……分かりました。失礼します」
準が何かを考えている事に気づいたのか鮫島は優しく微笑んで即決を求めているわけではないと答え、準は一礼すると校長室を出て行く。
そんな回想が終わると共に機械的なコール音が途切れ、準が電話をかけた相手と通話が繋がった事を告げた。
[久しぶりだな、準。高等部での生活が始まって以来、滅多に電話をかけてこないからな]
[便りがないのは無事な知らせとも言うが、兄達も心配していたぞ]
「お久しぶりです。兄さん達。心配かけていて申し訳ありません」
その相手――準にとってリスペクトする兄である長作と正司の言葉に対してまずは挨拶と心配していたという言葉に対する謝意を示す。しかしそこはあくまで冗談であるかのように兄二人は「ははは」と朗らかに笑って返した後、二人は真剣な様子を孕んだ声を出す。
[して、何かあったのか? 以前の試験で外部入学の中ではトップの成績を誇る生徒に敗北したという報告は受けているが。まさかその程度で心が折れて泣き言を言う事などあるまいな?]
「それは勿論です。彼、三沢大地は学力も実力も高い。もしも万丈目グループに誘う事が出来れば万丈目グループをさらなる高みに誘う力となってくれるだろう優れたデュエリストです。ですが、ただ一度の敗北で心折れるなどあり得ません」
[信じているぞ、準。だがそれならどうしたのだ?]
既に月一試験で三沢に敗北したという事は知っているらしい長作の言葉に準が強い意志を感じさせる口調で答え、その言葉に正司が頷いた後、ならばどうして連絡を取ったのかと促す。
「実は――」
それを受けて準は話し始める。
鮫島校長からノース校への交換短期留学の推薦を受けていること。今は所属している寮としては格下であるラーイエローの三沢大地に敗北したことで、調子に乗っているブルーや一部のイエローの生徒がひっきりなしにデュエルを挑んできているから余計ないざこざに発展するような事が起きる前に、彼らが落ち着くまで一度本校を離れた方がいいのではないかと考えていること。
なにより、より強くなるために短期とはいえ実戦的な校風の環境に身を置いての武者修行に励むというのは悪くないと思っていること。
[……そこまで考えているのならば二つ返事で受けるべきだろう。何をそこまで迷っている?]
自分の腕を磨くにしろ、学内の雰囲気を悪くしないようにという気遣いにしろ、準の考えている事は理にかなっていると長作は頷き、準の迷いの根本に切り込む。
「……不安なんです」
それに準はそう切り出した。無論、環境が変わる事への不安ではない。
「俺は中等部でトップの成績をもって高等部に主席で編入しました。しかし今回の月一試験で外部試験の主席合格者に敗北した。今俺に挑んでくる者はほとんどが中等部からの編入組、恐らくは“中等部でトップだった俺が外部入学者に負けた。高等部に入って弱くなった”とでも勘違いしているのでしょう。その俺を倒して自分の方が上だと証明する功名心にとり憑かれている……それで俺を狙うだけならまだいい。ですが……下手をすれば俺がいなくなった途端、その矛先が取巻達に向かう恐れがある」
準自身は別に派閥というものには興味はない。しかし中等部からトップを走る準と、彼が実力と自分に追いつこうと努力する力を認めて信頼し側においている取巻や慕谷によって形成されている言わば万丈目派閥は、人数としては少数ながら準のカリスマ的魅力や実力もあって派閥としては無視できないものだとされていたという話は聞く。
もしその派閥のトップである準がいなくなればその派閥の構成員と目されている取巻や慕谷、さらには彰子やその友人である百合がそういった者達のターゲットにされる可能性は否定しきれない。
「そうなるくらいならば奴らが落ち着くまで俺が奴らを相手取り、その全てを返り討ちにすればいい。そう考えれば短期留学なんてしている余裕はありません」
最近自分によくかかってくる相手も伊達に
[……まったく]
だがその言葉を受けた長作の、大きなため息とともに漏れ出たのは呆れの言葉だった。
[ならば俺からお前に問おう、準]
ピリッ、と電話越しにすら分かるほどに長作の雰囲気が鋭くなる。
[取巻太陽、慕谷雷蔵、そして宇佐美嬢。あと他にも友人がいるそうだがそれは置いておいて]
百合のことは置いておかれていた。
[彼らはお前が守らねばそういった脅威から己の身すら守れん。
「!? いや、それは――」
長作の言葉を受けた準が口ごもる。準がまったく意識していなかったそれは、言い方を変えれば仲間の強さを信じていない、準の無意識の傲慢の表れとも取れるものだと長作は指摘していた。
[無論、上に立つ者は下の者を守るべし。それが上に立つ強者たる者の務めというものだ。政界に挑む俺も、万丈目グループのみならずこの国の民を守る責務があるという気持ちを持って挑んでいる]
[財界を征く俺も同じ気持ちだ。企業というのは無数の人の生活を守っている。云百人、云千人、もっと多くの人々への責任を背負う義務があると俺は思っている]
[だが、下にいる者をただ庇護するだけではない。時には下の者達を信頼して任せるのも上に立つ者の務めだ。そしてその者達が成長していく中で己もまた成長し、下の者達の模範となる。それもまた上に立つ者の務めだろう]
「……」
長作と正司はそう、己の考える上に立つ者の務めを口にする。
[準。お前がどのような選択をするかは俺達には分からん]
[だが、兄達はお前が立派に成長する事を信じているぞ]
「……はい。ありがとうございます、兄さん達」
兄からのエールを受け、準は電話を切る。
やはり兄は偉大だ。俺の悩みが吹き飛び、迷いは晴れた。
準はそう思い、清々しい笑みを浮かべていた。
それから翌日の放課後。これまた共用デュエルフィールドにて。
「うーん……」
「どうしたんだよ慕谷、そんな難しい顔して」
ベンチに座る慕谷は腕組みをして妙に難しい顔をしており、それが気にかかったのか取巻が声をかけながら彼の隣に腰かける。
「いやなぁ。昨日、万丈目さんの代わりにデュエルしただろ?」
「ああ、結局全員返り討ちにして万丈目さんが帰ってくる頃には全員追い返してたやつな」
話を聞いてほしいのか、慕谷の切り出しに取巻はうんうんと頷く。
なお十代や翔は追い返す対象に入っておらず、さらに言えば追い返したという話の真相は、取巻とのデュエルが終わった十代が「もっとデュエルしてえ!」とでも思ったのか慕谷が返り討ちにした生徒にデュエルを挑み、その相手も負けた鬱憤を晴らしたいのか十代の挑戦を受けては
ちなみに取巻も十代にまた負けており、翔は格上の寮の生徒に挑む度胸はなく慕谷とのデュエル後は十代の応援に回っていた。
「最初は丸藤が、多分俺の戦法を見る捨て駒にでもされたのか俺とデュエルしたんだけど。妙に引っかかるんだよ……」
慕谷はそう言って、昨日のデュエルの回想を始めた。
慕谷のフィールドには闇魔界の竜騎士ダークソードが攻撃表示で存在するのみ、魔法・罠ゾーンには発動中の永続魔法及び永続罠が合計二枚、伏せカードが一枚、手札は二枚。
対して翔の場はジャイロイドが守備表示、魔法・罠ゾーンには伏せカードが一枚とフィールド魔法ゾーンに融合再生機構が発動中でこちらの手札も二枚。
「バトルだ!」
そして場面は慕谷のバトルフェイズ。
「闇魔界の竜騎士ダークソードでジャイロイドに攻撃!」
闇魔界の竜騎士 ダークソード 攻撃力:2200
「で、でも! ジャイロイドは一ターンに一度戦闘によっては破壊されない! しかも守備表示だから戦闘ダメージも通らないよ! さらにこの攻撃宣言時にトラップ発動[スーパーチャージ]! 僕の場のモンスターが機械族のロイドのみの場合、相手モンスターの攻撃宣言時に発動でき、僕はデッキから二枚ドローする!」
ジャイロイド 守備力:1000
「ドローは仕方ないけど、残念ながらってな! 速攻魔法[エネミーコントローラー]を発動! ジャイロイドの表示形式を変更させてもらう!」
「えぇっ!?」
ジャイロイド 守備力:1000→攻撃力:1000
慕谷の場に出現したコントローラーがジャイロイドに繋がり、コマンド入力が行われるとジャイロイドのコンピュータに強制的な指令が走ったのかジャイロイドは攻撃態勢を取り、黒き闘龍を駆る暗黒の竜騎士とぶつかり合う。
「うわあああぁぁぁぁっ!!」LP3500→2300
ジャイロイド自身は破壊を免れたとはいえ、そのコントローラーである翔への大ダメージは免れなかった。
「この瞬間永続罠[追い剥ぎゴブリン]の効果が発動し、それにチェーンして闇魔界の竜騎士ダークソードの効果発動! このカードが相手に戦闘ダメージを与える度に、相手の墓地から三枚までモンスターカードを選択し、ゲームから除外する事ができる! お前の墓地のトラックロイド、サブマリンロイド、ドリルロイドをゲームから除外する!」
「あああぁぁぁぁっ!?」
しかもその竜騎士が滑空する時の衝撃波が翔の墓地を荒らし、三体のモンスターが彼の墓地から吹き飛んでいく。
「そしてチェーン1の追い剥ぎゴブリンの効果により、お前の手札をランダムに一枚捨てる!」
「あぁっ!?」
しかもその衝撃波は翔自身にまで及び、彼の手札の一枚が彼の手から弾き落とされ墓地へと行く。
「さらに闇魔界の竜騎士ダークソードの効果でカードが除外された事で、永続魔法[魂吸収]の効果発動! カードがゲームから除外される度に、カード一枚につき500ライフポイント回復する。三枚除外したことで1500ポイント回復だ!」LP3500→5000
「うぎゃー!?」
その上慕谷の場に存在する永続魔法の効果によって、翔が辛うじて削っていた彼のライフが回復。その様に翔は悲鳴をあげるしかなかったのだった。
「俺はこれでターンエンドだ」
「うぅ……僕のターン、ドロー!」
自分の場のモンスターの表示形式を変更させられて大ダメージを受けた上に手札破壊、さらに墓地のモンスターを除外されて再利用を防がれ、挙句にそれをトリガーにした大回復。墓地アドバンテージからハンドアドバンテージにライフアドバンテージまで奪われ、翔は気合いから押されつつカードをドローする。
「っ!?」
その時翔の表情が大きく変わったのを慕谷は見逃さなかった。
「どうしたんだ、丸藤?」
「な、なな、なんでもない!」
眉を顰めての慕谷の言葉に翔は慌てて首を横に振り、そのカードを手札に入れると別の手札を取った。
「速攻魔法[融合解除]を発動! 闇魔界の竜騎士ダークソードの融合を解除! この場合は融合デッキに戻るし、融合素材は特殊召喚されない!……んだよね?」
「おう。前に言った事覚えてたんだな」
翔が発動した魔法カードの効果によって闇魔界の竜騎士の融合が解除され慕谷の場から消え去る。その時の翔が口にする言葉は以前、準と十代がデュエルしていた時に翔が疑問に思ったこと。その時の問答をきちんと覚えて実戦で活用する。それだけでも彼の成長が伺えるというものだ。
「僕は[融合再生機構]の効果発動! 手札を一枚――墓地に送り、自分のデッキ・墓地から[融合]一枚を選んで手札に加える! そして[スチームロイド]を召喚してバトルだ! スチームロイドとジャイロイドで連続ダイレクトアタック!」
スチームロイド 攻撃力:1800
「くうぅっ!」LP5000→2200
「うぅ……」
モンスターゾーンががら空きになった慕谷に翔の二体のビークロイドの攻撃が直撃。それを見た翔の顔は僅かに曇りつつ、彼はメインフェイズ2への移行を宣言して最後の手札――消去法的に融合再生機構によってサーチしたカードをデュエルディスクに差し込んだ。
「魔法カード[融合]を発動! スチームロイドとジャイロイドを融合し、[スチームジャイロイド]を融合召喚! さらに永続魔法[ブランチ]を発動して、エンドフェイズに融合再生機構の効果発動。このターン融合召喚に使用した自分の墓地の融合素材モンスター一体を手札に加える。[スチームロイド]を手札に加えるよ」
スチームジャイロイド 攻撃力:2200
スチームロイドはモンスターとのバトルにおいて自身から攻撃を仕掛ければ攻撃力が500アップするが逆に攻撃を仕掛けられた場合は攻撃力が500ダウンするデメリットがある。
ジャイロイドは戦闘破壊耐性を持つとはいえ攻撃力自体はたったの1000。
返しのターンの攻撃を警戒してその二体を素材に出来る攻撃力の高い融合モンスターに繋げるのはあながち間違いとは言えないだろう。さらに翔は融合再生機構の効果によって自身からの攻撃に長けたスチームロイドを手札に加えた上に、彼が発動したブランチはフィールド上の融合モンスターが戦闘・効果で破壊された時に自分の墓地に存在するその融合モンスターの融合に使用した融合素材モンスタ一体を特殊召喚する事ができる永続魔法。
即ちスチームジャイロイドが戦闘または効果で破壊されればその融合素材であるジャイロイドを特殊召喚する事が出来る。スチームジャイロイドが破壊された時の保険としての壁モンスターの展開及び次のターンの攻撃の準備を整えたという様子だった。
「俺のターン、ドロー! 俺は魔法カード[増援]を発動! デッキからレベル4以下の戦士族モンスター[闇魔界の戦士 ダークソード]を手札に加える!」
「ダークソードなら攻撃力も守備力もスチームジャイロイドには敵わない! 次のターン、スチームロイドを召喚して二体で攻撃すれば僕の勝ちッス!」
闇魔界の戦士ダークソード。さっきまで慕谷の場にいた闇魔界の竜騎士ダークソードの融合素材であり、故に既にこのデュエルで見ていたのだろうか。そのステータスなら勝てると言う翔に対し、慕谷はニヤリと笑みを見せた。
「残念だったな丸藤! 俺は[闇魔界の戦士 ダークソード]を攻撃表示で召喚し、手札から装備魔法[
闇魔界の戦士 ダークソード 攻撃力:1800→2300 種族:戦士族→ドラゴン族
「ス、スチームジャイロイドの攻撃力を上回った!?」
「ちなみに戦士族にしか装備出来ないんならドラゴン族になった瞬間装備条件を満たさないんじゃないかって言われるが。そこはこれ特殊裁定ってやつだ! そして――」
慕谷が発動した装備魔法が闇魔界の戦士に重なると共に、青白い竜の闘気に包まれた闇魔界の戦士は竜の力を得てその攻撃力をアップ。ついでにと豆知識を説明する慕谷の場の伏せカードが翻った。
「――リバースカードオープン[ゲットライド!]! 自分の墓地のユニオンモンスター一体を選択し、自分フィールド上の装備可能なモンスターに装備する! 俺は墓地の[騎竜]を闇魔界の戦士ダークソードにユニオン! 騎竜はユニオン装備した時、装備モンスターの攻撃力を900ポイントアップさせる!」
闇魔界の戦士 ダークソード 攻撃力:2300→3200
「こ、攻撃力3200!? で、でも、スチームジャイロイドを攻撃されてもまだライフは残るし、ジャイロイドを出せれば守備は固められる……」
一気に己のフェイバリットであるスチームジャイロイドの攻撃力を上回れた翔は驚きの声を上げるが、まだ勝負は分からないと自分に言い聞かせるように呟く。それに対し慕谷はニヤリと笑った。
「いいや、このターンの攻撃で終わらせてもらう! 騎竜のさらなる効果発動! 装備状態のこのカードを生け贄に捧げる事で、装備モンスターはこのターン相手プレイヤーに直接攻撃ができる!」
闇魔界の戦士 ダークソード 攻撃力:3200→2300
「えええぇぇぇぇっ!?!?」
「バトルだ! いけ、闇魔界の戦士ダークソード!!」
翔の悲鳴が響き、慕谷がバトルを宣言して攻撃指示を出すと共に、闇魔界の戦士の駆る騎竜が赤い翼をばたりと羽ばたかせて宙を飛ぶ。スチームジャイロイドを飛び越えて翔へと接近すると共に闇魔界の戦士が騎竜から翔目掛けて飛び降りた。
「あわわわわわ……」
慌てる翔だが伏せカードはなく、手札もスチームロイドのみ。この攻撃を止める手段は彼にはない。
「うぎゃー!」LP2300→0
竜の力を得た闇魔界の戦士の邪悪なパワーによる剣の一撃を身に受け、翔のライフは0を示したのだった。
そこで回想が終わる。
「……ってなわけなんだよ」
「と言ってもなぁ。話を聞く感じ、丸藤のプレイにそんなおかしいところはないだろ?」
「最後のドローカードを見た時の表情が気になるんだけど、丸藤のやつデュエルが終わった途端デッキを片付けて遊城の応援に回ったし、丸藤のデュエルを見て俺の戦法を分かった気になったのか他の連中がすぐデュエル挑んできたから何を引いたのかとか聞く暇もなかったんだよな……」
話を聞いた取巻の返答に慕谷はそう、どうにもすっきりしないという様子で呟く。
「取巻、慕谷」
「万丈目さん」
「どうしたんですか?」
そこに二人を呼ぶ声が聞こえ、二人は声の方を向くと自分達に歩き寄る準の姿を認めて言葉を返す。
「少し話がある。顔を貸せ」
準はそうとだけ言い、いつ誰が来るか分からない共用デュエルフィールドでは避けたい話題なのか場所を移すぞとジェスチャーで示し、二人も一度顔を見合わせながらも頷いてベンチから立ち上がり、三人は共用デュエルフィールドから出ていくのだった。
《後書き》
というわけでちょっと早めになりますが万丈目のノース校行きフラグが立ちました。なお言うまでもありませんが、ノース校との交流戦はともかく交換短期留学については完全にオリジナルです。
いや本作の万丈目を合法的な手段でノース校に放り込むには合法的な手段を捏造しないともうどうにも……原作だと「万丈目デュエルアカデミア自主退学→遭難→たまたま発見されて半ば拉致される」という改めて考えるととんでもない展開でしたし……
ちなみに今回しれっと翔VS慕谷のデュエルダイジェストで書いてますが、実は同じダイジェストレベルで取巻VS十代も構成だけは作ってました。
ただ流れが不自然になるから没になりました。っていうか翔VS慕谷だって話の流れ的に取巻と慕谷が万丈目と離れて二人で話す展開を作れてせっかくだから入れただけなので……こういう機会でもないと翔や慕谷のデュエルをダイジェストだろうが書くチャンスが……。
ちなみに鋭い方なら慕谷の言う翔の気になる違和感の正体には気づけると思います。なお既に万丈目のノース校行き(留学という形で)のフラグが立ってますが、本作の時間軸上はまだ制裁タッグデュエルとかその辺まで進んでいないという設定です。なのでまだ翔はあの辺の成長フラグは立っていません。
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。