デュエルアカデミア内で人気のない階段の踊り場。誰かが来てもすぐに目に入るから、声を潜めての秘密の会話には案外適しているともいえるこの場所に、準は己の友人である取巻と慕谷、さらに二人とは別のタイミングで呼んだのであろう彰子と、彰子の友人である百合を連れてきていた。
なお百合については彰子が準に呼ばれたと聞いて気になったと言っており、準もまあいいかと黙認している形である。
「ま、万丈目さんが!?」
「ノース校に短期留学!?」
「声がでかい!」
そして準の言葉を聞いた取巻と慕谷が驚いたのか大きな声を上げ、準がこっちも声を上げると二人はさっと口を手で覆って黙る。それを見てから準は再び話し出した。
「昨日、校長先生に呼ばれたのがそれだ。正式な返事はまだだが、この後校長先生に受ける事を話に行くつもりだ」
「で、でも……それをなんで私達に……? あ、いえ。留学に行くとなればこの学校を離れるわけですし、お話しておくというのは分かりますが……」
準の言葉に、次は彰子が疑問を尋ねる。それに対しても準はうんと頷いた。
「そこに関してだが。もしかすればお前達に迷惑をかけるかもしれないと思ってな」
「「「迷惑?」」」
その言葉に取巻、慕谷、彰子が揃って首を傾げるのだった。
それから準は懸念していた事を話し始める。ここ最近自分にデュエルを挑んでくる者達が、自分がノース校への留学でここからいなくなった際にもしかすれば自分と仲の良い取巻達に矛先を向けるのではないかと、それを心配して一度はノース校への留学をやめようかと考えた事を。
「だが、それを相談した兄さんから発破をかけられてな……俺はお前達の実力を信じる事にした。たとえ俺がいなくとも、お前達なら己の身を守る事が出来るとな」
「は、はい!」
準の言葉を受けた彰子が驚いたようにぴょんと飛び跳ねてこくこくと頷く。無論取巻と慕谷も準からの期待に応える気概を見せるかのように決意を宿した顔を見せており、それを見た準もうんと頷いた。
「そこでだ。お前達にこれを預ける」
そう言い、準は三つの封筒を取り出すと取巻、慕谷、彰子にそれぞれ一つずつ渡し、三人はなんだろうと不思議そうに眺めてその中身を確認。
「こ、これは!?」
一番に声を上げたのは取巻だった。
「万丈目さん! これってダイヤモンド・ドラゴンとアレキサンドライドラゴン! 万丈目さんがお兄さんからプレゼントされたっていうパラレルレアカードじゃないですか!?」
「エメラルドドラゴンとサファイアドラゴンまで……」
「……」
取巻に続いて慕谷も声を上げる。準がリスペクトしている兄から託された愛用のカード。準はそれを四枚とも二人に預けると言っているのだ。彰子は封筒の中身を見て唖然としており、それらを眺めながら準は腕を組んだ。
「三沢大地とのデュエルを反省する中で、俺にもまだ甘いところがあると感じてな。今回のノース校への留学、俺としては武者修行のつもりだが、俺は己を心身ともに鍛え直すためにも俺が心の支えとしていたこのカード達を封印する。そしてそのカードをお前達に預ける。これもまた俺からの信頼の表れだと思ってくれ」
「で、ですが……万丈目さん!」
準の言葉に彰子が焦ったように声を出し、封筒の中のカードを準に見せた。
「ラ、
「「えぇっ!?」」
彰子の言葉に声を上げるのは取巻と慕谷。二人がその声とともに彰子の方を向くと、その彼女の手にはたしかに準の最強のエースカードーー光と闇の竜が握られていた。
そして彰子の言葉に準はこれもまた当然だといわんばかりに頷く。
「俺は光と闇の竜の力に頼り過ぎていた。故に、俺は今一度一から修行をし、光と闇の竜を扱うに相応しいデュエリストとなってみせる。宇佐美、俺が戻るまでの間、お前に光と闇の竜を預かっていてもらいたい」
「は……はい! 分かりました。責任を持ってお預かりします!」
準の言葉を受け、彰子は覚悟を決めたとばかりに光と闇の竜のカードを封筒に入れ直し、大事そうにそっと握りしめる。それを見て準はこくりと頷いた。
「よし。では俺は校長先生にノース校への留学を了承する旨を伝えてくる」
そして準はくるりと踵を返す。
「ちょっと待つのじゃ万丈目」
「なんだ?」
するとそんな準を百合が呼び止め、準は振り返って百合に尋ねる。それに対し百合は不満げに頬を膨らませていた。
「なんだじゃないのじゃ。取巻、慕谷、それにウサミンには色々カードを預けたじゃろ? 何故アチシには何もないのじゃ?」
「……?」
百合の頬を膨らませながらの言葉を受けた準は硬直、その顔はこいつ何を言ってるんだ?と語っていた。
「だー! その“こいつ何を言ってるんだ?”みたいな顔やめい! アチシにだって何か預けてもよいのではないかと言っておるのじゃ!」
「はぁ……」
百合の言葉にやっぱり訳の分からん事を言ってるなぁと思いつつ、だが相手が面倒になったか準はデッキを取りだすと数枚のカードを抜き取った。
「分かった。じゃあお前にはこれを預ける。失くすなよ」
「おぉーありがとなのじゃ万丈目……」
心なしか対応がぞんざいながらも、皆と同じようにカードを預けられたのが嬉しいのか百合はそのカードを受け取って笑顔を見せる。が、次いでその笑顔が固まった。
「って、ドラゴンに乗るワイバーンとその正規融合素材二枚じゃないの!? 三人と比べてレア度とか色々違いすぎない!?」
「失礼な事を言うな。相手の場のモンスターを突破できない硬直状態の時など状況によっては今も活躍する、俺のデッキの隠し玉だぞ。それに大切なカードを三枚も預けているのだから期待の表れとも言えるんじゃないのか?」
「ぐぬぬ……」
ものは言いよう。百合の文句にあっさりと反論してみせる準に百合は唸る事しか出来ず、それから準は校長室に向かうため一同はこの場で解散するのであった。
それから幾日かが過ぎたある日の早朝。準は己の背丈にはやや足りない程度の高さの袋を肩に下げ、孤島であるデュエルアカデミアにやって来る船が停泊する埠頭へとやってきていた。
無論一人ではなく、デュエルアカデミアの校長である鮫島や実技担当最高責任者であるクロノス。そして取巻に慕谷、彰子と百合も一緒にいる。
「しかし、本当にいいのですか? 万丈目君。他の生徒達には気づかれないように出発したいと……君の意思を尊重して君のノース校への短期留学も生徒達に連絡しないであげていますが……」
「ええ。僕がノース校に留学すると知った連中がその前に僕を倒そうと騒ぎを起こせば本末転倒です。それに無駄に騒がれるのも好きではありません。友人達に見送ってもらえれば充分ですよ」
がらんとして静かな埠頭を見渡して準に尋ねる鮫島に、準は肩をすくめてそう答える。静かな旅立ちというのも風情がある、と言いたげな顔に鮫島も微笑を返していた。
「ところで校長先生、ノース校からの短期留学生と万丈目さんの送迎は船で行われるって聞いたんですが……いつ来るんですか?」
そこに取巻が困った様子で口を挟む。そう、このデュエルアカデミアが孤島にあるようにノース校もまた孤島に建てられた学校。当然行き来には船が必要……なはずなのだが、この穏やかな水平線にそんな姿は一切見えない。
取巻や慕谷、彰子は「もしかして時間を間違えてしまったのだろうか?」などと内心考えていた。
「ぬっふっふ~。ま、集合時間はもうすぐなのじゃろ? ならば心配いらぬて」
そんな中で百合はニヤニヤとほくそ笑んでいる。
突然海面にぼこぼこっと泡が湧き、準や彰子達学生組(百合を除く)が「なんだ?」と海面に視線を向けたその時、ドバァンと轟音を上げながら水をかき分けて海中から潜水艦が姿を現したのだった。
「きゃあああぁぁぁぁっ!?!?」
「「わああぁぁぁっ!?」」
突然の事に驚いた彰子が悲鳴をあげて隣にいた準にしがみつき、取巻と慕谷も驚いた声を上げる。
すると潜水艦のハッチが開き、中から鉢巻を巻いたおっさんと言っていいだろう外見の男性と、身体を鍛え上げたのだろう筋骨隆々の腕をノースリーブのジャケットで覆った男子が出てきて、鉢巻の男性が鮫島の方に歩み寄る。そして対面した男性と鮫島はお互いににこやかな笑顔を見せた。
「お久しぶりですな。市ノ瀬校長」
「お久しぶりです。鮫島校長」
その男性――市ノ瀬に鮫島が挨拶し、市之瀬も返すと二人は握手を交わす。一見互いに和気あいあいとした様子に見えるも、どこか相手の腹の内を読もうとしているような圧を感じる光景だった。
ちなみに準にしがみついていた彰子は現れたのが潜水艦だと分かって一安心した表情を見せた後、ようやく自分が準にしがみついているのに気づいて顔を真っ赤に染め上げると準から離れて彼に向けてぺこぺこと頭を下げ、百合はそれを見て「見たいものが見れた」とばかりにニヤニヤ笑っていた。
「して、そこの彼が今年の交換留学生の?」
市ノ瀬が準に視線を向けながら鮫島に問い、鮫島が「はい」と頷いて彼も準に視線を向けると、準もその意図を察したのか鮫島の隣へと歩みを進める。同時に市ノ瀬と一緒に潜水艦から出てきた筋骨隆々の男子も市ノ瀬の隣に立った。
「万丈目君、こちらがデュエルアカデミアノース校の校長である市ノ瀬校長です」
「初めまして。万丈目準です」
「こちらこそ。江戸川君、彼がデュエルアカデミア本校の校長の鮫島校長です」
「江戸川遊離だ。しばらくの間世話になる」
鮫島から紹介を受けた準が深く頭を下げて挨拶をし、一緒に市ノ瀬から紹介を受けた男子――江戸川も軽く頭を下げて挨拶をする。そして市ノ瀬は江戸川の肩にポンと手を置いてニヤリとした笑みを見せた。
「江戸川君は今年の一年生ランキングトップの一年生生徒長です。きっと本校に良い刺激を与えてくれるかと」
「こちらの万丈目君も今年の入学主席にして今もなおオベリスクブルーのトップを走る優等生。そちらにとって良い刺激になるかと」
ククククク、とどこか圧のある笑顔を向け合う二人の校長。きっと同じデュエルモンスターズを教える学校の校長同士色々あるのだろうなと準は結論づけていた。
そんなこんなでお互い挨拶や紹介も終わり、これから準はさっきノース校関係者が乗ってきた潜水艦に乗ってノース校に向かう。そして江戸川はこの後に行われる全校集会で留学生として紹介を行う等、この後の段取りを確認・説明している時だった。
「万丈目ー!!!」
「!?」
突然そんな大声が響き、その場にいた全員がぎょっとして声の方を向く。
「遊城!?」
そして一番に取巻が驚いた声を出す。彼の言う通りその大声の主、そして息を切らして走ってきたのは十代。そしてその後ろからさらに息を切らして彼の友人である翔までやってきていた。
「お前どうしてここに……?」
「お前が別の学校に留学するって翔が教えてくれてさ。大急ぎで探したんだ」
準が驚いたように声を漏らすと十代が説明。どうやらどこからか情報が漏れたらしいが、準が懸念していたようにブルーやイエローの連中が突っかかってこない辺りそこまで広く流出しているわけではないようだ。
「水臭いぜ万丈目。どうして教えてくれなかったんだよ」
「別にお前に教える義理はないだろう」
「うぐ……」
十代が不満げに言うも準は一蹴。そう言われればなすすべもないのか十代は押し黙るもめげずに口を開く。
「だけど、俺はお前に負けてから色々頑張ってんだ! だから留学から帰ってきたらまたデュエルしようぜ!」
睨むような、それでいて楽しそうな声。それを聞いた準もフンと鼻を鳴らしつつ頬を緩ませる。
「考えておこう。お前が俺が戻ってくる前に学校を追い出されていなければの話だがな」
「なんだよそれ?」
準の言葉に十代がまたも不満気に唇を尖らせる。と、準は呆れたような目で十代を一瞥した。
「噂には聞いているぞ。立ち入り禁止とされている廃寮に潜り込んだ件で、お前退学寸前だとな」
「ぎくっ……い、いやでも俺と翔がタッグを組んで、クロノス先生が用意するっていう相手に勝てば退学取り消しなんだし……」
「それが簡単に出来ればな。ま、せいぜいあがくといい」
そこで話を終わりにするつもりか、準は十代から視線を外して彼に背を向けると、ノース校へと向かう潜水艦の方に歩みを進める。
「「行ってらっしゃい! 万丈目さん!」」
「お身体には気をつけてくださいね」
「ほなな~」
取巻と慕谷が大きく手を振ってそれを見送り、彰子も控えめに手を振って続く。百合もひらひらと手を振り、十代と翔も合わせて手を振っていた。
「慕われているようで何よりだよ」
「ええ。自慢の友人達です……一部を除いて」
市ノ瀬も慕う友人がいる程度には問題児ではなさそうと思ったのか朗らかに言い、準も小さい声でそう答える。
そして潜水艦上部のハッチからまず市ノ瀬が乗り込み、続けて準が乗り込もうとするその時、準は見納めというようにデュエルアカデミアに目を向けた。
(しばしの別れだ。さらば、デュエルアカデミア)
そう心の中で言い残し、準は潜水艦に入る。そしてそのハッチが堅く閉じられたのだった。
《後書き》
という訳で万丈目ノース校留学です。なお本作ではノース校側の留学生である江戸川遊離君ですが、原作では生徒会長と言われてたので(ランキング一位なら学年に関わらず生徒会長になる的な校則があるなら別として)三年生だと思いますが、流石に三年が一年に負けてたら威厳がないにも程があるので一年生にする事含めノース校周りの設定を多少改変しております。ご了承ください……というか先にぶっちゃけますがノース校周りめっちゃ改変します。詳しい事はその時に説明しますが。
またそれに伴い(正直前々から追加するべきだっただろうがすっかり忘れてた)『独自設定』等のタグを本作に追加いたしました。
で、十代にしれっと登場してもらって軽く言及してもらいましたが。実は現状十代視点のアニメ基準の進捗度は「少なくとも七話までは終わってる」「八話も終わってるかも」「あるいは九話まで進んでるかも」「少なくとも十話まで話は進んでいない」程度です。(クッソ雑)
そして前々から言っていた「おおまかな流れが確定するまで置いていた」分はここまでで終了です。最終的にざっくり言えば「万丈目がノース校へ修行(留学)に行くに辺り、少なくとも光と闇の竜は封印する」っていうのは決めていたんですが、そこに加えて封印するカードの選定に時間をかけていた感じです。そして最終的に宝石ドラゴン(とドラゴンに乗るワイバーンセット)が封印対象に選ばれました。お気に入りカード全て封印する覚悟で万丈目は武者修行に赴きます。
一応この次の話をどうしようかは決めていますが、ここ三週間やっていた定期的な投稿はないと思ってください。そもそも置いていたものを一気に投稿するのもあれだからと三週間に分けて投稿していただけであって、次の話を来週までに書き上げられるという保証はありません。
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。