遊戯王GX~もしも万丈目兄弟の仲が良かったら~   作:カイナ

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第十七話 ノース校の洗礼

 デュエルアカデミア中央校での江戸川の短期留学生挨拶とエキシビジョンマッチが行われている頃、準はノース校行きの潜水艦に乗り込みながら、ノース校の校則等の簡単な説明やこの先の段取りの確認等を行っていた。

 そしてついにノース校に到着し、準はノース校から支給された防寒服を着ると先導するノース校の校長――市ノ瀬に続いて潜水艦を出る。

 

「さむっ……」

 

 準の第一声はそれだった。

 だが実際それもそうだろう。潜水艦を出た準を出迎えたのは氷の大地、まさに極寒の世界。防寒具を着ていてなお思わずそう言ってしまうのも頷けてしまう程だ。

 そんな準の前で同じく防寒服に身を包んだ市ノ瀬がニヤリと笑みを浮かべる。

 

「ようこそ、ノース校へ」

 

「ここがですか?」

 

「ああ。普通は生物も住めぬ極寒の世界、この極限の地、ハングリーフィールドにていかなる状況からでも這い上がろうとするハングリー精神を鍛える。それがノース校にて多くの生徒が行う事だ」

 

 市ノ瀬は準にそう説明しながら氷の地を歩む。準もその後を慌てて追って歩き続ける中、準は氷の地に降る雪の中に何か埋まっているものがあるのを目ざとく見つけ、そっちの方に歩み寄り拾い上げる。

 

「カードプロテクター?」

 

「見つけたようだね」

 

 見つけたのはカードを守るプロテクター。準が首を傾げるといつの間にか自分に歩み寄っていた市ノ瀬が声をかけてきたのに気づき、準ははっとした顔で立ち上がると彼に向き直る。

 

「し、失礼しました」

 

「いや、かまわんよ。我が校独自のカリキュラムの一つについて実際に説明しようとしていたところだ。ちょうどいい」

 

 慌てて謝る準に対して市ノ瀬は朗らかに笑ってそう言い、準がさっき拾ったカードプロテクターを指して「それに入ったカードを見てみなさい」と示す。

 

「これは……[ヤマタノ竜絵巻]?」

 

 カードプロテクターの中に入っていたのはレベル2、攻撃力900、守備力300の通常モンスターという、正直に言えば単体ならば雑魚モンスター。それが何故こんなところに落ちているのかと首を傾げる準に市ノ瀬は説明するように口を開いた。

 

「これがノース校の独自カリキュラムの一つ、カード拾いだ。この地には日々たくさんのカードを特製のカードプロテクターに入れて撒いている。ハングリーフィールドのクラス、ハングリークラスに所属する生徒はこれを探してデッキを強化、いらないカードならば購買部で売ってポイントにする事で欲しいパックやカード等の入手に繋げられる……ああ、カードプロテクターは可能な限り教職員や購買部等に提出してほしい。それもタダではないのでね」

 

 妙に世知辛い事情も聞かされるが、特製のカードプロテクターは雪や氷による湿気等からカードを守るために防水性や防湿性、強度等に拘った特注品であり、万一の紛失もないように小型の発信機まで取り付けていると説明されれば仕方がないかと準は納得し、面倒なので中身のカードを抜くとその場で市ノ瀬に提出した。

 それから再び歩き出した二人に遠目に見えてきた、大きなドーム状の建物を市ノ瀬は目配せで示す。

 

「そしてハングリークラスに所属する生徒達が目指すのが実戦即ち実技において優秀な成績を収めた者のみが入る事が出来るグローリーフィールドのクラスに所属するグローリークラスだ。中央校風に言えばグローリークラスに所属する生徒はオベリスクブルー、ハングリークラスに所属する生徒はラーイエローやオシリスレッドというべきかな?」

 

 厳しい飢餓の世界(ハングリークラス)に身を置いて己を鍛え、栄光の世界(グローリークラス)に勝ち上がれ。ノース校のおおよその校風はこのようなものだろう。

 

「そのグローリークロスに行くにはどうすればいいのでしょうか?」

 

「良い質問だ。これも簡単に説明したと思うのだが、我がノース校は実戦的な校風であり、その一環としてデュエルの結果に応じた厳しいランキング制度を定めている。生徒はそのランキングの上位50名までがグローリークラスに昇格する」

 

 もちろん生徒の総数によっておおよそ変動はするが、今年はそうなっている。と補足し、市ノ瀬は準に一個の機器――中央校でも使われている通信端末通称PDAを渡すと確認しなさいと促し、促された準もPDAの電源を入れて中身を確認する。

 

「これは……ランキングの数字ですか?」

 

「そう。君には……というか交換短期留学生には特別にランキング50位、つまりグローリークラスに入れるギリギリのランクが留学初日に与えられる」

 

 より厳密に言えばグローリークラスの50位であり、ハングリークラスではまた個別にランキングが1位からそこに所属する全生徒分のランキングが与えられるそうだ。

 

「ああちなみにそれ、ハングリーフィールドで万一遭難した時のための緊急通報装置や通報を受けて救助に行く際に目印にするためのGPS、周囲に自分がここにいると示すアラーム機能とか色々ついているから。失くしたら命に関わるからね?」

 

「……」

 

 さらっとついでに話すような事ではない凄い重大な事を教えられ、思わずPDAを握る手に力が籠る準であった。

 

「そしてそのグローリークラスとハングリークラスの境目、グローリークラスの45位~50位、ハングリークラスの1位~5位は週に一度交換戦が行われ、グローリークラスの生徒はハングリークラスの生徒に負ければそのハングリークラス生徒のランクと自分のランクを交換する」

 

 気を取り直して市ノ瀬の説明が続く。

 例えばグローリークラスの45位はハングリークラスの1位とデュエルをし、もしグローリークラスの生徒が負ければその生徒はハングリークラスの1位となり、ハングリークラスの生徒はグローリークラスの45位にランクアップするという事だ。

 

「俺が今その交換戦を行うならばハングリークラスの5位の生徒と戦う。そしてもしも負ければハングリークラスの5位に転落し、この地で鍛え直し。というわけですね」

 

「呑み込みが早いようで助かるよ。故にハングリークラスに所属する生徒はまず1位~5位に勝ち上がる事を目指し、グローリークラスに所属する生徒は次の交換戦までの間に44位以上に勝ち上がる事を目指す」

 

 44位まで勝ち上がれば交換戦に出る事はなくなり、ハングリークラスに落ちる事もなくなるという事だろう。

 

「もちろん皆の最終目標はグローリークラスの1位だ。まあ、皆の上に立つという栄光はもちろんだがランキングが上になればなるほど、日々支給されるDPが多くなるなどの優遇措置が出るからね」

 

 栄光はもちろん俗物的なものも含まれるとはいえ、実技重視の校風の中、熾烈なランキング制度で上を目指す。実戦経験を積むにはうってつけだ。と改めて思いつつ、準の頭に一人の生徒が浮かぶ。

 

「遊城のやつ、こっち(ノース校)の方が向いてるんじゃないか……?」

 

「遊城?」

 

「ああ、いえ。あっち(中央校)の知り合いです。お世辞にも学科の成績は良いとは言えませんがデュエルの腕は侮れない者でして、つい」

 

「ははは、それはたしかにこっち向きかもしれん。その子が留学できなかったのが残念だ」

 

 準の呟きに興味を持った市ノ瀬は話を聞けば朗らかに笑う。しかし今回の留学には関係ないと準は首を横に振って頭の中から十代の幻影を追い払い、市ノ瀬に向き直す。

 

「それで、その交換戦というのは次はいつ行われるのでしょう?」

 

「ああ、もちろん気になるだろうね」

 

 さくり、と雪を踏む市ノ瀬の足が止まり、彼は後ろを歩く準の方を振り返るように踵を返す。

 いつの間にか二人はハングリークラスとグローリークラスを隔てるような巨大な門へとたどり着いていた。そしてそこにはその門に背を向けて立つ四人の生徒と、彼らと相対する五人の生徒が立っていた。いや、その相対する生徒達の後ろにはまるで観戦するかのようにさらに多くの生徒が立っている。

 

「今日だよ」

 

「……は?」

 

 そんな中、なんでもない事を言うかのような市ノ瀬の言葉に準は思わず呆けた声を出した。その呆けた声を聞いた市ノ瀬が、イタズラが成功したかのようにニヤリと笑う。

 

「ああ、言い忘れていたね。実は交換短期留学初日の歓迎とでも言おうか、留学生が来る日は特別に交換戦が行われるようになっているんだ。君は今ここでハングリークラスの五位とデュエルをし、勝てば晴れてこの栄光への門を潜り、グローリーフィールドに足を踏み入れられる。しかし負ければハングリークラスの五位になってこのハングリーフィールドで来週まで鍛え直してもらう事になる……ああちなみに、去年の留学生はこの特別交換戦で負けてハングリークラスに落ちてから交換短期留学終了までずっとハングリーフィールドを彷徨う事になったよ」

 

(この人、わざと今まで言わなかったな……)

 

 突然これを明かす事でプレッシャーをかける腹積もりなのだろうか、随分と腹黒い事を考える。と準は思うがしかし元々こちらもこういった実戦で経験を積むことが目的。その第一歩で躓いていられないと目に力を籠める。市ノ瀬もその目を見てよしと頷くと、ノース校の生徒の方を振り向いて声を張り上げた。

 

「留学生も到着した! それではこれより特別交換戦を行う!」

 

『おう!!!』

 

 市ノ瀬の声に負けじと生徒達も声を上げ、それぞれ自分のランキングに対応した生徒を前もって確認しているのか迷いなく自分が戦うべき相手と相対。

 ノース校の対戦相手がいない相手が自分の戦うべき相手なのだろうとあたりをつけて準はその相手の前に立つ。

 

「特別交換戦、開始ィ!!!」

 

『デュエル!!!』

 

 そして市ノ瀬の号令と共にデュエルの幕が上がるのだった。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 先攻を取ってドローするのはノース校の生徒、正確に言えばハングリークラスの生徒。他のデュエルでも一斉にハングリークラス側の生徒が先攻を取っている辺り、余程偶然が重なったわけでもなければ恐らくそういうルールになっているのだろうと準はあたりをつけながら相手の出方を見るように構えた。

 

「俺はモンスターをセット! カードを二枚セットしてターンエンドだ!」

 

「俺のターン、ドロー」

 

 しかし血気盛んそうな様子が伺えるハングリークラスの生徒が行うのは意外にも堅実というか相手に情報を与えずに守りを固める一手。ターンエンド宣言を受けた準も静かにカードをドローして己のターンを開始する。

 

「……俺は手札の[暗黒騎士ガイアオリジン]の効果発動! このカードは手札からレベル5以上のモンスター一体を墓地に送る事で手札から特殊召喚できる! 俺はレベル8の[フェルグラントドラゴン]を墓地に送り、暗黒騎士ガイアオリジンを特殊召喚! そして――」

 暗黒騎士ガイアオリジン 攻撃力:1600

 

 準の場に勢いよく現れ、馬を駆りフィールドを疾走する若き騎士、それは準の宣言と共に光に包まれた。

 

「――暗黒騎士ガイアオリジンは戦士族モンスターを生贄召喚する場合、二体分の生贄とする事ができる! 俺は暗黒騎士ガイアオリジンを二体分の生贄にし、[暗黒騎士ガイア]を召喚!!」

 暗黒騎士ガイア 攻撃力:2300

 

 若き騎士を包む光が弾け飛び、その光の中からまるでその騎士が一人前に成長したかのような騎士が姿を現す。「いきなり最上級モンスターを!?」とハングリークラスの観客が驚く中、その騎士は己の愛馬と人馬一体の如くさらにスピードを上げて相手フィールド目掛けて疾走。

 

「バトルだ! 暗黒騎士ガイアで守備モンスターを攻撃!! スパイラル・シェイバー!!」

 

 騎士の勢いに乗るかのように攻撃を指示する準。

 その双方の勢いが乗ったかのような騎士の槍が螺旋を描きながら、ハングリークラスの生徒の場の守備モンスター――まるでUFOを背負ったような格好の亀――を貫き粉砕。同時にまるで炎が燃え上がったかのような爆発がフィールドを包み込む。

 

(あれは[UFOタートル]……ちっ、後続を呼ばれたか……)

 

 爆発が発生する一瞬で敵モンスターの正体を見抜いた準はその効果により後続を呼ばれる事に心の中で舌打ちを叩きつつ、しかし敵の手を一手見抜いただけでもよしとするかとしつつ爆発の煙がやむのを待つ。

 

「……なにっ!?」

 

 しかし煙が晴れた時、準の驚きの声が響いた。

 ハングリークラスの生徒の場にUFOタートルがいる。それ自体はいい、UFOタートルの効果で同名カードをリクルートしたのだろうという事が予想出来るのだから。

 しかしその隣にまるで火の玉のような存在がふよふよと浮遊している。その謎の存在に驚いた声を上げた準に応えるように、ハングリークラスの生徒がニヤリと笑って声を上げた。

 

「俺は暗黒騎士ガイアの攻撃宣言時に永続罠[魂のさまよう墓場]を発動していたのさ! このカードが既に魔法&罠ゾーンに存在する状態で、自分フィールドのモンスターが戦闘で破壊され墓地へ送られた場合に発動する。自分フィールドに[火の玉トークン]一体を特殊召喚する! UFOタートルの破壊をトリガーに火の玉トークンが召喚されたのさ!」

 UFOタートル 攻撃力:1400

 火の玉トークン 守備力:100

 

「それも狙いか……俺はリバースカードを一枚セットし、ターンエンド」

 

 リクルーターを戦闘破壊させ、後続を呼びつつさらにトークンを出してボードアドバンテージを取る。そこから最上級モンスターの生贄召喚に繋げたりあるいは加間のようにトークンの特性を利用して何か仕掛けてくるか、と準は思考を巡らせつつも流石にそこまではまだ分からないと結論づけるとカードを一枚伏せてターンエンドを宣言する。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 ハングリークラスの生徒が勢いよくカードをドロー。しかし彼はもうやることなど決まっているとばかりに手札を一枚取ってデュエルディスクに差し込んだ。

 

「魔法カード[ナイト・ショット]を発動! 相手フィールドにセットされた魔法・罠カード一枚を対象とし、そのカードを破壊する! さらにこのカードの発動に対して相手は対象のカードを発動できない!」

 

「ちっ…(…この隙に最上級モンスターの生贄召喚にでも繋げるつもりか……?)」

 

 伏せカードがチェーン発動すら許されず破壊され、準の場から迎撃の要となる伏せカードが消え去る。ここがチャンスだというようにハングリークラスの生徒がニヤリと笑い、準もこの先の相手の手を読もうとし始める。

 

「バトルだ! UFOタートルで暗黒騎士ガイアを攻撃!」

 

「なに!?」

 

 しかしハングリークラスの生徒は自爆特攻を指示。リクルーター使いならまあおかしい事ではないものの予想していた戦略とは全く違うものに流石に準も驚きつつ、暗黒騎士ガイアがUFOタートルを槍で貫き返り討ちにする。

 

「UFOタートルと魂のさまよう墓場の効果により、[UFOタートル]と火の玉トークンを特殊召喚! そしてUFOタートルで暗黒騎士ガイアを攻撃!」LP4000→3100

 UFOタートル 攻撃力:1400

 火の玉トークン 守備力:100

 

 さらにまたも自爆特攻を指示し、同じようにUFOタートルが暗黒騎士ガイアに返り討ちになる。

 

「このダメージ計算時にトラップ発動!」

 

 だがそこでハングリークラスの生徒が違う動きを見せた。

 

「[ダメージ・コンデンサー]! 自分が戦闘ダメージを受けた時、手札を一枚捨て、受けたそのダメージの数値以下の攻撃力を持つモンスター一体をデッキから表側攻撃表示で特殊召喚する! 俺が受けたダメージは900。よって俺は攻撃力500の[超熱血球児]を特殊召喚! さらにUFOタートルと魂のさまよう墓場の効果により、[プロミネンス・ドラゴン]と火の玉トークンを特殊召喚!」LP3100→2200

 プロミネンス・ドラゴン 攻撃力:1500

 火の玉トークン 守備力:100

 

「超熱血球児……クソ、それが狙いだったか!」

 

 UFOタートルによる自爆特攻とリクルートに魂のさまよう墓場による火の玉トークンの展開、準の頭の中でその意図の全てが繋がった。

 

「その通り! 超熱血球児はフィールド上に自身以外の炎族モンスターが存在する場合、その一体につき攻撃力が1000ポイントアップする! 俺の場の炎族モンスターは球児以外にプロミネンス・ドラゴンと火の玉トークン三体! よって攻撃力は4000ポイントアップだ!」

 超熱血球児 攻撃力:500→4500

 

 ハングリークラスの生徒の場でバッターボックスに入ったかのようにバットを構える超熱血球児の瞳の中で炎が燃え上がり、彼を包み込むような炎のオーラが沸き上がる。

 それを見たハングリークラスの観客達もまるで満塁のチャンスに四番バッターが打席に立ったかのような盛り上がりを見せていた。

 

(攻撃力4500の超熱血球児で暗黒騎士ガイアを戦闘破壊し、戦闘ダメージを与える。さらにがら空きになったところへのプロミネンス・ドラゴンのダイレクトアタックとプロミネンス・ドラゴンの効果によるバーンダメージであいつのライフは尽きる!……これで俺もグローリークラスに昇格だ!)

 

 これが彼がハングリークラスでもがいた末に生み出した必殺のコンボ。伏せカードがない今、このコンボ攻撃を防ぐ術はないと彼は準に指を突きつけた。

 

「留学生! お前に恨みはないがこれも弱肉強食の常! バトルだ! 超熱血球児で暗黒騎士ガイアを攻撃!!」

 

 ハングリークラスの生徒の攻撃宣言と同時に動き出すのは何故か準の場の暗黒騎士ガイア。

 彼はいそいそと馬を降りて槍を手放すとどこからともなく取り出した、彼の持つ槍の色に似た真紅のグローブを左手に身に着けてこれまたどこから取り出したのか野球のボールを握って投球のモーションに入る。

 

 [おおおぉぉぉぉっ!!!]

 

 そして雄たけびと共に剛速球を投球。しかし超熱血球児はそれを見切り、燃え上がる闘志と共にバットを振るう。これがボールに当たればホームランは間違いなしだろうという勢いだ。

 

「伏せカードがない状況を好機と見て攻め急いだな!」

 

 しかしそこに準の声が響く。

 

「俺は墓地の暗黒騎士ガイアオリジンの効果発動! 自分・相手のバトルフェイズに、墓地のこのカードを除外し、元々の攻撃力と異なる攻撃力を持つフィールドのモンスター一体の攻撃力を元々の数値にする!」

 

「な、なに!?」

 

「これで超熱血球児の攻撃力は元々の数値、即ち500となる!」

 

 突如超熱血球児を包む闘志が弱まっていき、勢いの削がれたバットはどうにか暗黒騎士ガイアの投げたボールに当たりながらもその威力に押されてしまい、ボールはふらふらと打ち上げられる。

 その打ち上げられたボールを暗黒騎士ガイアは冷静に捕球。ピッチャーフライに終わった結果に超熱血球児はがっくりと肩を落としながらバッターボックス、いやモンスターゾーンを去っていった。

 

「く……だ、だが魂のさまよう墓場の効果発動! 火の玉トークンを特殊召喚だ!」LP2200→400

 火の玉トークン 守備力:100

 

 しかし彼が去っていったことで空いたモンスターゾーンに火の玉が出現し、主を守る壁になる。

 

「メインフェイズ2に入り、永続魔法[暗黒の扉]を発動! このカードが存在する限り、互いのプレイヤーはバトルフェイズにモンスター一体でしか攻撃できない! そしてエンドフェイズにプロミネンス・ドラゴンの効果により相手ライフに500ポイントのダメージを与える! ターンエンドだ!」

 

「……」LP4000→3500

 

 プロミネンス・ドラゴンの放つ火球が準に直撃し、ライフを削る。

 

(くそ、計算通りならこの効果で終わってたはずなのに……でもまだだ!プロミネンス・ドラゴンは自身以外に炎族モンスターがいる時攻撃されない。暗黒の扉でモンスターの攻撃を抑えつつ火の玉トークンを壁に時間を稼いでプロミネンス・ドラゴンで削り切る!)

 

 超熱血球児の攻撃が決まらなかった時の予備プラン。元々攻撃は大体展開後の超熱血球児に任せる予定だったのもあり、モンスターの数に任せた連続攻撃で火の玉トークンを削られる事への対策も兼ねて採用した暗黒の扉によって時間を稼ぐロックバーンコンボ。

 まだこれが残っていると、ハングリークラスの生徒は諦めず食らいつく気概を見せていた。

 

(暗黒の扉でこちらの攻撃を抑制。その隙にプロミネンス・ドラゴンの効果を最大限に利用して時間を稼ぎながらこちらのライフを削る算段か……なるほど、超熱血球児のコンボが使えない時の次善策も準備していたか)

 

 実戦重視という校風に偽りなし。切り札がやられたとしても二の矢を残す。切り札を倒したと油断すればその隙を逃さずに食らいつかんばかりの気概に準も「そうでなければ留学をしてきたかいもない」と微笑を浮かべる。

 

(しかし実際このコンボは厄介だな。こちらには既にアタッカー(暗黒騎士ガイア)がいるとはいえ、真正直に削っていてはキリがない)

 

 相手は適当な炎族モンスターを出せばそのモンスター自体とそいつが破壊された時に生成される火の玉トークンで二回分の壁になる。そうやって時間を稼がれてしまえば相手の目論見通りプロミネンス・ドラゴンのバーンコンボで削り切られかねない。

 

(普段なら相手のモンスターが全て炎属性という点を突いて[ドラゴンに乗るワイバーン]を出してダイレクトアタックを決め続けるダメージレースに持ち込むところだが……あいにく山本に預けてしまっているからな……まあ、ドローしてから考えるとしよう)

 

 この状況を打破できるデッキの最古参はあいにく休暇中。だがないものねだりをしていても仕方がないと、準はターンが回ってきているにも関わらず結局まだドローフェイズの通常ドローすらしていない事を思い出してデッキに指をかけた。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 そしてドローカードを手札に加えてから改めて戦術を考えようと、準はドローカードを見る。

 

「あ」

 

 気づけば、思わずそんな声が出てしまっていた。

 

「どうした?」

 

「ああ、いや失敬……まさかこれを素引きするとは思わなくてな……」

 

 対戦相手の呼びかけに準はやや気まずそうに苦笑し、ドローカードをデュエルディスクに差し込んだ。

 

「永続魔法[螺旋槍殺(スパイラル・シェイバー)]を発動! 自分の[暗黒騎士ガイア][疾風の暗黒騎士ガイア][竜騎士ガイア]が守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ相手に戦闘ダメージを与える!」

 

「か、貫通効果の付与だって!?」

 

「そう! これなら火の玉トークンの壁も関係ない! バトルだ! 暗黒騎士ガイアで火の玉トークンを攻撃!!」

 

 フィールドの中央に設置された暗黒の扉を暗黒騎士ガイアが潜り抜けると共に扉は閉じ、準の後続による攻撃を拒む。しかし後続が来なくても関係はない、そもそも準の場に他にモンスターは存在しないし――

 

螺旋槍殺(スパイラル・シェイバー)!!!」

 

「うわあああぁぁぁぁっ!!!」LP400→0

 

 ――この一撃で勝負は決するのだから。

 

 

 

 

「く……そんな……」

 

 準と戦ったハングリークラスの生徒ががくりと膝を折って崩れ落ちる。隣を見ればデュエルが終わった他のハングリークラスの生徒は彼と同じように崩れ落ちたり逆にガッツポーズを取っていたり、グローリークラスの生徒も同じようにガッツポーズを取ったり崩れ落ちたりと様々な反応を見せている。

 どうやらこれがここの恒例らしいなと、準は早速中央校とノース校の違いを理解しつつ、己が戦った生徒へと歩み寄った。

 

「いいデュエルだった」

 

「クソ、結局暗黒騎士ガイア一体にいいようにやられててそんな事言われて喜べるかよ」

 

「たまたま運がよかっただけだ。暗黒騎士ガイアオリジンを生贄に暗黒騎士ガイアを生贄召喚などという偶然が揃っていなければもっと苦戦していたさ」

 

 暗黒騎士ガイアオリジンを生贄という形で墓地に送っていなければ超熱血球児の攻撃を防ぐ術もなく負けていたし、暗黒騎士ガイアでなければ螺旋槍殺で貫通効果を付与してトドメを刺す事も出来ずもっと苦戦していただろう。

 

「むしろ超熱血球児が倒れてコンボが瓦解してもスムーズにプロミネンス・ドラゴンの効果と火の玉トークンの数を活かした一種のロックバーンに切り替えたのは見事だった。オベリスクブルー、厳しく見てもラーイエローでもトップレベルのプレイングだと思うぞ」

 

 そう語る準にハングリークラスの生徒はフンと鼻を鳴らして立ち上がった。

 

「そこまで褒めてもらえるのならありがたく受け取っておくよ。だがもう一度戦略の考えなおしだ。貫通効果っていう穴を見つけた以上はすぐに対策を考え直さないと、その穴を突かれてランキングが落ちるなんて洒落にもならない」

 

 ハングリークラスの生徒がこのデュエルを観戦していた生徒達をちらりと見ながらぼやけば準もなるほどと納得する。

 彼らはただ物見遊山でこのデュエルを見に来たわけではない。ここで負けてハングリークラスに落ちたあるいは残留した生徒は次の交換戦までの要注意ライバル。その戦術を研究し、対策し、勝利し、己のランキングを上げるための糧とするべく観戦をしていたのだ。

 

(プロならば手の内を研究される事も道理。今からその訓練を積ませていると考えればある意味合理的だな……)

 

 準はその在り方を内心で考察。そこもまた実戦的な教育方針であるノース校ならではの風習なのだろうと結論づけるとハングリークラスの生徒に声をかけた。

 

「ならば一つ、今のデュエルで気になった事を助言しておこう。お前は[ガリトラップ-ピクシーの輪ー]というカードを知っているか?」

 

「ん? いや……」

 

「自分フィールド上にモンスターが表側攻撃表示で二体以上存在する場合、相手は攻撃力の一番低いモンスターを攻撃対象に選択する事ができない。という効果を持つ永続罠だ。これをお前のデッキに組み合わせれば――」

 

「なるほど! 超熱血球児が立っていれば火の玉トークンが攻撃される心配はないし。プロミネンス・ドラゴンとならプロミネンス・ドラゴン自身の効果と組み合わせてロックをかけられるって事か……それなら火の玉トークンから倒されて超熱血球児が弱体化されるのを防げるし、ロックもさらに万全にできる……」

 

 ガリトラップ-ピクシーの輪-の効果を聞いた途端準の言いたい事を理解したかのように己のデッキの強化案として取り込み始める姿に、この柔軟さも流石だなと準が内心で頷いていると彼は意外そうな顔を準に向けた。

 

「お前、パワーデッキ使いのように見えてそんなカードへの知識もあるんだな」

 

「トークン使いのデュエリストが知り合いにいてな。それで同攻撃力のモンスターを並べてロックを決めつつ強化してビートダウンを行う凄腕だ。そのロックコンボの要となるキーカードなら勝手に覚えるさ」

 

 準はかつて中等部で切磋琢磨し、今は高等部で共に学ぶ学友を思い出しながらそう答え、その言葉にハングリークラスの生徒は笑みを見せた。

 

「ビートダウンとロックのコンボデッキ。気が合いそうだな……まあいい。ならそのカードをなんとしてでも見つけてさらにデッキを強化して、次こそお前に勝ってグローリークラスに昇格してみせるぜ」

 

「それは無理な相談だ」

 

 彼の言葉を準はひょいと肩をすくめて否定する。そして準は不敵な笑みを彼に向けた。

 

「俺は次の交換戦には出ない予定だからな」

 

 交換戦に出ない。つまり次の交換戦が行われる来週までにグローリークラスの44位以上に上がっている。そう言っている準の自信ある姿に彼は苦笑で答えるしか出来なかった。

 

「だからグローリークラスで待っている。俺の留学が終わるまでには上がってくるんだな」

 

 準はそう言い残し、他のデュエルも終わったらしく勝者、つまりグローリークラスへの昇格もしくは残留が決まった組への集合がかかったので歩き出す。負けた側も集合がかかったため、準とデュエルしたハングリークラスの生徒はそっちへと歩いていくのだった。

 

「ほう、勝利できたようだね」

 

「危ないところでしたが」

 

 準が歩いてきた事に気づいた市ノ瀬が声をかけると準も肩をすくめてそう答え、既に四人の勝者が門と平行になる形で並んでいる列の最後尾に並ぶ。

 最後に市ノ瀬がその五人の前に門を背にするような形で立った。

 

「ハングリークラスから勝ち上がった挑戦者、挑戦者を退けたグローリークラスの王者の卵、そしてデュエルアカデミア中央校からの留学生。君達は新たなグローリークラスの王者の卵と認められた。次の交換戦まで油断せず、栄光の道を行くがいい!」

 

 勇ましい言葉を終えて市ノ瀬が左手を掲げるとそれを合図にしたかのように門の上部が光を放ち、やがて巨大な門が王者の卵を迎え入れようとするかのように開き始める。

 

(ここがデュエルアカデミアノース校、グローリークラス……)

 

 デュエルアカデミアノース校への交換短期留学。準自身は武者修行と位置付けたそれの本番はこれから始まると言っても過言ではない。

 隣を見ればついにグローリークラスに勝ち上がったと喜びに満ち溢れながら我先にというように門を潜るハングリークラスからの勝者や、まずは一安心と言った様子ながら油断しないようにというようなしっかりした足取りで門を潜るグローリークラスからの勝ち残りがいる。

 自分も彼らに負けないようにしなければな、と。準は気合いを新たに栄光への門を潜っていくのだった。




《後書き》
 かなりお久しぶりです。今回のデュエル構成は大分前から定まっていたんですが……正直なんかモチベが上がらなくなってました。
 元々割とノリと勢いで書き進んでたやつなのでいよいよ危なくなってきたかな……?結構先の話や一部だけどこれ書きたいなってデュエル構成思いついてるから頑張りたいところなんだけど……。

 さて、今回登場しました本作のデュエルアカデミアノース校ですが。今回の話を見れば分かる通りめちゃめちゃ魔改造しました。
 まずそもそも「デッキを持っている事が入学条件」って時点で、万丈目はイレギュラーというか校長の策略というかでデッキを失くしたわけで普通デュエルアカデミア目指すならデッキくらい持ってて当然だろうって思ったわけで。
 なのでノース校の描写として明言されている「生徒一人一人にランクがついている(=ランキング制)」に着目してその部分を強調、「デュエル実技にとにかく特化した実戦的な形式を取っている」として原作でいう「デッキを組むためのカード集めを行う氷の地」を「本校でいえばレッドとかのランキング下位組の集まりであるハングリーフィールド」、「デッキを組み上げて入った西部劇みたいな街」を「本校でいうブルーみたいなランキング上位組のみ(原作での50人抜きどうのこうのを踏まえて上位五十位まで)が入れる場所であるグローリーフィールド」と改変しました。

 その上で「日々の生活の中で支給されるDPの加算倍率はランキングの順位に比例する」という設定にして日々の充実した生活やそもそもカードパックを買うにもDPが必要だから全生徒がランキングの上位を目指してデュエルを行うようになるとか、デッキを強化したいがカードを買うDPがない場合は原作の万丈目よろしくカードを拾い集めに行く事で自らカードを取りに行くハングリーさを鍛えるとか、下位組のランキング上位と上位組のランキング下位は入れ替わりの試験が頻繁に行われているとか、とにかく実戦重視やハングリー精神を鍛える的な風潮をイメージして作りました。
 ちなみに「生徒同士の合意が前提だけどアンティデュエルも校則上許可されている」という設定です。なおもしアンティデュエルを強要したとかそういう事が発覚すれば上位組は最悪即刻氷の地に蹴り出されて下位組が繰り上がりになったり下位組は大きくランキング下げられたりします。(笑)

 そして現状考えているストーリー構成的になんですが……多分しばらく万丈目の出番ないです。しばらくデュエルアカデミア中央校の視点が中心になる予定ですが、まあこっちの方が面白いかもってノース校視点のストーリーが思いつけばそっちに転がる可能性もありますのでどうなる事やらというところです。最近ペースも落ち気味ですし、気長にお待ちいただければ幸いです。
 では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。
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