【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在   作:Leni

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13.テイルズ・サガ・クロニクル2

 ゲーム開発部はミレニアムプライスの締め切り一週間前になって、ようやくゲーム作りに着手し始めたらしい。制作ゲームは『テイルズ・サガ・クロニクル2』。

 

 正直マジかよと思ったね。

 ゲーム制作に関しては素人の私でも分かる。一週間で『テイルズ・サガ・クロニクル』の規模のゲームを作るのは無茶だと。ちょいちょいとサンプル素材を集めて、RPGツクールを使って十五分でクリアできるゲームを作るんじゃないんだぞ。

 

 それだけ件の『G.Bible』なる開発ツールがすごいのかと思ったら、そんなことはなかったらしい。

 というか、『G.Bible』は、ゲームを作る上での格言が載っていただけらしい。バイブルは聖書を意味する言葉だが、聖書は聖書でも、救世主の言葉が載った新約聖書の福音書だったってことだね。

 

 当てにしていたツールが役に立たなくて、追い詰められたゲーム開発部。しかし、新入部員のアリスって子はプログラマーとしてとても優秀で、新作に必要なコーディングをまたたく間に終わらせたそうだ。すごいね。

 なお、シナリオライターを新規に雇っている余裕はゲーム開発部にはなかったらしく、プログラマー以外は前作と同じ面子で『テイルズ・サガ・クロニクル2』を作り上げたようだ。

 ……また川越ゲーが完成していないよね?

 

 さて、こんな他部の事情をなぜ私が知っているかというと、先生に頼まれたのだ。『テイルズ・サガ・クロニクル2』のテストプレイをしてほしいと。

 ミレニアムプライスの締め切り期間はもう過ぎている。ゲーム開発部は締め切り時間のギリギリ一分前に、ミレニアムプライスへのゲームデータのアップロードを終えたらしい。つまり、テストプレイをしても、ミレニアムプライスに提出したゲームデータを修正することは不可能である。

 

 それでもテストプレイをするのは……三日後のミレニアムプライスの結果発表より前に、webでゲームを公開するかららしい。つまり、私は先んじてゲームをプレイして、web版の修正箇所を見つけるのが任務ってことだ。先生経由の依頼だから、遊びじゃなくて立派なシャーレの仕事だ。

 

 さて、まずは積極的にバグを見つける前に、純粋な、いちプレイヤーとしてゲームを一巡だけ楽しんでみようか。

 

 そうして、三時間後……。

 

「……ヤッバ、何このゲーム」

 

 ヤバい。そう形容するしかなかった。

 

 別につまらないとかクソゲーの類とか、そう言いたいわけではない。

『テイルズ・サガ・クロニクル』特有の、危ないクスリでもキマっているのかというテキストはそのままに、突如ゲームオーバーに陥れてくるような理不尽さが撤廃されていて……不思議な魅力にプレイヤーを引き込もうとしてくる。

 

 レトロゲーム調の中に隠されたその独特の世界が、嫌味もなくスーッと脳に染みこみ……名作なのではないかと錯覚を与えてきて、いやいやそりゃないぜと突っ込みを自分に入れる。そんなゲームだ。

 

 いや、面白いんだよ。でも、手放しで名作良作とは言いたくない。なんというかこう……世間で評価はされてほしくないけど、自分だけはこのゲームのよさを知っていると自慢したくなるような……そんな代物にできあがっている。

 そんな事情を全て諸々飲みこんでこのゲームを形容すると、『ヤバいゲーム』だ。

 シナリオライターを新しく加えろとか言った以前の私は、とても的外れな意見を先生に告げていたというわけだね。人は成長するんだなって。

 

 ちなみに『ヤバいゲーム』というのは、シナリオやグラフィック、SE、BGM部分を評価したものだ。

 肝心のゲーム性、ゲームシステム及びプログラム面で言うと……スマホでマルチプレイを楽しめるという学生向けの機能が搭載されているのだ。すごくない?

 本当に一週間で作り上げたのか、これを。あの新入部員のプログラマーも、なんだかんだでミレニアムサイエンススクールに相応しい生徒だったってことだね。

 

 まあ、そんなことを私は先生に向けてメールで長文にして送ってやり……あらためて、バグがないかのテストプレイに入った。うん、スマホでマルチプレイ可とか、どんなバグが潜んでいるか分からないものね。

 

 それからミレニアムプライスが開催されるまでの三日間、私は『テイルズ・サガ・クロニクル2』にどっぷり浸かるのだった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 ミレニアムプライスは、なぜかエンジニア部のコトリが司会となって開催された。彼女の説明好きの性質が、司会に相応しいと判断されたのだろうか。

 会場には人が多数詰めかけ、さらにはミレニアム自治区内のテレビ局が生放送でカメラを回している。クロノスジャーナリズムスクールの報道部を始めとした他自治区のメディアも、生放送するレベルではないがいっぱい訪れているようだ。

 

『では、栄えある一位を発表します! 一位は、なんと! 我らがエンジニア部! 空飛ぶオートバイ、ライドロイドです!』

 

 コトリのそんな宣言と共に、会場内が歓声に包まれた。

 お、おおー。取っちゃったよ。ミレニアムプライス最優秀賞。私は観客席に隣同士で座っていたヒビキと共に、その場でハイタッチして喜び合った。

 

 しかし、こんなときなのに部長がいないんだよね。

 

「ウタハ部長、どこ行ったんだろ」

 

「ああ、それなら、ステージに……」

 

 ヒビキがステージを指さすと、そこにはステージの上で表彰されているウタハ部長の姿が見えた。おおう、そういうことかぁ。

 しかし、まさかアークスから持ちこんだ地球人への見せ札であるライドロイドが、最も優秀な製品として評価されるとはね。ゼロから開発したわけじゃないからズルをした気分はちょっとあるけど、最優秀賞の箔は販売の時にとても役立つので素直に称賛を受け取っておこう。

 

「でも、リクがプレイしていたゲーム、ランクインしなかったね……」

 

 ヒビキがそう言うと、私は「あー」と声を返した。

 ミレニアムプライスで結果を出さなかったら、ゲーム開発部は廃部。そうセミナーから通達されていたらしいが……でも、『テイルズ・サガ・クロニクル2』は今、キヴォトス中でムーブメントを起こしているんだよね。

 そこのところ、セミナーはどう評価を付けるつもりなのかな。そんなことを考えていたときのことだ。

 

『さて、ここで一つサプライズ! なんと今回、通常の入賞とは別に、審査員特別賞が設けられています!』

 

 コトリのそんなアナウンスに、会場内がどよめく。ミレニアムプライスの入賞は、上位七品目まで。

 だが、今回それ以外にも、一つ賞に選ばれる対象があるというのだ。

 

 会場がざわめいたまま、ロボットの大人審査員が前に出てきて、審査員特別賞の発表を始めた。

 

『審査員特別賞は……ゲーム開発部の『テイルズ・サガ・クロニクル2』です』

 

「わあー!」

 

 その名が読み上げられるとともに、私は全力で歓声を上げていた。

 マジかよ。私の『テイルズ・サガ・クロニクル2』が審査員特別賞? うわー、ゲーム開発部存続! 先生、快挙だー!

 

 その後、審査員から、今回の審査員特別賞を設けた理由について語られる。

 なんでもミレニアムプライスは『実用性』を重視した催し物。そんな中、実用性とはほど遠く、それでいて未来を感じさせてくれるゲームが注目され、『テイルズ・サガ・クロニクル2』がこの賞に相応しいと判断されたのだとか。

 

 うんうん、私はバグ探ししか手伝えなかったけど、『テイルズ・サガ・クロニクル2』が評価されたのは我がことのように嬉しいよ。それだけ、あのゲームを好きになったって事なのかな?

 ここは後方腕組みして「ゲーム開発部が評価されて私も鼻が高いよ……」とかやるべきかな!? いや、それをやるべきなのは先生か。

 

 あ、そうだ。先生にお祝いのメッセージを送ろうっと。それと、エンジニア部とゲーム開発部で合同のお祝い会ができないか打診してみよう。

 うん? ヴェリタスも混ぜていいか? おっけーおっけー。

 

 うーん、セミナーへの襲撃には私、参加しなかったから一人だけ場違い感がある組み合わせだけど……。ま、いっか。ゲームのプレイヤーの一人として、ゲーム開発部のメンバーに熱い感想語りをしようじゃないか。

 

 と、そんなノリとテンションででお祝い会に行ったら、ゲーム開発部にはすごく喜ばれたものの、エンジニア部やヴェリタスのメンバーには引かれてしまった。

 いや、あんたらも『テイルズ・サガ・クロニクル2』面白い言うてたやろがい!

 

「でも、廃部撤回じゃなくて廃部延期かぁー」

 

 ゲーム開発部の双子の赤い方、モモイがそんなことを不意にぼやく。

 

 そう、ゲーム開発部に対しセミナーが下した判断は、次の学期の終わりまでの部の存続。正式に廃部は撤回されなかった。

 なんでも、ミレニアムプライスではあくまでおこぼれの特別賞をもらっただけで、正式な入賞扱いである七位以内に入れなかったかららしい。

 

 わたし的には、特別賞も立派な入賞だと思うし、それよりも『テイルズ・サガ・クロニクル2』がキヴォトスで流行っている事実は大きいと思うんだけどね。

 ただ、まあ。ゲーム開発部が主体となってセミナーを襲撃したのは事実なので……そこは仕方ないのかもしれないね。

 いや、もしかしたら、先生を盗られたユウカ会計の個人的な嫉妬の可能性とか?

 

 先生を先に好きだったのは、ユウカだったのに。BSSの一種かな?

 

「まあ、次回のミレニアムプライスは二学期開催だし、今度は一週間で制作するなんて無茶をしなくていいんだから……今度こそ有無を言わさぬ名作を作ればいいんじゃない?」

 

 私が無責任にそう言うと、お祝い会に参加していた先生が「"そうだね"」と合いの手を入れてくれるが……。双子の緑色の方、ミドリの反応はというと。

 

「そんな簡単に名作ができたら、苦労しないよ……」

 

 ま、そりゃそうか。

 ただ、『テイルズ・サガ・クロニクル2』の一ファンである私としては、ぜひ次回作も楽しませていただきたいところである。

 

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