【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在 作:Leni
14.全ての始まり
▲MomoTalk ⍰
| 今はトリニティに来ているよ |
| 補習授業をしてほしいんだって |
| 部活動の顧問の次は補習! |
| いかにも先生っぽい仕事だね |
| 最初の廃校阻止とはなんだったのか… |
| アビドスのみんなは元気かな? |
| それだけど |
| まだ工場稼働していないのに |
| 予約たくさん取ってきてくれてウハウハですわ |
| お給料弾んであげてね |
| モチ! |
| ちなみに補習授業の件だけど |
| 落第したら留年じゃなくて退学だって |
| またその展開!? |
いやー、先生って大変だ。私ならあんな仕事を生業にしたくない。脳死でダーカー殴っていた方が万倍マシだな!
さて、ミレニアムサイエンススクールから安藤先生が去り、その一方で私は起業までようやくこぎつけた。
ミレニアムの生徒会、セミナーの人達には会社という形ではなく、物を製造して販売することを主目的とした部活動という形を勧められたのだが……。当然断った。
だって、部活動って形だと、卒業したら離れないといけないんだよ。
アビドスの五人と私を含めたエンジニア部の四人が卒業後、その部活動から離れたとして。新入生がその部活動に入らなかったら、廃部ということになってしまう。
そうしたら、せっかくのアビドス自治区を救うためのプランが全部おじゃんになってしまうのだ。
まあ、私自身は、いつオラクル船団の迎えが来てもいいように、引き継ぎの準備はしてあるのだけれど……。
あと、会社と部活動の理念の違いについても、セミナーには話した。
会社は利益を上げることが活動の目的。部活動は生徒が集まってなんらかのを活動をすること自体が活動の目的。で、こちらとしてはアビドスに富をもたらしたいので、私が作るのは会社である必要がある。
そう言ったら、ユウカ会計は大人しく引き下がってくれた。本社をミレニアムではなくアビドスに置くことに、苦虫を噛みつぶしたような顔で承認していたのが印象深い。
ユウカ会計も、アビドス廃校対策委員会のためにシャーレ軍へ援軍として参加していた。だから、アビドス自治区に本社を置いて、アビドス生徒会に税金を納める理由もちゃんと理解している。
でも、それはそれとして、彼女はミレニアムの統治者であるセミナーのメンバーだ。確実に稼ぐ企業が他の自治区に行くことを苦く思うのは、仕方ないことなのだろう。
ともかく、起業は無事完了。『エーテルフォトニクス社』の社長として、バンバン稼いでいくぞー!
「とはいえ、いちいち手作業でライドロイドを一台一台作ってなんかいられないよね」
エンジニア部の工房で、私は隣で作業をしているヒビキに言う。
「当然。私達には、A.I.Sを作るという崇高な使命がある」
「なら、やっぱりライドロイドは、オートメーション化して工場生産できるようにしないとねー」
「生産マシンの製造は任せて。でも、工場の土地確保とかは全部任せる」
「おっけーおっけー。まずはカイザーコンストラクションとの土地売買の交渉よりも、アビドス生徒会が所持している土地を借りる方向かなぁ……」
さあ、忙しくなってきたぞー。でも、もう少しで夏休みが取れるから、本格的な活動は休みに入ってからになるのかなぁ。
◆◇◆◇◆
アビドスのロリおじさんホシノと交渉して、アビドス生徒会が所持しているアビドス自治区内の小さな廃工場を借り受けた。
もとは町工場だったらしく、建物も廃墟と言うほどにはなっていない、しっかりした箱だ。
ちなみに工場長として雇ったのは、もともとこの町工場を所持していた人の息子さんだ。見た目は直立する白猫。うん、キヴォトスって、ヘイロー持ちの女子生徒以外は、直立歩行する動物か人格を持つロボットくらいしか人間扱いされる種族っていないからね。
なのでヘイローを持っていない女子生徒の私は街中を歩くだけで二度見されます。「寝ながら歩いてんのか!?*1」って感じで。
「では、工場長。生産は任せましたよ」
一通りの製造マシンを配置し終え、私は白猫の工場長にそう話しかけた。
「おう、任せろ。この商品は売れるぜー。社長もすぐに億万長者だ!」
「売れる商品なので、不良が強盗に入る危険性がありますけどね」
「がはは、あの過剰すぎる防衛マシンをただの不良が突破できるとは、全く思えねえけどな!」
うん、ライドロイドの販売はエンジニア部の資金源でもあるので、エンジニア部のみんなが自動で動く防衛マシンを山ほど用意したんだよね。それにより、ただの町工場がどこの軍事基地だって感じになってしまった。
「あと、平日の日中なら、アビドス高校に救援を求めるのもありですよ。あそこの生徒達も、うちの社員ですからね」
「おう。ホシノの嬢ちゃん達か。いやー、俺っちは喧嘩はからっきしだからなぁ。情けないが、頼らせてもらうぜ」
「工場長には戦闘要員としてのお給料を払っていないので、無理に戦わなくていいですからね。それよりも、検品はしっかりとお願いします」
「任せろ! いやー、俺っちも一国一城の主かぁー!」
うん、一国一城が工場のことなら、この工場は私の会社の所有物で、土地はアビドス生徒会のものなんだけどね。
まあ、ここでそれを指摘しても空気が読めていないだけなので、「よっ、頼みますよ、大将!」と言って、彼の気分を盛り上げておく。
そうして工場を後にした私は、アビドス生のセリカのアルバイト先であるいつものラーメン屋に行き、チャーシュー麺をお腹いっぱい味わった。
それからミレニアムに戻った私は、エンジニア部に寄らずに寮へと直帰した。
「どれだけ売れるかな、ライドロイド」
すでに予約は埋まっている状況で、予約分を売ったらさらに設備投資をしていく予定だ。
さらに、エーテル通信の面でも、銀行から融資を受けられる話が付いている。キヴォトスに通信革命が巻き起こる日も近いだろう。
先行きは、明るい。
もう、オラクル船団からの迎えが来なくてもいいかなー、なんて思い始めた、そんな初夏の一日だった。
◆◇◆◇◆
そんな感じで学生と社長を兼任して働いていたら、今までに取引があった企業経由で、トリニティ総合学園から仕事の引き合いが来た。
内容は、アビドスとミレニアムで建設準備を進めている『エーテル通信塔』をトリニティ自治区にも置けないかという話だ。
エーテル通信は既に『エーテルフォトニクス社』が発表済みの技術だ。そして、『エーテルフォトニクス社』の開発室のメンバーは、先日のミレニアムプライスで一位を取ったミレニアムサイエンススクールのエンジニア部の部員ということも発表していた。
そのことから、新しい通信技術『エーテル通信』は、キヴォトスのいろいろな企業や学園自治区自治体が注目をしていた。
エーテル通信は、今までの電波や光回線を軽く超えるもので、広大なキヴォトス*2で一切の遅延なく大容量のデータをやりとりできる。
ラグが解消できるとあって、通信のインフラを扱う立場の者達だけでなく、オンラインゲームを扱うゲーム会社や、データセンターなどからも問い合わせを受けている状況だ。
そこにきて、今回のトリニティからの引き合い。こりゃ、受けるっきゃないでしょ。
「リク、本当に一人で行くのかい? 相手はトリニティのティーパーティーの一人だよ」
エンジニア部の部室で引き合いの話をウタハ部長にしたら、そんな言葉が返ってきた。
「大丈夫、大丈夫。なんでそんなに心配しているの。ああ、トリニティは陰湿なお嬢様校っていう噂でも信じたのかな? 少なくとも、正実と自警団の人達はまともだったよ」
私のそんな返答に、ウタハ部長は渋い顔をする。
「そうではないよ。そうだね……簡単に言うと、トリニティのティーパーティーは政治モンスターという話なんだ」
「うん……?」
「トリニティはミレニアムに匹敵する巨大な学園だ。でも、総合学園という名が付いていることからも分かる通り、複数の派閥が一つの学園に集まっている形を取っているんだよ。それをまとめ上げているのが、ティーパーティーだ」
「んー、ティーパーティーは生徒会なんだよね?」
「厳密には、違うかな。ティーパーティーは、『生徒会の群れ』だ」
「……ん? どゆこと?」
「トリニティを構成する三大派閥。それぞれが独立した生徒会であり、ティーパーティーは三つ生徒会と三人の生徒会長が集まった複雑な集団なんだ。それはすなわち……」
ウタハ部長はもったいぶるようにして言葉を引き延ばし、告げる。
「巨大な派閥の長達が集まって、バチバチの政治劇を繰り広げる場がティーパーティーということだよ。その環境下で今日まで平然と生き残ってきたのが、生徒会長の三人さ。そんなメンバーのいるところに、一人で会いに行くんだ。取って食われないか心配だよ」
「あー、どこの学校も複雑な事情があるんだねぇ……」
トリニティがアレなのは分かった。でも、ミレニアムだって十分にアレだ。いつもどこかの部活が発明品で周囲に迷惑をかけている学園である。
ちなみに、ミレニアムの最高学位が『全知』らしいけど*3、それを聞いたときは思わず吹き出しちゃった。全知を名乗るとか、全知存在に憧れたルーサー*4が化けて出そうだ。
ちなみにアークスの私にとっての全知と言えば、アカシックレコードの司書である全知存在、水の惑星シオン*5だ。私はシオンに会ったことないんだけどね。
「だから、騙されてひどい取引をしてこないようにね。いざとなったら、トリニティに出向しているらしい安藤先生を頼るんだよ」
「はいはい」
もう、あなたは私のお母さんか。ウタハママー!
ともあれ、私はエーテル通信事業の詳細資料をひっさげ、ライドロイドに乗ってトリニティ自治区まで飛んでいくのであった。