【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在   作:Leni

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16.ワンマン社長の営業日誌

 商談を無事に終えた私は、トリニティの校舎内を徒歩でゆっくりと移動する。

 ミレニアムの制服を着た私は、トリニティ生達の注目を見事に浴びてしまっているが、話しかけられるようなことはない。まあ、他校生がいるからって、堂々と歩いていればそうそう話しかけられないよね。

 

 と、思っていたんだけど。

 

「ねえねえ。あなた、『エーテルフォトニクス社』の社長さんだよね?」

 

 はい、話しかけられました。

 誰だよ、ミレニアム生にいきなり話しかける勇気あるお嬢様は。

 

「はい、『エーテルフォトニクス社』の社長の道上リクと申しますが、どちら様でしょうか……?」

 

 因縁を付けるなら、そちらの所属を明らかにしてもらおうか、という牽制目的で素性を尋ねた。だが、返ってきた肩書きは、思いも寄らぬビッグネームだった。

 

「ティーパーティーの聖園(みその)ミカだよ。パテル分派を率いている生徒会長ってことになるのかな?」

 

 お、おう……ナギサ生徒会長に続いて、新たな生徒会長とのエンカウントかぁ。

 手入れの行き届いたピンク髪に、白い制服。いかにもお嬢様って感じがする。

 

「よろしくお願いします。して、何用でしょうか。なにぶん次の仕事があるため、時間はそう取れませんが」

 

「あはは、ごめんごめん。じゃあ、いきなり本題に行くけど……社長さんはエーテル通信塔を建てるためにトリニティに来たんだよね?」

 

「そうですね。ナギサ生徒会長から引き合いをいただきました」

 

「それなら、エーテル通信塔の説明資料って余分にあるかな? 会社発表の物より詳しいなら、是非とも欲しいなっ!」

 

「それでしたら……はい、こちらをどうぞ」

 

 持参してきた資料はまだたくさんある。相手は部外者というわけでもないし、一人分余計に配ることは問題ない。

 

「ありがとう。ちょっと読ませてもらうね」

 

 私から手渡された資料を受け取ったミカ生徒会長は、その場に立ちながら資料をめくった。

 実のところ、私はこのあと次の仕事があるわけではない。なので、しばらく彼女に付き合うことにする。

 

「んー、このエーテル通信って、普通のスマホでも動くの? 買い換えになる?」

 

「従来のスマホなら、専用のケースを取りつけることで通信が可能になりますね。それと、資料のここをごらんください」

 

 私は手元にもう一部用意した資料をめくり、『特別広域緊急警報の機能』の項目を指し示した。

 それを見たミカ生徒会長は、少し驚いたような表情を浮かべる。

 

「そこにあります通り、緊急時はエーテル通信機能を持たないスマホ等の携帯端末に割り込みをかけて、警報を出すことができます。これは、エーテル通信塔を所持する自治体と、連邦生徒会が緊急時のみの使用権限を持つことになるでしょう」

 

「受信機もないのに伝わるんだ……」

 

「エーテル通信塔が、電波塔としても機能するためですね。あとは、携帯端末に標準搭載の災害通知機能を使います」

 

 エーテルの具現化能力を応用して、エーテル粒子を電波に擬態させるという新技術*1を使っているので、エーテル通信塔の圏内であれば、封鎖された密室だろうとしっかり電波が届くぞ!

 

「なーるほど。うん、分かった。パテル分派も、エーテル通信塔の建設に賛成の立場を取るよ。ナギちゃんと土地の選定で話し合わなくちゃだね」

 

 どうやら質疑は終わりのようなので、私は手元の資料をアイテムパックにしまいなおす。うん、バッグが要らないって便利。

 と、そうだ。ティーパーティーは三大派閥の長が集まる組織だったよね。となると、生徒会長はもう一人いるということで……。

 

「ミカ生徒会長。ティーパーティーの生徒会長は、もうひとかたいらっしゃいますよね? できれば、この資料を参考までにお渡しいただければ……」

 

 私がそう言って、再度アイテムパックから取りだした資料を差し出すと、ミカ生徒会長は資料を受け取ることなく、表情を引きつらせた。

 

「あー、サンクトゥス分派の生徒会長さんは、怪我で入院中なの。だから、通信塔の件は私とナギちゃんでやっておくね」

 

「おや、入院ですか。お大事にしてくださいとお伝えください」

 

「うん……」

 

 私は再び資料をアイテムパックに戻し、あらためてミカ生徒会長へと別れの挨拶を告げる。

 

「では、急ぎなのでこれで失礼します」

 

「わざわざ時間を取ってくれてありがとうー」

 

 そうして私は今度こそ誰にも邪魔されることなく校舎を出て、駐車場のライドロイドに辿り着いた。

 いやあ、しかし三人目の生徒会長は怪我で入院か。速効性のある傷薬が流通するキヴォトスで入院とか、ちょっとただごとじゃないな。相当な大怪我なんだろうなぁ。

 

 そんなことを考えながら、ライドロイドに乗る前にスマホへ誰かから連絡がきていないかチェックする。

 社長になったから、仕事メールや仕事メッセージは頻繁に届くようになったんだよね。

 お、やっぱりメールが来てる。相手は……シャーレの初期メンバーでゲヘナ学園風紀委員の火宮(ひのみや)チナツか。

 

『おつかれさまです』から始まる業務メールに書かれていたのは……ゲヘナからのエーテル通信塔建設の引き合いだった。

 

 なんでも、トリニティがエーテル通信塔を建てようとしていることを知ったゲヘナの生徒会『パンデモニウム・ソサエティー』、通称『万魔殿』。彼女達がトリニティに対抗して、自分達も通信塔を建てようと決めたらしい。

 

 ふむふむ。確かにナギサ生徒会長は、エーテル通信塔はエデン条約の象徴だ、みたいなことを言っていた。

 それなら、エデン条約の締結先であるゲヘナにもエーテル通信塔を建てるのは、何も間違ってはいないね。

 

 よーし、見事につかんだドデカい二つの建設案件、成功させるぞー!

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 ゲヘナの生徒会『万魔殿』。そこへ向かった私を待っていたのは、集団で囲んでの圧迫面接……もとい商談だ。

 そこでの質疑応答を簡潔に述べていこう。

 

 Q.建設費、安くならない?

 A.トリニティの人達ですら値切らなかったぞ。

 

 Q.不良生徒達に占拠されたらどうなる?

 A.軍事施設ではないので反撃能力は無い。通信を守りたかったらゲヘナで兵力割いてね。

 

 Q.導入したら生徒はどんな得をする?

 A.通信費が安くなって、月ごとの通信容量制限がなくなって、本当の意味での使い放題になる。エーテルは空間にただよう粒子なので、トンネルの中などでも問題なく通信が繋がる。

 

 Q.エーテルの幻創体って自由に出せるようにならない?

 A.そこまで出力は上がらない。上げたければ数十本単位での通信塔建設のご検討を。

 

 Q.ところでライドロイドって商品素敵だね?

 A.大絶賛販売中です。

 

 Q.ライドロイドと抱き合わせなら、建設費、安くならない?

 A.トリニティの人達ですら値切らなかったぞ。

 

 Q.貴様本当に強情だな!? そこは勉強しますって言って値下げするところじゃないか!?

 A.トリニティの人達ですら値切らなかったぞ。

 

 結果、値引きは無しになりました。やっぱりゲヘナにはトリニティの名前を引き合いに出すのが有効だなって。

 

「ミレニアムの道上リク……。キヒヒ、名前覚えたからな」

 

「『エーテルフォトニクス社』の社長ですぅ」

 

 ここでミレニアムは関係ないでしょ! トリニティではミレニアムの制服を着ていったせいで余計な注目を浴びたから、わざわざ今日はスーツ姿で来ているっていうのに。

 まったく、ゲヘナに目を付けられたなんてミレニアムのセミナーに知られたら、彼女達から何を言われるか分からない。なので、本当に勘弁してください! 値下げはしないけど!

 

 そんなこんなで、後日、契約書を交わして正式に決まった、トリニティとゲヘナでのエーテル通信塔建設事業。

 土地の下見も終わり、建設業者の選定も終わり、さっそくの施工となった。

 

 さて、ここでキヴォトスの一つの事情を話しておこう。

 キヴォトスは、頭世紀末な暴力に身を任せる不良生徒が非常に多い。

 なので、街中での銃撃戦は日常茶飯事。さらに、銃弾だけでなく砲弾や爆弾が飛び交うこともしばしば。なので、建物はよく壊れる。

 そんな事情から一つの特徴がキヴォトスには生まれた。それは、建物の建設や道路の敷設に必要な期間が、非常に短いこと。

 

 毎日のように破壊された施設や道路を修復していった結果、効率化を極めたキヴォトスの建設会社や土木系の部活動は、外の世界である地球とは比べものにならないほど早く作業を行なえるように進化しているのだ。

 

 そういうわけで、一瞬で基礎ができあがり、見る見るうちに足場が組まれていき……。

 そんな現場を定期的に確認するため、トリニティとゲヘナ、そして先に着工していたミレニアムとアビドスの建設地を巡回し続ける日々が始まった。

 

 忙しさから、エンジニア部に顔見せする日も減っていく。

 そして、地球でいうところの夏休みの時期が本格的に近づいてきた平日。その日も、いつものように仕事のためにゲヘナのホテルに泊まって、夜を明かした。

 だが、いつものような平和な一時は、その翌日にはやってこなかった。

 

 早朝からスマホに着信あり。ゲヘナ学園の風紀委員会所属、ヒナ委員長からの電話だ。

 私は寝ぼけ眼のままスマホを手に取り、電話に出る。

 

「もすもすー」

 

『リク、ちょっと聞きたいことがあるんだけど』

 

「はいはいー、朝からなんでしょ」

 

『安藤先生のことなのだけれど。先生、なぜか昨夜からトリニティの生徒達と一緒にゲヘナ自治区に来ていて……温泉開発部のテロに巻き込まれたの。……あなたは、このことについて何か知っている?』

 

「……知らないよ!? マジで何があったの!?」

 

 いつもの日常が、とんでもない非日常に切り替わった。

 

*1
PSO2原作には存在しない、本作のオリジナル技術。

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