【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在   作:Leni

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17.シャーレ部員達の勇み足

 モモトークで伝え聞いていた先生の現在の仕事。トリニティ総合学園の落第生達に補習授業を受けさせるというものだ。

 ただし、追試で赤点を取った場合、生徒は退学。そう聞きはしていた。

 

 だが、ゲヘナの風紀委員会に無傷で保護された先生の話を聞いたところ、事情はもっとややこしいものだった。

 

 まず、落第生は四人。この四人は、トリニティで臨時に作られた部活動、補習授業部に強制的に入れられている。

 そして、生徒達は合計で三回の追試を受ける。その追試で一回でも全員合格すれば、部活は解散。皆でトリニティ生としての日常に戻ることができる。

 しかし、追試で一人でも赤点を取れば、その回の追試は連帯責任で全員不合格。三回不合格になれば、全員まとめて退学である。

 

「……トリニティって、そこまで厳しいの?」

 

 ヒナ風紀委員長が首をかしげるが、先生の答えは否だ。

 トリニティ総合学園で退学者を出すには、規則に従って複雑な手続きを経なければならない。もちろん、連帯責任で退学なんて無茶は、規則上、絶対に不可能である。

 では、なぜそんな無茶が通ったかというと……先生が補習授業部の顧問に就任したことをいいことに、ティーパーティーのナギサ生徒会長が連邦捜査部シャーレの権限を使って、特別に退学処分を決めたそうだ。

 

 なぜ退学にさせようとしているかというと、この落第生達はトリニティの問題児が集まっているかららしい。

 そのメンバーの一人の名前を聞いて納得した。阿慈谷(あじたに)ヒフミ。以前、シャーレの軍勢がブラックマーケットに進出したときに保護したトリニティ生だ。

 

 彼女はブラックマーケットのマーケットガードに追われていたのだが、その理由がひどい。

 ブラックマーケットにキャラグッズをあさりにきたところ、彼女はチンピラに絡まれて逃亡した。その結果、なぜかブラックマーケットの一角が爆破炎上することになったらしい。

 闇市に出入りして街を爆破する。そんな問題児なら、ティーパーティーも退学処分にしたがるのも分かる。そう、分かりはするのだが……。

 

「先生、それ、本当? シャーレの権限で全員退学?」

 

 ヒナ委員長が、先生に念を押すように尋ねた。

 

「"うん、本当"」

 

 そんな先生の答えを聞いた瞬間、ヒナ委員長はいきり立った。

 

「先生、ティーパーティーに、はめられてるじゃない! それどころか、シャーレがなめられている!」

 

 まあ、そうだね。その意見には私も賛成だ。落第生の退学処分がトリニティ上層部の考えというのは、事前に先生からそれとなしに聞き出せてはいた。

 しかしだ。その退学処分が、まさかシャーレの権限を利用したものだなんて。

 これには、ヒナ委員長も私も、黙っているわけにはいかなくなった。

 

「リク! 今すぐシャーレ部員全員に通達! ネット会議を一時間後に開くわよ!」

 

「了解ー。はあ、今日は仕事どころじゃないなぁ……」

 

 ヒナ委員長と私が動き始め、先生は所在なげにたたずむ。そして、先生はヒナ委員長に向けて言った。

 

「"何をするつもり?"」

 

「シャーレの面子を保つ。それだけ」

 

「"生徒にひどいことはしないようにね"」

 

「悪い結末にはしないようにする」

 

 さて、それは誰にとっての悪くない結末になるんだろうね。

 ヒナ委員長を怒らせたら怖いと言うことは、アビドスの件で身に染みているんだよなぁ……。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 数日後、シャーレの部員一同から、トリニティ総合学園へ一つの通達が出された。

 それは、トリニティ総合学園のティーパーティーの一人、ナギサ生徒会長への非難声明。そして、生徒会長不信任案の提出だ。

 

 内容は、おおよそ以下の通り。

 

 連邦捜査部シャーレ部員一同は、トリニティ総合学園の生徒会長、桐藤ナギサに対する非難を声明する。

 桐藤ナギサは連邦捜査部シャーレの権限を私的利用し、個人な感情でトリニティ総合学園の生徒達に退学処分を与えようとしている疑いが持たれている。

 

 桐藤ナギサは先日、四名のトリニティ生を補習授業部なる臨時の部活動へ強制参加させた。

 そして、計三回実施する追加試験において、四名の生徒のうち一名でも規定の点数に満たなかった場合、四名の生徒全員に退学処分を下すと通達している。

 

 この退学処分はトリニティ総合学園の校則に則ったものではなく、連邦捜査部シャーレの権限を利用しての特別な処分である。

 なお、桐藤ナギサは連邦捜査部シャーレの所属部員ではない。補習授業部の臨時顧問となった安藤優の権限を桐藤ナギサが、無許可で利用した形となっている。連邦捜査部シャーレの部員一同は、この無許可の権限利用に遺憾の意を表する。

 

 さらに、四名の生徒に実施される追加試験についても、桐藤ナギサの個人的な感情による悪意ある行動が見受けられた。

 すでに実施済みの第二回追加試験では、試験範囲を本来の三倍に広げ、合格となる点数のラインを従来の六十点から九十点に変更。さらに試験会場をゲヘナ学園の敷地内とし、試験開始時間を深夜三時に設定した。なお、試験会場は試験開始直後に、何者かによって誘導されたテロリストによって爆破された。

 これらは明らかに生徒を落第させるための行為であり、成績不良の生徒への救済措置である追加試験という点から見ても、適切な内容であるとは言えないだろう。繰り返し述べるが、個人的な感情で生徒を退学させようとする、悪意ある行動である。

 

 これは由々しき事態である。

 トリニティ総合学園の生徒会長という栄えある立場を悪用しており、桐藤ナギサは生徒会長に相応しい人物とは到底見なすことができない。

 

 トリニティ総合学園とゲヘナ学園はエデン条約の締結を控えており、締結が為された際には両校に対する強い自治権を持ったエデン条約機構が設立される予定である。しかし、権力を私的利用する人物が、エデン条約機構の持つ強大な力を手にしたらどうなるか。その被害は両校だけで収まらず、他校へも波及する危険性がある。

 

 よって、我々、連邦捜査部シャーレ部員一同は、トリニティ総合学園に桐藤ナギサ生徒会長の不信任を求める。

 

 ……以上だ。

 トリニティ総合学園の正義実現委員会所属のハスミなどは、先生を傷付けられそうになった怒りを込めてこの文書を提出していたが……シャーレ部員内部からは、この対応はやりすぎではないかという声も上がった。

 ただ、そんな人に向けて、ヒナ委員長は言った。

 

「大人のやり方には大人のやり方で返す。理不尽には理不尽で返す。アビドスで私達がやったことの繰り返し。大人に対しては実行したのに、生徒に向けて実行しないというわけにはいかないでしょう? ……生徒を犠牲にする行為は、先生は褒めてくれないだろうけれど」

 

 この不信任案だが……実は先生を通していない。

 

 これは、生徒の怒りなのだ。私達の先生を陰謀に利用したナギサ生徒会長への、シャーレ所属部員一同の怒り。

 なので先生はこの件にノータッチ。多分、生徒思いの先生だから、ナギサ生徒会長を叩いて落とすようなこのやり方には賛成しなかっただろうね。

 

 先生を通していないということは、この不信任案には連邦捜査部の強制力が、一切働いていないということなんだけど……ただね。今のシャーレの部員って、それなりに名の知れた生徒が多いんだ。

 

 トリニティ総合学園では正義実現委員会、トリニティ自警団、救護騎士団のメンバーが名を連ねている。ゲヘナの風紀委員会もいる。ミレニアムに至っては生徒会であるセミナーがメンバーに入っているし、今をときめくベンチャー企業『エーテルフォトニクス社』の社長もメンバーだ。私のことだけど。

 

 そんな事実がある以上、トリニティ生達はこの表明を無視することはできないだろう。

 シャーレの権限を無断利用したナギサ生徒会長に対する、同じくシャーレの権威を勝手に使ったシャーレ部員の報復行為と見ることもできるね。

 

「しかし、ナギサ生徒会長は、なんで自校の生徒にこんな嫌がらせをしたのかなー?」

 

「正実によると、エデン条約を邪魔しようとする裏切り者を処分したかったみたい」

 

「追試を受けた四人全員が、裏切り者だと?」

 

「いえ、一人だけという推測みたい。他はただの問題児と、正実のメンバー……要は正実から人質を取ったらしい」

 

「うへー、それをもろとも退学って、よくやるなぁ」

 

「政治ごっこに明け暮れすぎて、人の心を失ってしまったのかもしれない」

 

 不信任案を作っている最中、私とヒナ委員長はそんな会話を交わした。

 

「リクも気を付けなさい。社長として大人の判断をしすぎて、生徒としての感性を失ってはダメ」

 

「気をつけまーす」

 

 そんなことがあってから日は経ち……トリニティ生達は、突然の不信任案を受け取ったものだから、すったもんだの大騒ぎだ。

 

 ナギサ生徒会長への非難の声は当然上がり、さらに彼女が率いるフィリウス分派も槍玉に上げられた。そこからトリニティ総合学園では血を血で洗う内乱に突入……なんて最悪の想定もしていたのだが、そうはならなかった。

 責任を負うべきナギサ生徒会長、そして責任を追及するべきミカ生徒会長が共に姿を消したのだ。

 

 そんな中、事態の引き金を引いたシャーレ部員を抱える正義実現員会が、治安の維持に乗り出した。

 さらに、トリニティの混乱に乗じて襲撃をかけようとするゲヘナ生をゲヘナの風紀委員会が抑える。

 

 入院中の百合園セイアも含めた三人の生徒会長の不在により、凍結状態になったエデン条約。だが、その条約が締結される前に両校の組織が手を取り合い治安を維持している現状は、なんだか皮肉にも思えてしまった。

 

「この状況って、人によっては、ティーパーティーに対する正実のクーデターに見えるかもしれないね?」

 

 今も工事が続いている、トリニティ自治区のエーテル通信塔。その建設現場の視察に来た私は、ついでに正義実現委員会に顔を出しに来た。

 そこでシャーレ所属のハスミと会ったので、軽くやりとりをした。

 

「実際、ティーパーティーは全員表舞台から姿を消し、正実がトリニティの実権を仮の状態で握っています。クーデターと言われても仕方ないでしょうね」

 

 私の問いかけに対し、ハスミが自嘲するようにそう答えた。

 数日前まで、彼女は安藤先生を傷付けられた怒りで荒れていたのだが……すっかり大人しくなった。

 

 ちなみに我らが先生は、そんな混沌とした状況で何をしていたのかというと……補習授業を未だに続けていた!

 

 なんでも、赤点を取った生徒に補習授業を行なわせて成績を上げることが、今回の本来あるべきシャーレの姿だと言うのだ。

 退学だの、生徒会長の陰謀だのは、後から付いてきた厄介ごとでしかない。

 なので、先生は初心のまま、生徒達の成績向上のための補習を続けるのだという。

 

 そうそう、補習授業を行なっている四人の退学話はなくなった。ナギサ生徒会長が勝手に利用したシャーレの権限は、シャーレの部員達の手続きによって無効とされたのだ。

 よって、追試で落第しても、補習生達の留年はあれど退学はない。まあ、その事実を生徒達に告げると必死さがなくなるので、先生は彼女達にまだ事実を伝えていないらしいが。

 

 生徒会長達が行方不明というのは解せないが、とりあえず先生に降りかかった理不尽な問題は解決したかな。

 ……私達はそう思い込んでいた。

 

 私達の行為は、しょせんはただの子供の浅知恵だったのだろうか。

 先生からシャーレ部員達にもたらされた新たな情報は、私達に大きなショックを与えた。

 

 補習授業を受けていた生徒達にとって三回目の、ナギサ生徒会長の手から離れたものとしては初めての、追加試験が行なわれるまさにその日。トリニティ総合学園は、第三勢力『アリウス』から襲撃を受けることになる。

 先生はシャーレ部員が集まるグループチャット越しに、そう語った。

 

 アリウスの目的は、ナギサ生徒会長のヘイロー破壊。

 ヘイローの破壊とは、キヴォトスの女子生徒にとって死を意味する比喩表現だ。暴力が横行するキヴォトスでも、殺人は最大の禁忌である。

 

 そして先生によると……ナギサ生徒会長はトリニティの裏切り者、すなわちトリニティに侵入したアリウスの工作員をあぶり出すために、補習生達を退学させようとしていたのだという。

 補習生の中には、確かにアリウスのメンバーがいたらしい。そのメンバーが、今回の先生の情報源だ。

 ただし、本人的にはトリニティを裏切る気は全くなく、アリウスの情報をどうにかしてトリニティに伝えようとしていたつもりだったようだ。二重スパイってやつだ。

 

 ティーパーティーのナギサ生徒会長と連邦捜査部シャーレ部員の私達、そして先生が率いる補習授業部。この三勢力は、どこかで大きくボタンを掛け違ってしまったのかもしれない。

 だが、今さら後悔しても遅い。ナギサ生徒会長の邪魔をした私達は、自分で叩いて落とした彼女を守る義務があると言えた。

 

 シャーレ部員一同は改めて意見を統一して、ナギサ生徒会長をアリウスの魔の手から守ると先生に誓った。

 




最終話まで書き溜めが終わったため、全話予約投稿しておきました。このまま完結まで毎日一話ずつの投稿となります。
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