【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在   作:Leni

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エデン条約編後半の前に夏休み編が二話挟まります。


駆け抜ける夏
19.夏といえば海


 アリウスの襲撃が終わってからしばし。ようやく一段落が付いた。先生も補習授業部のメンバー全員の追試を合格させ、改めてフリーな状態に戻った。

 そしてシャーレのビルに戻って先生が最初にやったことは……先生を通さない不信任案の提出でナギサ生徒会長を追い詰めたシャーレ部員全員と、腹を割っての話し合いをすることだった。

 

「"今回は私の至らなさで、みんなには迷惑をかけたね。退学処分の取り消しは助かったよ。でもね、私達がトリニティの政治に介入するのはよくないかな。だから不信任案の提出は、さすがにシャーレの立場としてはやりすぎだね"」

 

 シャーレビルに部員の主要メンバーを集めて、先生はそんな言葉を告げた。

 だがそれに、ヒナ委員長*1が反論の声を上げた。

 

「不信任案がやりすぎなら、補習授業部への退学処分もやりすぎだった」

 

「"そうだね。だからナギサとはあのあとちゃんとしっかり話し合って、補習授業部のみんなに謝りにいかせたよ"」

 

 へえ、ナギサ生徒会長は、ちゃんと謝れる人だったんだ。

 謝って済むレベルの話なのかは、キヴォトスをよく知らない私では判断できないが。

 

「"なので、みんなもナギサにごめんなさいしようね"」

 

「はい……」

 

「"シャーレの名前を勝手に使ったのはナギサだけじゃない。みんなもなんだ"」

 

「おっしゃる通りです……」

 

「"私は先生として、悪いことをした生徒に対して、それはいけないことだよとは言うよ。でも、その生徒を罰するかどうかは管轄外で、世論と司法の手に委ねるつもりだよ。だから非難声明はともかく、不信任案の提出はシャーレがやるべきことではないと思うんだ"」

 

 なるほどね。カイザーローンのときは、生徒(こども)では対応できない大人相手だったからシャーレが出張って罰しに行った。しかし、ナギサ生徒会長のケースは生徒間の問題なので、現地の生徒達の自治と自主性に任せるという判断か。

 シャーレは超法規的な権限を持っているけれど、それを生徒に向けてやたらと振りかざすつもりは先生にはないんだね。納得。

 先生はよく責任は大人が負うべきで、生徒(こども)が負うべきではないって言っている。だけど、だからといって生徒達の自治権を取り上げるつもりはないんだ。

 

 というわけで、先生の言葉に従って、トリニティに行ける立場の者達でそろってナギサ生徒会長に謝りにいった。当然、シャーレ部員一同が出した不信任案も撤回だ。

 

 しかしだ。トリニティ生に対してナギサ生徒会長がやらかした退学騒動については、これでなかったことになったわけではない。ナギサ生徒会長は、権力を振りかざして生徒を傷付ける人であるというイメージは、トリニティ生の記憶に深く刻まれたままだろう。

 ただ、そのイメージは、まぎれもなく事実をもとにしている。なので、それを切っ掛けにしてトリニティ内で派閥内の抗争が勃発し、ティーパーティーメンバーの入れ替えが起きても、それはそれで仕方のないことなのだろう。今のところ、入れ替えが起きる様子はないらしいのだが。

 

 先生の手前、シャーレ部員達はナギサ生徒会長にやりすぎを謝りはした。しかし、心の奥底では、先生をはめた彼女を本当の意味で許したかどうかは、分からない。

 シャーレは、ある種、先生ファンクラブな性質があるからね。特にユウカ会計とかヒナ委員長とかあたりは、先生に対して相当ラヴな感情を向けているような気がする。

 

 まあ、今後ティーパーティーがどうなっていくかは、トリニティ生じゃない私が今さら気にすることではない。

 ミカ生徒会長とナギサ生徒会長の体制が瓦解しても、死を偽装してちゃっかり生き延びていたセイア生徒会長がなんとかするだろうしね。彼女はアリウスに狙われたあと、トリニティの救護騎士団に保護されて、シスターフッドとかいう組織の協力のもと、ずっと匿われていたらしい。

 

 さて、そんなことがあってから今学期は修了を迎えた。地球で言うならば、これから夏休みといったところだろう。

 しかしだ。キヴォトスの学園では、ディスクを再生しての映像授業が多く取り入れられている*2。そのため、明確な夏休み期間というものがあやふやなのだが……それでも多くの人が勉強を休む期間が始まるため、夏休みと言ってもよい日々がやってきた。

 

 夏休み。夏休みである。すなわち――

 

「夏! 海! 水着!」

 

 ――なのだが、『エーテルフォトニクス社』の事業が拡大し続けることによる忙しさで、私にはのんびり遊ぶ暇などほとんどなかった。

 

 いやー、トリニティとゲヘナ、そしてミレニアムという三大学園の自治区に、エーテル通信塔を建設したのが効いたね。

 それにより、エーテル通信塔の建設の引き合いがあちこちから来るのなんの。

 

 そもそもエーテル通信塔は一つ建てれば通信範囲としては、広域をカバーできる。なので、近い地域にそう何本も建てる必要はないのだが……エーテルを使った自治区内限定の緊急放送ができるということで、自前の自治区に小さい施設でいいので一つ用意したいという学園が本当に多いのだ。

 効果範囲が狭くていいなら、わざわざ立派なタワーを建てなくても、ビルの屋上にでもちょっとした施設を建てるだけでいいからね。

 

 さらに、キヴォトスは洒落にならないほど広い。数千の学園がひしめいている、学園都市を超えた学園大陸なのだ。

 なので、アホみたいな数のエーテル通信塔やエーテル通信施設が建つことになり……もはやライドロイドの売上はおまけなくらいの利益が計上されている。

 アビドス生の社員達には、ライドロイドの営業からエーテル通信塔の営業にシフトチェンジしてもらっていて、彼女達へのボーナスもすごい額を出していた。

 

 アビドス高校の生徒会も『エーテルフォトニクス社』の株式を多数抱えることになっており、その配当は借金の返済にしっかりと充てられている。

 ただ、エーテル通信塔も、もし全ての自治区に建て終わったら、そこで需要は途切れる。

 なので……次なる商品の開発や、ライドロイドの販売網拡充にも手を広げていきたいところである。今は無理だけどね!

 

 そんな感じで夏休みはアビドス生達と一緒にお仕事三昧だ。などと思っていたら、アビドスの子達はリゾート利用券なるものを手に入れて、安藤先生と一緒にリゾート島へ遊びに行ってしまった。ガッデム!

 

「夏! 海! 水着!」

 

 そう言い残して、アビドスの五人は私の前から姿を消した。……まあ、夏休みは遊ぶというのが、学生の正しい姿だよね。社畜をやっている私がおかしいんだ。

 遊びたいなぁ。私にできるのは、余剰の時間でスマホを使って『テイルズ・サガ・クロニクル2』のマルチプレイをすることくらいだ。……あ、スマホにモモトークの通知が来てる。相手は……ゲヘナのヒナ委員長?

 

 ▲MomoTalk

 

ヒナ

なぜだか委員会の子達に

バカンスに行かされそうなんだけど

これって働き過ぎだと気遣われてる?

 

多分そうだね

うらやましいなー

夏!海!水着!

 

ヒナ

海か……

委員会のみんなで海水浴にでも

行けばいいのかな

 

ヒナ

でも混んだ海水浴場は嫌

 

それなら先生と一緒にリゾートなどは?

 

ヒナ

忙しい先生なんて誘えるわけないじゃない!

 

それがですね先生は現在…

アビドス生と一緒に南国リゾートだよ

 

ヒナ

は?

それ本気で言っている?

 

マジです

座標を送るので

先生に水着姿を見せつけちゃえ☆

 

ヒナ

…………

 

ヒナ

一応礼を言っておく

 

どういたしましてー

私の分も楽しんできてね!

 

 

 はー、リゾート島か……。

 私も行きたかったでござる!

 

 と、そんなことを考えつつ、仕事にはげんで、次の日。

 再びヒナ委員長からモモトークのメッセージが来たのを確認した私は、その文面を見てヒヤッとなった。

 

 ▲MomoTalk

 

ヒナ

おい

おいリク

道上リク!

 

ヒナ

なんて島を紹介してくれたの

 

何があったでござる…?

 

ヒナ

こんな場所、南国リゾートとは認めない

帰ったら覚えてなさい

 

ヒエッ

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 さて、ここからは完全に伝聞になるんだけど。

 アビドスの五人と先生が向かったリゾート島は、人が住まなくなった無人島だったらしい。そして、彼女達がビンゴで当てたリゾート利用券とは……土地の利用権。つまり土地の権利書であったと。

 

 そこでアビドスのメンバーは、土地にあるリゾートの廃墟を修復し、リゾート地を復活させようなんて無茶をやり出した。

 彼女達の計画としては、復活したリゾート地を土地の権利ごと『エーテルフォトニクス社』に買い取ってもらって、アビドス高校の借金返済に充てたいとのことだ。

 

「『エーテルフォトニクス社』は工業系の会社なんだけどなぁ」

 

 ……と、返したところ、ロリおじさんホシノはこんなことを言ってきた。

 

『リゾートを扱う子会社を作って、ついでに多業種にまたがるエーテルグループを作ろうよー。どの道、アビドスを企業学園自治区にするには、一業種だけじゃ足りないでしょ?』

 

 ……まあ、正論である。アビドス自治区を地域密着型の企業が見守る地にしようって言ったのは、かつての私だからね。

 それにあれだ。最近稼ぎすぎて、税金対策での支出も考慮が必要だったんだよね。税金の多くはアビドス生徒会に流れるとは言っても、節約できるところはしたいのが人情というもの。だから、リゾート島を買い取るのは渡りに船と言えばその通りだ。

 

 なので、私は遠いミレニアムの地から南国リゾートの地へとエールを送った。

 ちなみに現地は廃墟なので、ゲヘナの風紀員会を率いて島に向かったヒナ委員長は廃墟に泊まることになった。すまねえ、座標を知らせたときはまだ、廃墟だって知らなかったんだよ……。

 

「委員会のみんなにドヤ顔でリゾート地へ連れて行くとか言ったのに、現地が廃墟の無人島だったときのヒナ委員長の顔、どんなのだったんだろうなぁ……」

 

 委員長としてのプライド、ズタズタだろうなぁ。いやあ、帰ってきたときが怖い。

 

 そして後日、先生から現地の情報を伝え聞いたところ……。

 リゾート島には不良集団のヘルメット団と七囚人のワカモがいて、リゾート島の土地を狙っていたらしい。

 

 七囚人というのは、キヴォトスの刑務所的な場所である連邦矯正局から脱獄した、七人の極悪犯罪者のこと。

 彼女達の脱獄は連邦生徒会長の行方不明時の混乱に乗じたもので、現在は全員行方をくらませているらしい。

 

 うーん、七囚人の一人VS.ヒナ委員長か。現地の廃墟が崩壊しないといいけど。うちの会社のためにも、頑張ってリゾート地を復活させていただきたいものだ。

 

*1
ちゃっかり正式にシャーレ入りしている。

*2
講師との対面授業がないわけではない(ヨシミの絆ストーリー04参照)。

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