【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在 作:Leni
単身で未知なる世界に来て、アークスである私がやるべきことは何か。
それは、物資の補給である。
私がアークスとしての任務をこなすには、必須の物資がいくつか存在する。
まず、武器。ここ『キヴォトス』の生徒達が使っているような通常の銃器ではない。フォトンを込めることによって動作する、アークス専用の武器が必要だ。
これはまあ、私がここにくる直前に討伐任務を受けていたため、装備のマウント場所である武器パレットにメイン武器の
でも、メンテナンスは必要だし、壊れたら新規で用意しなくちゃいけない。だから、どうにかしてフォトンで動く武器の開発に乗り出す必要があった。
次に、回復剤。アークスにはクラスという概念があって、クラスに就くことでそれぞれの専門分野の技量を伸ばすことができる。その中で私は銃撃を得意とするレンジャーをメインクラスとしている。さらに、サブクラスには近接戦闘で力を発揮するハンターを採用している。
遠距離からの銃撃を行ないつつ、近接クラス特有の頑強さを持つ
そして、ハンターが持つ
《オートメイトハーフライン》は、一定以上の怪我をしたときに『メイト』と名の付く回復剤を自動使用する。
メイトは『モノメイト』『ディメイト』『トリメイト』の三種類があり、速効性のある回復効果をもたらす薬剤だ。ちなみに液体。
当然、消耗品のため《オートメイトハーフライン》に任せていたらそのうち無くなってしまう。これも、なんとか複製・製造して補給する必要がある。
他にも、一回の任務中に一度だけ、
携帯型の転移装置『テレパイプ』は、拠点となる『キャンプシップ』がないため使い道は今のところないが、キャンプシップのような移動拠点となる乗り物を手に入れたら補充したくなるだろう。
というわけで、私の喫緊の課題として、これらの物資を解析して複製・製造する研究所や協力者が必要だというわけだ。
と、そのようなことを学園都市キヴォトスをまとめあげる連邦生徒会の役員さん*1に打ち明けてみたところ、こんな答えが得られた。
「そうですねー。研究開発といえば、やはりミレニアムでしょうか」
ミレニアム。正式名称を『ミレニアムサイエンススクール』。キヴォトスに数千ある学園の中でも、最大規模をほこるマンモス校の一つ。サイエンスの名の通り科学技術に秀でた学校で、エンジニアやプログラマー、研究者や学者志望などが集まるバリバリの理系高校だ。
私は連邦生徒会の人にミレニアムの学校パンフレットを貰って、どんな組織が内部にあるか確認する。よさげな研究室でもあるかな……と、思っていたのだけれども、そこは大学ではなく高校。教授が開く研究室の類ではなく、生徒達が自主的に集まる部活動がその役割を担っていた。
「うん、とりあえず、まずはこのエンジニア部というところにコンタクトをとってみます」
ミレニアムサイエンススクールに行くことを決め、私はパンフレットを閉じた。すると、連邦生徒会の人が、書類をこちらに差し出しながら言う。
「分かりました。では、ミレニアムの編入試験の日程を詰めますね。それと、連邦生徒会から特例で支度金を給付しますので、しばらくはそれでしのいでください。編入後は、アルバイトをするなり研究成果を売るなりして、自活をお願いしますね」
「はいはい。うーん、メセタはたくさんあるのに使えないのが悲しい」
オラクル船団の通貨メセタは、電子マネーの類だ。PSO2のゲーム上では、黄色い八面体の物質がメセタだった。だが、文明の発達したリアルのオラクル船団では、そんな持ち運びしにくい物質を貨幣として携帯することはなかった*2。
先立つ物のなさにため息を吐きそうになるが、その後ミレニアムへの編入と住民登録のための書類を大量に書かされて忙しさのあまり先行きの不安は消し飛んだ。
あ、ちなみにキヴォトスの通貨単位は『円』だったよ。
使われている言語も地球の日本語だし、ここ実は日本にあるとか言わないよね?
エーテル地球の日本からなら繋がるはずのオラクル船団への通信は、未だ途絶えたままだけどね。
◆◇◆◇◆
試験は楽勝だった。そもそも今世の私、幼少期からいろいろ勉強してたから頭良いんだよね。しかも、外宇宙を航行するSF集団オラクル船団基準での頭の良さ。
だからか、理系中心のミレニアムの編入試験はちょちょいのちょいで通過できた。
そして、私は真新しい制服に身を包み、ピカピカの一年生としてミレニアムサイエンススクールの生徒になった。
ついでに、キヴォトス内での通話ができる
アークス製端末ではキヴォトス内の端末と通信できないし、地球から持ちこんだ端末はクラウドOSなせいで起動すらしないので、新しく手に入れる必要があったのだ。
キヴォトスのスマホでは『モモトーク』というメッセージアプリが一般的に使われていて、それを使って私は暇なときにシャーレの安藤先生とチャットをしている。
いやあ、さすがに学校に行く前はまだ友達もいないから、先生かシャーレの所属部員くらいしか話し相手がいないんだよね。連邦生徒会の他の人達は、事務的な付き合いでしかないし。
▲MomoTalk ⍰
| ミレニアムに入れたよー! |
| おめでとう |
| ありがとう! |
| ようやくこれでフォトン研究ができるよー |
| 装備品の整備が目的じゃなかった? |
| まずはフォトンの観測から |
| 先は長い… |
| 頑張ってね |
| がんばるぞい! |
| 先生も市街地の暴徒鎮圧がんばってね! |
| タワー周辺はそろそろ暴動収まりそう |
昭和の遺物スケバンが現役とか… キヴォトスにはビックリですわ |
| ヘルメット団とかわけわからんち |
そこまでモモトークを交わして、私は携帯端末の画面を消して、ミレニアムサイエンススクールの校舎を進んでいく。
このミレニアムも、数日前までは暴徒がやってきて混乱状態になっていたらしい。
そもそも、私がキヴォトスにやってきた当時は、キヴォトス全体が大混乱に陥っていた最中だったらしい。
キヴォトスの中枢を治める行政組織『連邦生徒会』。その頂点、連邦生徒会長が、行方不明になったからだ。
連邦生徒会長は、キヴォトスの中心地『サンクトゥムタワー』の機能に唯一アクセスできる役職だ。その最重要人物が行方不明になってしまい、連邦生徒会はその統治能力を失った。
それにより、学園都市全体が制御不能となり、押さえつけられていた不良達が暴れ出した。さらには、問題児を集めた連邦矯正局から囚人が脱獄する事態になるまで状況は悪化した。
そんなサンクトゥムタワーのほど近く、連邦捜査部シャーレのビルの真ん前に私は神の力で飛ばされてきた。
暴れる不良達とそれを鎮圧しようとする各学園の部隊が激突している、ど真ん中への転移だ。
サンクトゥムタワーの機能不全で、混迷を極めたキヴォトス情勢。だが、希望は残されていた。
連邦生徒会長が自分以外に唯一サンクトゥムタワーへのアクセス権を持つ人物として、キヴォトスの外から一人の大人を呼び寄せていたのだ。
それが、連邦捜査部シャーレ顧問の安藤先生だ。私と戦場で出会った直後に安藤先生は、シャーレのビルへ入って無事にサンクトゥムタワーにアクセスすることに成功。連邦生徒会が再び機能するに至った。
しかしまあ、それだけで不良達が大人しくなるかと言ったら別の話で。
先生はあの日から今日まで、シャーレ所属の生徒達を指揮して不良達の鎮圧を行なっていたわけだ。のんびり編入試験を受けていた私とは忙しさが全然違うね。さすが大人。
私も鎮圧に協力してあげてもよかったんだけれど……まあ、装備の補給に不安があるから、まずはミレニアムでエンジニア部と渡りを付ける方が先ってことで。
で、やってきましたエンジニア部。マンモス校の有名部なだけあって、でかい工房を持っている。
「こんちゃーっす。先日連絡した道上リクという者ですけどー」
工房に入って、そんな挨拶を交わす。『道上』は、エーテル地球の学園でも名乗っていた偽名だ。
すると、部室に居たメンバーが一斉にこちらへと振り返った。
「き、きたー! きましたよーッ!」
「外宇宙の技術、フォトン、どんなものだい?」
「早く見せて。役目でしょ」
お、おう……。ぐいぐいくるなぁ。
まあ、塩対応をされるよりは万倍ましか。
とりあえず、だ……。
予めまとめてきた二百ページのフォトン関連技術の概要、彼女達のこの熱意があればちゃんと理解してもらえそうかな。
あ、ミレニアムの生徒は全員女性だよ。頭に『ヘイロー』という天使の輪っかみたいなのがあることが特徴。キヴォトスにおいて、ヘイローを持つ人間は全員女性だ。
ただし私は女子なのに例外的にヘイローを持っていない。ただのヒューマン*3のアークスだかんね。
「資料……今すぐ見せて」
「それよりも、フォトンが実在しているか、まずはこの目に見せてくれないかな」
「いえいえ、まずは武装の確認からでしょう!」
うん、エンジニア部の人達の熱意は十分。
十分だったので、いろいろ任せることにした。そして、それからしばらくして……。
「これが……エーテル!」
フォトンより先に、エーテルの観測に成功しちゃったよ、エンジニア部!
エーテル地球特有の、フォトンに似ているようで異なる不思議粒子エーテルがここで観測できたってことは……キヴォトスってエーテル地球に繋がった場所なのかなぁ。