【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在   作:Leni

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20.夏真っ盛り

 リゾート島は、実はリゾート群島だったらしい。

 

 改めてアビドス生達が向かった位置の地図をしっかり見てみると、一つの島が海の上にポツンと浮かんでいるのではなく……該当の島の周囲に、複数の島々が隣接していることが分かった。

 

 そして、アビドスの生徒達が景品でもらった、リゾート島の利用権。実は、それと同じ物がいくつも存在していた。それにより、互いの所持する土地を奪い合うリゾート戦国時代が、リゾート群島に訪れていた。

 

 そんなリゾート群島の戦国時代をアビドス生とゲヘナ風紀委員会は、先生を旗印として協力して戦い抜いた。さらに途中で百鬼夜行連合学院という学園も合流して、三校の連合軍として戦国の世に名乗りを上げた。

 やがて彼女達は……、リゾート群島を武力で統一した。

 

 さらに彼女達は、リゾート利用権をばら撒いた黒幕も打ち倒した。なんでも、もともとはオクトパスバンクなるカイザーローンのダミー会社がリゾート群島の所持者だったらしい。それを証明するように、カイザーPMCの兵隊がリゾート群島で活動をしていたようだ。

 

 しかし、カイザーローンはすでに私達シャーレによって潰されている。そのため、リゾート群島の権利書に責任者として名前が書かれている百鬼夜行の『お祭り運営委員会』に権利の正当性があった。

 その正当性を盾に、三校連合軍はカイザーPMCもろとも他勢力を駆逐した。

 そして、リゾート群島の真の所有者と判明した連邦生徒会との最終的な取引を経て、三校連合軍はリゾート群島を自らの所有物に変えて、堂々と本土へ帰還した。

 

 それからバカンスという名の戦いを終えた彼女達は、休む間もなくアビドスにある『エーテルフォトニクス社』の本社にやってきた。リゾート群島の権利を売りにやってきたのだ。

 

「ぐぬぬ、夏を満喫して……うらやましい!」

 

 本社の応接室で、対面に座るロリおじさんホシノとヒナ委員長に、恨み言をぶつける私。ホシノとヒナ委員長、それと百鬼夜行連合学院の河和(かわわ)シズコなる女子生徒の三名が、群島売買交渉の責任者である。どうやら、群島戦国時代を生き抜くために、土地の権利はアビドスとゲヘナ、百鬼夜行の共同保有という形に収めていたようである。

 

「リゾートと偽って廃墟に送り込んだあなたには、いろいろ言いたいことがあったけれど……結果的に、風紀委員会の夏合宿の良い機会になった。礼を言っておく」

 

 リゾート群島で大暴れしたと簡単に察することができるヒナ委員長が、薄く笑ってそんなことを述べてきた。

 

「それよりもさ、リゾート群島は高く買ってくれるんだよねー?」

 

「はいはい。できればお安くしてほしいものだけどねー」

 

 ホシノの質問に、私はそう曖昧に答えておく。

 すると、ヒナ委員長が眉をひそめながらこんなことを言ってきた。

 

「『万魔殿』相手には、エーテル通信塔の建築費は、ビタ一文もまけなかったと聞いたのだけれど」

 

「よく知っているね。だけど、リゾートとしてリニューアルするには、大きく手を入れなきゃね。だから、土地のやりとりにそこまで膨大なお金はかけていられないよ」

 

 ……まあ、エーテル通信塔の建設と、エーテル通信の通信機器の引き合いで、アホほど儲けているから買い叩かなくても別にいいのだけど。それでも、安く買えるなら買いたいのが企業人ってやつですよ。

 

 ただまあ……。

 

「事前にお知らせしたとおり、連邦生徒会があなた達に売った金額より倍額は確実だから、安心して」

 

 こちらもかつてのカイザーローンみたいに、人の心をなくした大人になりたいわけではないので。

 ここはいわゆる、Win-Winの関係ってやつを目指してみますか。

 

「では、評価額としてはこれくらいで……ゲヘナ風紀委員会とアビドス生徒会、百鬼夜行のお祭り運営委員会には、それぞれこれだけの額を……」

 

 事前に現地に送っていた『エーテルフォトニクス社』のエージェントによる土地の評価から、概算で出した評価額。それから大きく外れすぎない額を書面で二人に見せる。それと、アビドスとゲヘナ、百鬼夜行がそれぞれどれだけの取り分を持っていくか、責任者の三人に任せたら確実にもめるだろう。だから、こちらで各校の貢献度をデータにまとめ、こちらでどの陣営がいくら持っていくかの提案もさせてもらった。

 

「……呆れた。倍額どころか十倍近くつけているじゃない」

 

 ヒナ委員長は、言葉とは裏腹に、満足げな様子で紙面の数字を目で追った。

 そんな彼女に、私は説明をしてあげる。

 

「連邦生徒会は、二十年前に廃業したという情報しか知らなかったんだろうね。温泉が湧いたとか、新しい施設がいくつも建ったとか、設備が意外と老朽化していなかったとか、そういう生きた情報はちゃんと人を使って集めないとね!」

 

 連邦生徒会の人手不足が(たた)ったね。結果として、三校連合軍は連邦生徒会から、リゾート群島をかなりの安値で買い叩いた形になっている。

 ちなみに安値と言っても結構な額なので、三校連合軍にはうちの会社から超低金利で融資をしているよ。このまま彼女達がうちの会社にリゾート群島を売却すれば、即日で返済できるだろうけど。

 

 Win-Winと言っても、それはうちの会社と三校連合軍の話であって、連邦生徒会は割を食った形になったね。ま、連邦生徒会も今の自分達では運用しきれない不動産を手放せたので、ちゃんと勝者扱いしてもいいとは思うけどね。

 

 ちなみに私が連邦生徒会と直接の取引をしていたら、完全に私の丸儲けだったが……もしそうした場合、現地で奮闘した三校連合軍と私の仁義なき戦いが勃発していた可能性がある。なので、私は横槍を入れる選択肢を早々に破棄していた。

 

「……これなら委員会の装備が、いろいろ新調できそう」

 

 明細を見終わったヒナ委員長は、そういって口角をわずかに上げた。

 ヒナ委員長って、確か風紀委員会全体にライドロイドを配備したがっていたよね? 毎度どうも、お買い上げありがとうございまーす!

 

 一方で、ホシノの様子はというと。

 

「うへー。これだけで、残ってた借金が全部返せちゃうんだけど……」

 

「群島丸ごとの一大リゾート地だよ? そうそう安値はつけないよ」

 

 私が笑ってそう言うと、ホシノはあまりの額の多さに目を回しそうになっていた。ま、これでようやくアビドス高校は借金から解放されて、自治区復興のスタートラインに立てるってわけだ。

 

 そして、最後の一人である百鬼夜行のシズコは、露骨にホッとした顔をしている。彼女はオクトパスバンクに騙されて、リゾート群島に投機をしたらしいからね。その損失を埋めて、さらに儲ける結果になって万々歳なのだろう。

 

 私はニッコリとした営業スマイルを浮かべつつ、そんな三人を眺める。

 すると、ヒナ委員長が、私に渡されたリゾート群島の評価資料を再度めくりながら、ポツリと言った。

 

「あなたの会社、いつの間にこんな資料を作れるスタッフを雇ったの? あの群島を短期間で調べ上げたのなら、派遣したスタッフは一人や二人ではきかないはず」

 

「ああ、それは、もともとアビドスに住んでいたけど、泣く泣く自治区から出ていった人を再度アビドスに集めているんだよ。そうしたら、優秀な社員がそれなりにいてね」

 

 なんというか、棚からぼた餅? 人間万事塞翁が馬? 何が幸いするか分からないよねー。

 しかも、元アビドスの住人さん達は、アビドスの生徒達への好感度がめっちゃ高いんだ。理由は話すまでもないよね。

 そんなアビドス現役生がうちの会社の社員や重役をやっているんだから、そりゃあ人が集まるよねぇ。

 

「じゃあ、この評価額をもとに、明日にでも正式に見積書を送らせてもらうよ」

 

 私がそう言うと、百鬼夜行のシズコが資料から顔を上げて言う。

 

「こんな額をポンと出せるなんて、『エーテルフォトニクス社』って、本当に儲けているのね……リゾート群島の開発に一枚かませてもらいたいくらい」

 

 はい、確かにその通り。弊社は儲けに儲けていますねぇ。

 ただ、今の『エーテルフォトニクス社』にとって、儲けは必要なこと、事業規模の拡大は必要なことなんだよね。具体的に言うと……アビドス自治区に余計なちょっかいをかけてくる、カイザーコーポレーションに少しでも対抗できる企業になる必要がある。

 

 いつ、大人と大人の戦い、資本での殴り合いが起こるか分からないからね。

 子供と子供の戦い、腕力での殴り合いなら、アークスである私は大得意なんだけど……アビドス自治区の土地を取り戻そうとすると、この先に待っているのは大人の戦いだろうから。

 だからその戦いに備えて、今は牙を磨いておくことにしよう。それがアビドス自治区に地域密着型の企業を作った、私の義務だろう。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 さて、アビドスの五人とゲヘナの風紀委員会が、戦国時代を乗り切るというイレギュラーはあったものの……彼女達が安藤先生とリゾート群島のビーチで楽しい一時を過ごしたことは、確かな事実なわけだ。

 そして、それを後から知ったアビドスとゲヘナ以外のシャーレ部員は、黙ってなんかいられなかった。

 

 連日のように、私へ連絡を飛ばしてくるシャーレ部員達。うん、私がヒナ委員長に先生のいるリゾート島を紹介したことが、見事にバレたからだね。

 なぜ自分には教えてくれなかったのか。そんな恨み言が私のスマホに溜まっていく。これにはさすがの私も、うんざりしてくる。

 

 要するに、彼女達はこう言いたいのだ。

 

「私も先生と真夏のビーチで遊びたい!!!」

 

 ……なので、企画しました。先生と行く、シャーレ夏合宿! 集まれ、シャーレ部員の生徒(メス)ども! 魅惑の水着を先生(オス)に見せつけろ!

 場所は、とある学園が自治区内に所有する生徒用ビーチ。私の個人資産からお金を出して、丸一日貸し切りにしたぞ!

 

 余人を交えない、シャーレの身内での催し物。

 ……そのはずだったんだけどなぁ。

 

 なぜだか、以前シャーレが援軍に呼んだメンバーや、先生が今までシャーレとして助けた生徒達も集まってきて、大人数での海水浴になってしまった。

 せっかくの貸し切りビーチが、普通の海水浴場みたいになってしまったぞ!

 

 ……まあ、いいか。とにかく、私もこれで「夏! 海! 水着!」を楽しめる。残っていた仕事は夏の間にさらに増えた社員に割り振ってきたので、今日の私には隙がない。

 

 というわけで、うおおおおお!

 

「海だーッッッ!」

 

 水着に着替えた私は、海に向かってそう叫んでいた。

 周囲の子達が、いきなり元気だなぁ、と言いたげな温かい目で見てくるが、こちとら夏に入って初めての休暇なんじゃい!

 

 さて、今日の私のコーデは、水色のビキニである。

 私はいわゆる中肉中背で、乳サイズも普通だが、露出して恥ずかしいような体型はしていない。なにせ、アークスが着る女性用の服って、なにかと露出が多いからね。普段から太らないよう気を付けているのだ。

 

 アークス時代は太ってもエステ*1に行けば、どうとでもなった。しかし、キヴォトスのエステには、オラクル船団ほどの超技術はない。

 なので、私は運動を欠かさずするようにして、体型維持に努めていた。おかげでミレニアムのトレーニング部なる部活の生徒とは、スッカリ顔見知りになってしまった。

 

 そんな私なので、ビーチでビキニ姿を披露することに恥ずかしさは微塵もない。自信を持って他人にボディを見せつけることができる。

 と、いうわけで、行列ができている先生のところに向かって、水着姿の感想を聞きにいこうか!

 

 爽やかさのあるハーフパンツタイプの水着を着込んだ先生。筋肉がほどよくついた上半身を露出していていかにも男って感じ。列に並んだ生徒達の中には、クラクラきている子が何人か見受けられた。

 そんな生徒の動揺する姿を眺めながら列に並び、先生と対面できる順番を待つ。そして、ついに私の番が来た。

 

「先生、どうよ、この水着」

 

「"可愛いアロナ色の水着だね。似合っているよ"」

 

「アロナ色?」

 

 アロナって、あの先生が常時持ち歩いているタブレット端末に入っているというOSの、少女型アバターのこと?

 先生が言うには、そのOSのアバターは、髪色がパステルベビーブルーらしいが……。

 

「先生、女の人を褒めるときに他の女の人をたとえに出すとか、場合によっては刺されますよ」

 

「"いや、さすがに冗談だよ"」

 

 私相手なら、こういう冗談が許されるってか? まあ許すが。

 

「では、リテイク! どうよ、この水着」

 

「"リクらしい可愛らしい水着だね。似合っているよ"」

 

「あざーっす!」

 

 私はそう言って先生の前から横によけ、後ろに並んでいたヒナ委員長に順番を譲った。

 しかし、ヒナ委員長もリゾート群島で散々先生に水着を見せつけただろうに、まだアピールするのか。

 あ、リゾート群島のときとは違う水着? いやー、気合い入っているなぁ、委員長。

 

 それからしばらくして、先生は生徒達の水着姿の感想をひたすら述べるという拷問から解放された。だが次は、様々なグループが先生を遊びに誘いにいき、場が混沌とし始めた。

 私はそれを笑って眺めるだけに留め、仲裁は放棄して海を全力で楽しんだ。

 

 昼にはすっかり恒例となったバーベキューを食べ、泳いで砂遊びしてボール遊びして、と日が沈み始めるまで全力で夏を満喫した。

 そして、完全に暗くなる前に解散し、私達はそれぞれの帰路についた。

 

 うん、楽しかった。本当に楽しかった。これでもう今年の夏は楽しんだ。もう明日に秋が訪れてでも悔いは残らないだろう。

 長い夏休み期間でまともに友人達と遊んだのが一日だけというのは、悔いが残りそうなものであるが……アークス時代よりは余裕があるので、私は十分に羽を休めた気になっているのだった。

 

*1
PSO2における、キャラクターの外見をエディットする場所。

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