【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在 作:Leni
21.インターセプションシルエット
エデン条約の調印式当日。
トリニティとゲヘナの二大校の和平を約束する条約が、ようやく結ばれようとしていた。
その日ばかりは私も仕事を休み、ミレニアムの工房でエンジニア部のみんなと一緒に、調印式の現場を映すテレビ中継を眺めていた。
「エデン条約かぁ。締結するとミレニアムにどんな影響がもたらされるんだろう?」
「どうかな……二校で団結してミレニアムを潰しにくるとか?」
おっと、ウタハ部長とヒビキが何やら不穏な会話をしているぞ。もしかして、これが一般的なミレニアム生の反応じゃないよね?
と、そこで知識の収集が趣味で、事情を一番正確に把握していそうなコトリが、横から話に割り込む。
「エデン条約で新たに作られるエデン条約機構は、二校間の問題解決に特化した組織です! 他校にその武力を向けようとすると、さまざまな規則がそれを止めにかかることになります!」
「なるほど、そうなんだね」
「まあ、エデン条約機構がその圧倒的武力で連邦生徒会に対しクーデターを起こしたら、規則なんて吹っ飛んでしまうでしょうけれども!」
おおっとお? コトリも不穏なことを言い出したぞ。
「確かに、今のガタガタな連邦生徒会相手なら、クーデターも簡単に成功しそう……」
そんなヒビキの言葉に、頭を抱えたくなる私。いやあ、ヒナ委員長やナギサ生徒会長の悲願である平和条約が、こんな風に外から思われているとか、
さて、テレビ画面の向こう、エデン条約の調印式は、トリニティ自治区内の『通功の古聖堂』という場所で行なわれている。
この聖堂は、かつてトリニティが複数の分校に分かれていた時代、それらを一つにまとめトリニティ総合学園とした『第一回公会議』の調印式が行なわれた、歴史ある場所らしい。ある意味で、平和の象徴とも言える、そんな場所。
その歴史の裏では、アリウス分校の排斥なんてものがあったようだが、少なくとも今回の調印式は平和に進行しているように見える。
あ、先生がテレビに映った。相変わらずヘイロー持ちの生徒に混じる白いスーツ姿の大人は、ひどく目立つものだ。カメラも積極的に映しているようだね。
にこやかに笑う先生の白スーツ姿を確認し、ほっこりした私。
さらにテレビの向こうでは、ゲヘナの『万魔殿』を乗せた飛行船が大写しになった。うーん、派手な登場の仕方をするなぁ、あの人達。どうにもあそこの生徒会長は、派手好きというか見栄っ張りなところがあるっぽいからね。
飛行船が調印式の上空を飛ぶ。しかし、降りてくる様子はない。
代わりに、画面の中では、トリニティとゲヘナの担当者が、友好の証として握手を交わそうとしている。
ちょうど二者の手の平が触れそうになった、そのときだ。
突然、テレビのスピーカーから風を切るような不思議な音が聞こえ……画面内が大回転した。
「はい?」
「ん……?」
「あれは……!?」
え? え?
テレビに映る画面がめまぐるしく動き、やがてカメラが地面に転がったのか、瓦礫らしきものを映して静止した。
それから、しばらくしてから画面が暗転し、中継を行なっていた番組は、屋内のスタジオに画面が変わった。
『速報です。調印式の現場で、爆発事故が起きたようです』
……はあ? もしや、ここに来て爆破テロ? あの厳重な警備の中で!?
下手人は推定アリウスだとして、いったいどうやって爆発物を仕込んだんだ。
混乱する私は、テレビから少しでも多くの情報を得ようと意識を真面目な物に切り替える。
すると、私のスマホから音が鳴り響き始めた。モモトークの通知音だ。
私はスマホのロックを外し、真っ先にモモトークを起動。シャーレ部員のグループチャットに目を通す。
ええと、情報が錯綜しているが……。
「……調印式の現場に、ミサイルが降ってきた!?」
私は、思わず目にした情報を思わず読み上げてしまった。
ミサイル、ミサイルかぁ。そりゃあ、現場をどれだけ警備しようと防げないよ。キヴォトス基準で見ても、ヤバすぎるテロだ。
おっと、テレビがスタジオから現場のレポーターへと戻った。どうやら、ミサイルの爆発に巻き込まれてもレポーターは無事だったようだ。
そして映った光景は、瓦礫の山。ミサイルは『通功の古聖堂』を見事に破壊したらしい。
さらに、テレビからはどこかで戦いが始まったのか、銃撃の音をキャッチしていた。レポーターが興奮した様子で、現場の惨状を実況していく。
エンジニア部のみんなは、そんなテレビ画面に釘付けで、緊張した顔で画面を見守っていた。
さて、そんな中で私は、スマホでシャーレの部員達のグループチャットを確認していく。
正実メンバー曰く、ゲヘナが裏切った。風紀委員会メンバー曰く、トリニティが裏切った。互いにそんなことを言い合い、情報が錯綜していた。
こんな状況で、正しい敵が誰かを理解できていない。そんなとき、ふと一人の自警団員のメッセージが目に入った。
襲撃犯はアリウス。そして、複製されたユスティナ聖徒会。襲撃してきたテロリスト達が、得意げにそう語っていた、と。
ユスティナが何かは知らないけれど、アリウスは知っている。歴史の闇に葬られたアリウス分校。やはり、彼女達はエデン条約を邪魔しに来たのだ。
この状況下で、トリニティとゲヘナが互いに敵視しあって倒せるような相手では無いはずだ、アリウスは。
なので……今、私がやるべきことは……。
私はグループチャットが流れるスマホをそのままに、アイテムパックから新たに作ったエーテル通信端末を取り出す。そして、即座にトリニティのエーテル通信塔にアクセス。トリニティのエーテル通信塔は、
そこで、連邦捜査部シャーレの権限でもってエーテル通信塔を起動し、特別広域緊急警報を発令した。
トリニティ自治区内のトリニティ総合学園生、およびゲヘナ学園生に告げます。
エデン条約調印式を襲撃した相手は、第三勢力であるアリウス分校です。
襲撃犯はトリニティではありません。襲撃犯はゲヘナではありません。各自団結して、アリウスのテロに対応してください。
連邦捜査部シャーレが警告します。エデン条約調印式を襲撃した敵はアリウスです。
そんな文面をエーテル通信塔からトリニティ自治区全体に発信させる。あらゆる通信端末がその文面を受け取り、さらに街頭放送向けに、通信塔内蔵の自動音声読み上げ機能で文面を読み上げさせる。
「よし、ここまでやれば現場の混乱も収まるでしょ」
現場を中継し続けているテレビ画面を見てみると、街頭放送の音声がしっかりと流れていて、テロリストであるアリウスの名をしっかりと周囲に知らしめていた。
シャーレ部員のグループチャットでは、私のファインプレーを褒める声が上がり、トリニティの部員とゲヘナの部員が連携を取ろうとコメントを交わしていた。
よしよし。敵を明確にして、トリニティとゲヘナの団結を促す作戦は成功しそうだ。
しかし、この作戦は諸刃の剣である。
「……はあ、とうとう先生の許可を得ずに、シャーレの権限を使用しちゃったよ」
ナギサ生徒会長をハメたときにすらしなかった、連邦捜査部としての権限の無断使用を私の独断でやってしまった。先生に叱られるだろうなぁ。それと、トリニティ自治区の偉い人にも、エーテル通信塔の無断使用で怒られる……どころか賠償金を請求されそうだ。こわやこわや。
ん? 先生……?
「あっ、先生からの連絡が、一切届いていないぞ!」
あの大爆発の中、先生は無事なのか!?
私は急いでシャーレのグループチャットに連絡を取ってみると……先生は爆発の被害は免れたものの、アリウスの兵に銃で撃たれた? そして、ゲヘナの救急車が先生を運んでいった……?
よかった、爆発でどうしようもないレベルの怪我をして、ミンチになっていなかった。銃で撃たれたらしいけど……きっと大丈夫なはず。
『先生には貴重なお守り……『スケープドール』を渡してあるよ。それがあれば、銃弾の一発くらいはどうにでもしてくれる』
そうグループチャットにコメントを流し、私は一息入れる。
そして、テレビ画面を再び確認しようとすると……エンジニア部のメンバーが、テレビの前から姿を消していた。
代わりに、みんなが工房の奥から何かを運び込んできた。あっ、あれは……。
「リク、どうせトリニティに向かうつもりなんだろう? それなら、これに乗っていけばいいよ」
ウタハ部長が、それを前にそんなことを言った。
「ふっふっふ、エンジニア部の新作、とうとう世間におめみえですね!」
「いっぱい見せびらかしてきて」
コトリとヒビキも、得意げに私へ向けて言った。
そう、私の前に移動されてきたのは、夏休み期間を注ぎ込んで作られた、エンジニア部の新作。
「エンジニア部特製A.I.S。いや、A.I.SのAはアークスのAだから、ここは別の単語に差し替えようか」
その名をウタハ部長が宣言する。
「『Millennium Interception Silhouette』……略して『M.I.S』さ」
「しかも、しかも。これは特別製のゼロ号機です!」
「フォトンを扱える人じゃないと乗りこなせない……リク専用機だよ」
とうとう完成した、エンジニア部製A.I.S。いや、M.I.Sのゼロ号機が、私の前に姿を見せていた。
「さあ、乗りたまえ。急いでいるんだろう?」
ウタハ部長がそう言うと、M.I.Sの背部が下に開いた。コックピットハッチだ。
M.I.Sは、おおよそA.I.Sを踏襲した設計をしている。その全高は直立時に十メートルもあり、コックピットはそこまで狭くない。単座式で、コックピット内に余計な人を入れる余裕はないが、少なくとも窮屈な思いはしなくて済む。
そんなM.I.Sに私は乗り込み、機体を起動させる。
すると、私の体内にあるフォトンがエネルギーに変換され、そのエネルギーがM.I.Sと繋がる独特の感覚が私に伝わってきた。
うーん、これだよこれ。搭載された兵装はA.I.Sよりも幾分か火力に劣るが、まぎれもなくアークスが身に宿したフォトンで動く、人型搭乗ロボットである。
私はコックピットからウタハ部長にサムズアップをすると、エンジニア部の三人がそろってサムズアップを返してきた。それから私は、コックピットハッチを閉じ、いつでも出発できる体勢を整えた。
すると、エンジニア部の三人はM.I.Sから離れ、何やらパネルを操作して工房の天井を開いた。なるほど、そこから出撃しろと。
それじゃあ、行かせてもらおう。シャーレの部員として、先生の助けとなるために。
「道上リク、M.I.Sゼロ号機、出ます!」
機体の外へ向けてそんな言葉をノリノリで流し、私はミレニアムの空に飛び立った。
機体からは、連邦捜査部シャーレの権限を使って、緊急移動の信号を出す。これによりこの機体はパトカーと同じ効果を持ち、空を優先して飛べるようになり、各自治体の自動迎撃兵器にも狙われることがなくなる。
そんな状態で私は、M.I.Sの《ハイブースト》を使った高速飛行で、トリニティ自治区までただひたすら真っ直ぐ進んだ。
移動している間にも、スマホのグループチャットに表示される状況はどんどん変わっていく。
先生は『スケープドール』の自動治癒機能で傷が完全にふさがった状態だが、気を失っており目を覚まさない。
現場では、ユスティナ聖徒会と思われるシスター服を着た人型の何かが無数に湧き、暴れ回っている。
正実や風紀委員会の幹部達が次々倒れ、非常に不利な状況にある。
次々流れる情報を歯がゆく思いながら眺める私。だが、ようやくトリニティ自治区がコックピットのカメラに映った。
外から見たトリニティ自治区の中心地は、確かに大型ミサイルが着弾したのだろうと思われる崩壊っぷりだ。周囲へ警報を出したエーテル通信塔が、その爆発範囲から外れていたのはある種の奇跡である。
そんな中、私は爆発の中心地にM.I.Sを進ませた。
そして、瓦礫のない空けた場所に、M.I.Sを降り立たせた。さあ、来たぞ。私が来たぞ。
「連邦捜査部シャーレ所属、道上リク参上!」
アリウスだかユスティナだか知らんが、先生に仇なす敵は、シャーレの敵だ! かかってこい!