【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在 作:Leni
M.I.Sでトリニティに降下した私は、とりあえず広場にいるガスマスクを付けたハイレグシスター服の人間達を攻撃した。
スマホのグループチャットによると、このガスマスクシスターはユスティナ聖徒会という、トリニティにおける伝説的存在を模した人形であるらしい。なるほど、人じゃないなら遠慮は要らないな、と私はM.I.Sの兵装である《ソリッドバルカン》をガスマスクシスターに向けて撃ち放ったのだ。
固形化したフォトンによる銃弾がガスマスクシスターを撃ち抜き、命中した端からガスマスクシスターは蒸発するように消えていく。うん、ヘイローは持っているけど、どうやら人間ではないのは確かなようだ。
それから私は一人で戦い続けた。途中でトリニティの正実や自警団、ゲヘナの風紀委員会がアリウス兵やユスティナ聖徒会と戦っている様子が見えたが、加勢はしないでおいた。こちとら全高十メートルの巨大ロボだ。踏み潰したら大変だ。
代わりに、ひたすらユスティナ聖徒会を撃つ、撃つ、たまに斬る。
ガスマスク付きのハイレグ風シスター服というマニアックな服装をしている、人形だか幽霊だか知らん存在をひたすらに屠っていく。
攻撃を続ける私だが、しかしユスティナ聖徒会は率先してこちらを狙ってはこなかった。
近くで仲間を撃たれたらこちらに銃を向けてくるのだが、遠くのガスマスクシスターは特に私を狙わず、トリニティ生やゲヘナ生を探して攻撃することにご執心のようだ。
はて、こんな目立つロボットなのに、ヘイトを稼げていないのはどういうことだろう。
そんなことを思っていたら、ふとM.I.Sに搭載されたエーテル通信機が、外部からの通信を受け取った。
『つながりましたか……? こちらトリニティのシスターフッドです』
「おっ、確かシスターフッドは、トリニティ総合学園の組織の一つだっけ? こちら、連邦捜査部シャーレ所属、道上リクのM.I.Sゼロ号機だよ」
『なるほど、ミレニアムの援軍かと思いましたが、シャーレでしたか……トリニティの味方と見なしてよろしいですね?』
「ちょっと違うかな。トリニティとゲヘナを助ける先生の味方だよ」
『……了解しました。あらためて、シスターフッドから代表して通信しております、
「あー、確か、補習授業部の一人だよね」
以前、ナギサ生徒会長を探し出そうというときに、いきなり下ネタを投下したピンク髪の生徒だったかな?
『はい。先生には、大変お世話になりました』
「よろしくね。それで、まだ何か確認したいことあるかな? こちとらテロリストの制圧で忙しくてね」
私は通信に答えながら、M.I.Sを操作し続け、無限に湧いているのかと錯覚するほどの数のガスマスクシスターを倒していく。
アークスにフォトン切れの概念は無いが、疲労は溜まるからいい加減全滅してほしい。
『確認と言いますか、情報の共有をさせてください。あなたが倒しているユスティナ聖徒会は、おわかりの通りトリニティ生とゲヘナ生にしか反応しません』
「うん、なんとなく分かる。でも、なんでかな」
『あなたが狙われていない理由は、その機体にミレニアムのマークが描かれているからかと。ユスティナ聖徒会はおそらく、アリウス分校がトリニティの代表者として勝手に締結したエデン条約を契機にして動いています』
……うん? 条約を結んだから、このハイレグガスマスク青肌シスター幽霊が出てきたと?
もしやエデン条約は魔術的儀式か何かで、こいつらはオカルト的な何かだというのか。
『ユスティナ聖徒会は、かつてトリニティが統一された第一回公会議の当時に存在した、伝説的な武力集団です。その第一回公会議をエデン条約で再現したことで、エデン条約機構の守護者としてユスティナ聖徒会の複製体が出現したと考えられます。エデン条約機構は現在、アリウス分校が乗っ取った状態になっています』
うーん、歴史上の出来事を儀式で表現することで、その出来事に即した効果が魔術で再現される。前世の頃に読んだラノベで、そんなことやっているの読んだなぁ。
『現在のユスティナ聖徒会は、エデン条約機構の守護者にして尖兵。それはすなわち……彼女達はトリニティとゲヘナの紛争への介入という形でしか動けないのです』
「なるほど……ミレニアム所属に見えるシャーレの私は、エデン条約とは無関係すぎて狙われていないってことね」
『はい。道上リクさん……トリニティでもゲヘナでもないあなたが、ユスティナ聖徒会との戦いを左右します』
「おっけー。前回のナギサ生徒会長防衛戦は社長としての立場で戦ったけど、今回は連邦捜査部シャーレとして、先生の仇を討たせてもらうよ!」
『先生は死んでいませんよ! 先ほど目を覚ましたそうです!』
「おお、そりゃよかった!」
そんな会話を交わしながら、ひたすらにガスマスクシスターを攻撃していく私。
未だに湧き続ける痴女シスターだが、その数は明らかに減ってきており、トリニティとゲヘナの連合軍がアリウスを押し返し始めていた。
私はガスマスクシスターに狙われないのをいいことに、敵の群れに突っ込み隙のある大技で敵を屠っていった。
だが、そんな無双系ゲームのような状況は突如終わりを迎える。
私服姿の推定アリウス兵が複数名、M.I.Sを狙って銃撃を仕掛けてきたのだ。しかも、その練度は高く、明らかに強兵であると分かった。
『ミレニアムの兵器だと……? なぜミレニアムが、エデン条約に介入する!』
外部集音マイクが、帽子を被った黒マスクのアリウス兵の言葉を拾い上げる。M.I.Sのミレニアムマークでも見たのかな? その私服アリウス兵に、私は言葉を返してやった。
「ミレニアムではないよ。私はシャーレさ」
『シャーレ、先生とやらが所属していた組織か。……残念だったな。先生は私がこの手で撃ち殺したぞ』
「へえ……」
こいつか。こいつらが先生の仇か!
「うりゃあ! 先生の仇ー!」
『ふん、デカ物の処理方法も我らは学んでいる……スクラップになるがいい!』
そこから、三人の私服アリウス兵との戦いが始まった。
湧き続けるガスマスクシスターは全てトリニティ生とゲヘナ生に差し向けられ、私には私服の三人だけでなく、そろいの白コートを着たアリウス兵達も向かってくる。
さすがにM.I.Sの機動力があるとはいえども、少しずつ少しずつ機体に銃弾や砲弾が命中していく。
というか、全高十メートルという巨大すぎる的だから、攻撃を当てるのは簡単なのだ。
『いいかげん、くたばれ!』
M.I.Sの装甲がボロボロになってきたのを見て、黒マスクの私服アリウス兵がそんなことを言う。だが、残念だったね。M.I.Sは、くたばりません!
いくよー、反則兵器の起動ボタン、ポチッとな。
「《エリアヒール》発動! ふふふ、目の前で機体が直っていく様子を見るのはどうだい?」
A.I.Sにもともとあった機能、《エリアヒール》。それは、一定範囲内のA.I.Sの傷や故障をオートで修復するというものだ。
仕組みとしてはフォトンの力で応急処置を行なっているのだが……端から見るとロボットが回復魔法でも使っているような不思議すぎる光景だろう。
ふふふ、フォトンによる治癒の力は、オラクル船団の全身サイボーグであるキャストという種族や、小型アンドロイドのサポートパートナーにも効力を発揮するんだよね。だから、その技術を応用すればロボだって治療できるんだ。
『装甲が自己修復しただと!? ナノマシンで動く古代兵器だとでもいうのか!?』
「いいや、違うね。フォトンで動く、最新兵器だよ!」
そこから、私は奮闘した。《エリアヒール》は三十五秒に一回発動できる。その短い間に、アリウス側がM.I.Sを破壊しきることは現状の火力面から不可能であり……そろいの白コートを着た雑兵は、M.I.Sの射撃により早々に脱落した。
残るは、私服姿のアリウス兵のみ。
そんなとき、再び浦和ハナコからの通信が入る。
『道上さん、あなたと対峙している三人のアリウス生は、アリウススクワッドというアリウスの幹部だそうです』
「なるほどー、今回の首謀者かな」
『……首謀者は他にいるかもしれませんが、少なくとも現場の最高指揮官でしょう』
「なるほどなるほど、それなら、対話フェイズに入るかな」
私は通信にそう応えると、機体外部に音声を繋げるマイクを起動させた。
「アリウススクワッドさん。あなた達はトリニティを破壊しようとしているけど、トリニティがあなた達に何をしたの?」
攻撃を止め、銃撃を回避しながら私は問いかけた。
すると、帽子に黒マスクの敵幹部が、瓦礫に身を隠しながら答えを返してきた。
『お前もシャーレなら、知っているのだろう? かつてトリニティは第一回公会議の後、集団でアリウスを排斥した……!』
うん、先生や二重スパイの子からあらかじめ聞いている。
トリニティ総合学園となる以前、トリニティは複数の分校に分かれていた。その分校は、少し前までのトリニティとゲヘナみたいに、互いに憎しみ合い攻撃し合っていた。
しかし、第一回公会議がそれを変えた。トリニティ総合学園として複数の分校を一つに統合したのだ。分校は、今も続く派閥としてトリニティにその面影を残している。だが、そんな分校の統合を最後まで反対していたのが、アリウス分校だ。
だから、トリニティ総合学園が誕生した後、トリニティは反対勢力だったアリウス分校を徹底的に叩き、排斥した。
そんな、今からずっと昔のお話。
……そう、昔なんだよ。少なくとも十年二十年じゃきかないくらい昔なんだ。
だから、私は黒マスクの幹部に向けて言った。
「違うよ。昔のアリウスにじゃなくて、今のあなたに何をしたの?」
私がそう問いかけるが、答えは返ってこない。だから、続けて私は言った。
「アリウス分校の現在の所在地は、トリニティのティーパーティーであるナギサ生徒会長ですら知らなかった。それなのに、普通のトリニティ生があなたに何をして、何をできたというの。大事なことだよ。教えて」
それから数秒の沈黙があり、そしてポツリとした声で返ってきた。
『何も、しなかった』
……やはりそうか。彼女達は当事者じゃない。そう思った瞬間、再び声が私に届く。
『何もしなかった。お前達は私達に、何もしなかった!』
集音マイクが拾ったその音声は、私の耳には心からの悲痛な叫びに聞こえた。
何もしなかった。だから、これはただの逆恨み。単純に解釈すると、そう言っているようにしか思えない。が、しかし、声色を聞くと全くそんなことを言っていないことが分かる。
そして、さらにコックピットに声が届く。
『それが、今を生きるアリウス生にとって、どれだけ残酷なことか……お前は知るまい!』
……いったいどういうことだろうか。
私は会話を始めたとき、彼女達はてっきり、実体験ではない歴史上の恨みを自分自身の恨みであるように錯覚する『ONE PIECEのホーディ・ジョーンズ状態』になっているのではないかと思っていた。しかし、その読みは外れた。
彼女達の現状を詳しく知りたい。問いただしたい。
そう思ったのだが……私にできることは、ここまでのようだ。
『ようやく到着しました』
そんな浦和ハナコの通信を聞いて、私は会話フェイズを終了した。バトンタッチの時間だ。
なぜならば、
『"その話、詳しく聞かせてくれないかな?"』
白スーツを血で赤く染めた先生が、複数の生徒達に付き添われて戦場に辿り付いた。
彼の周りには、二重スパイの白洲アズサや、補習授業部リーダーの阿慈谷ヒフミ、先ほどまで通信をしていた浦和ハナコ、それと下江コハルの姿がある。補習授業部、勢揃いだなぁ。
さあ、アリウス分校は先生を前にどう出る? 再び銃を先生に向けるか、それともはたして……。