【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在 作:Leni
いつの間にかユスティナ聖徒会の出現が止まっている。
無限湧きかと思っていたが、どうやら違うようだ。そう思っていたのだが……。
『道上さん、ありがとうございました。この場で持ちこたえてくれたおかげで、先生の作戦が上手く行きました』
補習授業部の浦和ハナコが、そんなことを言ってくる。
先生の作戦……?
『アリウスが第一回公会議の再現として乗っ取ったエデン条約。そのアリウスと同じ過去の再現儀式を先生が実行しました』
「アリウスと同じことを先生が……?」
『はい。今この場には、トリニティの正実とゲヘナの風紀委員会が居ます。そこに、連邦生徒会直属の特別な権限を持つシャーレの後押しがあれば……エデン条約を即席で結ぶことが可能なわけです』
アリウスがトリニティの分校としての立場でエデン条約を結び、第一回公会議を再現してユスティナ聖徒会を掌握した。
それと同じように、先生が連邦捜査部シャーレの権限でエデン条約を結ばせ、第一回公会議を再現してユスティナ聖徒会を掌握し返したってことか。
ユスティナ聖徒会のガスマスクシスターは、その場で動きを止め棒立ちになっているようだ。先生がユスティナ聖徒会に命じて動きを止めているのだろう。
「ヒュー、先生やるう!」
私はコックピットの中から、先生へ向けて称賛の言葉を送る。
すると先生がこちらに向き、ニコリと笑って話しかけてきた。
『"リク、いろいろありがとう。お守り、壊れちゃったけど役に立ったよ"』
「スケープドールが役に立ったなら、何よりですよ!」
先生のスーツは血で汚れている。どうも、かなりの出血があったと見受けられる。つまり、アリウススクワッドの銃弾は、先生の命を脅かしたのだ。
でも、スケープドールは自動で起動して命の危機を助けてくれる、アークスの科学技術の粋が集まった医療機器だ。先生は銃弾を受けたことを感じさせないほど、しっかりとした姿勢で立っている。
『"格好良いロボットだね。後で乗せてくれる?"』
「コックピットに入れるのはいいけど、私専用機なので先生では操縦できませんよ?」
『"専用機!"』
急に声が弾んだぞ? いや、シャーレの仕事場にロボットのプラモデルとか飾っているから、こういうのが好きなのは分かるけどさ!
さて、戦いはおおよそ決したと言えるだろう。
ユスティナ聖徒会はアリウスとシャーレによるエデン条約の二重契約により、指揮系統が重複して機能しなくなっている。後方からは怪我の治療を終えたトリニティとゲヘナの戦闘部隊がどんどん復帰してきており、聖堂周辺は包囲されつつある。
アリウススクワッドの三人以外のアリウス生は、すでに制圧されており……。もはや彼女達は進退きわまった状態であった。
そんなアリウススクワッドの三人のうち、ヘッドホンを首にかけている子が、黒マスクの子へ話しかける。
『リーダー。もうやめよう。私達の負けだ』
すると、さらにアリウススクワッドの頭にキャスケット帽を被っている子も、黒マスクに言う。
『サオリさん……全てを先生に話しましょう……助けてもらえるかも……』
すると、その言葉に反応した先生が、アリウススクワッドの三人に向けて言葉を放った。
『"アリウスの事情を教えてほしい。君達の助けになりたい"』
すると、黒マスクが叫ぶように返す。
『……ッ! いまさら! いまさらになって助けるなどと……! そんな都合のいい話があるか!』
『"
黒マスクの言葉に、すぐさま言葉を返した先生。
こんなときでも、生徒のことを第一に考える先生の様子に、黒マスクが気圧されるかのように一歩引いた。
そうだよね。先生ならそう言うよね。アリウス分校も分校と名が付いている以上、立派な学園の一つ。つまり、アリウス生は先生が手を差し伸べるべき、キヴォトスの生徒なのだ。
黒マスクはフラついて、後退した足を前に踏み出そうとする。
だが、次の瞬間、彼女達の背後にある瓦礫が吹き飛んだ。
『!? アンブロジウス!』
黒マスクが背後を振り返り、そんな単語を叫ぶ。
その黒マスクの目の先では……M.I.Sの半分ほどの高さを持つ巨大な人影が、瓦礫を押しのけるようにして立ち上がっていた。
巨大な人影は、ユスティナ聖徒会に似た雰囲気を持っており、それでいて銃は持たず、代わりに両の手の爪が刃のように伸びていた。
それを見た黒マスクは巨大な人影の方向へと走り出す。
『まだだ! まだ私達には、切り札がある!』
『!? 聖堂の地下に逃げようとしています!』
浦和ハナコが黒マスクの狙いに気づいたのか、周囲に向けて叫ぶ。とっさに先生の周りの生徒達が銃を黒マスクに向けるが、巨大な人影が黒マスクをかばうように立ちふさがり、代わりに銃弾を受け止めた。
『くっ、先生、サオリを追うぞ!』
二重スパイの白洲アズサが、そう言って黒マスクの後を追おうと走り出す。
当然、巨大な人影は道をふさごうと動く。が、そうはさせない!
「だらっしゃあーッ!」
私はM.I.Sを操縦し、右手アームに持たせた《フォトンセイバー》で巨大な人影に斬りつけた。
人影よりも大きいM.I.Sの攻撃を、人影は両手の爪をクロスさせるようにして受け止める。よし、ヘイトは稼げたな。ならば、ここで私がやるべきことは一つ!
「ここは私に任せろ! 私を置いて先に行けぇ!」
人影の爪と《フォトンセイバー》でつばぜり合いをしながら、私は機体の外部スピーカーからそんな言葉を飛ばした。
すると、即座にアズサが人影の脇を通り抜け、さらに補習授業部のメンバーが彼女を追い、先生もそれに追従した。
どうやら聖堂の地下とやらは、巨大な人影が現れた瓦礫の下に入口があったらしい。
瓦礫の向こうに補習授業部と先生が消えていくのを見届けた私は、巨大な人影から距離を取って、あらためて《フォトンセイバー》をM.I.Sに構えさせた。
周囲に人がいるので、距離を取って卑怯な遠距離攻撃戦を挑むと、人を轢きかねない。なので、近接戦で勝負だ。
私は、アリウススクワッドのヘッドホンの子とキャスケット帽の子が、正実と風紀委員会に捕縛されたのを見届けると、巨大な人影に向けて《フォトンセイバー》を突き入れた。
先生の邪魔はさせないぞ。さあ、勝負だ!
◆◇◆◇◆
巨大な人影は、キャスケット帽の子が解説したのを聞いた限りでは、『アンブロジウス』というアリウスの切り札の一つだったらしい。激しい斬り合いの末、奴には《フォトンセイバー》のサビとなってもらった。
まあ、斬っても血は出ずに、倒したら他のガスマスクシスターと同じように、かすみとなって消えていったのだが。
とりあえず、一段落だ。
地上部のガスマスクシスターはトリニティ・ゲヘナ連合軍によって一通り消し去られたし、アリウス生も逃げるか捕まるかして、すでに抵抗する者は残っていない。
聖堂の地下へは、ヒナ委員長や正実の剣先ツルギ委員長が先生の援護に向かったし、私が地下へ向かう必要もないだろう。
どれ、アイテムパックの中から飲み物でも出して……。
そんなことを思っていたら、M.I.Sのカメラに映る周囲の景色が急に歪みはじめた。
「何!? 今度は何!?」
混乱して開封前のペットボトルを手から取り落とした私は、急いで操縦桿を握る。謎の状況が収まったらすぐに動けるようにだ。
そして、M.I.Sの外の景色は、瓦礫の地上部から、広い屋内のものへと変わっていた。
全高十メートルあるM.I.Sがちゃんと収まる広大な空間。
そこに、先生と補習授業部、ヒナ委員長とツルギ委員長、黒マスクのアリウススクワッド、そして謎の巨大生物がそれぞれ存在していた。
巨大生物は、補習授業部と二人の委員長による即席のチームと戦っている最中だ。
一方の先生は、手に何やら一枚のカードを握って、宙にかざしていた。
そんな先生に、私は外部スピーカーで声を届ける。
「先生、状況説明!」
『"『大人のカード』でリクを呼び出したよ。あの大きい怪物は敵。すまないけど、戦いに手を貸してほしい"』
「了解!」
大人のカードってクレジットカードのことじゃなかったの、と思いつつも、問いただしている時間はないと判断した。
巨大生物は突然ガスマスクシスターを大量に呼び出し、補習授業部と委員長二人に激しい攻撃を加えている。こちら側も必死に応戦はしているようだが、どうにも湧いてくるシスターの数が多すぎて分が悪い。
なので、私は持てる最大の札を初手で切ることにした。
「巨大生物に主砲撃ちます! 射線に気を付けて」
私はそう外部に向けて声を伝えながら、アームを操作して《ソリッドバルカン》と《フォトンブラスター》を合体。その《フォトンブラスター》を巨大生物に向けて構えると、操縦桿に備え付けられた引き金を引く。
すると、わずかなチャージののち、構えた砲身から青白い光の束が撃ち出された。
M.I.Sの最大兵装、《フォトンブラスター》の発射だ!
その威力は、ゲーム開発部のアリスが実証済み。地下空間だから適当に撃ったら最悪、崩落の危機だが、そんなことを気にして勝てる相手ではないと判断した。
身体に赤いローブ、頭にヘイロー、そして後光のような黄金の物体を背負った巨大生物は、フォトンエネルギーの光に飲みこまれていき……。
やがて、光が収まった後には、巨大生物は空間に溶けるように消え去っていった。それと同時、ガスマスクシスターも後を追うように消えていく。
「よし、大勝利!」
『"ビーム……! ロボットがビーム兵器を!"』
『そんな……一撃で……』
私が勝利宣言をすると、テンション高めに喜ぶ先生の声と、黒マスクのアリウススクワッドの悲しみがこもった声が、コックピットに届いた。
ふふん、M.I.Sゼロ号機が持つ最強の兵装だからね。これがアークスとミレニアムの最新科学だ!
◆◇◆◇◆
さて、いろいろ気になることがある。
まず、この場にいる最後のアリウススクワッド、黒帽子に黒マスクの少女は、ここ聖堂の地下空間奥まで逃げ込んだらしい。
先生は黒マスクに投降を投げかけようとしたが、その前に巨大生物『ヒエロニムス』が起動してしまった。
ヒエロニムスは、『ゲマトリア』という集団の一人、『マエストロ』なる者が儀式を行使して呼び出した存在らしい。
ゲマトリアは大人で構成された謎の集団で、その中には『黒服』を名乗る男がいたと先生から聞いている。
その黒服は、アビドスのロリおじさんホシノを契約で縛って、人体実験の素体として連れ去ろうとした。つまり、例のロリおじさん身売り騒動のときの黒幕だ。
そして最後に、先生が私を呼び出した『大人のカード』。
これは、キヴォトスで先生のみが所持している不思議なアイテムらしい。
先生は言葉をにごすように言っていたため詳細は聞けなかったが、どうにも使用にはリスクがともなう様子。
うーん、そんなものを使わせてしまったか。これなら、私もさっさとM.I.Sを降りて聖堂の地下に援軍を連れていけばよかったなぁ。
さて、そんなわけで戦いは終わった。アリウススクワッドの黒マスクは、補習授業部と二人の委員長に囲まれ、戦意を消失している。
そんな黒マスクに、先生は大人のカードをしまってから近づいていく。
『負け、か……もう終わりだ……』
銃を手放して立ち尽くす黒マスクに、先生が話しかける。
『"今度こそ、話を聞かせてもらえるかな。きっと、私にできることが何かあるはずだから"』
M.I.Sのカメラが、先生の顔を映し出す。その表情は、先ほどとは打って変わってとても真面目なものだ。
すると、黒マスクの子は、おもむろに顔からマスクを外し始める。
『……先生……あなたが……本当に、私に手を差し伸べようというのなら……』
マスクを外して素顔を見せた彼女は、ポツリ、ポツリとつぶやくように言葉を絞り出した。
『……助けてくれ』
それは、エデン条約を台無しにしたテロリストのリーダーのものとは思えない、弱々しい声。
『こんなことをしでかしておいて、虫がいいことを言っているのは分かっている……今さら言っても遅すぎることは分かっている……でも、どうか……』
雨に濡れた野良の仔猫のような、弱々しい助けを求める声。
『私達を……地獄から救いあげてくれ……』
そして、彼女はその場に膝を突き、まるで土下座をするかのように這いつくばった。
『アリウスを……私の仲間を……アツコを……助けてください……!』
『"分かった。助けるよ"』
安藤先生は生徒を見捨てない。だからこそ彼はキヴォトスにおける、ただ一人の先生として敬意を払われている。
シャーレ部員のみんなも、何かしら先生に助けてもらったことがある。だから私達は、その恩返しとして先生を助ける。私も、キヴォトスに迷いこんだ直後に先生に保護してもらったから、今回みたいに先生を助けるよ。
ところで、先生。シリアスな中で悪いんだけど、ついでに私も助けてほしい。
ここ聖堂の地下なんだよね? 道中、十メートルの高さがあるM.I.Sが通れそうな隙間、あったかな?
M.I.Sを地上に戻す方法、一緒に考えてほしい。