【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在 作:Leni
いろいろあったエデン条約調印式。その後のことを話そう。
まず、ティーパーティーの三人目、
これまでは、ずっと眠り続けて、未来を見たり、見た未来から目を背けたりしていたらしい。なんのこっちゃと思われるが、彼女には夢を通じて未来を見る、未来視の能力があるとのこと。
そんな彼女と私は、先生を通じて顔を合わせることとなったのだが、彼女からは開口一番怒られた。
「君が場に出てくると、未来がぐちゃぐちゃになって見通せなくなるんだが!? 別次元からの使者とか、ありえないイレギュラーだよ!」
なぜ私が怒られなければいけないのかは分からないが、未来視で来ると分かったはずの未来が、私の介入によって違う方向へズレていくのだとか。どうやら彼女が夢の中で見る未来の光景には、私は一切登場しないらしい。多分、別次元の存在を彼女の能力では捉えられないんだろうなぁ。
そんな私というイレギュラーのせいで、今後の未来が完全に未知数になってしまったと、彼女は不安そうに述べていた。
しかしだ。PSO2のゲームプレイヤーとして未来を知っているのに、率先してアークスになり
この私の意見には、安藤先生も賛成だったようで、さらに先生はセイア生徒会長にこんなことも言った。
「"先行きが不安なら、いつでも私を頼ってほしい。助けになるよ"」
うーん、この先生、言動がイケメンだね。
さて、次にもう一人のティーパーティー、ミカ生徒会長について簡単に触れよう。
セイア生徒会長をアリウスに襲わせ、ナギサ生徒会長を裏切ってトリニティにアリウスを引き込んだ罪で拘禁されていた彼女だが、最近ようやく解放されたようだ。
しかし、罪は罪。ナギサ生徒会長が補習授業部にしでかしたあれこれと合わせて、ティーパーティーのメンバーを入れ替えるかの検討がされているらしい。まあ、ティーパーティーに相応しいカリスマを持つ者なんて、各派閥には今の生徒会長三人以外だとろくにいないようなのだが。
なので、ミカ生徒会長を対象とした査問会……ああ、聴聞会だっけ。それが開かれるまで、いろいろと保留になっているようだ。
次に、捕まったアリウス生達と幹部であるアリウススクワッドの三人。
彼女達は、先生が主になって事情を聞いている最中のようだ。詳しい事情はまだこちらへ流れてきていないが、どうやら正実がアリウス分校のある場所へ踏みこむ用意をしているらしい。正実のシャーレ部員を通じて分かった情報だ。
なにやらアリウス分校には、絶対的な支配者である生徒会長がいるそうだ。その生徒会長との激突がありそうで、正実はとてもピリピリしていた。
そして最後に、私。先生の大人のカードでM.I.Sを地上に戻してもらった私は、次の日からトリニティで精力的に動き始めた。
とは言っても、エデン条約の後始末をしているわけではない。シャーレ部員としての仕事を振られたわけでもない。私の忙しさは、『エーテルフォトニクス社』の社長としてのものだ。
実は、トリニティで建設していたエーテル通信塔『トリニティエーテルタワー』がようやく正式に完成したのだ。だから、落成式を執り行なう必要がある。
もともとはエデン条約の友好の象徴として作られたこの塔だが……残念ながらエデン条約はめちゃくちゃになったまま、うやむやになってしまった。どうもゲヘナの『万魔殿』は、最初からトリニティを裏切るつもりでアリウスと内通していたらしいね。まあ、エデン条約の調印式では、『万魔殿』はそのアリウスに裏切られて、乗っていた飛行船ごと焼かれたのだが。
そういう状況なので、エデン条約締結直後に行なうはずだったエーテル通信塔の落成式をどうするかで、扱いに困ってしまった。
しかし、建物はちゃんと完成した。それならば、落成式は行なうべきだとナギサ生徒会長に言われたので、私はすぐさま準備を始めた。
そうして、『通功の古聖堂』へのミサイル攻撃から数日後という急すぎるスケジュールで、落成式が執り行なわれることになった。
「本日はお日柄もよく――」
そんな落成式の始まりの挨拶を任された私は、原稿丸暗記の言葉を来場客へ向けて語った。
エデン条約調印式でテロがあった直後ということで、来場客はそれほど多くない。正実も自警団もいないし、重役らしき重役はナギサ生徒会長と、『エーテルフォトニクス社』社長の私、あとは建設会社の総責任者くらいだ。
ちなみに、先生はアリウス分校のある場所へ査察に行っている。なんなら、正実と自警団もほとんどそちらに向かっている。アリウス分校があるアリウス自治区は、トリニティの地下にあるカタコンベ迷宮の先にあり、その迷宮を攻略するために人海戦術を用いたのだ。
そんな状況で仕事のある私は見事に置いてきぼりを食らって、ナギサ生徒会長と一緒に落成式で祝いのテープカットだ。
ハサミを手に取り、横に一緒に並んだナギサ生徒会長の顔をうかがう。その表情は……どこか楽しげだ。
「うふふ、一度テープカットをしてみたかったのですよ」
そうですか。まあ、私もテープカットはこれが始めてだけどさ。『エーテルフォトニクス社』の所持物件って、ほとんどが借り物の建物だし。
ともかく、無事にエーテル通信塔の一基目が完成したことを祝おうか。
さあ、テープカットだ。
白手袋をはめ、ハサミを右手に持ち、左手でテープのリボン部をつかみとる。
すると、詰めかけていたマスメディアのカメラのフラッシュが焚かれて、そのまぶしさを耐えるようにして私はハサミを持つ右手に力を入れた。
そして、次の瞬間……私達は突然起きた大爆発で吹き飛ばされた。
「ぎゃー!」
爆炎が全身を包み込み、猛烈な勢いで上空を舞う私。そして、地面を二転三転して、私は無様にアスファルトの上に倒れた。
「何が起きたし……」
私はフラフラとよろけながらもなんとか立ち上がり、状況の確認を急ぐ。
爆発はどうやらテープカットをしようとした場所を中心に発生しており、私だけでなくナギサ生徒会長や少し離れていたマスメディアも吹き飛ばしたようだ。
そして、それだけでは収まらず、エーテル通信塔前に多数の装甲車両が突撃してきて、目の前で起きた爆発に右往左往していた来場客を容赦なく轢いた。
装甲車両はエーテル通信塔の入り口前を占領するかのように陣取り、車両からは白コートにガスマスク姿の武装兵が次々と姿を現す。白コートにガスマスク……明らかにアリウス兵なんだが?
「あちゃー、またアリウスのテロかぁ」
アイテムパックから長銃を取り出しながら、私はそんなことをつぶやいた。すると、その言葉は一人のアリウス兵に聞こえていたらしく、そのアリウス兵がすごい勢いで振り返った。
「テロではない! 愚かなトリニティに対する革命だ!」
「なるほど、クーデターと」
状況をなんとなくつかんだ私は、長銃からフォトン弾を撃ち出して、革命を主張したアリウス兵を撃ち抜いた。
すると、他のアリウス兵が私を狙って銃を撃ってきた。私はとっさにダイブロールで銃弾を避け、物陰を探して移動し始める。
移動する最中にも、アリウス兵達は次々とエーテル通信塔の建物内部へと駆け込んでいく。
「うーん、先生にアリウス分校を制圧されそうだから、逆に打って出てきたかな」
私は、そこらに転がっていたナギサ生徒会長を拾い、無人になった装甲車の一角で身を隠しながらつぶやく。
すると、ナギサ生徒会長は、ちゃんと意識があったのか私の言葉に声を返してくる。
「革命にしてもクーデターにしても、トリニティの本校舎を狙うことが効果的なはずです。なぜエーテルタワーを攻めてきたのかが分かりませんね……」
「要人のナギサ生徒会長が狙いだとか?」
「爆破のあとは明らかに無視されていますが。アリウスは、どう見ても建物の制圧が目的の動きをしていますよ」
うーん、そうなんだよね。誰かアリウスが何をしたいのか答えてくれないかな。
たとえば、アリウスと一緒にやってきた、ミカ生徒会長とかね。
「……ミカさん!」
ナギサ生徒会長もミカ生徒会長の姿を見つけたのか、驚き顔で名前を叫んだ。
「こんにちは、ナギちゃん」
銃を手に構えこちらに銃口を向けるミカ生徒会長は、なんとも言い表しようのない歪んだ表情を浮かべている。いつも笑顔の彼女らしくない顔つきだ。
そんなミカ生徒会長へ、ナギサ生徒会長が身を乗り出すようにして言った。
「なぜ、なぜまたアリウス側についているのですか、ミカさん!」
「ふふっ、おっかしいんだぁ。アリウスから寝返りましたなんて、私、一言も言ってないじゃん、ね?」
「そんなこと……!」
「私はもう大丈夫、なんて勝手に判断したそっちが悪いよね☆」
うーん、ミカ生徒会長を問いただしたい気持ちは分かるけど、銃すら持っていない状態で無防備に身を乗り出すのは危険だぞ、ナギサ生徒会長。
私は、ナギサ生徒会長の制服の襟を引っ張り、装甲車両の陰に隠し直した。「ぐえっ」とか聞こえたが気にしないでおく。
さて、聞きたいことは私もある。
「ミカ生徒会長。一つ質問よろし?」
「元会長、かな。さすがにこれだけのことをしたのに、今さらティーパーティーは名乗れないよ」
「では、ミカ。あなたとアリウスの作戦目標は?」
とても答えてくれるとは思えない質問だが、ミカならば答えてくれるかもと思い、正直に問うてみた。
「エスカタワーの占拠だよ」
エスカタワー。エーテル通信塔のエーテル地球における名称だ。なぜその呼び方をしているかは分からないが……やはり通信塔の制圧がアリウスの狙いのようだった。
私はさらに詳細を問いただすべく、ミカに話しかける。
「狙いは特別広域緊急警報かな? トリニティのみんなに向けて、何か放送をしたいの? 政治的なあれこれとか」
「ううん、違うよ。非物体を具現化するエーテルの力を使って、神様を降臨させてみんなを助けてもらうんだって」
……マジかよ、そう来たか!
アリウスの狙いは、エーテル通信塔の通信機能なんかじゃなくて、空間に散布しているエーテル!
驚く私に、ミカは言葉をさらに続ける。
「アリウスの人から教えてもらったんだけど、キヴォトスの外ではエーテルによって神様が呼び出されたんだってね」
「……よく知っているね。うん、事実だよ」
秘密結社のボス、『アダムとイヴ』のアダムであるアーデムが、シオン模倣体のマザーの力を取り込んで、膨大なエーテルを使って神様を具現化した。エーテル地球で、確かにあった事実だ。
「それと同じことを私達はやるの」
「そんな馬鹿げたことを……」
「馬鹿げたことかな? 持っていた大事なものを全部なくして追い詰められた私が、神様に願いをたくすのは、そんなに悪いことかな?」
「あの創造神は、そこまでお優しい存在じゃないよ。下手をしたら、キヴォトスに住む人達に害をなすかもしれない」
「……あは☆ それもいいかもね。神様にお願いして、ぜーんぶ、なかったことにしてもらおっか。経典に出てくる、大洪水みたいに」
いやいや、大破壊を容認とか、ミカの頭の中はどうなっているんだ。
……いや、どうにかなっているのは、頭ではなく心か。彼女の心は弱っているのかもしれない。神様の力にすがりたくなるくらいには。
「はあ……先生なら、ここで気の利く言葉でもかけて、ミカの心を救おうとするんだろうけど」
「先生はいないねえ。だーれもいないアリウス自治区に、正義実現委員会の人達と一緒に取り残されちゃってるね」
「そして、残念ながら、この場にいる私に先生みたいな優しさはない。なので、説得フェイズをスキップして、力で押し通らせてもらうよ」
「うん、殴り合いってことだね。単純明快なのは好きだよ」
そんな言葉を皮切りに、私はナギサ生徒会長を置いて装甲車両の陰から飛び出す。
そこから私とミカの壮絶な戦いが始まった。
それは以前の戦いの焼き直しにはならなかった。時間稼ぎが目的ではないので《ガードスタンス》は使わず、攻撃性能を上げる《フューリースタンス》を使う。
そして、積極的にフォトンアーツを使い、《オートメイトハーフライン》の回復剤自動使用による治癒に頼って多少の被弾は無視した。
お互いに銃弾を当て、体力を確実に削り合っていく。だが、戦況は少しずつ、こちらの勝利へと傾いていった。
「……おっかしいなぁ。これでもトリニティでトップクラスには、強いつもりだったのに」
ミカが、フォトンの弾丸で撃たれた腹部を押さえながら、装甲車両の陰でそんな泣き言を言ってきた。そんなミカに、私は一つの事実を突きつける。
「そうだね。ミカは強いよ。もしかしたらトリニティ最強かもしれない。でも、私だってこれまで、
ミカが神秘の世界の上澄みだとしたら、私が挙げた名前は惑星規模の上澄み。そして私は、そんな化け物どもと模擬戦を何度もしてきて、強者との戦いに慣れているのである。
銃弾を受けても痛いだけで済む不思議生物といえども、ミカは学生だ。
一方、アークスである私は戦闘を仕事にして生きてきた。その分の場数の違いが出た形である。
本来のトリニティ最強である正実の剣先ツルギ委員長なら戦いに慣れているだろうから、もし彼女が私の敵に回ったら、勝敗はどう転ぶかは分からないが。
「仕方ないな。建物がちょっと壊れちゃうけれど……これはどうかな!」
ミカがそう告げた瞬間……突然、空の彼方から何かが降ってきた。あれは、もしや隕石?
オイオイ、なんだこの技は! メテオの魔法を使ってくるとか……格好良すぎる!
私も『パワーをメテオに』したい!
「どう? 私の隠し
「では、私も隠し
ミカの宣言にそう返し、私は構えていた長銃にレンジャーのスキルである特殊弾《ウィークバレット》を装着。勢いよく空から降ってくる隕石に弾丸を撃ち込んだ。
すると、隕石の正面に浮かび上がるようにして、赤色のマーカーが付く。私はそこへ向けて、ありったけのフォトンアーツを叩き込んだ。
「うわ、まさかの迎撃……! リクちゃん頭おかしいッ!」
見事に空中で四散した隕石を見て、ミカが驚きの声を上げる。
「なぜかディスられた! そんなあなたにも、ついでに《ウィークバレット》をプレゼント」
私は長銃から弾丸を放ち、車両の陰に隠れて姿が見えなくなっているミカ生徒会長に《ウィークバレット》を当てる。うん、実はこの《ウィークバレット》って、遮蔽物があってもすり抜けて当たるんだ。
「痛っ! えっ、何コレ……!」
突然、マーカーが自分の身体の表面に浮かび上がって、驚いているであろうミカ。私は隠れて姿の見えない方向へ向けて、技の解説をしてあげた。
「そのマーカーが付いた部位は、攻撃に弱くなる。つまり弱点になるんだけど……人間みたいなちっちゃい生物だと、全身が弱点になるね」
「何そのインチキ効果!?」
インチキとか、メテオの魔法使う人には言われたくないよ!?
「でも弱点だろうが、当たりさえしなければ……」
そう言って、ミカは陰から陰に移動し、私の射線から逃れようとする。
まあ、私が当てる必要はないんだけどね。
「今っす! 撃てー!」
そんな第三者の声が、場に響く。
爆破テロの通報を受けたのか、この場に駆けつけていた正義実現委員会。そのメンバーが五人ほど、いつの間にかミカを囲むように配置されていた。そして、正実のリーダーらしき子の号令で、ミカに向けて一斉射撃をした。
「あああああっ!」
弱点となっている全身を銃弾で打ちすえられたミカ。彼女は痛みに足を止め、明らかな隙ができた。だから、私も飛び出していってありったけのフォトンアーツをミカから浮かび上がるマーカーへと叩き込んだ。
すると、さすがに耐久力の限界が来たらしく、ミカはその場に倒れた。
ヘイローは消えていないため気絶はしていないようだが、弱点を打ちすえられて痛みに屈したのだろう。もしくは、激しい戦いのせいで、体力か精神力が限界だったのかもしれない。
敗者となったミカに、私は長銃を構えながら近づいていき、やがて倒れる彼女を見下ろす位置まで来た。そして、私は彼女に向けて言う。
「ごめんね、《ウィークバレット》の説明は、あなたに向けて言ったんじゃなくて、周りの正実の人にチャンスを伝えるために言ったんだ」
アークス端末のマップ機能で、陰に隠れて移動する生体反応の接近を察知できたんだよね。
ミカとの大決戦。決まり手は、レンジャーが一番得意とする弱点付与からのタコ殴りだった。