【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在   作:Leni

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25.式に混ざるゴミ

 さて、タワーを登ろうか。エーテルを使って神様を呼びたいなら、狙いはエーテル増幅装置でしょ。あれをいじってエーテル濃度を上げることがアリウスの目的と見なして、エーテル増幅装置がある最上階までゴーだよ。

 そう決めた私は、足元に居るミカを左肩にかついで、右手に長銃を持ちエーテル通信塔の入口に向けて一歩踏み出した。

 

「待ってください! リクさん……あの、なぜミカさんをかついでいるのですか……?」

 

 物陰から出てきたナギサ生徒会長が、慌てたようにそんな言葉を私に向けてきた。

 その彼女に、私はしっかりとした答えを返す。

 

「事態の結末を見せるためだよ。場を乱すトリックスターを気取るなら、これから何が起きるか、最後まで見ていってもらわないとね」

 

「……当事者として、結末を見せる、ですか。分かりました。では、私も同行させていただきます」

 

「いいよー。あと、できれば正実の人達にも、援軍としてついてきてほしいな」

 

 私はこの場にいる正実のメンバーではなく、ナギサ生徒会長に向けてそう言った。

 いや、だってさ。トリニティ生ですらない私は、正義実現委員会への命令権なんてないんだよ。ただの他自治区にある会社の社長ですゆえ。

 そして、私が頼ったナギサ生徒会長は、未だに正実に対する命令権を持つ生徒会長の一人なのだ。

 

「……了解しました。正義実現委員会の皆さん。アリウスが占拠したトリニティエーテルタワーへこれから踏みこみます。地上部には最低限の戦力を残して、タワーへ人員を送り込んでください」

 

「はい! ナギサ様の護衛を務めさせていただくっす!」

 

「護衛をしてほしいとまでは言っていないのですが……」

 

 困ったようにナギサ生徒会長が言うが、問答している時間はない。私は長銃を右手に構えながらミカをかつぎ、ナギサ生徒会長と正実のメンバーを率いて、エーテル通信塔へと踏みこむのであった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 エーテル通信塔『トリニティエーテルタワー』は、八十メートルの高さがある。

 普段の上り下りは当然エレベーターを使うのだが、さすがにのんびりエレベーターに乗って、敵の正面にこんにちはするわけにはいかない。

 なので、階段を一段ずつのぼりながら、各所にいるアリウス兵や、なぜかまた姿を見せたガスマスクシスターことユスティナ聖徒会を制圧してひたすら上を目指した。

 

 正実のメンバーの練度はいまいちだったが、それでも居ないよりはずっとマシで、ナギサ生徒会長の指揮でしっかりとアリウスを倒してくれた。

 

 ちなみにナギサ生徒会長は、まともな銃を持っていない。口径の小さなハンドガンで、重装備のアリウス相手には豆鉄砲だ。

 まあ、落成式にゴッツい銃を抱えて出るわけにはいかないからね。私はアイテムパックがあるから手ぶらの状態からでも武器を出せるけど。

 

 戦力外で手持ち無沙汰となったそんなナギサ生徒会長には、現在、遠隔地にいる安藤先生とのやりとりを担当してもらっている。正実と自警団のメイン戦力はそちらの方にいるし、査察に入ったアリウス分校がどんな場所だったのかも気になる。

 

「先生達は、大急ぎでこちらに向かっているそうです」

 

 スマホを手に持ちながら私達の侵攻に併走するナギサ生徒会長がそんな報告をしてくる。

 

「アリウス分校には、ユスティナ聖徒会が待ち受けていただけで、生徒達は一人も居なかったそうです。やはりシャーレによる査察が事前に知られていたようですね」

 

 誰から査察の話が漏れたのやら。まあ、多分スパイがトリニティ内にいるんだろうけど。ナギサ生徒会長が疑った補習授業部のアズサは、氷山の一角かもね。

 

「アリウス分校があったアリウス自治区は、劣悪な環境のスラム街が広がっていたそうです」

 

 ナギサ生徒会長の言葉に、皆がなんとも言えず沈黙する。

 スラム、スラムかぁ……。そう考えると、彼女達は日々を生きるだけでも、必死だったかもしれない。そりゃあ、アリウスも過去にそんな環境へ追いやったトリニティを恨むってもんだ。

 

「おっと、もうすぐで最上階だよ。多分、道中出くわしたアリウス生からの通信で、私達の侵入はバレていると思うけど……できれば強襲したい」

 

 私がそう言うと、正実メンバーはこっくりとうなずいた。ナギサ生徒会長も、いつの間にか銃を手に持っていた。アリウス兵から奪ったのかな……?

 

 そうして、最上階に辿り着き、エーテル増幅装置が安置されている部屋の扉まで辿り着いた。

 うーん、電子ロックが強引にこじ開けられている。厳重なセキュリティも、圧倒的暴力の前には屈するしかないんだなって。

 

 それから私はミカをかついだまま、扉に触れようとしたところで……扉がひとりでに開いて、扉の向こうから銃を突きつけられた。

 

「入れ」

 

 お、おう。私達がここまで来たの、完全にバレていたか。

 私はいつでも反撃できるようにしながら、銃を突きつけるアリウス兵に従って最上階に足を踏み入れた。

 最上階には、エーテル増幅装置があって、天井を突き抜けてタワーの天辺となっているエーテル散布装置と接続されている。……はずなのだが、その増幅装置に、なにやらゴタゴタと機械が繋げられていた。なるほど、あれでエーテル濃度を上げようとしているんだね。

 

 そして、そんな増幅装置がある広い部屋の中には、十人ほどの白コートのアリウス兵と、知らない白フードの少女、そして見慣れない背の高い人間が待ち構えていた。

 ……いや、人間か? 赤い皮膚と一体化したような白のドレスを身に纏い、黒髪が伸びる頭には白い無数の羽でできたオブジェがついていて、そのオブジェからは複数の瞳が覗いており、ギョロリと周囲を見つめている……そんな異形の人間。

 外見から判断するに女性のようだが、生徒のようなヘイローは持っていない。もしかしたら、キヴォトスにおける大人の一形態なのかもしれない。

 

「マダム、ですか……」

 

 ナギサ生徒会長が、ポツリとそんな言葉をつぶやいた。

 

「リクさん、あの背の高い大人が、アリウスの支配者である生徒会長……通称マダムです」

 

 アリウススクワッドから情報でも抜き出していたのだろうか、ナギサ生徒会長が私にそんな説明をしてくれた。

 

「来ましたか。どうせなら先生とやらを見ておきたかったのですが……」

 

 異形の人間、マダムとやらが手に持った扇で口元を隠しながら、そんなことを私達に向けて言った。そんなマダムに向けて、私は言葉を返す。

 

「余裕だね。でも、アリウスの兵力は、この部屋に要る人だけしかもう残っていないよ」

 

「ずいぶんと暴れたようですね。しかし、あなたは間に合わなかった。すでに儀式の準備は整いました」

 

 マダムは、エーテル増幅装置を愛おしそうに撫でながら、そんなことを述べた。

 儀式、か。増幅装置にくっついているのは機械だけど、ずいぶんと科学的な儀式があったもんだ。

 

「月の女神の権能、エーテル……。その神秘を用い、神を呼び出します!」

 

「神の召喚……本気で言っているのですか」

 

 マダムの言葉を受けて、ナギサ生徒会長がにらみつけながら言った。

 ふーむ、月の女神の権能がエーテル、か。マダムは、シオン模倣体であるマザーのことを知っているのか?

 

「ええ。神秘を用いて神を顕現(けんげん)させる。私達、ゲマトリアの崇高なる目的です」

 

 ゲマトリア! これまでに何度か安藤先生の前に立ちはだかった、謎の組織だ。どうやらマダムは、その一員らしい。

 

「道上リク。外からあなたがやってきたことは、ゲマトリアの私にとって幸運でした。まさか月の女神の叡智『エスカタワー』をキヴォトスにもたらすとは」

 

 ……やはり、こいつは外の世界で何が起きたかを知っている。そんなマダムに向けて、私は言う。

 

「外の世界の事情に詳しいようだね、ゲマトリアという人達は」

 

「ええ、私達は、キヴォトスの外からやってきた存在ゆえに」

 

「で、目的は神の降臨ね……」

 

「それもただの神ではありません。宇宙を開闢(かいびゃく)した、大いなる創造神です」

 

 ミカが言っていた通りだ。アリウスの目的は、神の降臨。

 その強大な力を使って、何をするつもりかは知らないが……。

 

「神の降臨と聞くと、トリニティの生徒としてはひざまづいて祈りたいところですが……あなた方が呼び出すとなると、ろくでもない結果になりそうですね」

 

 ナギサ生徒会長が、銃をにぎる手に力を込めるのが分かった。

 

「止めるおつもりですか。しかし、もう遅い。時間稼ぎの長話に付き合ってくださり、ありがとうございます。おかげで、儀式が終わりました」

 

 マダムがそう言うと、エーテル増幅装置が強い光を発し始める。

 その装置に、マダムは隣に居た白いフードの少女を押しつけるようにして、叫ぶ。

 

「さあ、エーテルよ! (はかり)アツコ、『ロイヤルブラッド』を依代に、至高の存在を今ここへ!」

 

 これはまずいと思ったのか、正実メンバーが銃撃を開始し、アリウス兵もそれに反応。私とナギサ生徒会長も攻撃を始め、アリウス兵を制圧にかかった。その間もエーテル増幅装置は強い輝きを発し続け……私達がアリウス兵を制圧するのと同時に、装置は自壊するようにしてバラバラになった。

 

 そして、光が収まり、マダムにエーテル増幅装置へ押しつけられ、抱きつくようにして耐えていたフードの少女は……バラバラになった装置のパーツを抱きかかえ、特に何事もなく立っていた。

 

「……は?」

 

 そんな呆けるような声は、マダムの口から発せられた。

 バラバラになった増幅装置。収まったエーテルの光。何事もなく立っているフードの少女。

 それら全てが想定外だと言わんばかりに、マダムは呆けた。そして、次の瞬間、怒髪天をついたように怒りの声で叫びだした。

 

「なぜ! なぜなぜなぜ! 儀式は完璧だったはず! 神は、創造神は、至高の存在はどうしたのですか!?」

 

 マダムは怒りが抑えきれないとばかりに、まくしたて続ける。

 

「完璧だった、完璧だったはず。私の計算は完璧だったはず! 何が間違っていた!? 生贄が足りなかった? エーテルを理解し切れていなかった? エスカタワーは女神の叡智ではなかった? 黒服の技術は嘘偽りだった!? どれが、どの式が間違っていたというのです!」

 

 叫ぶマダムを見ながら、私は肩からミカを下ろして、いつの間にか目に活力を取り戻していた彼女に向けて語りかける。

 

「ミカ。これが全ての結末だよ。神は降臨しなかった。それで全部おしまい」

 

 すると、床に座りこみながらミカがポツリと言った。

 

「……やっぱり、全てを救ってくれる神様なんて、この世に存在しなかったのかな?」

 

「いや、違うよ。あのマダムが言ったとおり、計算式に誤りがあったんだよ」

 

 私がそう言うと、マダムはこちらに頭のオブジェの瞳を全て向け、問い詰めるようにして叫んだ。

 

「どこに!? どこに誤りがあったというのです!?」

 

 そんなマダムへ、私は冷たく突き放すように言う。

 

「私が建てたのはただのエーテル通信塔『トリニティエーテルタワー』。地球のエーテル通信塔『エスカタワー』を建てるだなんて、一言も言っていないんだよ」

 

 私はエーテル通信塔を建てるにあたり、クライアント達に対しては再三言った。エーテル通信塔単体では、エーテルが幻創種や幻創体を創り出せるほどのエーテル濃度にならないと。だから安心してくださいと。

 

「このエーテル通信塔は、どう頑張ろうがエーテルが一定濃度になるまでしか出力を出せない……劣化版のエスカタワーなんだよ」

 

 私のその言葉に、マダムは頭を押さえ、叫ぶようにして言う。

 

「私に誤りはなかった! 式にゴミが……至高に至る設計図に異物が混ざった! お前が、お前がやったのですか! 道上リク!」

 

「あはは……前の私と同じようなこと言ってるね」

 

 ミカが、マダムを哀れむようにつぶやいた。

 これが、全てをかき乱した一連の事件の、あっけない結末だ。

 

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