【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在 作:Leni
アリウス分校のトリニティエーテルタワー占拠作戦は、私とナギサ生徒会長、そして正実のメンバーの活躍により失敗に終わった。
全ての首謀者であるゲマトリアのマダムは様々な手を使って抵抗してきた。何やらヘイローを破壊する兵器なんていう物騒なものまで取りだしてきたが、そもそもヘイローなんてない私にはごく普通の兵器と変わらない。フォトンがあれば余裕で防げる。
最後の抵抗に、『バルバラ』とかいうユスティナ聖徒会のネームドボスっぽい存在を呼び出してきたが、ミカほどの脅威でもなく……。私はアークス時代にいつもやっていた通りに、正面からマダムをぶっ飛ばした。
そうしてマダムは捕らえられ、現在は勾留されてその罪を追及されている最中だ。
このマダム、名前をベアトリーチェと言うそうなのだが、なんというかもう、これ以上ないほどの悪人だった。複数のアリウス生からの聞き取りで判明した事実である。
まず彼女は、アリウス分校のあるアリウス自治区を恐怖で支配し、そこにいる生徒達に洗脳教育を施していた。
ベアトリーチェは昔から至高の存在、すなわち神を呼び出してその力を取り込み、己の身を高次の存在に昇華するための研究を行なっていた。そして、その研究の果てに、ある一人の生徒、
アツコは『ロイヤルブラッド』と呼ばれる歴代のアリウス生徒会長の血を引く子で、なにやら生贄の羊として極上の体質らしい。ゆえに、ベアトリーチェはアリウス自治区内に祭壇を作り、アツコを生贄にして神を呼び出す儀式の準備を着々と進めていた。
アツコは仲間に慕われていた。アリウス分校の幹部生、アリウススクワッドの一員として周囲を導き、多くの者に『姫』と呼ばれて尊敬されていたのだ。
そんな彼女を生贄から救うために、アリウス生達は奮闘した。具体的には、ベアトリーチェの言われるままに、エデン条約をぶっ潰した。
だが、彼女達はエデン条約潰しを嫌々やったわけではない。もともと、アリウス生達にはトリニティとゲヘナには憎悪の感情があったからだ。
しかしだ。その憎悪の感情は、ベアトリーチェが洗脳教育でアリウス生に植え付けたものであり……全てはベアトリーチェの手の平の上だった。
そして、ベアトリーチェは汚い大人だ。エデン条約潰しの任務を成功させればアツコを神への生贄にしないという約束は、アツコを神の依代にするという方針変更でもって叶えられることになった。
本来、ベアトリーチェはアリウス自治区の祭壇で儀式を行なうことによって神を呼び出そうとした。だが、それよりも実績のある方法が、ゲマトリア経由で彼女の耳に入った。
外の世界では、エーテルの具現化能力によって創造神が二度降臨した。その創造神降臨の理論をゲマトリアは解析・分析したのだ。
ベアトリーチェが創造神降臨を再現するには、キヴォトスのエーテル濃度は著しく低かった。だが、外からやってきた存在、道上リク、すなわち私がわざわざお膳立てをする形になった。エーテル通信塔を建てたのだ。
外の世界ではエーテル通信塔『エスカタワー』はいくつも建てられている。だからか、エーテル増幅装置を暴走させてエーテル濃度を上げる方法などが、ベアトリーチェの所属先であるゲマトリアで研究されていた。
ゆえに、ベアトリーチェは予定を変更し、アリウス自治区にある自前の祭壇を使わずに、エスカタワーという月の女神の祭壇を使用することにした。アツコを生贄……依代にすることにして。
しかし、道上リクが建てたエーテルタワーは、エスカタワーとは仕様が異なるという罠があり……ベアトリーチェの儀式は失敗に終わった。そして、そのままベアトリーチェは、お縄になったというわけだ。
「ここまでが、いま分かっている、ベアトリーチェがしでかしてきたことの全てです」
シャーレビル内のオフィスにある先生のデスク周辺。そこに集まったシャーレ部員が、正実メンバーのハスミから報告を受けている。
エデン条約の惨劇は、トリニティ生とゲヘナ生以外も興味津々。もちろん、シャーレの部員達も事の次第を聞きたがっていた。だからこうしてシャーレビルに集まって、当事者達から事の顛末を聞いているのだ。
私も当事者の一人なのだが……トリニティ生じゃないからか、事情にはそこまで詳しくないんだよねぇ。なので、私も今回の報告会に参加した。予想通り、初めて知る事実がいっぱいだった。
「では、次はエデン条約のその後についてです」
エデン条約は結局、再締結ということにはならなかった。
そもそもエデン条約に乗り気だったのはトリニティ側だけであり、ゲヘナの『万魔殿』は条約調印式でちゃぶ台返ししてティーパーティーをあざ笑おうとしていたそうだ。
なので、両校のトップからエデン条約をやり直そうという声は、ついぞ上がらなかった。
トリニティの正実と自警団、そしてゲヘナの風紀委員会はシャーレを通じて連携が取れるようになっていたので、この結果には残念がっているようだけれど……仕方ないね。
こうして、トリニティとゲヘナの争いは、今後も続くのでしたとさ。
「さて、次に、シャーレ部員で叩いて落とした、ナギサ様の処遇についてです」
ティーパーティーの座を降ろされかけたナギサ生徒会長。しかし、彼女は正実と共に、ベアトリーチェの捕縛に成功するという快挙を成し遂げた。これにより、彼女の名声は上がり……最終的に、ティーパーティー続投で終わりそうだとか。
この結果には、シャーレ部員達からも異議は上がらないようだ。
まあ、今さら彼女を引きずり下ろせなんてことは、誰も言うつもりはないからね。
ちなみに、彼女がアリウスにヘイローの破壊を狙われた理由も語られた。なんでも、シャーレがトリニティの情勢をぐちゃぐちゃにし過ぎたせいで、ゲマトリアの目標の一つであるエデン条約の乗っ取りによる、ユスティナ聖徒会の複製実験ができなくなりそうだったかららしい。
ナギサ生徒会長を殺害し、ミカ一人に権力を集中させる。そうすることでトリニティの混乱を終息させて、エデン条約調印式を延期することなく開催させるための行動だったようだ。ベアトリーチェは、ユスティナ聖徒会の力をどうしても手に入れたかったようだ。
「一方で、ミカ様ですが……」
アリウスとの内通、セイア生徒会長の襲撃指示、ナギサ生徒会長への直接の襲撃、そしてトリニティエーテルタワー占拠への加担という、複数の罪を背負ったミカ。最後の占拠への加担は報道のカメラに映っていたこともあり、彼女の罪をなあなあにするわけにはいかなかった。なので、彼女は正式に生徒会長の座から降ろされ、ティーパーティーからも脱退となった。
ただ、彼女がアリウス側についたのは、アリウス自治区とアリウス生の惨状を見て同情したからという事情がある。
アリウスの惨状は、過去から続くトリニティ総合学園全体の罪である。その罪から逃げずにアリウスに手を差し伸べたことは、ティーパーティーの一員として相応しい姿だったのではないか。そんな擁護の声が上がったようだった。
ただ、アリウスの邪魔になるセイア生徒会長とナギサ生徒会長を排除しようとしたことは、情状酌量の余地なしと判断された。
そして、最後の占拠事件。これは、いったいどういう意図でもってミカが協力をしていたのか。その経緯がミカから直接語られたようだ。
ミカ曰く、ベアトリーチェが呼び出す神様に助けてもらいたかったと。どうしようもないほどの罪を背負ってしまった自分。だが、神様ならそんな自分を許し、現状を打破する導きを示してくれるのではないか。そんな幼稚な神頼みを目論んだのだとか。
ミカは、自分が強いという自負を持っていた。だから、ベアトリーチェが神様を降臨させたとして、それを後から暴力でもって奪ってやれると思い込んでいた。まあ、実際には私に野望を阻止されたわけだが……。
そんな顛末だが、私の意見を言わせてもらうと、ミカはあのとき自棄になっていたんじゃないかな。
意識不明の状態から目覚めた後のセイア生徒会長も、占拠事件の当日まで一度もミカには会いにいっていなかったようだし。それにより、ミカはセイア生徒会長に嫌われてしまったと思い込んでいた。
まあ、セイア生徒会長自身は、心の中ではとっくの前にミカを許していたようだが……つくづくコミュニケーション不足なティーパーティーである。
なお、ミカの最大の罪は生徒会長の立場での外患誘致というなかなかに重たいものであり、連邦矯正局送りや退学処分も検討された。
しかしここは暴力が横行するキヴォトス。他の学園での判例を参考にした結果*1、この程度の被害規模では退学は重すぎるとの意見が上がった。最大の被害をもたらしたエデン条約でのミサイルテロには関与していなかった事実も大きい。最終的に、ミカは停学処分とパテル分派からの脱退処分で済まされた。
なお、エーテル通信塔占拠テロの被害者である『エーテルフォトニクス社』もミカの処分に口を出せる立場だったんだけど、社内で検討してからトリニティの自治には関与しないと答えておいた。ここでミカを叩いても、ティーパーティーのナギサ生徒会長とセイア生徒会長からの心証はよくならないだろうという判断だ。
「さて、最後にアリウス分校です」
アリウス自治区の大部分はスラム街であり、アリウス分校はベアトリーチェの洗脳教育の場であった。とても学園としては、機能していると言えない状況だ。
そこで、アリウス生がしでかした一連のテロ事件の罪は、全てベアトリーチェ一人に押しつけることになった。アリウス分校の規模が大きすぎて、生徒全員に罰を執行していたらキリがないという事情もあった。
ゆえに、トリニティはアリウス生達の罪を許し、学園の総力を挙げてアリウス分校を救うと決定した。
アリウス生を全てトリニティの学舎に受け入れ、洗脳を解きほぐし、アリウス自治区を真っ当な街へと作り替える。
それには一体どれだけの時間と資金がかかるか分からない。しかし、この現状は、まぎれもなく過去のトリニティがしでかしたことが原因である。ゆえに、トリニティにはアリウスを救う義務があった。
幸い、アリウス生の幹部達であるアリウススクワッドの四人は、アリウス生の更生に協力的。なので、アリウス分校改め、トリニティ総合学園の新たな仲間、アリウス派閥には明るい未来が約束されていた。彼女達はようやく真っ当な形で、学園という楽園に通えるようになったのだ。
ちなみに、停学明けのミカは、このアリウスを救う事業に投入されて、馬車馬のごとくこき使われることになる予定だそうだ。連邦矯正局に送らない代わりの、ある種の労働刑であると言えるだろう。
ミカが最終的にアリウス分派をまとめあげて新しくティーパーティー入りする、なんてことも起きそうだが、面白そうなので黙っておくことにする。
「以上が、私からの報告となります」
ハスミのその言葉に、シャーレ部員一同は胸をなで下ろすように息を吐いた。
うん、なんというか、エデン条約がなかったことになったこと以外は、上手く収まったみたいだね。特に、アリウスの今後についてはみんなひと安心といったところだろう。
アリウスは数々のテロを起こしてきたが、実は洗脳教育を受けて操られていただけで悪人の集まりというわけではなかった。そのおかげで、事態はしっかりとした着地点を見つけられた。
そしてその決着の裏には、先生の地道な捜査活動による成果がある。
これまで裏で頑張り続けた先生には、今度みんなでいたわってあげなきゃいけないね。
そんな意見が出ると、みんな口々に賛成という声が上がった。
うん、先生をいたわるのか。いいね。
それはそれとして、私もいたわってほしい。
アリウス生にトリニティエーテルタワー内を占拠されて、終いにはエーテル増幅装置をベアトリーチェに壊されたから、修復工事が始まって、方々に調整の顔出しをしにいかなくちゃならなくなったんだからね。
そう言ったら、みんなに慰められた。
皆の優しさが胸に染みるぜ……。
「ところでリク。ベアトリーチェは神の降臨を狙って、結局は失敗したみたいだけれど……もしエーテルが濃かったら、本当に神は降臨する?」
と、慰めを中断するように、ヒナ委員長が私にそんなことを尋ねてきた。
あー、それは、私もベアトリーチェがエーテル増幅装置に取り付けていた機械をいろいろ調べたんだけどねぇ。
「条件さえそろえば、神様は降臨はする可能性が高いね。まず、神の降臨に必要な条件は、莫大なエーテルと神を降ろすに相応しい器の二つ」
ここで、私は過去の事例をおさらいしてみることにした。
「神様は外の世界で実際に降臨したんだけど、そのときのエーテルは、マザーっていう月のコア人格……簡単に言えば莫大なエーテルの塊が使われた。器に関しては、神がかつて自ら作り出した原初の人間であるアダムが使われた」
今回のケースでは、ちゃんとそのプロセスを踏襲していたようで……。
「ベアトリーチェも、エーテルと器を用意していた。外の世界からどうやってか持ちこんだ月の石をエーテル増幅装置につなげることで、莫大なエーテルを発生させようとしていたんだ。器は、『ロイヤルブラッド』の秤アツコ」
正直、一抱えの月の石から発生するエーテル量では、月のコア人格から発生するエーテル量にはとても届かない。だけれど、ベアトリーチェとしてはそれで構わなかったようだ。
「で、十分とは言えない量のエーテルを使うことで、不完全な神を降臨させることがベアトリーチェの真の狙いだった。彼女は、不完全な神から力を奪い獲ろうとしていたみたいだね」
「不敬な!」
トリニティ生であるハスミが怒るが、まあ失敗したんだから大丈夫だよ。静まりたまえー。
「月の石……またすごいものを外から持ちこんでいる。ゲマトリア、か……」
ヒナ委員長が警戒するようにそう言ったが、すごいものという点には私も同意見。
「すごいよねー。その押収された月の石だけど、そのままじゃ使い道がないゴミなものの、ゲマトリアにとっては悪用できちゃう危険物だから、うちの会社が処分を受け持ったんだー」
「は? ゴミですか? 神様の降臨に必要な神器ですよね?」
一人でプリプリしていたハスミが私の言葉を聞いて、キレ気味にそんなことを尋ねてくる。
ふふふ、そうなんだよね。
「月の石はエーテルの塊。だけど、石をエーテルに変換する方法を知らないとただの石ころだよ」
「……処分を受け持ったと言いましたが、当然、悪用するつもりはありませんよね?」
「もちろん、バラバラに砕いちゃったから、もう神の降臨なんかに使えないよ。これでもう誰も悪用できない」
私の答えに、ハスミは複雑な表情を浮かべる。
ちなみに、月の石はキヴォトスでは手に入らない貴重な物なので、バラバラに砕いたと言っても、そのまま捨てるわけがない。
「そうして手に入った月の砂は、エーテル発生装置っていう新しいマシンの材料に使わせてもらうよ。これを使えば、エーテル増幅装置の製造コストが一気に下がるよ! それによって、エーテル通信塔やエーテル通信装置の建築コストも安くなって、今まで予算面で手を出せていなかった零細の自治区でも、エーテル通信施設を自前で持てるようになるんだー」
うふふ、このまま引き合いが続けば、キヴォトスの全自治区にエーテル通信塔やエーテル通信施設が配備されるのも夢じゃ無くなるね!
と、私が一人でニヤニヤ笑っていると、それを見ていたヒナ委員長とハスミがジト目を私に向けながら、言う。
「……慰めて損した」
「そうですね……」
ひえー、シャーレ部員達の冷たい視線が痛い!
別にいいじゃん! こっちだって被害が大きかったんだから、慰謝料として月の石で儲けることくらい、許されるはずだよ!
◆◇◆◇◆
そんな一連の出来事からしばらく経ち、秋が近づいてきた頃。
エーテル通信塔やエーテル通信施設があちらこちらで完成して、ようやく忙しさが解消されてきた。
そんな中、私はふと暇を持てあまして、久しぶりに荷物整理をすることにした。
荷物整理といっても、今居るミレニアム寮の自室の整理ではない。ここはほぼ寝に帰るだけの場所と化していたから、そんなに汚してない。
私が整理しなくちゃいけない場所は……アイテムパックの中だ。
この中には、私がオラクル船団から持ちこんだ物、エーテル地球から持ちこんだ物、キヴォトスに来てから新たに手に入れた物がぐちゃぐちゃにしまわれているのだ。
キヴォトスに来てから五ヶ月近く適当な運用をしてきたので、一度整理してやる必要があった。
なので、私は寮の自室で順番に物を出してはしまい直したり、捨てたり、自室に置いたりした。
そうしているうちに、私はあるアイテムを前にして、その扱いに悩んだ。
それは、エーテル地球で購入したエーテル通信端末。
キヴォトスでは使えない、どうしようもないゴミだ。なぜ使えないかというと、この端末はクラウドOSが使われているからだ。つまり、エーテル地球のクラウドサービスと繋がらないと起動すらしない。
ほら、このように……って!
「うわ、なんで? 起動した!?」
クラウドOS、『ESC-A』が立ち上がり、即座にホーム画面になった。久しぶりに見る画面だ。
「う、うわー、うわー、なんで? エーテル地球とつながった?」
確かにここキヴォトスは、エーテル地球と何らかの関わりがある世界だ。外から来たというゲマトリアは、エーテル地球に建っている『エスカタワー』の情報を持っていた。
だから、なんとかして外との繋がりさえ見つければ、外とやりとりができると思っていたのだけれど……。
と、その次の瞬間、端末から着信音が鳴り響いた。
うっわ、エーテル通信端末に音声通話の着信? キヴォトスでこの端末を起動できたのはこれが初めてだから、確実に外の世界からの着信じゃん!
着信相手は……シエラ。アークス所属のハイ・キャスト*2の一人だ。
しかし、彼女が私に連絡を飛ばしてくるのが解せない。彼女は
ともかく、出ないと。私は意を決して、シエラからの着信に応じた。
『やっと出ました! リクさん、ご無事ですか!?』
懐かしいオラクル船団特有の言語と、聞き覚えのあるシエラの声に、私は思わず涙が出そうになった。
あらかじめ予告しておきますと、キヴォトスに追加でオラクル宇宙の何かがやってくる展開にはなりません。本作はオリ主の単独転移ものですので、安心してお読みください。