【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在   作:Leni

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迷い子へのオラクル
27.懐かしい声


「久しぶりー、シエラ。こっちは元気だよ」

 

 私は懐かしいシエラの声を聞いて泣きそうになりながら、軽い調子でそんな言葉を返していた。もちろん、オラクル船団の言語を用いてだ。

 

『ご無事のようですね! よかった……』

 

 心底安心したかのように、シエラが息を吐いた。ずいぶんと心配をかけてしまったようだね。

 

「とりあえずこっちは、文明のある世界に飛ばされて、そこで生活基盤を築いて生活していたよ」

 

『そうですか! 文明のある世界……一文無しの状態から馴染むのに苦労しませんでした? 言語なども通じないでしょうし』

 

「いやー、割と簡単に保護されたかなー。まだ子供の年齢だったのが幸いしたね。それになんと、地球の言葉が通じたよ! あ、そうだ、アークスに提出するレポートを一応用意してあるんだ。シエラ宛てに送るね」

 

 私はこちらで購入した端末を起動し、エーテル通信端末と繋げて、レポートを端末に転送する。そして、シエラ宛てに資料を飛ばした。届いているだろうか……。

 

『来ました!』

 

「うん、確認よろしくね。でも、なんで守護輝士(ガーディアン)専属のシエラが私に連絡してきたの?」

 

『それはですね……。リクさんの案件は、シャオが出張るくらいには重要視されているのですよ』

 

「マジでー」

 

 シャオとは、オラクル船団のマザーシップだったシオン本人が造った、シオン模倣体の一つだ。フォトナーが造ったシオン模倣体は失敗作ばかりだったが、そこはさすが全知存在のシオン。しっかり機能する、ちゃんとした模倣体を造り上げたのである。

 現在シャオは、シオン亡き後の二代目マザーシップを担当しているね。

 

『それと、守護輝士がリクさんのことをとても心配していて……、行方を探してくれないかと直接頼まれたのですよ』

 

「あー、そっか。私、守護輝士とはマブダチだからなー」

 

『守護輝士は、リクさんのことをライバルだって言っていましたけど』

 

「やめてください、死んでしまいます」

 

 地球人類最強のファレグと正面から殴り合って、軽々と勝てる超人のライバルとか、マジで勘弁してください。

 

『さて、並行してレポートの精査をしていますが、こちらから一つ報告と確認したいことが』

 

 シエラがそう言ってきたので、私は素直に応じる。

 

『まずですね、こちらでは、リクさんに『デウスエスカ』の力が利いた原因をシャオが演算していました』

 

 デウスエスカとは、私をキヴォトスに吹き飛ばした創造神のエーテル具現体のことだ。

 創造神は、世界の異物であるアークスをもとの次元に追い返す能力を有している。しかし、その力はアークスに解析されて、もし再度行使されても自動で弾くような処理が、デウスエスカ討伐作戦の参加者には施されていたのだが……。

 

「へえー、原因ってどんなの?」

 

 全知存在の模倣体であるシャオが演算したのなら、もう答えは出ているのだろう。

 そう思い、私はシエラに問うた。すると、予想外の答えが返ってきた。

 

『リクさんは前世の記憶があると主張している、とアークスの訓練校に入る際の調書にありましたが……それが原因ですね』

 

「んん? なんで前世が関係あるの?」

 

『前世の内容については地球出身としか調書にありませんが、それだけあれば推察するには十分です』

 

 お、おう。さすがシャオの演算。

 

『つまり、リクさんを構成する精神がヒューマンのそれではなく、地球人のものだからです。デウスエスカの力は、神の創造物である地球人には特効とも言える効果をもたらします。なので、デウスエスカの次元追放の力が、リクさんにだけ働いたのだとシャオは結論付けました』

 

「なるほどねぇ」

 

『その前世の記憶というもの、もう少し詳しい情報はないのですか?』

 

 問いただすような声色で、シエラが尋ねてくる。

 まあ、少しは開示しても良いだろう。こちらでも安藤先生にはおおよそ話しているしね。

 

「実は前世の詳しい事情って、アークスの人達には伝えてないんだよね。私の前世の記憶には、やっかいな知識があるから。ルーサーに嗅ぎつけられて、変なことにならないよう、地球出身という以外に知識はほとんど出さなかったんだ」

 

『それはつまり、ルーサー率いるオラクル船団によって、地球が侵略されないように、ですか?』

 

 私の言葉は、オラクル船団に地球の存在を知られたくなかったからだとシエラに解釈された。

 だが……。

 

「いや、違うよ。私の前世の地球は、シエラ達が知る地球とは別の地球なんだよ」

 

『はて、別の地球、ですか……。それはどのような意味です?』

 

「並行世界の地球。エーテル通信なんてものはない、エーテル粒子も存在しない、だけどPSO2というゲームが存在した地球だよ」

 

 オラクル船団が交流を持った地球、すなわちエーテル地球にもPSO2は存在する。しかし、それは私の言うPSO2とは違う。

 だがそこをシエラは汲み取れなかったのか、再び私に問いを投げかけてきた。

 

『エーテルが存在しない地球のPSO2……あの、それではエーテルを通してアークスに潜入するというPSO2の効果が発揮できないのでは?』

 

「発揮しないよ? その地球のPSO2は、普通のゲームだもん。プレイヤーは守護輝士(ガーディアン)となる新人アークスを操作して、マトイを拾い、シオンと出会い、ルーサーを倒し、【仮面】と分かたれ、【深遠なる闇】と戦い、二年の眠りに付き、地球を救う。そんな普通のゲーム」

 

『それは……!?』

 

 私の突然のカミングアウトとも言える事実の開示に、シエラは驚きの声を上げた。

 そんなシエラの反応に、私は気をよくしてさらに言葉を続ける。

 

「そう、私達アークスの未来が記されたゲーム。私が前世の地球でプレイしたPSO2は、そういうものだよ」

 

『では……守護輝士が今後どういう道筋を辿るかも、分かるというのですか!?』

 

「分かるよー。ちょうど今は、【仮面】を【深遠なる闇】から切り離そうとしたあと、異世界オメガに向かったところかな?」

 

『!? ……その情報は、アークスの中でも最重要機密です。リクさんの権限では閲覧できない情報。つまり、リクさんは私達の未来をにぎっている……?』

 

「うん、守護輝士(ガーディアン)の辿る道先を全て知っているわけだね。もちろん、守護輝士(ガーディアン)がオメガから出た後に起きる重大な事件もね」

 

『オメガから出た後に、何かあるというのですか!?』

 

 未来を示唆する私の言葉に、シエラは悲鳴にも似た叫び声を上げる。

 そんなシエラをちょっと可愛いなと思いながら、私は得意げに言った。

 

「あるよ。でもね、未来の情報は、アークスはあまり知るべきじゃないよ」

 

『我々が未来を知ることで、何かしらの不都合が起きる、ということですね』

 

「うん、そう。これはシャオに伝えないで欲しいんだけど、今のマザーシップ、敵に奪われるよ。だから敵に詳細を知られたくないから、私の知る未来は伝えられない」

 

『あの……シャオもこの通信聞いています』

 

 げっ、マジでー。それは予想してなかった。

 

「シャオー、今の情報、マザーシップの内部に残さないでよね!」

 

 私がそう端末に向けて話しかけると、少女の声だったシエラのそれとは違う、幼い少年の声が返ってくる。

 

『了解した。でも、マザーシップを奪われること前提の計画は練っておくよ』

 

「うん、それくらいなら、まあ」

 

 まったく、油断ならないね。そりゃあ、シャオならアークスの通信を全て掌握していてもおかしくないんだけど。

 

「さて、そういうわけで、私は以前、並行世界の地球人だったってことで、その地球人の魂だか精神だかが原因で、この世界に飛ばされたってことだね」

 

『はい。しかし、リクさんのいるキヴォトスとは、一体どこにあるのでしょう。エーテル通信越しに座標をとらえようとしても、どこの次元にあるのか全くつかめません』

 

 マジで? 通信はできているのに座標はつかめないのか……。

 

「キヴォトスには地球から来た人がいるっぽいから、地球とつながりのある場所だとは思うんだけど……」

 

『申し訳ありませんが、今、私とシャオは守護輝士(ガーディアン)のオメガ調査の任務補佐に忙しいので、リクさんの救出作戦は遅れます。レポートを拝見する限り、生活基盤は築けているようなのでしばらくお一人でしのいでください』

 

 そっか。救出は当分なしか。まあ、最近は、危険な最終戦争が近いうちに起きるオラクル船団には、戻らなくてもいいかな、なんて思っていたところだからいいけど。

 

『それと、そちらで公開してもよい技術の資料を送信しますね』

 

 えっ、それはまさかの展開だぞ?

 

「あのー、技術を勝手に公開したことへのお叱りは……?」

 

 私はシエラに恐る恐る聞いてみた。正直、ギリギリの線を攻めて、エンジニア部とはいろいろやり過ぎたと思っている。

 

『一部がグレーゾーンのラインでしたけど、それでも一応は公開に問題のない技術でしたので、今回はセーフと言うことで』

 

「あい……」

 

『ただ、地球人がそちらの世界に進出したとき、エーテル通信技術の権利関連がどうなるかについては、アークスでは保証できかねます!』

 

「ですよねー」

 

 とりあえず、私はシエラから受け取った資料をこちらの情報端末に移し替えた。

 読むのは通信を終えた後にするとして、この機会に聞いておくべきことは……ああ、一つあった。

 

「ちなみに、座標がつかめないのに、なんでキヴォトスとオラクル船団の間でエーテル通信が確立しているの?」

 

『エーテルは次元を超えた情報の伝達が可能な粒子ですから、エーテルが存在していて一定の濃度があれば、どこでも通信ができるのですよ』

 

 ああー、そういうことか! それはすなわち……。

 

「通信が確立した原因は、私がエーテル通信塔をいくつも建てて、キヴォトスのエーテル濃度を上げたことかな? あ、じゃあキヴォトスの人達が、オラクル船団と勝手にやりとりできちゃうってこと?」

 

『端末の情報をつかまないとアクセスできませんから、リクさんが仲介しない限りその心配はありません』

 

「そっか。逆に言えば、私が仲介することで、こっちのエンジニアとアークスの研究者がやりとりするってことも……」

 

『こちらも忙しいので、検閲に手間を取らせないでくださいね!』

 

 うん、それは注意するよ。それと、別次元にいる宇宙文明と通信が可能なんて、ミレニアムのハッカー集団ヴェリタスに知られたらどうなることか。彼女達は何かやっかいな事態を引き起こしそうだから、そこも注意が必要だなぁ。

 

 そしてそれから、シエラからいくつかキヴォトスでのアークスとしての振る舞いについて注意事項を聞き、通信を終えることになった。

 

『では、そのエーテル通信端末は、常時起動して連絡をいつでも取れるようにしておいてくださいね。アイテムパックの中にしまうだけでもいいので』

 

「うん、後は、この端末が壊れたときのために、そっちと連絡を取れる端末を増やしておくよ」

 

『お願いします!』

 

 そんなやりとりをして、最後に挨拶を交わし私は通信を切った。

 その後、私は脱力して寮のベッドに転がり、エーテル通信端末をしばらく手に持ち頭の上に掲げていた。

 すると、アークスの顔見知りから端末にメッセージが次々と届いてきて……私は、アークスに見捨てられていなかった事実に嬉しくなって、しばらくベッドの上を転がった。

 

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