【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在   作:Leni

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29.快刀乱麻を断つ

 ヴァルキューレ警察学校は、警察学校と名前にはあるが警察官を育てる学校というよりは、警察官をやっている生徒が集まる警察組織という側面が強い学校だ*1

 どうやら安藤先生は、そのヴァルキューレ警察学校の不正の証拠を私につかんでほしいらしい。

 

「……頼る相手を間違っていませんか?」

 

『"そうだね。でもそこは、リクが直接調べる必要はないよ"』

 

 はて、私に頼むのに、私が必要ないとは? ああ、もしかしたら私は仲介役ってことかな?

 

『"ヴェリタスに、ヴァルキューレとカイザーグループの周辺を洗ってほしいって頼んでくれるかい"』

 

 やはりそのようだ。しかし、生徒の安全を守るヴァルキューレ警察学校と、何かと怪しい噂の多いカイザーグループに、なんの関係があるというのか。しかも、警察と大企業という、あまり関係のなさそうな組み合わせ。これは……。

 

「今度は何に巻き込まれたんですか、先生」

 

 私がそう問いただすと、先生は素直に事情を話してくれた。

 

 曰く、『子ウサギタウン』の再開発に関連したヴァルキューレの不正を疑っている

 

 キヴォトスの中心地である首都『D.U.』*2の郊外にある、子ウサギタウンを再開発したいカイザーコンツェルン。

 しかし、子ウサギタウンには武装した浮浪者が複数いる。

 カイザー側は、警察組織かつ公安組織であるヴァルキューレに、そいつらを追い払わせたい。

 しかし、ヴァルキューレは装備が貧弱で、浮浪者を追い出せないでいる。

 そこでカイザーはヴァルキューレに装備を提供し……ヴァルキューレはカイザー製の装備で浮浪者を追い出しにかかった。

 

 そんな感じで、企業であるカイザーグループと、警察組織であるヴァルキューレ警察学校の癒着が疑わしい状況らしい。

 明確な証拠はまだないが、万年金欠のヴァルキューレが高級なカイザーPMCの装備で武装しているのを先生は、ハッキリと目で見たそうだ。

 

『"私の方でもヴァルキューレを探るけど、リクにはカイザーコンツェルンとカイザーPMCをヴェリタスに探らせてほしい"』

 

 なるほどなるほど。癒着かぁ。警察相手でも対応可能な超法規的な権限を持つ連邦捜査部シャーレとしては、まさに介入すべき案件なわけだけど……。

 

「しかし、生徒に企業を探らせるなんてリスクを先生が取るだなんて、意外ですね」

 

 私がスマホ越しにそんなことを言うと、先生はあっさりとした声で返してくる。

 

『"実はヴァルキューレ側を探るのも、生徒達がやるんだ"』

 

 あー、これはもしや、探ると言い出したのは生徒の方からかな。先生は巻き込まれた形だと。

 

『"だから、リクが思っているほど、私はしっかりした大人じゃないよ"』

 

「またまたー」

 

『"ヴァルキューレ側が本命で、それが上手くいかなかったときのための保険をかけたいんだ"』

 

「生徒が失敗したときのことを考えるのも、先生の役目ってわけですね」

 

『"うん、私は生徒の成功を願ってはいるけど、だからといって、本来打てたはずの手を打たないわけにはいかないからね"』

 

「しかし、不正の証拠を集めるために、不正な手段であるヴェリタスを使う、ですか。先生もなかなかやりますね」

 

 こういうのって先生は止める側だとばかり思っていた*3

 

『"こういうやり方は、リク達に教えてもらったんだよ?"』

 

「あー、シャーレ部員のいつもの手口ってわけですね。先生に変な影響与えちゃったなぁ……」

 

 思えば、先生の最初の大きな仕事だったアビドス高校の廃校阻止の時点で、シャーレ部員の私達は先生の前でダーティーな手法を取ってきた。それを先生は学習しちゃったってことか。悪影響過ぎる……。

 まあ、それはそれとして。

 

「で、先生。ヴェリタスに働きかけるのはいいですが、現在の状況を詳しく教えてもらえますか。具体的には、なぜ先生がわざわざヴァルキューレの不正なんかを調べるはめになっているのか」

 

 頼み事を一方的にするだけで許されるなんて、先生も思ってはいないでしょ?

 

「どうせどこかの生徒のためなんでしょうけど、それがどこの生徒かくらいは知りたいものです」

 

 私がそう言うと、先生は数秒の沈黙ののち、素直に口を割った。

 

『"……リクなら教えてもいいけど、他の人には漏らさないでね"』

 

「状況によりますが、誰彼かまわず話さないとは約束しましょう」

 

 そして先生は電話越しに語る。

 

 ことは、連邦生徒会長が行方不明になったところから始まる。管理責任者の連邦生徒会長が不在となりSRT特殊学園が閉鎖され、一年生のチーム『RABBIT小隊』が路頭に迷った。

 多くのSRT生は他の学園、特にヴァルキューレ警察学校に編入したのだが、その『RABBIT小隊』はヴァルキューレが肌に合わなかったらしい。

 その結果、『RABBIT小隊』は、D.U.郊外にある子ウサギタウンの公園にキャンプを張り、野宿生活を始めることになった。

 

 先生は生活苦にあえぐ小隊メンバーを様々な手で支援してきた。そんなとき、子ウサギタウンの浮浪者の一掃にヴァルキューレ警察学校が動いた。

 ヴァルキューレはなぜかカイザーPMCの最新兵器で武装をしており、『RABBIT小隊』は公園からの撤退を要求され……現在に至ると。

 

「……なるほど」

 

 私は事情をなんとか理解しようと努め……そして突っ込まずにいられなかった。

 

「閉校した学園の生徒が、閉校を受け入れられず公園で野宿ですか。先生も分かっているとは思いますが、その生活はいずれ破綻しますよ」

 

 そんな私の常識的な忠告は、しかし先生には届かなかった。

 

『"それでも、生徒達は今の生活が未来につながると信じているから"』

 

 未来、未来か……。

 

『"生徒の希望を支えるのも、先生の役目だよ"』

 

 希望を叶える、じゃなくて希望を支える、か。考えさせることを言う。

 

「……まあ、そこは先生がウルトラCをかましてどうにかするでしょうから、これ以上追求はしません」

 

 先生と議論すべき話題ではないと判断した私は、話を即座に打ち切った。そして、本来の先生からの頼み事に話を戻す。

 

「私はSRTの生徒云々ではなく、警察機関の汚職を憂う立場ということで、今回は協力させていただきます」

 

『"毎度すまないね"』

 

「先生が私を頼りにしがちなのは理解していますよ。なにせ、私は前世で立派な大人だった、先生側の存在ですからね」

 

『"リクも立派な私の生徒の一人だよ。立派すぎて頼っちゃうけどね"』

 

「ははは、そういうことにしておきますか」

 

 私は笑いながらそう返して、最後に挨拶を交わして電話を切った。

 電話の最中、エンジニア部のメンバーは特にこちらに注目せず、エクストラマグ、エグのデザイン案で盛り上がっていた。

 私もそれに参加したいが、それよりも先に先生の頼み事をなんとかせねば。

 そう思って、スマホを再び持ち上げた、その時だ。

 

 突然、スマホに着信が入った。また電話だ。相手は……ヴェリタスのコタマ先輩。

 

「はい、もしもし」

 

『もしもし。カイザーの件は任せてくれていいですよ。その代わり、こちらからの要求に応えてもらいます』

 

 要件を全部すっ飛ばしてのいきなりの本題。しかも、まだ説明していないのになぜか彼女は事情を理解している。

 これは……。

 

「先輩、私の通話を盗聴していたな……?」

 

『先生の言動を監視することは、私の生きがいですから』

 

 なるほど、今回盗聴されていたのは私ではなく先生ってことか。コタマ先輩は先生の周囲を盗聴することに、やたらとこだわっているらしいからなぁ。先生が以前、雑談の中で、コタマ先輩に盗聴器を仕掛けられそうになっていたことを笑いながら言っていた。

 まったく、これだから頭ヴェリタスは……。

 

「で、要求って?」

 

『オラクル船団から送られてきたアークスの情報処理技術を教えてください』

 

 ああ、その件か。その件についても、コタマ先輩というかヴェリタスに言っておかなければならないことがある。

 

「コタマ先輩……私の上司、シエラから先輩宛ての伝言を受け取っているんだけどね」

 

『!?』

 

「アークスにハッキングを仕掛けるのは、やっても無駄だからやめなさいな」

 

 シエラに指摘されるまで私は気づいていなかったが、コタマ先輩は私と先生のモモトークのやりとりを監視していた。

 だから、以前、私が先生に伝えた『古巣と連絡がついた』というメッセージは、コタマ先輩に見られていたということだ。一応、コタマ先輩とは友人のつもりだったんだけど……友人のモモトークを普通覗くかなぁ?

 

 まあ、その件を追究するより、今はコタマ先輩が私のエーテル通信端末を踏み台にして、アークスシップへハッキングを仕掛けたことについてだ。

 

「相手は超高度な最新AIと超高度な演算惑星。個人の手に負える相手じゃないよ」

 

 アークスシップの演算力のバックアップを受けるハイ・キャストのシエラと、現マザーシップであるシオン模倣体のシャオのことだ。

 キヴォトス人が地球人類やオラクル船団の人々よりも、はるかに優れた人種だとしても……さすがに学校の部活規模のマシンを使ったハッキングでは無理がある。エーテルを介した次元間通信という制約が多い状況でもあるしね。

 

『それはもう、十分に分かっています。そもそも使っている言語が違うから、情報を手に入れても翻訳する必要がありますし』

 

 どうやらコタマ先輩も、アークスシップへのハッキングに無理があったことは自覚しているようだ。

 しかし、コタマ先輩の本題はハッキングの件ではない。

 

『だから、私たちが敵わなかったアークスの技術を教えてください。それが今回の対価です』

 

 なるほど? それじゃあ、対価の交渉といこうか。

 

「アークスにハッキングを仕掛けたことを不問にする。それが対価で」

 

『不問にされなくても結構です。どうせアークスはキヴォトスに来られないですから』

 

「私がヴェリタスを物理的に潰すとしても?」

 

『そのときは、エンジニア部が生徒に対して危害を加えたと、セミナーに訴えます』

 

「…………」

 

『…………』

 

 互いに沈黙しあい、それから私はため息を一つついて、スマホの向こうのコタマ先輩に向けて言った。

 

「では、こうしようか。アークス側とヴェリタスで、対話する機会を与える。そこで技術を教えてもらえるほど気に入られるかは、ヴェリタス次第だよ」

 

『……チャンスは自分の手でつかめってことですか。上等です』

 

 そういうわけで取引は成立した。先生からの頼みなのに、なんで私から対価を取り立てようとするかなぁ、まったく。

 まあ、その交渉も無駄ではなかったようで。ヴェリタスはすぐに仕事をしてくれた。

 なんと、その日の晩に、ヴァルキューレとカイザーグループの癒着の証拠が、私のもとに届いたのだ。

 

 その内容を先生へ転送する前に、おそるおそる確認してみたところ……。

 

「連邦生徒会が癒着に絡んでいるとか、たまげたなぁ」

 

 癒着の証拠データの中に、連邦生徒会の行政委員会、防衛室の室長の名前が載っていた。不知火(しらぬい)カヤというらしい。

 つまりだ。警察組織と大企業の癒着と不正を後押ししていたのは、キヴォトスの支配者である連邦生徒会の一人だったってことだ。

 そりゃあ、ヴァルキューレ警察学校も手に入れた装備を堂々と使うわ。ちょっとやそっとのことでは、連邦生徒会の権限でもみ消してもらえるもん。

 

 それを考えると、連邦生徒会相手に連邦捜査部シャーレの権限って、通用するのか……?

 しかもこの防衛室室長、他にもブラックストーンとかいうセキュリティーサービスの会社などとも癒着をしていて真っ黒だということが、ヴェリタスから渡されたデータから分かる。

 不正な取引があるということは、それだけ相手が結託していることも意味している。もし、シャーレが防衛室を敵に回そうとすると、癒着した軍需産業の連合軍と正面衝突しかねない。

 うーん、これは……。

 

「まあ、全部先生にぶん投げようか。私、あとは知らーん!」

 

 私は考えることをやめ、証拠データを先生のタブレットに向けて転送した。後は野となれ山となれ。

 なんてことを考えていた日から数日後、汚職事件に関する匿名からのたれ込み情報で、マスメディアがずいぶんと大騒ぎをしていた。その結果、槍玉に挙げられることになった連邦生徒会は、大わらわになっているようだ。

 

 そういえば、先生は以前言っていたなぁ。連邦捜査部シャーレは悪いことをした生徒に対し直接的な罰は下さない。生徒のその後は世論と司法の手に任せるって。そして、今回、先生はマスメディアを使うことで、不正をした生徒達を罰するための世論を作り出したということだ。

 先生も、なかなかあくどい手を使うようになったものだねぇ。

 

*1
ロボットの大人警察官が所属する警察組織も、別口で存在すると思われる。

*2
『District of Utnapishtim』の略。

*3
ノリで銀行強盗をしちゃう人だとオリ主は気づいていない。

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