【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在 作:Leni
30.見習い勇者の冒険
時は過ぎ、キヴォトスの全学園を巻き込んだ大運動会『
エンジニア部はセミナーに『晄輪大祭』の手伝いを任されて作業に遅延がおきながらも、ロボットペット『エグ』の開発は順調に進んでいた。
マグで採用されていた小動物の脳の代わりを一から設計しなければいけなかったが、そこはさすがのエンジニア部。四人でアイデアを出し合い、開発に詰まることなく試作品の完成までもう少しというところまできていた。
さて、このエグだが、与える餌による成長次第で様々な姿になる。
その成長バリエーションは、戦闘兵器だったマグを軽くしのぐ豊富な種類が用意されている。
しかも、餌やりだけでなく、外部からの操作でも見た目を変えることができる。
私達エンジニア部が想定しているのは、別売りのデータカードをエグのスロットに差し込む形式だ。
オンラインアップデートなどの機能はあえて付けない。アナログなペットという形式には、オンライン接続での操作は風情を壊すとの判断である。コンピュータウイルス対策とかも大変だしね。
そういうわけで、エグは別売りのデータカードで外観を追加するという、発売後も稼げる販売戦略を取ることになった。
さて、見た目が変えられると何が起きるか。それは……コラボレーション企画が成り立つ!
『エーテルフォトニクス社』は最早、名だたる大企業であり、他社にコラボ企画を持ちこんでも嫌な顔をされずに歓迎されるほどになっていた。
というわけで、いずれ来たるエグ発売に備えてコラボの準備に動き始めた私。
まず第一弾として、『モモフレンズ』との公式コラボを社員が持ちこんできたので、先日ゴーサインを出したところだ。
このモモフレンズとは、モモグループという大手企業グループが展開しているキャラクターコンテンツだ。積極的にキャラクターの商品展開を行なっており、グッズ販売やイベント開催、書籍販売、映像作品展開など、様々な活動がなされている。
前世でいうところのキティちゃんを始めとしたキャラクターだとか、ミッキーマウスを始めとしたキャラクターだとか、そういう類だ。
そのモモフレンズは、キヴォトスを構成するメイン層の女子学生に大受けしており……そのキャラクター達をロボットペットとして常にそばに置けるとなれば、エグは売れに売れるだろうというのが担当社員のもくろみだ。
「売れます! 女子高生の間で絶対にブームになります!」
そう豪語していたが、はたしてどうなることやら。
そんなわけで決まったモモフレンズコラボだが、実はそれとは別に、個人的に一つやりたいコラボがある。
それは……『テイルズ・サガ・クロニクル2』とのコラボだ!
エーテル通信施設の建設ラッシュで、鬼のような業務が降りかかった今夏。
ミレニアムの野球部がインターハイ地区予選突破を決め学園中が応援に沸いていた中で、アビドスの本社に通い続けた今夏。
エンジニア部のみんながヒビキの主導で同人イベント『コミセン』に行ってコスプレを楽しんでいた中で、一人働き続けた今夏。
そんな社畜すぎる夏の日々で……スマホで手軽にマルチプレイできるゲーム『テイルズ・サガ・クロニクル2』は私の唯一の癒しだった。
そんなTSC2とコラボしたい! 社長権限で勝手にコラボを決めたい!
というわけで、ミレニアムのゲーム開発部顧問を続投していた先生に、許可を得ることにした。
モモトークで済ませてしまいたいところだが、立派な業務なので電子メールを使ったやりとりだ。
『コラボで弊社からゲーム開発部に支払う使用料はこのくらいで、売り上げから支払うロイヤリティはこの比率で――』
『うん、これだけもらえるなら、次回作を作る部費の足しになるよ。ありがとう』
『次回作の予定があるのですね。楽しみにさせていただきます』
『ミレニアムプライスも近づいてきたからね。最近は私もまたゲーム開発部に顔を出しているよ』
なるほどなるほど。しかし先生、こちらは社長という立場なのに、生徒に接する感覚でメール打ってくるなぁ。
これだから連邦生徒会の上の人*1に、公的な文書を口語調にしないでくださいとか言われて、提出書類の差し戻しをくらうんだよ。
というか、連邦生徒会が連日のように続く汚職の報道で揺れているのに、ゲーム開発部の手伝いに入るとかマイペースすぎないか先生……。
何はともあれ、TSC2コラボは無事に成立しそうで、ありがたいことである。TSC2にモモフレンズほどのコンテンツ力はないだろうけど、そこはまあ社長の趣味ということで。
◆◇◆◇◆
「完成です!」
「やった……」
「ふふふ、この可愛いフォルムがなんとも言えないね」
そうしてとうとう、エンジニア部の努力の結果、エグの試作品が完成した。
互いにハイタッチを繰り返して、成果を喜ぶ私達。いやー、やっぱり物作りは営業よりも楽しいね!
さて、しかしだ。試作品ができたら何をする? そりゃあ、テストだよ。
使い倒して使い倒して、バグを見つけ出すのだ。普段のエンジニア部の発明品なら、欠陥があっても笑い話で済む。だって、学生の部活動だもん。活動そのものに意義がある。
でも、私達が今回作ったのは、企業の製品だ。欠陥は許されない。だから、徹底的にテストをしてやる必要がある。
もちろんテストのための項目は洗い出してあるが……こういうのって、正式なテストでは見つからないけど、普段使いをし出してやっと見つかる欠陥というやつが多いのだ。
なので私達は、複数の起動前のエグを手に取り、試用してくれる人材を探しに、ミレニアムの校舎を練り歩き始めた。
しかし。私達が四人そろって歩くと、何もしていないのに逃げ出す生徒がいるんだけど?
これじゃあテストを頼むどころではない。
しばらく校舎内をうろついた後、今度は校舎の建物の外に出て、日の光の下を歩き始めた私達。
すると、思わぬ人物に私達は出会った。
「"こんにちは"」
シャーレの安藤先生である。その横には、ゲーム開発部のアリスもいた。
「やあ、散歩中かい?」
まずは世間話から入るウタハ部長。ここからどうやって、エグの試用を押しつけるのか。残った私達三人は、後ろでじっとそれを見守った。
「アリスは冒険中です!」
「なるほど、勇者のクエストの最中か。魔王でも探しているのかな?」
「アリスはまだ低レベルの見習い勇者です。なので、簡単なクエストを探している最中です」
ウタハ部長の後ろにいるので、部長の表情はうかがえないのだが……きっと今の部長はニヤリとあくどい笑みを浮かべているだろう。
「そんな見習い勇者に、クエスト発生だ。さあ、これを受け取ってくれたまえ」
部長はそう言って、先生とアリスにエグを一個ずつ押しつけた。
「"これは?"」
先生が、不思議そうに小さな丸い球体、エグを眺める。
「エンジニア部の新作、ロボットペットだ。試作品でね。テストしてくれる生徒を探しに工房の外へ出たら、アリスと先生に遭遇したというわけだよ」
「なるほど、未知のアイテムの使い道を調べるクエストですね!」
アリスが嬉しそうにエグの球体を手の中でこねくり回した。
そこから、ウタハ部長は二人にエグの簡単な扱い方を教えた。マニュアルは渡さない。エグのエンドユーザーの大半は、説明書などほとんど読まずに、友人からの伝聞で育て始めると想定してのことだ。マニュアルにのっとったテストは、エンジニア部の私達がやればいい。
説明を聞いたアリスは、笑顔で手ににぎったマグを天に掲げる。
「てってれー、物語のキーアイテムを貰ってしまいました!」
「大事に育てれば、いずれは魔王の『やみのころも』をはがす重要アイテムになるかも……」
私は、そんな適当なことをウタハ部長の後ろからささやくように言った。
「あっ、アリスそれ知っています! 『ひかりのたま』です!」
「ふふふ、はたして見習い勇者は、このエグを正しい姿に導けるかな?」
私はさらに適当な文言をぶっ込み、アリスをその気にさせる。
うん、これならお世話を欠かさないだろう。別に生物の脳なんて使っていないから、餌やりを忘れても死なないけど。
「賢者様に貰った『ひかりのたま』は、きっと世界を救う鍵となります!」
完全に勇者になりきったアリスは、エグを起動させて左肩に持ってくると、先生を連れて再び校内の冒険に旅立っていった。
よしよし、この調子でテストしてくれる相手を探していこうじゃないか。
……なんて意気込んでエグを配り終え、満足した私達。その日は早めに部活を終了し、各々帰ったり遊びにいったりとバラバラの行動に移った。
私も、今日はゲームセンターへ遊びにいくつもりだ。
ゲームで遊ぶ……つもりでもあるんだけど、本題は遊びではない。市場調査だ。
エグのコラボ第一弾は、モモフレンズだ。だが、実際のところ、モモフレンズの世間での人気はどれくらいのものだろうか。
女子高生に人気というが、その女子高生をやっている私の生活圏内にモモフレンズは見つけられるか。
そう思い、私はとりあえず女子高生の身近なキャラグッズ入手場所である、ゲームセンターのプライズコーナーにやってきた。
前世でもお馴染みだったクレーンゲームを始めに、景品を落としてゲットするなんという名前かも知らないゲーム機器の群れ。
店内に入ってまず最初に見えるその場所には、見事にモモフレンズのキャラグッズが用意されていた。
「おお……これはやっぱり人気キャラクターなのかな?」
クレーンゲームの中には「それ本当にアームでつかめるの?」と言いたくなる大きさの『ペロロ』のぬいぐるみが一番目立つように置かれている。
ペロロとは、くちばしの中から飛び出てだらんと垂れ下がった舌が特徴のニワトリキャラクターだ。
そのなんともいえない表情は、可愛さよりもシュールさを感じられる。前世で見たことあるキャラクターだと、変顔時のピングーの見た目が近いだろうか。まあ、ペロロは舌を出した表情がデフォなので、ピングーとはだいぶ方向性が違うが。
ちなみにモモフレンズと複数形であることからも分かる通り、ペロロ以外にもキャラクターはいる。
クレーンゲームの中にも、大小様々な大きさのぬいぐるみが配置されていて……眺めていたら、ミレニアム生らしき女子生徒がクレーンゲームに挑戦しだした。
そして、キャッキャと笑いながら、一番大きなペロロぬいぐるみのキャッチに挑戦していた。
「人気だなぁ……」
モモフレンズ、その人気は本物だった……!
はい、というわけで、市場調査は終了ー。あとはゲーセンで存分に遊んでから帰ることにしよう。
まずは、シューティングゲームからやるかな。玩具の銃を手に持って、画面の中のゾンビを倒すガンシューティングじゃないよ。画面の中の戦闘機を操作して敵を撃つ、縦シューとか横シューとかのあれだ。
そうして私は、プライズコーナーから奥に入り、メダルゲームコーナーを通り過ぎ、ゲーム筐体が置かれた一角へと移動した。
すると、そこには意外な組み合わせの顔見知りがいた。
「どうも、さっきぶりです、先生」
「"やあ、リク。遊びに来たのかい?"」
「ちょっと市場調査に。ついでに遊びにも来ましたけど」
「"社長は大変だね"」
ゲーセンに、安藤先生がいた。とは言っても、ゲームで遊んでいるわけではないようだ。
先生は立っており、その前では、二人の生徒が筐体の椅子に座って格闘ゲームを遊んでいた。その生徒は、ゲーム開発部のアリスと、ミレニアムのエージェント集団C&Cのリーダー、
「意外な組み合わせですね」
格ゲーに熱中している二人の後ろで、私は先生の隣に並び、小さな声で先生にそう話しかけた。
「"実は普段から一緒にゲームで対戦する仲らしいよ"」
「本当に意外ですね! 確か以前、ヴェリタスの『鏡』の奪取を狙って、二人は正面からぶつかり合いのバトルをしたと聞きましたけど……」
「"あれは組織同士の対立だったから、個人的な好き嫌いとは別じゃないかな"」
「はー、それにしても、ここまで来ると完全に親友って感じですねぇ」
アリスとネル部長は、私と先生が見守る前で、何戦も隣同士に座ったまま格ゲーの対戦を行ない続けた。
いやあ、青春してますなあ。