【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在   作:Leni

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31.魔王か勇者か

 エグの開発は順調に進んだ。

 現在、量産品として原価を抑えるために、構造や機能の無駄を徹底的に削っている最中だ。

 

 この作業は毎度ながら、エンジニア部のテンションが著しく下がる。

 エンジニア部の三人は、とにかく発明品に機能を盛りたがる人達だからね。ヒビキなんて特に、量産品の設計・製造には向いていない超盛りたがりの気質だ。

 戦争物のロボットアニメでいうと、機能盛り盛りの試作型とか、エース専用機とか、そういうのを好んで作るタイプである。

 

 まあ、分かるよ、その気持ち。欲望のおもむくままに物作りするのって、楽しいからね。

 しかし、世の中に出回る大半の品は、一般市民が手を伸ばしやすい、ほどよい価格の量産品なのだ。特別な一品とかは、ごく一部のお金持ちや趣味人しか手を出さないのである。

 

 そして、エグはキヴォトスの女学生をメインターゲットとした商品だ。なので、原価はとにかく抑えて、安価で提供してやる必要がある。

 なので、無駄を省く作業のリーダーは私が担当して、ひたすらに作業をしていたのだが……。

 作業中、不意にウタハ部長のスマホから着信音が鳴った。

 

 ここは仕事場ではなく、部活動の場。作業中なら電源を切っておけ、なんてことは誰も言わない。

 なので、ウタハ部長は明らかに集中力が切れた顔で、スマホをいじりはじめた。

 そして、何か気になるメッセージでも来ていたのか、いぶかしげな表情に変わった。

 

「……校内で謎のロボットが暴走しているらしい」

 

 あー、ミレニアムあるあるだねぇ。どこの部活の仕業かな? エンジニア部のロボットだったら笑えるな。

 と、私が勝手にウケていると、ウタハ部長はさらに言葉を続ける。

 

「エンジニア部の仕業なのかって、苦情のメッセージだったよ」

 

「何が暴走したの? 前に火炎放射器を付けた自動掃除ロボット?」

 

 私がそう問うと、ウタハ部長はスマホの画面をこちらに見せてきた。

 そこにはスマホで撮ったであろう写真が表示されており、確かに謎のロボットが写っていた。

 だが、これは……。

 

「どう見てもエンジニア部のデザインじゃないね」

 

 私がそう言うと、ウタハ部長もうなずいて言葉を返してくる。

 

「ああ。このような生物的なデザインは、うちの部のそれとは方向性が違うよ」

 

 そう、そのロボットは、球体に足が生え、触手のようにケーブル状のアームが複数伸びた生物的なフォルムをしていた。

 なんだろうね。空想上の火星人をメカにしたような? アークス製のマシンや、アークス時代の仕事場である惑星リリーパにいた機甲種とも違う、独特のデザインの方向性だ。

 まあ、エンジニア部の作品ということは、まずないな!

 

「では、行こうか」

 

 スマホをポケットにしまい、ウタハ部長がそんな言葉を唐突に放った。

 

「見にいくの? 作業は?」

 

「この謎のロボットが気になって、作業どころではないだろう。さ、向こうのコトリとヒビキも呼んで、ロボットをバラしにいこう」

 

 ……この部長、所有者がいるかもしれないのに、分解を前提としているぞ。

 まあ、暴走しているなら壊して止めるのが一番だろうし、分解してもかまわないか。

 

 そういうわけで、私とウタハ部長は、部屋のテーブルで設計図とにらめっこをしていた二人の部員を呼び、謎のロボットの目撃場所へと向かった。

 

 向かう先は、インドア系の部活が集まる部活棟だ。ゲーム開発部の部室や、ヴェリタスの部室がある場所である。

 部活棟に辿り着いてみると、確かに球体の触手ロボットが存在した。それも複数である。

 だが、それらはすでに全て壊されており……触手ロボットの残骸が大量に集まった場所には、それを破壊したであろう人物たちがいた。

 ヴェリタスとメイドエージェントのC&Cだ。

 

「やあ、チーちゃん。何かあったのかい?」

 

 ウタハ部長が、ヴェリタスのチーちゃんこと各務(かがみ)チヒロに話しかけた。彼女は、ヴェリタスの副部長である。私は内心で『ヴェリタスの良心』と呼んでいる。

 

「ウタハか。まあ、見ての通り未知のロボットに襲われてね」

 

「ヴェリタスを狙った襲撃かな?」

 

「いや、違うんだ。事情は少し混み合っていてね……」

 

 ウタハ部長の問いに、そう答えたチヒロ副部長。そして、彼女は現在の状況を軽く説明してくれた。

 

 なんでも、この謎の触手ロボット。ヴェリタスがミレニアムの郊外から拾ってきたらしい。

 とは言っても、これだけ大量のロボットを全て校舎内に運び込んだわけではない。部室に運び込んだのは五体だけだったそうだ。

 

 そして、それをゲームのモンスターデザインの参考にと、ゲーム開発部と顧問の安藤先生に見せることにした。すると、なぜかアリスが謎の触手ロボットを起動させ始めたらしい。

 さらに、アリスの様子がおかしくなっていき、彼女は次々と外から集まってくる触手ロボットと共に、ヴェリタスの部室で暴れ回ったのだとか。

 そこへC&Cの戦闘メイド達が来てくれたおかげで、ロボットは全て破壊され、アリスの暴走も止まった。さらにエンジニア部がやってきて、この状況に続く、と。

 

「ロボットから催眠の信号でも出ていたとか……?」

 

 壊れたロボットの周囲をぐるぐると回って観察しながら、ウタハ部長がそんなことを言った。

 しかし、チヒロ副部長の見解はというと……。

 

「アリス以外は変なことになっていなかったから、人に影響する何かはないとは思う」

 

 うーん、本当に何があったんだろう。とりあえず私は話を聞きながら触手ロボットの調査を行なってはいたのだが……。こいつ、謎すぎる。動力源は謎で、電源ケーブルも接続ポートもないし、ネジやビスも見当たらない。

 

「なんというか……現在のキヴォトス内で見かけるロボットとは、根本からして違う気がする」

 

 同じくロボットを調べていたヒビキが、そんなことを小さな声で言った。

 すると、コトリもヒビキの言葉に続くようにコメントする。

 

「私の記憶では、これはキヴォトスの古代に存在した、超文明の遺産に見られるデザインですね!」

 

 古代の超文明……!

 なんだそのワクワクするワードは。コトリに詳しく聞きたいところだが……彼女の解説はとにかく長いので、この場で尋ねるには不適当だろう。

 

「ところで、当事者のアリスというか、ゲーム開発部と先生はどこに?」

 

 ウタハ部長がチヒロ副部長にそう尋ねると、副部長は苦い顔をして答える。

 なんでも、ゲーム開発部のモモイがアリスの攻撃で怪我を負って意識を失ったので、先生がシャーレの医務室まで運び込んだそうだ。

 うわー、それは大変なことになった。アリスの持っている武装はM.I.S用の試作兵器であり、仲間に向けて良いような火力ではない。モモイ、無事かなぁ……。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 壊れた謎の触手ロボットは、エンジニア部の工房に運ばれた。

 それから二日後、エンジニア部の私達は、エグの開発を進めつつ合間合間に触手ロボットの解析に取り組んでいた。

 私以外の部員達が、エグよりも触手ロボットの方に力を入れているのは仕方ない。エンジニア部は公式の大会の類がない部活動。何者にも縛られず好きなことをめいっぱいやるのが、こういう類の部活での生徒達が本来やるべきことなのだろう。

 

 まあ、一応、私は社長で、エンジニア部の三人は会社の開発チームのメンバーという立場ではあるんだけどね。

 幸い、エグ開発を完全に投げ出すということは誰もしていない。なので、少しずつだが進捗があるのは、ありがたいと言えるだろう。

 

 そんなこんなで、今日も作業を続けていたところ、不意にウタハ部長のスマホが鳴った。

 この音は……モモトークやメールではなく、電話だ。

 

 作業を中断し、電話に出るウタハ部長。

 それからしばらくウタハ部長は電話先と会話を続け、通話を切ったところで工房内に響く声で叫んだ。

 

「エンジニア部、集合! 緊急事態だ!」

 

 なんだなんだ、と集まる私とコトリ、ヒビキ。

 すると、ウタハ部長は私達に向けて言う。

 

「今から出かけるよ! 訳は道中話す!」

 

 そう言って、部長は私達に有無も言わせず工房を出て、廊下を早歩きしながら私達に状況を説明する。

 

「ヴェリタスから連絡があった。アリスが会長に襲われている!」

 

 会長かー。……会長?

 

「会長って、なんの会長?」

 

 私がそう尋ねると、ウタハ部長は前を真っ直ぐ向きながら答える。

 

「ミレニアムで会長と言ったら、セミナーの会長のことだよ」

 

 セミナーの会長。つまり生徒会長か!

 セミナーといえば、シャーレ部員のユウカ会計とはすっかり顔見知りだが……。

 

「そういえば私、ミレニアムの生徒会長って見たことない。名前も知らない」

 

 私がそう言うと、コトリとヒビキも同意してきた。私達一年生の間で、会長の知名度は低いのかもしれない。

 

「確かに、あの会長は滅多に人前へ姿を現さないね。知らないのも仕方ないか……」

 

 そうしてウタハ部長は、早歩きしながら私達に生徒会長の名前を教えてくれた。

 調月(つかつき)リオ。

 うーん、聞いたことないな! この前に行なわれたキヴォトス合同の大運動会でも、姿を見た覚えはない。今年の大運動会はミレニアムでの開催で、セミナーが忙しくあちこちをかけずり回っていたというのにだ。

 

 どんな人物なのだろうか。

 まあ、どちらにしろ友人であるアリスを狙うやからなんて、私がぶっ飛ばしてやるが。

 

 そんなことを考えている間にも、現場であるゲーム開発部の部室前まで迫ってきた。

 すると、そこに見えたのは……。

 

「行きます! 聖剣抜刀! 《フォトンレイ》!」

 

 アリスが放つ、光の束に飲み込まれるロボットの群れ!

 アリスを襲っていたのは、どうやらミレニアムによく見られるデザインのロボット軍団だったようだ。会長はそれらを複数アリスにぶつけたようだが……アリスの聖剣フォトンレイこと、試作型フォトンブラスターによって一掃される結果になっていた。

 

 そして、そのなぎ倒されたロボットの残骸を呆然とした顔で見ている、知らない顔の少女。

 セミナーであることを示すスーツを着た、その黒髪の生徒は、おそらくウタハ部長が言っていたリオ会長だろう。

 その彼女が、ポツリと言葉を漏らす。

 

「そんな……ビーム兵器の停止信号は出したはず……!」

 

 ビーム兵器、試作型フォトンブラスターのことだろう。

 だが、それに停止信号を出した? 私、フォトンブラスターに停止信号を受け付ける機能なんて入れていないぞ。脆弱性になりうるからね。

 

 あっ、もしかして。

 一つ思い当たった私は、リオ会長らしき少女に向けて煽りを込めて言う。

 

「セミナーに提出した資料、鵜呑みにしちゃった感じ?」

 

 そう、私は前学期のミレニアムプライスに際して、フォトンリアクターの特許出願書類をセミナーのノア書記に提出していた。

 だが、その内容はフェイクというか、だいぶ型落ちしたものを提出している。フォトンリアクターを使用したライドロイドやフォトンブラスターは兵器なのだ。相手がセミナーでも、全容を見せるわけにはいかない。

『エーテルフォトニクス社』から販売したライドロイドからリバースエンジニアリングされる? そこは大丈夫。市販のライドロイドはその型落ち品を採用していて、エンジニア部製のライドロイドとは性能が何段も落ちるから。

 

「残念ながらあの聖剣は、特許出願に使ったフォトンリアクターより数世代後の品を使用しているんだよ」

 

 私のその言葉を聞いていたのか、リオ会長らしき少女はこちらをにらみつけるように見てきた。

 

「エンジニア部……!」

 

 その瞳には、どんな感情が籠もっているのだろうか。どういう理由でアリスを襲ったのか、詳しく聞いてみないとね。

 ま、何か複雑な背景や事情があっても、なんとかなるでしょ。なぜかC&Cのネル部長が別のメイド少女に組み伏せられているが、その奥に安藤先生の姿が見えるからね。

 安藤先生がいるなら、きっと事態は丸く収まるさ。

 

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