【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在 作:Leni
「エンジニア部、ここになんの用かしら」
私達をにらみつけていた黒スーツの少女リオ会長が、淡々とした声でそう問いかけてきた。
すると、ウタハ部長が一歩前に出て、会長に答える。
「アリスを助けにきたよ」
堂々とした宣言だ。結構格好良いところあるよねウタハ部長。大運動会では学ランを着て応援団をしていたし。
「彼女はセミナーの会長権限で捕縛させてもらうわ。邪魔立てはしないでちょうだい」
対する会長は、格好良いというかクールな印象だ。いや、クールというか冷徹と言った方がいいだろうか。
「それとも、セミナーと敵対する気なのかしら?」
おっと、強権を振りかざしてきたぞ。確かに、セミナーはミレニアムの生徒会で、会長はそのトップであるが……。だが、ウタハ部長はそれに対して真っ向から刃向かった。
「エンジニア部が、セミナーなんかに従う必要なんてあるのかい?」
「何を言っているの。セミナーは生徒会、ミレニアムの代表よ」
「部活が生徒会の命令を聞く必要が? 校則に則った指導や勧告ならともかく、理屈の通らない命令なんて無視するに決まっているじゃないか」
部長、なかなか言うね。確かにセミナーは生徒会だが、生徒会が強権を振るって独裁政権みたいなワガママを通せるわけではない。そういう生徒会は、漫画やラノベの中の架空の存在だね*1。
そんなウタハ部長の反論に沈黙してしまうリオ会長。そして、さらにウタハ部長の言葉は続く。
「ああ、もしかしてC&Cを従えていたら、いつの間にかミレニアム全体の支配者の気分にでもなったのかな?」
「……ッ! そんなつもりは……」
「他人に言うことを聞かせたいなら、連邦生徒会長の席くらいにはつかないとね」
ウタハ部長、煽りよる!
おそらく同じ三年生だろうし、何か因縁でもあるのかな。
エンジニア部の予算を削られそうになったとかありそう。ああいや、そういうのはユウカ会計の仕事か。
「ともあれ、ミレニアムの一生徒として、友人が傷つけられそうになっているところを見捨てる気は、これっぽっちもないよ」
ウタハ部長が会長に向けて、ハッキリとタンカを切った。
そうそう、友人と言えば、C&Cのネル部長が知らないメイドに組み伏せられているんだよね。
それをゲーム開発部が解放しようとしているのか、メイドに銃を向けている。が、白いロボットが何体かメイドとゲーム開発部の間に入って射線を塞いでいる。
うーん、多分、ネル部長がゲーム開発部側の味方についていて、知らないメイドが会長側についているってところかな。
じゃあ、とりあえず知らないメイドを排除しよう。
私はウタハ部長の前に出ると、アークスのレンジャーとしてのスキル《スタングレネード》を使用した。すると、手の中に閃光弾が出現し、私はそれをネル部長を組み伏せるメイドの目の前へと放り投げる。
「!?」
メイドはとっさに目をつぶったが、残念でした。アークスの使うスキルは、フォトンの不思議な力を利用しているんだ。目をつぶっていようが、そのスタン効果は発揮される!
閃光弾が、メイドとネル部長の目の前で爆発する。
メイドはその爆発を受けて意識を失い、一方でネル部長は爆発に巻き込まれたが、何の影響も受けなかった。
レンジャーが使うトラップ系スキルは、敵味方の判別が可能だ。このような爆発だって、味方を巻き込んでもなんの効果も与えないのだ。
意識を失ってヘイローが消えたメイドの拘束が緩み、即座にネル部長がメイドの下から脱出する。
そして、逆に武装に付けられた鎖をメイドに巻き付け、拘束し返した。
それから爆発からちょうど五秒が経ち、メイドの意識が戻りヘイローが頭上に出現する。すると、メイドは己が拘束されていることに気づいたのか、悔しそうな表情を作った。
「よし、よくやったエンジニア部!」
メイドを鎖でがんじがらめにし床の上に転がしたネル部長が、私に向けてそんな称賛の声を上げた。
そして、ネル部長はそのまま周囲のロボットに射撃を開始。ゲーム開発部も先生に指揮を任せて反撃に出て……最初にアリスがフォトンブラスターでなぎ倒した分も合わせて、大量のロボットの残骸が廊下に転がることになった。
「こんなはずでは……」
ロボットを失い、エージェントのメイドを拘束されたリオ会長。ここからなんらかの手段を使って反撃に出るとしても、多勢に無勢である。
ただでさえアリスがロボット相手に無双ゲーしていたのに、私達エンジニア部まで援軍に来たからね。
リオ会長は周囲を囲まれ、銃口を突きつけられることになった。
「とりあえず、撃っておきます?」
ゲーム開発部のミドリがそう言って銃の引き金を引こうとするが……それを止める者がいた。
「"待って!"」
声を上げたのは、先生だ。
アリスを襲ったのだから、ゲーム開発部に銃弾をしこたま撃ち込まれても文句を言えない立場の会長。しかし、そんな会長も先生にとっては、助けるべき生徒の一人だったらしい。目の前で私刑を受けそうになっているなら、止めるのも納得だ。
そんな先生は周囲の生徒達を見回し、改めて言った。
「"喧嘩の時間は終わりだよ"」
「これ、喧嘩で済ませていいんですか……?」
ミドリが先生に突っ込みを入れるが、先生はそれをスルー。
「"喧嘩の後は、何が原因だったか、ちゃんとみんなで話し合いをしようか"」
静かに先生がそう告げると、会長は観念したかのように肩を落とした
◆◇◆◇◆
ミレニアムサイエンススクールの校舎内にある会議室。そこへ、複数の生徒達が集まった。
セミナーからは、安藤先生に呼ばれてやってきたユウカ会計と、書記の
セミナーの立場の人間が会長一人となると、数の暴力で会長が一方的に糾弾されると先生が危惧して、わざわざ二人を呼んだのだ。しかし……。
「最初に言わせてもらうと、私たちセミナーは、会長の味方というわけではありません」
ノア書記が、まさかの発言。セミナーは会長の管理下にある組織ではなかったのか……?
「むしろ、先生達を襲わせたロボットの軍団なんて、そんな物を造る予算をどこから用意したのか問い詰めたいわ」
ユウカ会計が、リオ会長に冷たい視線を向けながら言った。
うーむ、セミナーが会長の味方ではない。それはつまり、セミナーとしての立場でアリスを襲ったわけではないってことか。
そして、私は一つ気になったことがあったので、その場で発言する。
「会長が、エンジニア部はセミナーに逆らうつもりなのかってウタハ部長を脅しつけたのは、ハッタリだったってことか……」
私のその言葉に、ユウカ会計は目を剥いて驚いた。
「会長、そんなことしたんですか!? よりによってリクのいるエンジニア部相手に! この子、シャーレでも一番の取り扱い危険物ですよ!」
取り扱い危険物!? まさかシャーレ部員のみんな、私のことそんな風に思ってたの!? 確かに社長業の合間に、ちょくちょくシャーレの任務で呼ばれて好き放題暴れているけどさ!
まさかの流れ弾で精神的ダメージを食らった私。その一方で、ユウカ会計の相手をしている会長は、居心地悪そうに目を伏せている。
さて、そんな感じでセミナーからは会長、会計、書記の三名が集まっている。
さらにセミナー直属の組織であるC&Cは、全員そろって会議室の椅子に座っている。それと、見覚えのないメイド、本人の名乗りによると
当事者であるゲーム開発部からは、アリスの暴走の影響で昏睡しているモモイを抜いた三人。ミドリ、アリス、そして滅多に人前に姿を現さない部長の
当事者ではないエンジニア部からは、私をふくめて四人全員集まった。完全に興味本位だ。
それと、アリスの襲撃を私達に知らせてくれたヴェリタスも、会議室には来ていないがリモートで参加している。
最後に、安藤先生。これは先生がいて初めて成り立つ話し合いだから、居てもらわないと困る。先生がいないと、会長をボコボコにして問題解決とかやるのがキヴォトスの流儀だからね。
「"さて、それじゃあ何が問題だったのか話し合おうか"」
先生のその宣言により、話し合いという名の調停が始まった。
まずは、なぜ会長がアリスを狙ったのかについてだ。
これについては、会長はあっさりと口を割った。
「
……いきなりぶっ込んできたなぁ。
「AL-1Sは、そもそも人ではない。ゲーム開発部ならそれを分かっているのではなくて?」
会議室にいるメンバーの視線が、ゲーム開発部の集まる席へと向く。
さらに、会長は言葉を続けた。
「彼女は、ミレニアムの正式な生徒ですらないわ。入学試験も編入試験も受けていない……おそらくヴェリタスの手で学籍を偽造されている」
今度はリモートの立体映像に視線が集まる。映像中のヴェリタスメンバーは、「あちゃー」という表情をしていた。
まさかの会長有利に傾いた開幕に、ゲーム開発部はうろたえた。
そして、「一から正直に話せ」というC&Cのネル部長の言葉を受け、ゲーム開発部のミドリがアリスとの出会いから話し始めた。
前学期。ゲーム開発部はミレニアムプライスに入賞して廃部から逃れるため、伝説のゲーム開発ツール『G.Bible』を探しに出かけた。
出かけた先は、ミレニアム自治区郊外の廃墟。そこは連邦生徒会長が厳重な警備を敷いて立ち入り禁止にしていた場所だ。
しかし、連邦生徒会長の失踪以降、警備はなくなり、侵入できるようになっていた。
その廃墟で、ゲーム開発部は大きな椅子に座って眠っていた全裸の少女を発見した。
その少女は人ではなかった。人の姿をした機械人形、アンドロイド。
ここキヴォトスにはロボットの市民が多数存在しているが、その少女にはロボット市民とは違う点があった。それは、頭にヘイローを持っていること。
そんな少女を起動させたゲーム開発部。少女が座っていた椅子には『AL-1S』と刻印されており、そこからモモイによってアリスと命名された。
ゲーム開発部は廃部の危機に晒されていたため、アリスを部員に加えることにしたゲーム開発部一同。ヴェリタスに頼んでアリスの学籍を偽造してもらい、アリスは晴れてゲーム開発部の正式メンバーになった。
アンドロイドとして無機質な応答をしていたアリスは、ゲームから人としての情緒を学んだ。そして、今の明るい性格となり、今日まで普通のミレニアム生として問題なく生活してきた。
先日、謎のロボットと接触して暴走を始めるまでは……。
「以上が、私の分かるアリスちゃんの全てです」
たどたどしいところがあったが、ミドリの説明はしっかりと要点を押さえていた。
つまり、アリスは廃墟から発見されたアンドロイドで、学籍を偽造してミレニアム生になっており、謎のロボットのせいで暴走したということだ。
「学籍の偽造……確かに問題ね。でも、だからといって、会長が武力をもってアリスちゃんを排除にかかるとは思えないわね」
ユウカ会計が、そう意見を言った。
まあ、確かに偽造が問題なら、書類上で全て処理して退学にすればいいことだ。わざわざ殴り込みにいく必要はない。
「だから、会長が動いた理由は、謎のロボットと接触して暴走した件だと思うけれど……キヴォトスを滅亡させうる、でしたか? リオ会長、話してくれますね?」
ユウカ会計が、リオ会長に向けて問いかける。
すると、会長はうなずき、よく通る声で話し始めた。
「私がアリスを狙った理由は、彼女が危険だからよ」
「やはり暴走の件ですか……」
「いいえ。あれは暴走などではないわ。AL-1Sが正しく動作しただけ」
「……会長は、アリスちゃんが何者なのか知っているのですね?」
ユウカ会計の再度の問いに、リオ会長はうなずきを返す。
そして、テーブルに肘を突き、両手の指を顔の前で組んで、語り出す。
「AL-1S。それは、未知から侵略してくる『
……ん?
「その名も、『名もなき神々の王女』。簡単に言えば、古代兵器よ」
話の方向がぶっ飛んでいないか?
私と同じことを思った人は何人もいたようで、驚き顔になる者、首を傾げる者と様々だ。
それを気にも留めず、会長はさらに言葉を重ねる。
「『
ああ、あの触手ロボット。あれがディビジョンとかいう存在なのか。
「廃墟からやってくるあのロボット軍団を自在に操り、世界を破滅させる古代の兵器。それが『名もなき神々の王女』よ」
話し合いの開幕にも思ったことだけど、ずいぶんと話のスケールが大きいよね!
脅威とか危険とかそういうのじゃなくて、世界の破滅。いやあ、アークス時代には惑星を滅ぼす存在と何度も戦ってきたけど、会長の言葉が本当だとするとキヴォトスもなかなか危ない世界らしい。
私が未知なる敵の可能性にうんざりしていると、ミドリが会長に「脳内の妄想設定をアリスちゃんに押しつけないで」などと抗議していた。しかし、会長は謎の触手ロボットの存在を盾に、真実を主張する。
一方で、アリスはショックを受けたように、会長に震え声で尋ねる。
「アリスは……危険な兵器なのですか?」
「危険な兵器、ね。そんな簡単な言葉では言い表せないくらいの『災禍』。……そうね、あなたはゲーム開発部の所属だから、規模をゲームにたとえて言いましょうか」
会長はアリスが座る方に向けて、冷たい声で言う。
「『名もなき神々の王女』は、この世界を滅ぼすために生まれた『魔王』よ」