【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在   作:Leni

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33.光と闇

 アリスが世界を滅ぼす『災禍』であり『魔王』だと断じたリオ会長。

 まるで前世のミステリー漫画で語られるノストラダムスの大予言のごとき荒唐無稽な与太話。

 だが、会長の表情は真剣そのもの。彼女はセミナーの会長という立場にある。だから、その責任ある立場から告げられた彼女の言葉は重く、冗談を言うなと一笑に付すわけにもいかなかった。

 

 むしろ、会長という立場から発された言葉は真実味を帯びてすらいて、彼女の語った言葉の重みに会議室内が緊張に包まれた。ゲーム開発部のミドリに至っては冗談と笑うどころか、会長をにらみつけてすらいた。

 

 しかし会長は、その視線を気にすることすらなく、さらに言葉を続ける。

 

「だから私は、アリスを捕縛しようとしたの。あなた達に妨害されてしまったけれど」

 

「捕縛した後はどうするつもりだったんだ? 専用の施設でも作って軟禁か?」

 

 C&Cのネル部長が、会長に問いかける。セミナーのエージェントであるC&Cの部長という立場だが、気にくわないことがあれば会長相手でも刃向かってみせる。ネル部長は、そういう気概を持つ人だ。

 だから、答え次第ではネル部長がリオ会長の敵に回る、そんな場面ではあったのだが……。

 

「すでに専用の施設は作ってある。でも、軟禁が目的ではないわ。その施設を使ってアリスの機能を停止させるつもりだった」

 

「あ? ……ああ、電源ボタンがどこかについてんのか?」

 

「いいえ。電源を落とす方法は無い。私が試みようとしていたのは……」

 

 会長は、一瞬言葉を言いよどみ、そして続けた。

 

()()()()()()()よ」

 

 その言葉に、会議室内がざわめいた。

 ヘイローの破壊。それが意味するところは……。

 

「アリスちゃんを殺す気だったんですか!?」

 

 ミドリの叫びが、ざわめき声をかき消すように響きわたる。

 そう、『ヘイローを壊す』という言葉は、キヴォトスにおいては殺害を意味する比喩表現である。

 

 ヘイローを持つ者は、死を迎えるとヘイローが粉々に割れてしまう。ヘイロー自体は物理的な干渉が不可能な物体なので、直接ヘイローを攻撃して破壊することはできないのだが。

 

「これは『トロッコ問題』よ。世界の破滅を選ぶか、彼女一人の犠牲を選ぶか。そういう問題なの」

 

 淡々と会長が告げた。

 トロッコ問題、か。会長は自らの手を汚すレールの操作者になろうとしたわけだね。なんという貧乏くじ。

 

 しかしだ。そこで「レールに飛び出してトロッコを吹き飛ばそう」と言い出しかねない人が、この場にはいる。

 安藤先生だ。普段から、先生は生徒を助けるためにいると、公言して(はばか)らない。

 

 だが。安藤先生は無言で私達を見守っているだけ。

 この話し合いでは、先生は途中で口をはさまないつもりなのかな? もしそうだとしたら、完全に学級会のノリである。

 

 一方で、今までの会長の言葉を真面目に聞いていたアリスは……椅子に座りながら縮こまって顔を伏せていて……。沈んだ声で、ポツリとつぶやくように言葉を漏らす。

 

「やはりアリスは……魔王だったのですか?」

 

 見習い勇者と自称して日々を楽しく過ごしていたアリス。

 しかし、今となってはその面影もなく……そこには、ただただ弱々しく悲しむ少女がいた。

 

「アリスは……消えるべきなのですか?」

 

 さて。ここで「違う」とハッキリ言ってみせるのが、友達ってやつだろう。

 しかし、何も考えずハッキリ言うと、会長に代案を出せと言われるのがオチだ。

 だから、ゲーム開発部のミドリとユズですら、とっさに否定の言葉を言えないでいる。モモイがいたら言っていただろうけどね。

 でも、モモイはアリスの暴走で昏睡していてこの場にはいない。

 

 ならば。私が言ってやろうじゃないか。世界の破滅を守護輝士(ガーディアン)と一緒に何度も防いだアークスの私が、ハッキリと。

 

「違うよ、アリス。あなたは消えるべきではない」

 

「リクは……アリスが魔王ではないと言ってくれるのですか?」

 

 アリスがすがるように私へ言うが、私は「いいや、アリスは魔王かもしれないよ」と返す。そして、アリスが何かを言う前に私はまくし立てるように言葉を続けた。

 

「アリスは王道シナリオのゲームが好きだから、見落としているかもしれないけどさ。仲間キャラクターが闇堕ちして、そこから再び味方として返り咲く展開なんてよくあることなんだよ」

 

 唐突にゲームの話を始めた私に、会議室にいる人達が、何を言っているんだこいつはと言いたげな顔をした。

 まあ、話は最後まで聞いて欲しい。

 

「しかも、一度闇堕ちしたことでフラグが立って、物語がハッピーエンドを迎えることすらあるんだよ」

 

 なにせあのPSO2の主人公こと守護輝士(ガーディアン)も、闇堕ちの実績がある。正確には守護輝士本人ではなく、別の時間軸の守護輝士だ。その人物はマトイという少女を救うため時間を逆行した果てに、闇堕ちしてダークファルス【仮面(ペルソナ)】となった。

 そして、その闇堕ちした【仮面】の存在が、アークスの大敵である【深遠なる闇】を打倒する鍵となったのだ。

 

 そんな想いを込めて伝えた言葉は、アリスの冷え切ってしまった心を少しは温めたのだろうか。彼女は伏せていた顔を少し上に上げた。

 すると、そこでようやく安藤先生が動きを見せた。彼はその場でゆっくりと立ち上がり、発言する。

 

「"ゲームにたとえるのは分かりやすくていいね"」

 

 そんな子供じみた感想に、あきれ顔を作りそうになる者が幾人か。だが、先生はそれを気にも留めずさらに言った。

 

「"だから私もゲームにたとえるね"」

 

 おっと、ただの感想ではなく、ちゃんとした本題もあったようだ。

 

「"アリスはもともと闇の魔王だったかもしれない"」

 

 どれだけ理屈をこねくり回したところで、アリスがAL-1S、『名もなき神々の王女』だという疑惑は消えない。

 しかし、先生はその上でアリスの存在を否定しなかった。

 

「"でも、ゲーム開発部という光に導かれて、エンジニア部に伝わる聖剣を抜いて勇者に選ばれたんだよ"」

 

 私のたとえが『闇に堕ちた存在が光の道を歩む物語』だとしたら、先生のたとえは――

 

「"闇の魔王が、光の勇者に転生してもいいんだ"」

 

 ――『闇の存在が光に導かれる勇者の伝説』だ。

 

「ざれごとだわ」

 

 だが、そんな私達のたとえ話を一蹴するように、リオ会長が冷たく言い放った。

 なるほど、代案ですらない言葉遊びをしているように見られたか。そりゃ一言くらい、物申したくもなるよね。

 

 だから、そんなリオ会長に向けて、私は言い返す。

 

「まだ話の途中だから、会長は静かにしていて」

 

 そう言って、私も先生を真似してその場で立ち上がり、告げる。

 

「……そういうわけで、アリス。あなたが再び闇に飲まれないよう、その闇を克服(こくふく)しよう」

 

 闇堕ち戦士が仲間になる物語にしろ、魔王が勇者に転生する伝説にしろ、再び闇に堕ちてしまわないことが重要だ。

 

「闇を克服……いったいどうすれば……?」

 

 アリスが困ったように眉をハの字にしながら問いかけてくる。私に続けて先生にもはげまされたからか、暗い表情というわけではないが。

 そこで、私はアリスに言ってやる。

 

「よくフィクションで言うよね。敵を知り己を知れば百戦危うからず! 闇のアリスが、AL-1Sとかいう存在だったのなら、そのAL-1Sを調べ尽くして丸裸にしてやろう! そして、危ない機能があったら封印しちゃえばいい! そうすれば、光のアリスだけが残る!」

 

 私は立ちながらその場で拳をにぎり、高らかにそう宣言してやった。

 それと同時に、やるべき事が頭の中に湧いてくる。うん、未知の敵と戦うなら、やっぱりまずは相手を調べるところから始めないとね。そういうのはアークスでは情報部の仕事で、戦闘部だった私のやるべきことじゃなかったけど。

 

 だが、私の言葉はちゃんとみんなの心に響いたようで、明るい顔をして会話に参加し始める者達が複数いた。

 

「どこをどう調べるの? アリスちゃんがいた廃墟の再探索?」

 

 そう尋ねてきたのは、ミドリだ。

 まあ、廃墟にも情報はあるだろう。しかしだ。

 

「敵の本拠地らしき場所の探索は危険をともなうから、まずはアリス本人をスキャニングするところかな」

 

 すると、今度はC&Cのメイドの一人、一之瀬(いちのせ)アスナが問いかけてくる。

 

「古代兵器なんでしょ? エンジニア部の技術力で調べられるのかな?」

 

「それは挑発と受け取っていいかい?」

 

 ウタハ部長が言い返し、口喧嘩が始まりそうな雰囲気となる。

 だが、今はそんなことをしている場合じゃない。私はその場で手を叩いて周囲の注目を集め、皆に向けて言う。

 

「まあまあ。確かに、現代のキヴォトスの技術系統とは違う方向性の技術で、アリスは作られているかもしれない」

 

 触手ロボットも解析が難しかったね。でも、無策というわけではない。言い出しっぺの私が、何も考えていませんでは話にならないから。

 

「だから、また別系統の技術も足して、多方面から解析しようよ」

 

 私がそう言うと、皆が「別系統……?」と首を傾げる。

 

「まさかゲマトリアに協力を要請するとか……?」

 

 ユウカ会計が、いきなりとんでもないことを言い出す。

 

「違うよ!? 正解は、オラクル船団の技術。私の古巣のアークス研究室に協力を要請します!」

 

「えっ」

 

 ユウカ会計が、私の返答を聞いて驚き顔になった。

 まあ、ユウカ会計は私の詳しい来歴を知っているだろうからね。別次元に存在する宇宙航行船団の出身だっていう。

 

 そんな彼女に向けて、私は説明する。

 

「実は先日、オラクル船団との通信が確立してね。宇宙を旅する集団だから、他星と交流してその星の技術を積極的に受け入れる土壌があるんだ。だから、キヴォトスの古代文明にも興味を示してくれると思うよ」

 

 さあ、魔王AL-1S。ライブラの魔法をかけられる準備をしたまえよ。

 DQの魔王がFFの魔法で情報を抜かれる。そんなクロスオーバーしているゲームみたいな、夢のコラボレーションを実現させるのだ。

 

 一方で、トロッコ問題の責任を一人で抱えようとしていた会長は、異議を唱えることはしなかった。

 うん、このままレールを爆破して、トロッコを吹き飛ばすところまでいけるといいね。きっと、キヴォトスではそちらの方が受けがいいだろうから。

 

 決まった答えしか許されない思考実験とは違い、現実には無数の選択肢があるのだ。

 ま、どの選択肢が正しいかは、実際に選んでみるまでは分からないけどね!

 

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