【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在   作:Leni

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34.二つの力

 先生のいうところの喧嘩の後の話し合いが終わって、数日後。

 ミレニアムサイエンススクールのすでに使われていない旧校舎。そこにある古ぼけた大会議室で、私達エンジニア部はヴェリタスと協力して一つのマシンを完成させた。

 

 オラクル船団の技術をふんだんに使った、解析用マシンだ。

 この数日間、エンジニア部の四人で徹夜を続けて作り上げた渾身の一作だ。

 

 ただし、さすがのエンジニア部といえども、オラクル船団の技術を用いた高度なコンピュータの集積回路を一から作る設備など、即日で用意することはできない。そこで、代わりにある道具をマシンの中枢に組み込むことにした。

 それは、私がキヴォトスの外の世界から持ちこんだ、アークス専用端末。フォトンの変換エネルギーで動く、便利アイテムだ。

 

 アークス専用端末は、アークスでないと動かせない。それはつまり、私がいないとこのマシンを動かせないということである。

 なので、私は完成したマシンに乗りこむことになってしまった。

 

 マシンの形状は医療機械のMRIのような形をしているのだが、私の乗りこむ場所はその天辺だ。

 MRIの上に登って座りこむ若者。SNSに写真を流されたら、炎上しそうな絵面である。

 

「おー、これが解析マシン! なんだか知らないけどすごそう!」

 

 そう言って大会議室に入ってきたのは、ゲーム開発部のモモイだ。

 彼女は先日まで、昏睡状態に陥っていたが、無事に目覚めた。病院で精密検査も受けたようだが、問題は見つからなかったようだ。何事もなくてよかった。

 

 そして、モモイの後ろに続いてゲーム開発部が全員姿を現す。今回の当事者のアリスも当然いる。安藤先生もだ。

 

 それからセミナーのリオ会長、ユウカ会計、ノア書記、会長の護衛であるメイドのトキの四人も姿を見せる。

 が、ついでにもう一人知らない顔がセミナーの集団に混じっていた。

 バニーガール姿のピンク髪の少女。……えっ? いや、なんで学校にバニーガールがいるの?

 

 名前は分かる。セミナーの役員である黒崎(くろさき)コユキだ。

 ヴェリタスとはまた違ったコンピュータの操作技術があるらしく、今回の解析マシンを使用するメンバーの一人として選抜された。

 そして、ここ数日はマシンの操作方法のマニュアルを渡したり、質疑応答をしたりと、遠隔で連絡を取り合っていた。

 しかし、解析当日になって判明したその正体が、バニーガール。うーん、この格好は本人の趣味なのだろうか。

 

 そんな疑問を感じつつも、リオ会長が周囲を見回して早速、話を始めてしまったので、バニーガールの謎を聞けずじまいになった。

 

「みんな集まったわね。それでは、始めましょう」

 

 エンジニア部、ヴェリタス、セミナーの三組織が協力して、アリスの謎を紐解く。それが今回の目的だ。

 ゲーム開発部には、あえて解析マシンの詳細を伝えていない。もしアリスに解析マシンの情報が渡ったら、中に存在する可能性が高いセキュリティプログラムが、事前に対抗措置を用意してしまうかもしれないからだ。

 

「では、アリス。この台に乗って、横になってください! あ、服は着たままで結構です!」

 

 エンジニア部のコトリの案内で、アリスは解析マシンの寝台に乗る。もちろん、背負っていたフォトンブラスターは外してだ。

 

「おっと、エグも受け取っておきますね! いやー、アリスのエグも育ってきましたね!」

 

 そう言って、コトリはアリスからロボットペットの試作型エグを受け取った。彼女が言ったとおり、エグは初期状態のただの球体から進化して、球体に機械的な鳥の翼が生えた姿になっていた。

 エグが進化しているということは、しっかり毎日餌を与えていたということだ。どうやらアリスはこのエグを気に入ってくれたらしい。

 

「こんな広い場所で寝転がるのは、不思議な気分です……」

 

 アリスはそう言って、解析マシンの寝台で仰向けになりながら、腹の上で手を組んだ。

 それを確認した私は、解析マシンの上に乗り、フォトンから作り上げたエネルギーを解析マシンに流す。すると、マシンが正常に起動を始めた。

 

「それでは、解析を始めます」

 

 そう言ったのは、ヴェリタスのコタマ先輩だ。この大会議室には、ヴェリタスメンバーはコタマ先輩一人が来ている。解析マシンの操作者の一人だ。

 他のヴェリタスメンバーは、ヴェリタスの部室から遠隔通信でここの様子を見守っている。いざというときは、ヴェリタスの部室にある機器をつかってのバックアップ体制を取ってもらう予定である。

 なお、バックアップ体制はエーテル通信越しにアークスにも取ってもらっているが、よほどの事がない限りスキャン中には連絡はしてこないそうだ。こちらのやり方に口は出さないという方針のようだね。

 

 さて、宣言通り解析マシンをスタートさせると、アリスの横たわる寝台が、筒状の囲いの中に入っていく。

 

「うわあああ、飲みこまれていきます! ドラゴンに丸呑みに!」

 

「落ち着いてください! 牙なんて生えていませんよ!」

 

 私が座る位置の下の方で、アリスが混乱したかのように叫び声を上げる。が、コトリがなんとかなだめて落ち着かせた。

 そして、アリスの頭部がマシンの筒の中に収められたところで、スキャンが始まった。

 

「おっ、ちゃんとスキャンできてますね!」

 

 解析マシンに繋がったディスプレイに表示される各種データと、スキャンで判明した体内の構造図を確認したセミナーのコユキが、面白そうに笑った。

 一方、ヴェリタスのコタマ先輩も解析マシンに繋がるキーボードを操作して何かを確認している。

 

「頭脳部を発見。内部プログラムを解析します」

 

 どうやら、解析は問題なく進んでいるようだ。ミレニアムとアークスの技術の組み合わせで実現したこの解析マシン、思った以上に高性能だな!

 

 そうしてアリスの内部を丸裸にしていくことしばし。

 コトリとやりとりをしていたアリスが、突然、会話を中断した。そして、いつものアリスとは違う声色で、彼女は小さく声を放った。

 

「――非常事態を感知しました。強制起動します」

 

 その次の瞬間、解析マシンのモニターを見ていたウタハ部長、コタマ先輩、コユキの表情が変わった。

 

「データに異変あり!」

 

「これは……多分、スキャンにセキュリティプログラムの類が反応しましたね」

 

「にはは、面白くなってきましたねー」

 

 解析マシン担当の三人が、忙しく手元を動かし解析を急ぐ。

 その最中にも、アリスの冷たい声が彼女の口から放たれ続ける

 

「……コードネーム『AL-1S』起動完了」

 

 今のアリスは、明らかに本来のアリスではない。表層人格が引っ込んで、裏の人格が姿を見せたのか。アンドロイドとして考えると、メインとなる対話用AIが、緊急用のサブAIに入れ替わったような状態だろうか。

 

 その裏の人格が、寝台に横たわったまま告げる。

 

「不正な接続を確認。切断処理を開始します」

 

「!?」

 

 スキャンを拒否しようとしているのだろうか。解析マシンを操作している三人に緊張が走る。

 そんな彼女達を周囲の私達はじっと見守った。

 ふと、私はリオ会長の方に目を向ける。すると、彼女はグッと拳をにぎって、何かに耐えているような様子がうかがえた。

 

 下手をすると『名もなき神々の王女』がここで完全に動作して、キヴォトスが滅びるかもしれない。その可能性は、ゼロではないのだ。そのときは、アリスを会長から庇った責任を取って、私自らアリスのヘイローを破壊する覚悟を決める必要があるだろうね。

 でも、私は信じているのだ。解析マシンを操作する三人を。そして……解析マシンを作り上げたエンジニア部とアークスの技術力を!

 

「……不正な接続を切断できません。対象の正体不明」

 

 そんなアリスの別人格の声が、解析マシンの筒の中から聞こえた。

 

「ふふふ、こんなこともあろうかと!」

 

 寝台の横でアリスをじっと見守っていたコトリが、そう言って笑った。

 

「フォトンのエネルギーで動くマシンを用意した甲斐があった」

 

 解析班の三人とは別に、解析マシンの動作をモニターしていたヒビキも笑う。

 

「フォトンは別次元からもたらされた未知の粒子……キヴォトスの古代文明といえど、そうやすやすと逆解析はできないだろうさ」

 

 手元を忙しそうに動かしながら、ウタハ部長が不敵な笑顔で言う。

 

 そう、この解析マシンはキヴォトスには存在しないアークスの技術が使われている。

 言ってしまえば、キヴォトスの古代文明の遺産であるアリスとは、規格が違う。

 解析マシンにはその規格の違いを修正する仕組みが組まれているが……解析マシンの情報を事前に渡されなかったアリスが規格の違いを即座に乗り越えることはできないのだ。

 

「ふっ、勝ちましたね」

 

 そう、コユキがニヤリと笑って言った。いや、今やっているのは解析作業だから、勝ち負けは完全に解析を終えてから宣言してほしいのだけど。

 そう思ったときのこと。アリスがまた何かを口走る。

 

「緊急事態を確認。追従者(Divi:Sion)を呼び出し、『アトラ・ハシースの箱舟』プロセスを実行――」

 

「ぎゃー、なんか怪しいプロセスが走ったー!」

 

 モニターで何か異変を見つけたのか、コユキが悲鳴を上げる。

 ええと、ディビジョンって、あの触手ロボットだよね。それを呼び出そうとしている? ここは旧校舎だから、一般生徒が襲撃に巻き込まれることはないが。

 一方、なんちゃらの箱舟はなんのことか分からない。

 

「……まずいわね」

 

 リオ会長が、ポツリとそんなことを呟いた。そして、小さな声で言葉を続ける。

 

「こうなったらもう、アリスのヘイローを壊すしか――」

 

「ふう、ようやく中枢部を捉えました。現在、表で走っているメインプロセスを強制終了します」

 

 会長が物騒な言葉を口にしようとした瞬間、コタマ先輩がそんなことを言った。

 すると、次の瞬間、アリスの口からいつもの声が響いた。

 

「わわっ、やっと戻れました! 闇堕ち寸前でした!」

 

 どうやら、訪れようとしていた謎の緊急事態は回避されたらしい。アリスは裏人格から表人格へと戻り、解析マシンの筒に頭を入れながら、わーわーと騒ぎ出した。

 一方、解析マシンを操作している三人は、アリスの言葉を無視してなにやら話し合いを始めた。

 

「これ、AIみたいですけど、削除します?」

 

 と、コユキ。

 

「とりあえず隔離しておこうか。二度と戻せない形で削除して、アリスの人格に悪影響が出たら困る」

 

 と、ウタハ部長。

 

「ネットワークにつながるマシンにAIを移すのは危険です。マシンを乗っ取られて、そこから何をしでかすか分からない」

 

 と、コタマ先輩。

 

「ああ、それならアリスのエグに移しておこう。特殊な工具を用いて外装を外して有線接続しないと、ネットワークにつなげないようにしてあるからね。アップデートは基本的にカードを差し込んで行なうんだ」

 

「なぜ、そんな不便な仕様に……?」

 

 ウタハ部長の提案と説明に、コタマ先輩が不思議そうに問い返す。

 

「ヴェリタスが、市販されたエグにハッキングを仕掛けないようにだよ。エグを購入した顧客の盗聴被害を防ぐためには、必要な措置だよ」

 

「ヴェリタス、信用されていないですね!」

 

「ヴェリタスがというか、盗聴癖のある君がというか……」

 

 そんな会話をしながらも、ウタハ部長はコトリからアリスのエグを受け取り、外装を外して内部の接続端子をむき出しにする。

 そして、大会議室内に用意されていた道具の中からケーブルをヒビキに持ってこさせ、エグを解析マシンに接続した。

 

「じゃあ、その可愛いマシンにAIを転送しますねー」

 

 コユキがそう宣言し、エグの内部に謎のAIが隔離された。

 すると、エグに搭載されている鳴き声用スピーカーから声が響く。

 

『正体不明の機体への隔離を確認……機体の動力源を解析できません』

 

 エグも、フォトンを変換して作られるキヴォトスには存在していなかったエネルギーで動いているからなぁ。AIが困惑しているよ。

 そして、ウタハ部長はエグの外装をもとに戻し、接続端子を外部から隠した。

 これで、誰かがわざとエグをいじらない限り、中に入ったAIが外部と通信をすることは不可能になる。エグに電波やエーテル等の無線通信機能なんて搭載していないからね。

 

「まさか、本当に『名もなき神々の王女』を無害化してしまうだなんて……」

 

 リオ会長が、いつもの冷たい表情とは違う、驚きを含ませた表情でそんな言葉を発した。

 うん、本当は解析だけで済ませるつもりだったのに、アリスを闇堕ちさせる原因らしきプログラムを排除できてしまった。

 棚ぼたってやつかな。思わぬ成果である。

 

 それから改めて、他の危ない何かがアリスの内部にないかの解析をすることになった。

 その最中に『ATRAHASIS』なる謎のプログラムを発見したようだ。しかし、リオ会長が解析マシンに残された『ATRAHASIS』の解析データを即座に破棄しろと、三人に迫った。なにやら、その『ATRAHASIS』が、世界に終焉をもたらす危険な『災禍』の一つらしい。

 

 しかし三人は、エグに移されたAIがこのプログラムのトリガーになっているので、そこまで危険視するほどではないと反論。むしろ、このプログラムを解析してアンチプログラムを用意すべきだと主張した。

 それから話し合いは続き、やがて『触らぬ神に祟りなし』という結論に落ち着いた。相手は『名もなき神々の王女』だからね。

 リオ会長は、誤作動でその『ATRAHASIS』なるプログラムを起動してしまうことや、そのプログラムの情報が外部に漏れることの危険性を熱心に主張していた。

 

 そうして、リオ会長が解析マシンの担当三人を説得する形で終わりそうになったのだが……そこで不意に、大会議室の扉が開いて話は中断されることになった。

 扉の向こうからやってきた存在。それは、C&Cのメンバーだ。

 メイド服を着た四人のエージェント。前回の話し合いの場にいたのに、なぜかこの場にいなかったから不思議に思っていたが……。

 その四人は、何やらお客さんを一人連れてきたようだ。見覚えのない白髪の少女が自走車椅子に乗って、こちらへと進んできた。

 

「皆さん、ずいぶんと楽しそうなことをしていますね」

 

 そう言葉を告げた車椅子の少女は、はかなげに微笑んだ。

 

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