【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在 作:Leni
車椅子の少女は、微笑みを浮かべて解析マシンに近づいてくる。
すると、会長はそんな彼女を見て眉をひそめた。
「ヒマリ……要塞都市に捕らえていたはず……」
要塞都市……? 捕らえる……? なんかいきなり物騒な話になってきたぞ。
すると、その会長の言葉に答えたのは、車椅子の少女ではなくユウカ会計だった。
「その件ですけど、ヒマリ部長はセミナーからC&Cに依頼して、救出させていただきました。正統な理由のないミレニアム生の監禁、後で問題にしますからね!」
「……そう。そこまで調べていたのね」
「ええ、要塞都市の建築や、その建築費の捻出方法まで、全て」
そんなユウカ会計とリオ会長の剣呑なやりとりをよそに、車椅子の少女は解析マシンの横まで辿り付いた。
「まったく、病弱天才美少女には辛い環境でした。コタマ、これまでの経緯はチーちゃんから聞いています。アリスの中にあったAIを隔離したのですね?」
「はい、部長。あれです」
コタマ先輩が、コトリに再び引き渡されたエグの方を指さす。
なるほどなるほど? コタマ先輩が部長と呼ぶ存在。つまり、彼女がヴェリタスの部長である
……全知、全知かぁ。PSO2の元プレイヤーからすると、尻部分に大きく『全知』と書かれている男性用下着が頭に思い浮かぶんだよなぁ。PSO2の大人気キャラクターであるルーサーに関連する、前世の公式コラボ商品の一つだ*1。
まあそんな個人の事情はさておいて。
ヒマリ部長は、改めて私達に挨拶をした。
「はじめましての方が何人かいらっしゃいますね。私の名前はヒマリ。そこにいるセミナーの会長に監禁されていた、病弱天才美少女ハッカーです」
さっきも言ってたけど、自分で天才とか美少女とか言っているぞこの人! アクが強い!
「このミレニアムサイエンススクールでは、ヴェリタスの部長と、発足したばかりの特異現象捜査部の部長を兼任しています。どうぞよろしく」
特異現象捜査部? 初めて聞く部活だ。オカルト研究会の類だろうか。
私がそう思ったところ、ヒマリ部長はその特異現象捜査部についての説明を始めた。
「特異現象捜査部とは、キヴォトスの現代文明や科学力で解明しがたいとされる現象を追跡・研究することを目的とした、セミナー傘下の部活です」
セミナー傘下と聞いて、周囲の目がリオ会長の方へ向くが、会長は無言を貫いている。
「特異現象捜査部の研究例として、そうですね。古代文明の遺産、『Divi:Sion』の手勢である『無名の守護者』、そしてそれらを支配する『名もなき神々の王女』なども研究対象です」
今度は、解析マシンに頭が収まったままのアリスが周囲の注目を浴びる。
すると、アリスは寝台に横たわったまま、声を上げた。
「アリスの正体を知っているのですか!?」
「ええ、知っています。ですが、『名もなき神々の王女』に関しては、リオの方が詳しいですよ」
なるほど。確かに会長はアリスの正体に詳しいからこそ、彼女を脅威に感じて排除しようとしたわけだからね。
そんなヒマリ部長の答えを聞いて、ヴェリタスのコタマ先輩が部長に尋ねた。
「部長、あるいは会長でもかまいません。アリスについて詳しいなら聞きたいのですけれど……私達が隔離したプログラムの正体は、一体なんだったのですか?」
その問いに、会長は「ヒマリに任せるわ」とパスする。
「あら、詳しいのはリオの方と言いましたのに。では、説明しましょうか」
そう言いながら、ヒマリ部長は車椅子を運転し、コトリの横で宙をただようエグを捕獲した。
「この子の名前は<Key>。そのまま『鍵』を意味する名前です」
キー。鍵、か。何かの鍵になっていることを意味しているのかな?
先ほど、解析マシンの操作者三人とリオ会長が、『ATRAHASIS』とかいう危険なプログラムのトリガーになっているとか話していたし。
「何を開ける鍵かと言いますと……そうですね。古代キヴォトスには、『無名の司祭』という『名もなき神』を崇拝する危険な存在がいたそうです。<Key>は、その無名の司祭の『オーパーツ』、大雑把に言えば古代の遺産を稼働させるためのトリガーAIです」
古代の遺産を稼働させるトリガー、か。その古代の遺産というのが、ディビジョンであり、『ATRAHASIS』というわけだね。
うーん、古代文明に世界を滅ぼすような兵器が存在した、か。改めて言われると、ファンタジー創作ではよく見る設定だなぁ。
私がとりとめもなくそんなことを考えていると、ヒマリ部長はエグを手に持ったまま、解析マシンの寝台に横たわるアリスのところへ移動した。
「<Key>はAIです。これがどういう意味を持つか分かりますか、アリス」
「えっ、うーん……アリスには分からないです……」
アリスに話しかけ、そんな回答をもらったヒマリ部長は、「ふふっ」と小さく笑った。そして、答えを告げる。
「AI。つまり……対話が可能です」
そう言ってヒマリ部長は、お腹の上で手を組んでいるアリスの上にエグを解き放った。
「アリス、<Key>にたくさん話しかけてあげてください」
「話しかける……。アリス、『はなす』のコマンドは得意です!」
「それはよかった。あなたがゲーム開発部の人達と対話して、今の人格を形作ったように……<Key>にも、人の世界を教えてあげてください」
解析マシンの上に座る私から見たヒマリ部長は、綺麗な笑顔を浮かべていた。
「そうすれば、<Key>は『無名の司祭』の命令をただ闇雲に実行するだけの、機械的な存在から変化するでしょう」
「……アリス、分かっちゃいました! <Key>は、アリスの新しいパーティーメンバーなのですね!」
「ええ、そうです。見習い勇者を導く可愛い妖精さんですね」
アリスとそう言葉を交わしたヒマリ部長は「ふふふ」と笑って、解析マシンの寝台の横から移動し、コタマ先輩の近くへと移動した。
「私からの話は以上です。解析作業の最中だったのですよね? 美少女天才ハッカーの私も協力しますよ」
ヒマリ部長はそう言って話を締めた。
それからアリスの解析作業は再開された。内部を調査すると言うよりは、<Key>をアリスの中から取りだしてしまって、動作に異変はないかのチェックを主にしていた。
ただ、どうやら<Key>は、最初からアリスの中にいたわけではなかったらしい。
<Key>の正体は、アリスを発見したミレニアムの郊外にある廃墟にあったコンピュータから、ゲーム開発部のモモイが持ち出したプログラムだったそうだ。なんでも、コンピュータの電源が落ちそうになった瞬間に、モモイが持っていたゲーム機のメモリーカードに無理やり移ってきたらしい。
そんな当事者のモモイは、解析マシンの横にゲーム開発部のミドリとユズの三人で集まって、上半身をマシンに突っ込んだアリスと言葉を交わしていた。
「じゃあ、せっかくだからこのAIに名前をつけてあげようよ!」
モモイがゲーム開発部のみんなに、唐突にそんな提案をした。
「名前? <Key>っていうのが名前でしょ?」
ミドリが呆れたようにそう返すが、モモイは取り合わない。
「『鍵』なんてそのまんまの名前じゃ駄目!」
<Key>というのが役割の名称なら、個体名を別個につけるのは悪くないとは私も思う。
「『AL-1S』がアリスなんだから……<Key>はケイだね! ハイ決定!」
「お姉ちゃん……一方的すぎるよ」
ミドリがモモイの決定に意を唱える。一方、アリスの反応はというと……。
「ケイがいいです。アリスはこの子をケイと呼ぶことにします」
頭を解析マシンに突っ込んだままのアリスが、嬉しそうな声音でそう言った。
すると、アリスの腹の上で浮くエグが、音声を発した。
『理解不能……個体名を変更する必要性を見いだせません』
「パンパカパーン! ケイが仲間になった! ゲーム開発部に帰ったら、まずは一緒に『テイルズ・サガ・クロニクル』をプレイしましょう!」
アリスが本当に嬉しそうにそんなことを言った。
いやいやいや、さすがにそれはやめたげて! 2ならともかくTSCの1は、劇物だぞ!
◆◇◆◇◆
アリスの解析が無事に終わった数日後。
私はセミナーの執務室に呼ばれていた。呼んだ相手はユウカ会計。なんでも、リオ会長のやらかしを追究する場を作りたいので、用心棒として私を配置しておきたいとのことだ。
やらかしがあまりにも大きく、場合によっては会長を
……いや、ミレニアム最大の暴力装置って、この前の取り扱い危険物発言といい、ユウカ会計は私をなんだと思っているのか。そこはC&Cがいるでしょ!
って、ああ、C&Cはセミナーの傘下だが、会長の傘下でもあるのか。そこでユウカ会計は、シャーレを通じて個人的な付き合いのある私を呼んだということかな。
まあ、頼まれたからには仕方ない。私は素直に執務室に入って、セミナーの会議の行方を見守ることにした。
「さて、事の発端は、『ゴールデンフリース号事件』までさかのぼるわ」
ユウカ会計のその言葉に、私は早速、はてなマークが頭の上に浮かんでくるような気持ちになった。なにその事件。
すると、ユウカ会計はその事件の説明をちゃんとしてくれた。ほっ。
「この事件は、元セミナーメンバーのコユキがミレニアムの資金を横領して、豪華クルーズ船『ゴールデンフリース号』のカジノで豪遊したというものなのだけど……」
なるほど。あ、この前、解析マシンの操作を担当していたコユキって、現在はセミナーメンバーじゃなかったんだ。まあ、横領をしでかしたならそうだね。
「実はそのコユキの横領に便乗して、リオ会長も資金を大量に横領していたの」
……駄目じゃん。やらかしって、そこまでのレベルかいな。一発で免職だわ。
「それで、会長がその資金を何に使ったというと……これよ」
執務室に用意されていた大型モニターに、映像が映る。それは……巨大な未来都市だった。
「新都市エリドゥ。会長は、よりにもよって都市を丸ごと一つ建ててしまったの」
話の規模がデカいなー。いくらキヴォトスの建築技術がエーテル地球よりはるかに優れているからって、横領資金で都市丸ごと一つ作るか?
「では、会長。なぜこの都市を作ったのか、しっかり説明してください」
ユウカ会計に言われ、リオ会長は一瞬目を伏せ、そして真っ直ぐ前へと向き直して言葉を放った。
「エリドゥは、ミレニアムの脅威……いえ、キヴォトスの脅威に対抗するために建設した要塞都市よ」
要塞都市。……要塞? この現代に都市を要塞化したの? 発想が中世過ぎない?
そんな疑問が湧いてしまうリオ会長の主張に、ユウカ会計が質問を返す。
「キヴォトスの脅威……それは『名もなき神々の王女』と認識しても?」
「そうね。エリドゥの中央タワーには、都市全体から集めた電力を使って、アリスのヘイローを破壊する装置が用意してあった」
アリスを殺すための都市、か。先日、リオ会長がアリスを襲撃した事件があったけど、アリスを捕縛した後は、ここに連れていくつもりだったのか。
私はそう納得したのだが、ユウカ会計は納得していないようだった。
「待ってください。アリスのヘイローを破壊するだけなら、広大な敷地に要塞を建てる必要はないはず。それこそ、発電所とタワーだけで十分では。会長はこの要塞でどんな敵と戦うことを想定していたんですか」
ああ、なるほど。普通に考えると要塞は、防衛戦をするために存在する。
アリスを殺すだけなら、防衛というアプローチは不正解のはずだ。ありえるとしたら、ヘイローの破壊に危機を抱いた<Key>が、ディビジョンなるロボット軍団を呼び寄せるような事態かな? それなら要塞を作る理由にもなるね。
と、考えたのだが、会長から告げられたのは予想もしていない事実だった。
「確かに、ミレニアムにとっての最大の『災禍』は『名もなき神々の王女』だった。でも、キヴォトスには他にも『災禍』が存在する」
会長がキヴォトスを破滅させると語った『災禍』。それは、一つではないと会長は語った。
「たとえば外からやってくる侵略者『色彩』。そして……神性を探求する者『デカグラマトン』」
「デカ……何?」
私は思わずそんな言葉をもらしていた。
いや、ちょっと長い横文字が覚えきれなくて……。
「デカグラマトンよ。キヴォトスのどこかに存在する謎のAIで、複数の機械兵器『預言者』を従えている」
会長は、私の方を向きながらそんな説明を始めた。
「そうね、『エーテルフォトニクス社』の社長であるあなたに分かりやすくいうと……アビドス砂漠に潜伏して何十年も破壊活動を続け、アビドス高等学校を廃校寸前まで追い詰めた原因の一つが『預言者』の一体、『ビナー』よ」
「!?」
アビドスの廃校の原因! そりゃまた、アビドス自治区に本社を置く社長の私にとっても、悪い意味で重要な存在じゃないか。
「ちなみにそのビナーを現在、ヒマリと安藤先生に調査させているわ。特異現象捜査部として」
会長のその言葉に、ユウカ会計が反応する。
「会長直属の正体不明の部活だと先日まで思っていましたけど、名前だけではなくてちゃんとした活動をしていたんですね……」
なるほど。リオ会長は、ずっと備えていたわけだ。
キヴォトスを滅ぼしうる『災禍』とやらに。横領は、それを実現するための手段だと。
その事実を知って、ユウカ会計やノア書記達セミナーメンバーは、会長の処遇をどう決めるのか。
私は部外者なので、ただその結果を見ていよう。そう思ったときのことだ。執務室に、ノックの音が響いた。
「……『会議中につき立ち入り禁止』の札を下げていたのだけれどね」
ユウカ会計が、話を中断されてため息をついた。
すると、返事をする前にドアが開き、執務室に見慣れた顔の者達が姿を見せた。
ついさっき話題になった安藤先生と、特異現象捜査部のヒマリ部長だ。
「"失礼するよ"」
「先生でしたか。今、重要な会議中なのですが……」
ユウカ会計が渋い顔をするが、それをものともせずヒマリ部長は、執務室の中央まで車椅子に乗って移動してきた。それを追うように先生も室内に入ってくる。
「デカグラマトンの調査結果の中間報告をしにきましたよ」
「……重要な会議中です。書面やデータでの提出ではいけないのですか?」
ユウカ会計が再度言うが、それに対するヒマリ部長と先生も笑みを浮かべるでもなく真剣な顔をしていた。
そして、執務室の中央で車椅子に座ったままヒマリ部長が、素早く室内を見回す。
うーん、これはなにかあったな?
「では、要件だけ言います」
ユウカ会計は私を一瞬見て、それからモニターに映った要塞都市に目を留め、そして告げる。
「デカグラマトンから宣戦布告を受けました。デカグラマトンが『預言者』を率いて、先生を狙ってきます。撃退の準備を」
……こりゃまた、ドエラいことになってきたぞ。