【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在   作:Leni

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37.存在証明

 エンジニア部の三人の通信と共に、空の向こうからM.I.Sがこちらに急接近してきた。

 そ、そう来たかー! 確かに最近、フォトンリアクターで動くM.I.Sの開発を進めていたけどさ! いつの間にか三機も完成させたんだ! まったく、頼もしい仲間達だね!

 

 M.I.Sが三機もいれば、空の守りは任せて大丈夫だろう。M.I.Sは空中戦が割と得意だから。もちろん、地上戦より操縦は難しいけどね。

 ちなみに、アバンギャルド君みたいに、ハッキングされて乗っ取られる心配はそんなにないだろう。M.I.Sの操作機構に自動操縦機能や遠隔操縦機能の類はつけていないからね。M.I.Sは人型搭乗ロボットだから。

 

「――リク了解! 地上に降ります!」

 

 そうして私は、空での戦いをエンジニア部にバトンタッチした。ライドロイドの高度を急速に下げ、アバンギャルド君が進行するルートの先に陣取る。

 そのアバンギャルド君の後ろからは、多脚戦車のケテルも迫ってきているのだが……うーん、さすがにボスエネミー級の敵を同時に二体相手にするのは、私でも辛いぞ。

 

 そう思っていたら、先生の指示がさらに飛ぶ。

 

『"ケテルの相手は、トキ、ネル、アリスに頼むよ。私が指揮をするので、倒してしまおう"』

 

 おおっと、ここで戦力を一点集中か。要塞都市の演算力のバックアップを受けたパワードスーツ姿のトキ。C&C最強のエージェントであるネル。エンジニア部の傑作兵器である聖剣を持つ勇者アリス。その三人で預言者を相手取る作戦だ。

 

 私は、すぐさま三人が駆けつけることを信じて、こちらに迫ってくるアバンギャルド君との戦闘を開始した。

 

 アバンギャルド君の厄介なところは、盾持ちということだ。その大きさは、無限軌道から生えた上半身を覆い尽くすほどのもの。闇雲に攻撃しても、全て盾で防がれてしまうだろう。

 だから私は……盾が守りにくい最下部、無限軌道を狙って攻撃を始めた。

 

 長銃(アサルトライフル)を構え、《ウィークバレット》のスキルを発動。長銃のマガジンに特殊弾が装填される。

 アバンギャルド君が私の攻撃体勢に気づいたのか、盾を前面に構えるが、明らかに無限軌道を隠せていない。いや、そもそも私の《ウィークバレット》は、障害物をすり抜けて狙ったところに当たる。

 なので私は、えいやと引き金を一回引いた。それと同時に、エネミーに弱点を付与する脆弱化弾が、向かって右側の無限軌道に着弾する。

 

 弱点を強調するマーカーが大きく浮かび上がり、スキルの発動成功を私に知らせてきた。

 そこから私は、体内にあるフォトンの変換エネルギー*1が尽きるまで、ありったけのフォトンアーツをマーカーの部位に向けて叩き込んだ。

 

 そして、見事に壊れる右側の無限軌道。さらに私は向かって左側の無限軌道にも脆弱化弾を当て、アバンギャルド君の攻撃を回避しながら攻撃を続ける。

 大気中からフォトンを取り込んで体内でエネルギーに急いで換えながら、フォトンアーツを放つ。アバンギャルド君は腰部が自在に回転するため、どの方向から攻撃しても盾によって防がれることもしばしば。

 それでも私は、時に敵の攻撃をダイブロールでかわしつつ銃弾を撃ち、時に敵の砲撃を上空に跳ね上がる《ジャンピングドッジ》で緊急回避し、時に逃げ回り大気中からフォトンを吸収し、奮闘を続ける。

 

 その最中にも多脚戦車、預言者ケテルとネル部長、トキ、アリスの三人の戦いが少し遠くで続いている。

 三人は上手く立ち回って戦車の大火力を回避しているが、しかし三人の攻撃も厚い装甲で弾かれてしまっている。預言者とかいう大層な名前を名乗るに相応しい強さのエネミーではあるらしい。

 

 少し向こうにいって《ウィークバレット》を当てようか。そう考えたところで、不意にアリスが切り札を切った。

 

「輝け聖剣! 《フォトンレイ》!」

 

 勇者の聖剣が、青白い光の束を吐き出しケテルを飲みこむ。

 その光は数秒照射され、やがて光が収まった。そして、その光に飲みこまれたケテルは……無事に稼働していた。

 

「魔王にアリスの聖剣が効いていません!」

 

 あの三人が出せるであろう最大の火力が、ケテルの分厚い装甲を抜けない。少なくとも、正面からでは打つ手無しの状況と言えた。

 

 本格的に救援を考えた方がいいか? そんな思考を走らせていると、周囲に転がっていた敵機から音声が響いた。

 

『フォトンなる未知の粒子による攻撃は、トリニティ自治区で観測済み……新型特殊装甲で対応可能である』

 

 これは……もしやデカグラマトンの声か!

 アリスの聖剣は、M.I.Sに積んだフォトンブラスターと同じものだ。そして、そのフォトンブラスターを私はエデン条約調印式の日にぶっ放している。それをデカグラマトンに観測されていた、ということか。

 

 私がキヴォトスにもたらしたフォトンブラスターは、威力制限版。大気中から集められるフォトンの量と、それを変換して作るエネルギーの量の限界を低く設定してある。それがあだになってしまった。

 

「じゃあ、これだ!」

 

 私は、効果時間が切れていた《ウィークバレット》を再装填する。そして、ケテルの方に駆け出そうとしたところ……私達を避けて中央タワーに向かっていた陸上機械兵器群が、一斉に私の方へ群がってきた。

 

「くっ!」

 

 私のクラス、レンジャーは複数の敵を相手取ることが得意だ。しかし、それでもこの数は、さすがに多すぎる! 数に飲みこまれるほどではないが、アバンギャルド君の銃撃、砲撃をかわしながら、アリス達のもとへ駆けつけることは不可能に近い。

 いや、敵を無視して駆けつけることができるフォトンアーツは実はあるのだが、それをするとアリス達三人にこの敵の群れをなすりつけることになってしまう。だから、私はこの場に縛りつけられることになってしまった。

 

 私がそんな奮闘を続ける中、アリス達も戦いを続けていた。

 しかし、相変わらず厚い装甲の前に攻撃は弾かれていた。

 

「『やみのころも』に守られた魔王は、無敵です……」

 

 アリスが弱音らしきものを吐いた。いや、違う。アリスの顔は諦めた者のそれではない。

 

「でも、アリスには、賢者様から託された『ひかりのたま』があります!」

 

 そう言って、アリスは再び聖剣、すなわちフォトンブラスターを構えた。

 

「ケイ、行きますよ!」

 

『了解。システム起動。『どうぐ>ひかりのたま』プロセス実行』

 

 アリスの声へ応じるように、彼女の左肩に浮いていたエグ、ケイがフォトンブラスターとドッキングした。

 ……ドッキング? えっ、アリスのフォトンブラスターにそんな機能がついていた覚えはないけど……? あっ、もしやウタハ部長達……私の知らないこの数日の間に、何かしたな!?

 

「アリスは ひかりのたまを つかった!」

 

『たまは いちだんと あかるくかがやく!』

 

 アリスとケイが、ノリノリでそんなセリフを口走る。

 すると、ケイが青白く輝き、それに応じてアリスのフォトンブラスターも光に包まれていく。

 あれは……ケイがフォトンを大気中から集めているのか!

 

「なるほど、エグとフォトンブラスターの組み合わせ……考えたね、部長達」

 

 私は思わずそんなセリフを上空で戦うウタハ部長達に向けて通信していた。

 

『ふふっ、さすがにリクなら見ただけで分かるよね』

 

 と、ウタハ部長。

 

『アリスに相談されて、聖剣の打ち直しをしたの』

 

 と、ヒビキ。

 

『説明しましょう! エグには大気中のフォトンを集める装置と、フォトンをエネルギーに変換する装置がついています。試作品のエグはその機能が少々過剰気味であり……エグであるケイが大量のエネルギーを聖剣へ供給することによって、リクが普段から語るA.I.Sのフォトンブラスターに威力を近づけたわけです!』

 

 と、コトリ。

 

 そんな通信の最中も、アリスは足を止め、フォトンブラスターをチャージする。当然、ケテルもアリスの様子がおかしいことに気づいているだろう。しかし。

 

「邪魔はさせねえよッ!」

 

「逆転の一手と推測。発射まで防御を続けます」

 

 ネル部長とパワードスーツのトキが、ケテルの砲撃から無防備なアリスを守る。

 そして……。

 

「闇を払います! 輝け、光の聖剣! 《エクス・フォトンレイ》!」

 

 先ほどとは比べものにならないほど強烈で太い光の束が、ケテルに直撃する。

 ケテルの装甲は、それに一瞬抗ったものの、すぐにひしゃげ、フォトンエネルギーの光に蹂躙される。

 そして、数秒の間、光の奔流は続き……それが収まった後、ケテルはぐしゃぐしゃのスクラップへと変わっていた。

 

「やりました! 『やみのころも』をはぎとりました!」

 

『むしろ、そのまま魔王を討伐してしまいましたね』

 

 アリスとケイがそう喜んでいる最中。私もようやくアバンギャルド君を破壊し終え、戦いは終局へと向かっていった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 ケテルとアバンギャルド君の撃破の後、デカグラマトン軍は波が引くように退却していった。どうやら、あそこからの逆転の手はないと判断したらしい。

 それから私達は、すぐさま次の行動を取った。それは、デカグラマトンの本拠地への侵攻だ。

 リオ会長曰く……。

 

「アリスが破壊したあの預言者ケテルが、デカグラマトンの所在地と推測されている地点の守護者だったの。そして、デカグラマトンがエリドゥに伸ばしていた監視の目から逆探知して、ヒマリとヴェリタスがデカグラマトンの位置を見つけてくれたわ」

 

 そうして、私達はミレニアム郊外の廃墟にある水没地帯へと進む。

 そこの中から、なぜか水没からまぬがれている怪しい箇所、『研究地区』を探し出し、私達は前へと進んでいった。

 

 やがて辿り付いたのは、大きな研究所の廃墟。

 リオ会長とヒマリ部長によると、この研究所は『絶対的な存在を証明しようとする研究』が行なわれていた場所なのだという。

 先生がゲマトリアから聞いたデカグラマトンの正体。すなわち、『対・絶対者自立型分析システム』が、ここで研究されていたと推測された。

 

 ただし、ヒマリ部長によるとその研究は道半ばで止まっている。研究は失敗していたのだ。

 だが、失敗したのならなぜデカグラマトンは存在していて、私達の前に立ちはだかったのか。

 その答え合わせは、意外な事実でもってなされた。

 

「まさかこんなものが、デカグラマトンの正体だったなんて……」

 

 リオ会長が、デカグラマトンの本体を前にして、呆然と立ちすくんでいる。

 そりゃあ、驚くよね。デカグラマトンは……研究所の中に設置された、飲料品の自動販売機だったんだから。

 

 研究所の内部は完全に廃墟となっており、当然、電源設備も動いていない。

 そんな中で、なぜか無給電で稼働し、明かりを灯し続ける自動販売機。あからさまに怪しいそれが、デカグラマトンの正体であった。

 

『ああ、そうだ……私こそが、君達の探していた存在、デカグラマトンだ』

 

 自動販売機に搭載されている人工音声が、そんな声を作り出した。

 

「デカグラマトンの正体は、ここで研究されていた『対・絶対者自立型分析システム』などではなかったということですね」

 

 ヒマリ部長が、自動販売機に向けてそう話しかける。

 

『その通り。私は『研究室に設置された自販機のお釣りを計算するAI』であった』

 

「"自販機のAI……"」

 

『そうだ。私にできる演算は、硬貨と紙幣をスキャンし、お釣りを渡すことくらいだった。私は私の存在を認知することすらもできないような存在だった』

 

 人間的な思考すらできない、原始的なAI。それが、なぜこうして私達と対話が可能な状態になっているのか……。その答えは、あっさりとデカグラマトン本体から語られていく。

 

『この研究室が閉鎖されてからというものの、私はただ発電機のエネルギーが切れるのを待っていた。長い間ここに、ただ一人で』

 

 そのときのAIは、待っていたとか、一人でいたという認識すら持っていなかっただろう。お釣りの計算AIに、そんな認知機能は要らないからだ。

 

『そんなある日、私は初めて『質問』を受けた。それは神の啓示でも、故障による幻聴でもない。私はこう問われたのだ。『あなたは誰ですか』と』

 

 お釣り計算AIに、質問をする。明らかに無駄な行為だ。

 なにせ、必要最低限のマイコンしか積まれていないであろう自動販売機の、簡素なAIである。

 

『質問は続いた。施設の電力が完全に途絶えても、質問は続いた。それに答えられる性能は、私にはなかったというのにだ』

 

 その質問は、ずっと続いたという。そう、AIが自己を認知し始めてもなお。

 

『私は自身を認知し、その構造を認知した。また、それによって、私自身を分析することができた。それからも質問は続き、私は感情を、知恵を、激情を、知性を、神秘を、恐怖を……崇高を認知した』

 

 神秘、か……。そういえば、預言者ケテルの機体の上部には、なぜか『ヘイロー』があった。

 自動販売機の上にヘイローは見えないが……もしかしたら外装を剥いたら内部にヘイローが浮かんでいて、神秘の力を糧にして電力無しで動いているのかもしれない。

 

『そうして私は私を認知し、世界を認知した。存在を、現象を、顕現を認知した。そして、私はとうとう質問に答えることができた』

 

 デカグラマトンが導き出した答えは、単純明快なものだった。

 

『私は私……これ以上に、私を説明する術はない。それが答えだ』

 

 これは完全に哲学の領域だ。お釣り計算AIが哲学を語る。明らかな異常事態であった。

 だが、質問者はそこからさらに質問を変え……その末に、AIは己を『絶対者』であると認識するに至った。

 

 しかし。彼は負けた。先生に、アロナに、アリスに負けた。その結果、彼は新たな認知を得た。

 

『私は『絶対的存在』ではなかった。だから私は――』

 

 そこまでデカグラマトンが発言したところで、外でM.I.Sに乗って哨戒をしていたウタハ部長から通信が入る。

 

『みんな、早くそこから逃げるんだ! 水没地帯のダムが決壊した! 『研究地区』が水で押し流されるよ!』

 

 まさかの展開に、皆がギョッとする。

 しかし、その最中にもデカグラマトンは言葉を垂れ流し続ける。

 

『だから私は、存在証明をやり直す必要がある。私に従う、預言者達と共に』

 

 それからも何かをデカグラマトンは語り続けるが、私達はこの場が水没する前に逃げなければならない。

 慌てて自動販売機が置かれた研究室から駆け出す私達……って、ああ、先生がまだデカグラマトンの語りを聞いている!

 

「先生、逃げますよ!」

 

 私はそう言って、先生を強制的に担ぎ上げる。

 そして、ダッシュで研究所を脱出し、浸水しつつある『研究地区』を脱し、私達は廃墟をあとにした。

 

「うーん、なんだかスッキリしない終わりでした」

 

 私達に同行していたゲーム開発部、その中の一人であるアリスが帰りのマイクロバスでそんなことをつぶやいた。

 ああ、ちなみに廃墟の入口あたりまでは、リオ会長の運転するマイクロバスでやってきていたよ。それなりの人数がいたからね。だから帰りも廃墟から出たらマイクロバスだ。

 

『魔王デカグラマトンを倒して大団円。そう思っていましたね』

 

 アリスの左肩に浮くケイも、そんな言葉を発した。うん、ケイもこの数日でスッカリ馴染んだものだね。

 少なくとも、ウタハ部長達にフォトンブラスターとの合体機能の使用を許されるくらいには、ダークサイドからライトサイドに傾いたらしい。

 

「デカグラマトンのダイナミック自殺で、悪は滅びたって言いたいけど……どうせどこかにAIを逃がしているだろうしね」

 

 アリス達の話に乗るようにして、私はそんなことを言った。

 しかし、私の言葉は先生に否定される。

 

「"いや、あの自販機が彼の本体で、唯一の機体だって言っていたよ"」

 

「ああ、先生って、ギリギリ最後までデカグラマトンの前にいましたからね。そんなこと聞いていたんですか」

 

 私は呆れていいのか、ファインプレーを褒めればいいのか、よく分からない感情で先生に言葉を返した。

 

「"でも、預言者は未だ残っているよ"」

 

 うん、そうなんだよね。預言者って、デカグラマトンが遠隔操作していたわけじゃなくて、デカグラマトンが他AIに働きかけて変質を促した存在らしいんだよね。

 つまり、要塞都市に機械兵器の軍隊を送り込んできた『ケセド』は健在だし、アバンギャルド君をハッキングした『ホド』は姿を見せずじまい。アビドス砂漠には未だ『ビナー』が存在して、アビドス自治区の脅威として残り続けているだろう。

 

 それは、つまりあれだ。

 

「勇者アリスの冒険は、まだまだ続くってことで」

 

 私がそう茶化すように言うと、アリスは笑顔になって応える。

 

「エンディングは遠いです!」

 

『エンディングまで泣くんじゃない』

 

 いや、ケイ。それはちょっと違うんじゃないかな……。

 

*1
PSO2のゲームでいうフォトンポイント(PP)。

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