【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在 作:Leni
38.悪意持つ概念
デカグラマトンの一件から、しばしの時が過ぎた。私は相変わらず社長業とエンジニア部の部員、シャーレの部員の三つを兼任して、忙しく動き回っていた。
つい最近のことだが、ようやくロボットペットのエグを正式に発売した。そして、初期出荷分が全て売り切れて慌てて増産の指示を出すなど、忙しさに嬉しい悲鳴をあげているところだ。
エグの外見バリエーションは数百用意して、さらに公式コラボで外見の変更カードも販売したので、新しもの好きの女学生を中心に流行が巻き起こった。エグの餌を確保するために、廃材を窃盗するなんて事件まで起きる始末。
そのため、慌てて安価なエグの餌セットを販売するため、材料の確保に東奔西走する羽目になった。
まあ、順調に会社の業務が回っているのはいいことだ。できれば、私が一人で回している社長としての仕事を肩代わりしてくれる、優秀な幹部を確保したいところなのだが……。アビドス自治区の社員の人達は、真面目で才能あふれる人材も多いのだけれど、フォトンやエーテル、そして機械工学全てに精通しつつ営業もできるなんてマルチタレントは、未だに発掘できない。
リオ会長とかユウカ会計とか、ミレニアムサイエンススクールを卒業したらうちの会社に入ってくれないかなぁ……。
なんて、仕事の話で頭を悩ませていたある日のこと。
朝起きて、スマホを確認したらとんでもないメッセージがモモトークに届いていた。
「……はあ? なんじゃこりゃ?」
メッセージの送り主は、昨日のシャーレ当番。メッセージの内容は……昨夜にとんでもない事件が起きて、それを一晩で解決したという報告だった。
事件の発端が、またひどい。なんでも、アリウスを恐怖で支配していたあのベアトリーチェが、ゲマトリアの手引きで逃げ出していたというのだ。せっかく豚箱に送り込んだ諸悪の根源が、野に解き放たれたという、厄介すぎる事件。しかし、それは序章に過ぎなかった。
ベアトリーチェは、予想通り悪事をしでかした。彼女は再びユスティナ聖徒会を復活させ、その軍勢を率いてトリニティ総合学園に合流していたアリウススクワッドを襲撃した。
そして、アリウススクワッドの姫、
先生がB級アクション映画……怪我をしていないといいが。
ちなみに、私は今朝、モモトークでこの事件を初めて知ったので、すでに事件は全て終わった後だ。
事件の間、私は寮の自室で寝ていたため、私が事件に関わるきっかけすら訪れなかった。……先生もせっかくなら私を呼んでよ! これでもゲヘナのヒナ委員長に並んで、シャーレの最大戦力の一人のつもりなのに!
そしてこの事件だが、最終的にゲマトリアがベアトリーチェを裏切って、先生に手を貸すことで解決に至ったみたいだ。……なんでそうなったのか、詳しく知りたいところ。
なので私は、朝の準備を終えてミレニアムサイエンススクールの制服に着替えると、モモトークのシャーレ部員用のグループチャットでみんなを巻き込んで、当事者達から事情を詳しく聞き出すことにした。
やがて、判明した事実は……。
「思った以上にヤバかったんだねぇ」
なんでも、ゲマトリアの手によって逃げ出したベアトリーチェは、ゲマトリア内で禁忌とされている『色彩』という超存在に手を出してしまったらしい。
『色彩』か……確か以前、リオ会長が語ったキヴォトスを滅ぼしうる『災禍』の一つとして、名前が挙がっていた。
外からやってくる侵略者とか言っていたかな?
ベアトリーチェはその『色彩』のパワーを身に宿して、自身を高位の存在に押し上げようとした。
しかし、先ほども述べた通り、『色彩』はゲマトリアにとって禁忌の存在だった。だから、ゲマトリアの者達は、自らの手で逃がしたベアトリーチェをわざわざ先生と協力してまで潰しにかかった。そして、最後にはゲマトリア自ら、『色彩』に対抗するための兵器とやらで、ベアトリーチェを消し飛ばしてしてしまったとのこと。
先生はまさか最後は爆破オチになるなんて……とメッセージで語っていたが、まさにB級アクション映画のラストじゃん。私も居合わせたかった!
野次馬根性を出すとか、相手は敵で悪人だけど「人が死んでんねんで!」なんて思う人もいるかもしれない。でも、私は人死にが日常的にあったアークスの任務に慣れている。だからか、悪人ならまあ死んでも仕方がないかな、という感性なんだよね。
「うーん、それにしても『色彩』か……」
いったいなんなんだろうね。キヴォトスの外からの侵略者とはいうが……外の世界であるエーテル地球にそれらしき存在はなかった。
外のさらに別の次元にあるオラクル船団の宇宙だと、それっぽいものにダーカー因子があるが、まさかダーカーがわざわざ次元を超えてまで、キヴォトスを狙えるとも思えないし。
分からない。分からないので、事情に詳しい人に聞いてみよう!
「リオ会長ー。『色彩』について教えてー」
私はリオ会長のいる場所をユウカ会計に聞き、ミレニアム校舎の反省室とかいう部屋までやってきた。
リオ会長は、デカグラマトンの撃退に要塞都市が役立ったという事実でもって、会長職の免職をまぬがれた。しかし、ミレニアムの資金を横領して損害を出した事実は消えない。
だから、その被害額だけ財テクで補填するという罰を受けている最中だ。リオ会長ほどの人なら、デイトレードとかで十分稼げるだろうという、ユウカ会計の判断らしい。
「急になに? なんでまた、あんなものを知りたいの?」
狭い部屋でマルチディスプレイと向き合っていたリオ会長が、手元のキーボードとマウスを操作しながら問い返してくる。うん、忙しそうな所ごめんよ。
そんな会長に、私は事情を説明する。
「いや、なんか昨晩、先生がゲマトリアと一緒にアリウスのマダム、ベアトリーチェを倒したらしいんだけど……」
「そんな報告が入っていたわね」
えっ、もう事件のこと知っているの? 報道もされていないのに、何を情報源にしているのやら。
そんな彼女に、私はさらに説明を続ける。
「ベアトリーチェの狙いは『色彩』の力を手に入れることで……」
「……は?」
お、これは会長も知らない事実か。
「それでそのベアトリーチェのやらかしの結果、ゲマトリア曰く、キヴォトスが『色彩』に見つかってしまったようだと」
「……大事件じゃないの!」
リオ会長がデスクに手を突き、勢いよく立ち上がった。
お、おう……? 私は勢いに押されながら会長に問いかける。
「大事件……やっぱりそこまで言うほどなの? 『色彩』って」
「それほどの存在よ!」
すごい剣幕だ。
私は会長を落ち着かせるように、手の平を下に向けて胸の前に出し、手を何度も下げて『クールダウンしろ』のポーズを取った。まだあわてるような時間じゃない。
「まあまあ、落ち着いて。そもそも『色彩』って何?」
そう、私はキヴォトスの外からの侵略者としか、『色彩』のことを知らないのだ。
ここにはそのことを聞きに来たわけで、会長に昨日の先生の事件を説明しに来たわけじゃない。
そうしてリオ会長は落ち着きを取り戻し、椅子に座りなおした。
「……『色彩』とは、意志ある概念。神秘を内包する存在に干渉し、その力を変質させる、悪意ある存在。悪意を持った不可視の概念よ」
……概念? なんだそれ。
「『色彩』によって変質した神秘は、恐怖に狂う。もし『色彩』が到来した場合、キヴォトスの全ては変質・反転し、皆、正気ではいられないでしょうね。人によっては、『色彩』による変質を進化と捉えることもあるでしょうが……私は狂った世界で生きたくはないわね」
狂化による進化をもたらす、悪意という意志を持つ概念。
それは、たとえるならば……。
「悪意に満ちたゲッター線かぁ」
「……ゲッター線?」
「あ、うん。フィクションに出てくる、意志を持ち生物を進化させようとする不思議なパワーだね。ゲッター線には悪意の類は、ほぼないんだけど」
「納得できたなら、それでいいわ」
しかし、そんなものがキヴォトスの外から侵略してくるのか。……うん? キヴォトスの外?
私は浮かんできた疑問をリオ会長にぶつける。
「キヴォトスの外の世界って、地球だよね? 地球では『色彩』は悪さしないの?」
「そうね。色彩は神秘を侵略・侵食するもの。神秘の存在しない場所には、興味を持っていないのではないかしら」
「えー、地球にも現代まで生き残った『アダムとイヴ』とか、月の女神なんて言われてたマザーがいたよ」
「『アダムとイヴ』はどれだけ長生きしたとしても、ただの『人間』でしかないでしょうし……マザーはあなたが上げた報告を見るに、科学力で作られた惑星型演算装置でしょう。エーテル粒子は確かに不思議な存在だけれど、そこにキヴォトスのヘイローを持つ者達のような力は、宿っていないはず。個人的には神秘的だとは思うけれど、『色彩』が狙う神秘とは異なる」
エーテルは改変されたフォトンだ。そしてフォトンの本当の正体は、前世のPSO2をプレイ中に語られていた事実が真実なら、アカシックレコードが宇宙に向けて放っている観測用粒子。
アカシックレコードなんて神秘の塊のように思えるが……どうにも、キヴォトスにおける神秘とは方向性が違うようである。
まあ、アカシックレコードの存在するオラクル船団の宇宙と、創造神が創り出した地球がある宇宙とでは、次元からして違うからね。神秘的存在と一言に言っても、その質が違うのだろう。キヴォトスに至っては、地球とはさらに別の次元にある可能性も高いし。
「うん、分かったよ。会長、教えてくれてありがとうね」
「……ねえ、リク。一つだけ、覚えておいてちょうだい」
「はいはい。なんでしょ」
「『色彩』がキヴォトスにやってきて、その猛威を振るったとして……最終的に『色彩』に対抗できるのは、ヘイローを持たない、神秘を持たない存在よ」
「へっ?」
「『色彩』との戦いはあなたが重要な役割を持つ。そう考えて、私も対応策を考えておくわ」
そう告げられて、私は反省室から追い出された。
『色彩』に対抗できるのは、神秘を持たない私、か。いやいや、いくらフォトンの不思議パワーでも、物理的に存在しない概念を退治することはできないよ!?
うーん、困った。とりあえず、報告を安藤先生に上げておくことにしようかな。