【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在   作:Leni

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39.風雲急を告げる

 私は安藤先生に、リオ会長から聞いた『色彩』についての情報を流した。

 先生もゲマトリアから、『色彩』がキヴォトスにやってくると警告されたらしく、情報をまとめて連邦生徒会に報告したとのことだ。

 

 その情報を受けて、連邦生徒会が動く……とは簡単にいかなかった。

 

 連邦生徒会は、今、揺れに揺れている。

 連邦生徒会の防衛室、その室長の不知火(しらぬい)カヤが、カイザーグループとヴァルキューレ警察学校の癒着に関わっていたからだ。その汚職事件により連邦生徒会は、連日のようにマスメディアを中心にして責任を追及され続けている。

 

 そのカヤなる人物は、政治工作をして連邦生徒会内で発言力を高めていたらしく、事件発覚によりその派閥が瓦解。

 さらに、カヤが廃校になったSRT特殊学園の特殊部隊チームを使って、対立する連邦生徒会のメンバーを襲撃していた事実まで明らかになった。

 

 これにより、カヤの派閥だったメンバーと、それに対立するメンバーとで溝が深まった。

 そうして統率の取れなくなった連邦生徒会は、機能停止寸前まで追い込まれた。

 

 それでも、事態は待ってくれない。なんと、キヴォトスの各地で、正体不明の高濃度なエネルギー反応が観測されたのだ。

 

 その場に行って調べても、何も存在しない、それでいて計器には反応する謎のエネルギー。

 これには、概念的存在である『色彩』出現の前兆ではないかと、先生から事情を聞いていたシャーレ部員は緊張を高めた。

 

 自治区をまたいだ複数のエネルギー反応。これに対応できる大きな組織は、連邦生徒会しかいない。キヴォトスの外からやってくる脅威に対応するのは、そのうちの防衛室だ。

 しかし、先のスキャンダルにより、防衛室のカヤ室長は権限を凍結されている。

 そこで代わりとなったのは……連邦生徒会長の代行を任されている七神(なながみ)リンである。連邦生徒会会長代行にして、防衛室室長代行。常人なら過労死しかねない激務が彼女を待っていた。

 

 先生がそれを手助けし、シャーレ部員も応援に出て、ようやく連邦生徒会は持ち直し始めた。

 そして、リン代行は決断した。

 

「各学園自治区の代表、およびシャーレに、緊急招集をかけます。対『色彩』の非常対策委員会を設置します」

 

 その宣言に先立ち、シャーレでは部員達を動員して、各地に残る『色彩』の資料を探していた。

 どうやら、『色彩』は昔からキヴォトスで脅威の一つとして語られていた存在らしく、古文書に記述がいくつか書かれているのを発見した。

 

 これにより、リン代行の緊急招集にある程度の妥当性が生まれた。そうして、キヴォトス各地の大きな自治区から、代表者が連邦生徒会があるD.U.に集まり始めていた。

 

 そして、今日。第一回の非常対策委員会緊急会議が開かれる日。

 私はシャーレ部員ではなく、エンジニア部として工房で活動していた。こんな事態でも私ができること。それは、来たる脅威に備えて、M.I.Sゼロ号機の性能を向上させることだ。

 キヴォトス仕様として出力を下げているM.I.S。それを改修して、本来のA.I.Sの出力に近づける作業だ。

 

 想定する敵は、デカグラマトンの預言者級の脅威。『色彩』は概念的存在であり、攻撃してどうにかなる敵ではないが……古文書によると物質界への影響を高めるために、物質的な尖兵を送ってくるらしいからね。

 

 もちろん、私の持つ知識と技術だけではM.I.Sの改修なんてできやしない。A.I.S並みの高出力を出すには、専門家の知識が必要なのだ。そこで私は、エーテル通信でアークスのシエラと連絡を取り、専門家を紹介してもらった。

 アークス研究部所属のA.I.S研究開発特化型ハイ・キャスト、リュドミラ研究員だ。PSO2の原作ゲームにもに出てきた人である。

 

 彼女から送られてくる助言を参照しながら、今日もM.I.Sをいじり続ける。

 完成まであと少しだ。ちなみに、リュドミラ研究員とエンジニア部のメンバーは一発で仲良くなった。本質的に同類なんだろうね。

 

 今頃、先生は非常対策委員会の緊急会議に出席して『色彩』への注意を喚起しているだろう。

 私も、少しでも早くM.I.Sの改修を終え、戦う準備を整えなければ。他のシャーレ部員も、各地で調べ物をしたり、戦闘準備をしたりと各々できることをしているはずだ。

 

 こうしてキヴォトスでは、まだ目に見えない脅威に立ち向かう体勢が整い始めていた。

 

 ――そのはずだった。

 

 作業に一区切りがつき、スマホを確認していた私。先生からのモモトークは、『会議に出てくるよ』とのメッセージで止まっている。今は会議の最中だろう。

 そう思った瞬間、スマホに着信が入る。電話だ。相手は……ヴェリタスのコタマ先輩?

 彼女から通話とは、珍しい。よほど急ぎの用事なのだろうか。私は、名前を確認して即座に通話を開始した。

 

「もしもし。リクです」

 

『緊急事態発生です。先生が、カイザーグループに拉致されました』

 

「はぁ!?」

 

『先生に仕掛けていた盗聴器で、ハッキリと聞きました。カイザーグループは、連邦生徒会に対してクーデターを起こしたみたいです』

 

「ええっ……よりによってこの緊急事態にクーデター!」

 

『クーデターをするうえで先生が邪魔だったみたいです。それと、先生が持っている『シッテムの箱』が必要らしくて、奪われたみたいですね』

 

「分かった。先生を助けにいくよ」

 

『お願いします。盗聴器はバレないようエーテル通信を使った最小構成にしていて、位置を知らせる機能がついていません。ですから、先生のスマートフォンのGPS機能を使う形になります』

 

「了解! 通話はこのまま繋げておくので、オペレートよろしく!」

 

 まったく、このクソ忙しい時に、カイザーグループは何をしているんだか。

 カイザーグループと言えば、ヴァルキューレ警察学校とカヤ元室長の癒着がマスメディアにさんざん叩かれ、株価は下落し関連企業の売り上げは低迷して、社会的に追い詰められていたはずだ。

 そこに来てこのクーデターは……やけっぱちか? これだからキヴォトス脳は世紀末思考でよくないな!

 

 私は急いで出発の準備を整える。ウタハ部長にクーデターの簡単な説明をし、先生を助けに抜けることを伝えた。

 そして、ライドロイドにまたがりながら、スマホでシャーレ部員のグループチャットに情報を流す。

 

 先生がさらわれた経緯はこうだ。連邦生徒会の招集で非常対策委員会に出席するため、先生は迎えにきたヴァルキューレ警察学校のヘリコプターに乗った。しかし、それはヴァルキューレの生徒に化けたカイザーPMCで……その先生に向けて、カイザーの兵士が、クーデターを起こしたことをしゃべったらしい。

 そして、そのまま先生は『シッテムの箱』を奪われ、どこかに捕らえられてしまったようなのだ。先生には私からいくつかの便利グッズを渡していたから怪我の心配は少ないだろうが……カイザー側が本気で先生を殺そうとした場合、便利グッズでは耐えられないかもしれない。

 なので、早急な救助が必要だ。

 

 そこまでグループチャットに伝え、私はライドロイドに乗ってD.U.まで駆けていった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 連邦生徒会の中枢であるサンクトゥムタワー、その城下町であるD.U.に到着した。

 するとまあ、本当にクーデターはあったようで。カイザーPMCの兵隊が、街中を完全に占領していることが分かった。

 

 だが、それでも私のやることは変わらない。

 先生が普段、通話用に使っているスマホの位置をコタマ先輩にオペレートしてもらいながら、この情報をシャーレ部員と共有した。

 現在、一般通信網は、サンクトゥムタワーを占領したカイザーグループの手によって、完全に麻痺しているらしい。が、そんなの関係ない。私はエーテルタワーのメンテナンス用管理者権限を勝手に使って、エーテル通信網を維持したままにしている。バックドア? 知らん。緊急事態だ。

 

 相手が行政府の権限をにぎっていようが関係ない。皆に承認された連邦生徒会の代表以外の指示に、カイザーグループとは別の企業の社長である私が従う理由など、欠片もないのだ。

 まあ、後でエーテルタワーの所有者には、メンテナンス用のアカウントを勝手に使ったことを追及されるだろうが……そのときは連邦捜査部シャーレの権限で押し通してもらうとしよう。先生頼みである。

 

 さて、そんなエーテル通信を利用して、シャーレ部員達がD.U.奪還作戦を練り始めた。

 頼もしい仲間達だ。しかし、その仲間達を統制するには先生が必要だ。私たちだけじゃあ、また暴走してしまうだろうから。

 

 だから私は、先生を救出するために、スマホの位置情報が確認される、カイザーPMCが保有する施設の一つに向けて、ライドロイドを進ませていった。

 

「おりゃー、どけー!」

 

 当然、街を占領するカイザーPMCは私を発見し、攻撃を仕掛けてくる。だが、ライドロイドは速い。そのうえ、武装はいっぱい積んである。フォトン弾を撃ち出す機関砲で兵士をなぎ倒し、きりもみ回転の体当たりで武装ヘリを落とし、ホーミングミサイルで戦車を破壊する。

 

 そして、目的の施設を発見。私はライドロイドごと施設に乗りこむと、廊下を無理やり飛んでスマホの反応が示す部屋まで辿り着いた。

 研究室らしき部屋で白衣を着たロボット頭の大人達が、先生のタブレットを囲んで何かしていた。私はそこへ突入して、白衣の大人を蹴散らし、台の上に置かれていた先生のスマホとタブレットを確保した。

 

「スマホは電源が入ったまま……タブレットは電源入っていないね。『シッテムの箱』は、先生以外に操作ができないんだったかな?」

 

 連邦生徒会長が遺したオーパーツ、『シッテムの箱』。私が知っているのは、中にアロナとかいう女の子アバターのOSが入っていることと、そのアロナがデカグラマトンをパンチで撃退したことくらいだ。

 さて、この建物にスマホとタブレットがあったってことは、先生もここに囚われているのかな?

 私はライドロイドと、アークス用端末のマップ機能を駆使して生体反応を探っていくが……。建物内から先生は発見できなかった。

 

「うーん、八方塞がり」

 

『こうなったら、カイザーグループのあらゆるコンピュータにハッキングをかけて、情報を抜くしかないですね』

 

 コタマ先輩が物騒なことを言っているが、それしか方法が思いつかないのは事実。下手にシャーレ部員をD.U.に突入させて、先生を人質にされたら目も当てられない。

 と、そんなことを考えていたら、マップに新しい生体反応。建物の外から、中に誰かが入ってきたようだ。

 カイザーPMCの増援か、と思ったが、人数は一人。特殊部隊のチームが、囮を放ってきたのかなぁ。

 

 そう思って、こちらから相手の居る場所にライドロイドで駆けていった。

 そして、目標が遠目に見えたところで、足元に威嚇射撃を放つ。すると、相手はその場で手を上げて降参のポーズを取った。

 ……うん。どうやら、カイザーPMCの兵隊じゃないようだぞ。あの格好は、ヴァルキューレ警察学校の制服だ。犬耳にブロンド髪のヘイロー持ち。一般的なキヴォトスの女子生徒である。

 

「待て、シャーレの道上リクだな? 私は敵じゃない!」

 

 その少女が、私に向けて叫んだ。うーん……。私はライドロイドの機関砲を彼女に向けたまま、少しずつ近づいていく。

 

「私はシャーレ部員の要請で、先生を救出する手助けをするためにここにきた。ヴァルキューレ警察学校所属の尾刃(おがた)カンナだ」

 

 その少女の主張に、私は問いを投げかける。

 

「先生は、ここにいなかったよ?」

 

「この建物は、先生から押収した品が保管されているであろう候補地だったんだが……」

 

「うん、品はあったね」

 

「そうか。では、あとは先生を助ければいいな」

 

 ふーむ。疑問はある。なんでカイザーPMCの占領下にあるこの街で、この建物に辿り着けたかとか。

 彼女の制服はところどころ破けていて、さらに血がにじんでいる。そのため、カイザーPMCの占領下を無理やり突破してきたと解釈できるのだが……。

 しかし、ここで問答している時間が勿体ない。

 

『リク、大丈夫です。シャーレの部員から要請があったのは事実でした』

 

 おっと、コタマ先輩頼りになるー。

 じゃあ、信用することにしよう。

 

「で、先生の居場所は分かる?」

 

 私の問いかけに、カンナはうなずく。

 

「候補地はいくつかあるが、最有力候補はD.U.内にあるヴァルキューレ警察学校の第3分校だ。どうもあの分校はカイザーの手に渡っているらしくてな」

 

 それ、カイザーPMCの施設を探していたら、いつまでも見つからなかったやつだ! ここに来てお助けキャラが現れるとか、本当に助かる。

 では、行こうか。分校の場所はコタマ先輩が教えてくれるだろう。私はライドロイドのハンドルをにぎり、彼女に向けて別れを告げる。

 

「了解。では、救出に行ってくるね」

 

「待て! 私も弾よけくらいにはなる。同行するぞ!」

 

「このライドロイド、一人乗りだよ。救出した先生を無理やり乗せるつもりだから、定員オーバー」

 

「大丈夫だ。私物だが、私もライドロイドに乗ってきている」

 

 ライドロイド、警察にも売れているんだなぁ……。

 いや、私物か。ヴァルキューレ警察学校自体は、万年金欠だっていうからね。だからこそ、カイザーグループと汚職なんて事件を起こしたんだけど。

 

「じゃあ、急ごう。さっさと先生を救出して、カイザーなんて蹴散らさないと。馬鹿みたいなタイミングで起こしたクーデターなんかに、つきあっていられないよ」

 

 私がそう言うと、カンナはうなずいて施設の窓から飛び出していった。

 さあ、先生、いま助けにいくよ!

 

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