【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在   作:Leni

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アビドスとシャーレの軍勢
4.アビドスの迷い子(大人)


 ▲MomoTalk

 

先生

遭難した

 

マジか

 

先生

住宅地らしき場所で迷った…

 

住宅地なら誰かに道を尋ねればいいのでは?

 

先生

ゴーストタウンなんだよね

全く人を見かけないよ

水と食料が尽きそう……

 

はー(クソデカため息)

急いで救助に行きますね

 

先生

危ないよ

合流の手段がないし、二次遭難しちゃう

 

大丈夫

マップ作成機能と生体反応の探知機能搭載の

アークス製の端末があるので

 

先生

すごいね……

じゃあすまないけど頼むよ

 

 

 そこまでスマホでモモトークを交わしたところで、私は顔を上げた。

 現在の場所は、エンジニア部の工房。その工房のど真ん中には、完成したばかりの空飛ぶ乗り物『ライドロイド』が鎮座していた。

 そのライドロイドの前で、エンジニア部の三人が機体にどのような塗装を施すか、先ほどから議論を続けている。

 まあ、空飛ぶバイクと考えると、機体の塗装は凝りたいよね。

 

 だが、私はその議論に参加せず、未塗装の金属むき出しのライドロイドにいきなり跳び乗った。

 

「リク!? テスト飛行は塗装の後だよ!」

 

「それはないよリク……さすがにそれはない」

 

「抜け駆け禁止ですよ!」

 

 ウタハ部長が私の暴挙を見過ごさず、普段は見せない剣幕で叱りつけてきた。

 他の二人も批難の目をこちらに向けている。しかし、私は謝らない。

 

「シャーレの先生が、アビドスの自治区内で遭難したんだよ。だから、これで助けにいくね」

 

「私的利用……と言いたいけれど、噂の先生かぁ……」

 

 先生を引き合いに出した私の言葉に、三人の怒りの気持ちが急激にしぼんでいくのがうかがえた。

 よしよし、このまま勢いで押し切ってやろう。

 

「どのみち、フォトンリアクターが未完成でまだフォトンを扱える私しか乗れないんだから、抜け駆けとか関係なしだよ。だから、早めのテスト飛行ということで!」

 

 そう、このライドロイドには、フォトンを動力に換えるフォトンリアクターが積まれていない。まだリアクターは未完成なのだ。

 なので、今の段階でライドロイドを飛行させるには、フォトンを生身で扱える私が乗る必要があった。アークスには、フォトンをエネルギーに変換できる体質の者しかなれないのだ*1

 

「んじゃ、起動するよー」

 

 私はライドロイドのハンドルを握ると、フォトンのエネルギーを流し込んで機体を起動させた。

 車やバイクのキーに当たる機構はない。今の段階のライドロイドは、フォトンを扱える私にしか操作できないからだ。

 工房の床に置かれていたライドロイドは、即座に青いフォトンの光を宿らせ、わずかに浮き上がる。

 

「おお……」

 

「浮いた! 浮きましたよ!」

 

「成功だね」

 

 浮遊装置は実験段階では起動していたが、機体に組み込んでの起動はこれが始めて。

 さらに私はライドロイドをわずかに前方へと動かしてみせる。するとまたエンジニア部の人達の感嘆が響いてきて、私はちょっと得意げになった。ふふーん、どうよ。アークス最新兵器であるライドロイドの優秀さ、みんなも実感してくれたかな。

 

「それじゃあ、本格的に飛び立つので、工房の外に繋がる扉開けてー」

 

「了解。行ってきなさい」

 

「乗り心地のレポート作成よろしく」

 

「できるだけ目立つように飛んで、宣伝よろしくお願いしますねー」

 

 そうして、私はライドロイドの後部に付いたバーニアを噴かし、エンジニア部の工房から空へと飛翔していった。

 

 さて、とりあえず途中でコンビニにでも寄って、先生に渡すための食料と飲み物を補給しておかないとね!

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 安藤先生が遭難した切っ掛けは、アビドス高校から救援要請を受けて、アビドスの現地に向かったことだった。さて、なぜに先生はアビドスから救援要請なんぞをもらったのか。

 そもそも、安藤先生が顧問をしているシャーレとは、一体どういう組織なのか。

 

 先生を探す間に、その辺りを紐解いていこう。

 

 連邦捜査部シャーレは、行方不明となった連邦生徒会長が残した組織。キヴォトスの学園都市全体に、超法規的な権限を持っている部活だ。

 その実態は、キヴォトスに在籍するあらゆる生徒の相談を受けるお悩み相談室のようなところ。

 その生徒の相談内容を解決するにあたって、シャーレは連邦生徒会によって与えられた権限のもとに、キヴォトス内のあらゆる規則による規制や罰則を退けられる。まさに超法規的組織だ。

 

 部活動の一種でもあるので、シャーレには幾人もの生徒が所属している。連邦生徒会の下にある部活なので、所属生徒には学校の垣根がない。キヴォトスに存在する学園の生徒ならば、誰でもシャーレの仲間に加わることが可能だ。

 

 ちなみに私もシャーレの一員だよ。だからこそ、先生から行動予定をモモトークで聞くことが許されているんだからね。

 

 まあ、そういうわけでシャーレは悩める生徒達のお悩み相談室、駆け込み寺なわけだ。

 そこで、今回の話につながる。アビドス高校から、先生はなんらかの救援要請を受けたのだ。

 で、先生は無防備にも一人でアビドス高校の校舎へと向かった。銃弾一発身体に撃ち込まれたら死ぬ耐久性をしているのに、正直うかつすぎる気がする。

 

 で、そんなうかつな先生らしき生体反応をアークス端末のマップ上に検知した。

 場所は……うん、確かに住宅地っぽい場所だ。

 

「おーい、先生ー!」

 

 私はライドロイドの高度を下げ、眼下に見えた先生のもとへと近づいていく。

 

「"素敵なマシンだね"」

 

「ははは、こやつめ。遭難中とは思えぬ第一声」

 

 私はアスファルトの地面にライドロイドを下ろし、機体から降りて先生の様子を確認した。

 先生は、以前も見た白スーツ姿。だが、砂埃がスーツにくっつき、白い生地を見事に汚していた。実はアビドスの郊外って砂漠が広がっているから、住宅地のここまで砂塵が舞ってくるみたいなんだよね。

 

 ただ、まあ服が汚れてはいるけど、先生の体調はそこまで悪そうではない。

 とりあえず私はアイテムパックから、道中のコンビニ『エンジェル24』に寄って買っておいたスポーツドリンクを取り出し、先生に渡した。

 

「"ありがとう。助かったよ"」

 

 先生はスポーツドリンクのペットボトルを受け取ると、すぐさまキャップを回して外した。

 そして、ペットボトルに口を付けると、すごい勢いで飲み始めた。

 あー、本当に喉が乾いていたんだねぇ。

 

 水分を補給できたなら、次は食料だ。私はアイテムパックからコンビニのおにぎりを取り出し、こちらも先生に渡しておく。

 

「"ありがたい……"」

 

 先生はおにぎりの包装を解いて、本当に美味しそうに頬張り始めた。

 うむうむ、とりあえず先生の危機は脱したということで。

 

 さて、そんな先生だが、白スーツの背中には荷物が背負われていた。これから登山でもするのかというような、巨大なリュックサックだ。うーむ……。

 

「これだけドデカい荷物を背負っているのに、水と食料が尽きたんですか……」

 

「"ほとんどが弾薬とかの補給品だよ。アビドスの子達から救援要請を受けたからね"」

 

「補給物資がまず弾薬とか、キヴォトスの治安は本当にヤバい……」

 

「"そうだね"」

 

 さて、先生の水分補給と栄養補給が終わったので、今度は先生を安全な場所に移動させなければならない。

 残念ながらライドロイドは一人乗り用なので、先生を乗せていくことはできない。なので、私にできるのは先導くらいだが……。

 

「"それだけど、生体反応を探知できる端末があるんだよね? 生体反応が集まっている校舎がある場所、分かるかい?"」

 

「ああ、アビドス高校に向かおうっていうんですね」

 

「"うん。この自治区内に校舎はいくつかあったんだけど、今使われている本校舎がどれだか分からなくて"」

 

「街はゴーストタウンで、校舎にも生徒達はいなかったってことですか。そんなところからの救援要請……思いっきり訳ありっぽいですね!」

 

「"訳ありの生徒を助けるのがシャーレの役目だよ"」

 

「ほいほい。んじゃ、まずは本校舎なるものを目指しますか。ちょうど生体反応が複数集まっている場所があるので、先導しますね」

 

「"ありがとう。ところで……"」

 

「はい、なんでしょう」

 

「"その空飛ぶバイク、私も操縦できないかな"」

 

「残念ながらこれは一人用で、動かせるのも私だけなんですよ。ジャイアニズムやスネ夫ムーブでいじわるしているわけじゃないですからね。本当に、フォトンを扱える改造人間系種族専用なんですよ、今のところ」

 

「"それは残念"」

 

「どっちにしろ、絶対に落ちない機構でも実現しない限り、墜落死の危険性がある先生には乗らせませんけどね」

 

「"高所は苦手だから、高度は取らないよ"」

 

「それでも事故ったときの被害が、車やバイクの比じゃない気がするんですよねぇ」

 

 そんな雑談を楽しく交わしながら、私は超スロー速度の低空飛行で先生を案内し、一つの校舎に辿り着いた。

 

「この中に、五つの生体反応がありますね」

 

「"案内ありがとう。あとは私が一人で向かうよ"」

 

「あれ、道中の護衛はいらないですか?」

 

「"大丈夫。複数人で押し掛けるより、一人で向かった方が相手も警戒せずにいてくれて、対話がしやすいから……"」

 

「ネゴシエーションですか。私はそのあたり専門外なので、とやかく言うつもりはないですが……帰りは大丈夫ですか?」

 

「"うん、タブレットに帰りのルートを記録してあるから、もう遭難はしないよ"」

 

 先生は懐からタブレット端末を取り出し、私に向けてヒラヒラと振ってみせた。

 ほーん。なら、いいかぁ。ま、私もライドロイドを早く持ち帰って、塗装してもらう必要があるからね。ここは大人しく帰ろう。

 

 そうして、私は空を優雅に舞いながらミレニアムサイエンススクールに帰還し、アビドス学区の砂塵で汚れた機体を綺麗に洗浄。塗装を施しながら、エンジニア部の三人にライドロイドの乗り心地を説明することになった。

 

 ライドロイドは最終的に赤のカラーリングが施された。そして、フォトンリアクターが完成するまで、私に一つの任務が課された。それは、ライドロイドをたくさん乗りこなして、不具合が無いか確認するテスト任務だ。

 普段のエンジニア部は、試作品を作ったらテストしないでそこらに放るくらい平気でする。しかし、ライドロイドは外部に販売する予定なので、安全性を考慮に入れているのだ。

 

 まあ、乗りこなせと言われたら乗りこなしてみせよう。

 ついでに、ライドロイドの存在を知らしめるよう、目立つところで飛んでみせようか。

 

 そんなことを考えていたその日の夕方、不意にスマホへメッセージが届いた。

 先生から、シャーレ所属の生徒全員のグループチャットへ送られたメッセージ。内容は……戦闘協力要請。

 

『アビドス高等学校が、武装集団『カタカタヘルメット団』の破壊工作を受けている。シャーレ所属の生徒の中で、虐げられし者を守らんとする勇士はいるだろうか。勇士たらんとする者に、アビドス高等学校本校舎の防衛を願う。皆の協力を待っている』

 

 先生、ノリノリでこれを書いたな……。

 しかしこれは、ライドロイドの存在を皆に示すチャンスだね?

 

*1
なんのエネルギーかは不明。

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