【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在   作:Leni

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42.異次元の色彩

 予言が的中し、サンクトゥムタワーが破壊される光景を目の当たりにしてしまった私達。

 しかし、ずっとこうしてもいられない。

 少しでも情報を得ようと、私達は偵察部隊を組織して、空から落ちてきた赤黒い塔を調査することを決めた。まずは、誰が向かうかだ。すぐさまシャーレの主要メンバーと先生が集まって、話し合いを始める。

 そんなときだ。ふと、私達に近づく者がいた。

 

 それは、ところどころが破けたビジネススーツを着た、異形の顔の男。

 ロボット頭でも動物の頭でもない、キヴォトスでは見かけない姿の大人だった。

 

「"黒服……!"」

 

 安藤先生が、その異形の大人を見て、驚きの声を上げる。

 

 黒服と言えば……ゲマトリアのメンバーじゃないか!

 ここにきて、私達になんの用があるというのだろうか。彼らは『色彩』を敵視しているらしいから、私達の行動の邪魔をするとは思えないのだが。

 

「お見苦しい姿で失礼します、安藤先生」

 

 黒い表皮から光が漏れる顔面。そんな黒服の異形の口から、そんな言葉が出てきた。想像していたよりも腰が低いぞ、ゲマトリア。ビジネススーツを着た人間としては、その姿に相応しい丁寧な態度なのだが。

 

「"その傷は、いったい……"」

 

 先生が、本当に心配そうな声で黒服に言った。

 黒服は元々異形の姿なので私には判別がつきにくいが、どうやらこの人……ゲマトリアの黒服は、怪我をしているようだ。

 そんな彼が、安藤先生に向けて言う。

 

「ゲマトリアは壊滅しました。襲撃にあい、メンバーは散り散りに」

 

「"まさか、『色彩』に……"」

 

「はい。この空とあの塔を見て分かる通り、とうとうキヴォトスに『色彩』が到来してしまったのです」

 

 やはり、この異常事態は『色彩』の仕業だったらしい。

 そして、黒服は続けて言う。

 

「……いえ、到来は適切な表現ではありませんね。確か、セミナーのビッグシスターは、『外からの侵略者』と表現していましたか。そう、『色彩』がキヴォトスに『侵略』してきました」

 

 セミナーのビッグシスター。確か、リオ会長を指す名称だよね。こいつ、会長の発言内容まで知っているのか。

 

「"この状況は、『色彩』が何かをしようとしているの?"」

 

「はい。『色彩』は、狼の神と接触したようです」

 

 狼の神? なんだそれ。

 確か先生が言うには、黒服は以前、ロリおじさんホシノのことを『暁のホルス』と形容していたようだが……。

 

恐怖(テラー)の領域へと反転した彼女は、『アヌビス』となりました。『アヌビス』は命あるすべてのものを、あの世へと導く死の神。……彼女は自身の本質が赴くままに、キヴォトスへ終焉をもたらすでしょう」

 

 ホルスの次は、アヌビスと来たか。どちらも地球の古代エジプトで崇められていた神だ。

 

「『色彩』は、それを理解していた。ゆえに、この地にたどり着いて、まず最初に彼女の『崇高』を確保したのでしょう」

 

 彼女、か。狼の神や『アヌビス』とやらも、『暁のホルス』と同じくキヴォトスの女子生徒のことを指しているのかもしれない。ヘイロー持ちは神秘の力を持っているらしいからね。

 

「『色彩』は悪意を持った不可視の『概念』である。ビッグシスターはそう解釈していました。私は、『色彩』のことを意志も欲望も目的もない不可解な観念であると解釈していましたが、どうやら彼女が正しかったようで……この『色彩』からは、明確な意志と計画性を感じます」

 

 以前、私は『色彩』のことを悪意あるゲッター線なんて、リオ会長に対して茶化して言ったが、確かに『色彩』からは意志や知性なんかを感じ取ることはできる。

 だって、いきなりキヴォトスの中枢であるサンクトゥムタワーを潰したんだよ? 明確にこちらの手足をもぎに来ている。

 

「『色彩』は、キヴォトスのありとあらゆる神秘と恐怖、そして崇高の概念を吸収し、自らのものにしようとしています。キヴォトスに落下した六つの塔、あれらは『色彩』によって反転したサンクトゥムタワーの一種なのでしょう」

 

 えっ、六つ!? 落下した塔って、サンクトゥムタワーを潰したあれだけじゃないのか……。

 そして、あの赤黒い塔も、そのサンクトゥムタワーなのだと黒服は言っている。確かに、形状が似ていると言われれば似ているけれど。

 

「アレは太古の昔に存在した神秘、『名もなき神』の技術で築き上げられたもの。『色彩』の光は、その塔から伝播していきます。エーテルを周囲にばら撒くエスカタワーのごとく。そして『色彩』の光は、やがてキヴォトスに存在する全ての神秘を恐怖へと反転させるでしょう」

 

 キヴォトスに存在する神秘、すなわちヘイロー持ちの女子生徒が反転……闇堕ちでもするのか?

 あと、こいつもゲマトリアのベアトリーチェと同じように、エーテル通信塔のことをエスカタワーって言ったね。きっと外の世界について詳しいんだろう。

 

「狼の神が恐怖へと反転した『アヌビス』は、ゲマトリアを襲撃し、ゲマトリアが所持していた『秘儀』と『検証結果』を奪っていきました。こちらの失態ですが、これを解決する力はすでに我々にはありません」

 

 そして黒服が、その奪われた秘儀とやらの名を挙げていく。

 

 デカグラマトンのパス、ミメシスの秘儀、Communio Sanctorm、ライブラリー・オブ・ロア、名もなき神の力に、無名の守護者の能力――

 何を指しているかも分からないの名の中に、聞き覚えのあるワードが一部混ざっているのが分かる。これまで私達シャーレが対峙した敵から、ゲマトリアは情報を抜いていたというわけか。で、その情報を『色彩』に奪われた、と。

 

「これら全てを手にした『色彩の嚮導者(きょうどうしゃ)』、すなわち『色彩』の意志を代弁し、計画を遂行する実行者『プレナパテス』は……先生、必ずやあなたと対面することとなるでしょう」

 

 んん……?

 ここにきてさらに新しいワード。『色彩』の手下は『アヌビス』だけじゃないってこと?

 ああ、そうか。『アヌビス』は『色彩』がキヴォトスに来てから確保した存在。それとは別に、キヴォトスの外から送り込んだ尖兵がいるってことか。それが、『プレナパテス』。

 

「なるほど。こちらが手を出しようもない概念的存在である『色彩』を撃退するには、その『プレナパテス』をどうにかすればいいってことだね」

 

 二人の会話へ割って入るように私がそう発言すると、黒服がこちらを見て答える。

 

「その通りです。別次元からの使者であるあなたの力なら、あるいは『色彩』や『アヌビス』に対抗できるかもしれませんね」

 

 ――なにせ、ゲマトリアではフォトンの力は、解析・検証できなかったのですから。

 黒服がそう告げた。

 

 ……ん? 何気にこれ、朗報じゃないかな? ゲマトリアはフォトンを解析できなかった。それはつまり、『色彩』にはフォトンの情報を抜かれていないということになる。

 

 さて、そこまで語った黒服は、ビジネススーツの破れた脇腹を押さえながら、どこかへと去っていった。シャーレ軍に救護騎士団のメンバーもいるというのに、怪我の治療に私達の手は借りないということかな。

 そして、この一連の会話はクロノススクールの報道カメラにバッチリ映っていた。

 キヴォトスに『色彩』なる未曾有の敵が侵略しにやってくる。その事実が、今頃D.U.の外にも広まっているだろう。

 

 しかし、先生はそれでは足りないとばかりに、私に向けて言った。

 

「"リク、エーテル通信塔の特別広域緊急警報を使わせてもらうよ"」

 

「あ、はい。どのタワーを使いますか?」

 

「"もちろん、全ての"」

 

 そうして、連邦生徒会のリン代行の許可も得て、キヴォトス全域に緊急声明が出された。

 各自治区の生徒は、黒い塔の付近に近寄らず、すぐに避難してください。そんなメッセージがあらゆる携帯端末に表示され、クロノスの報道を見ていた人々は、生徒や大人に関わらず、キヴォトスに危機が訪れていることを理解した。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 さて、黒服の言葉が正しいならば、あの赤黒い塔、反転したサンクトゥムタワーは『色彩』の脅威を周囲に伝播させる物質だ。

 先遣隊が塔に近づいて採取した塔の欠片は、すぐさま各種機関で調査が行なわれた。エンジニア部にも一つ、欠片が持ちこまれたが……私はそれの調査ではなく、シャーレビルで行なわれる作戦会議の方に出席していた。

 

 作戦会議に集まったメンバーは、シャーレ部員だけではない。連邦生徒会のメンバーに、各学園の代表者達の姿もある。言うなれば、この会議は連邦生徒会が前に開催した、非常対策委員会の第二回会議だと言えるだろう。

 第一回の会議は先生が不在だったため、ぐだぐだになって終わったらしいが……大丈夫、今回はしっかり先生が私達を見守ってくれている。

 

 そして、リン代行が議長となり、会議が始まる。

 

「まず、反転したサンクトゥムタワー、『虚妄のサンクトゥム』と仮称しますが、これがキヴォトスの六箇所に落下していることが確認されました」

 

 そう言って、リン代行は『虚妄のサンクトゥム』の落下位置を告げていった。

 アビドス砂漠、D.U.近郊の遊園地、ミレニアム郊外の閉鎖地域、トリニティとゲヘナの境界付近、ミレニアム近郊の新都市エリドゥ、そしてD.U.のサンクトゥムタワーが存在した中心地点。

 

 ……エリドゥに落下したのかぁ。キヴォトスにやってくる『災禍』に対応するための都市が、見事に攻撃されたことになる。これにはリオ会長も涙目だろう。ミレニアム代表として会議に出席しているリオ会長は、相変わらずの仏頂面だが。

 

「この『虚妄のサンクトゥム』ですが、三〇〇時間で臨界点を迎えるとの調査結果が出ています。その時間を過ぎると、キヴォトス全域が『色彩』の力に汚染すると考えてください」

 

 三〇〇時間……これを長いと取るか、短いと取るか。

 

「タイムリミットは十二日後。この間に、私達は『虚妄のサンクトゥム』を破壊せねばなりません」

 

 相手は大きな塔だが、建築物の破壊程度、爆薬が出回っているキヴォトスではそう難しいことではない。

 しかしだ。

 

「『虚妄のサンクトゥム』周辺には、ユスティナ聖徒会の出現や、デカグラマトンの預言者等の敵性存在の出現が確認されています」

 

 リン代行のその言葉に、私は思わず反応する。

 

「預言者って……まさか『色彩』は機械も操れるの?」

 

「預言者は、電力で動いているわけではない、ヘイローを持った特殊な存在ということもあるのですが……どうも『色彩』は無人兵器の類も、時間をかければ侵食可能なようです」

 

 オイオイ、ただの概念のくせに、物質の侵食も可能なのかい。ロボットを侵食するとか、宇宙からゲッターエンペラーみたいなの持ってこないだろうな……。まあ、それは冗談として、デカグラマトンの預言者なんていう特大級のエネミーが塔の守りにつくとしたら、塔の破壊は困難を極めることが分かる。

 

「さらに、ミレニアムの調査によると、『虚妄のサンクトゥム』からは、人の精神を錯乱させる信号が発せられていることが分かりました。それが、ゲマトリアが語った、恐怖と反転を指しているのでしょう」

 

 リン代行の言葉に、会議の出席者達の雰囲気が固いものとなった。

 三〇〇時間後の臨界点。それを迎えたら、キヴォトスの人々は全員狂ってしまう。それが、『色彩』がもたらす『災禍』なのだ。

 

「よって、臨界点を迎える前に、『虚妄のサンクトゥム』を破壊します。連邦生徒会はキヴォトスの破滅を阻止するため、『虚妄のサンクトゥム攻略作戦』を実行します。作戦の総指揮は、連邦捜査部シャーレの安藤優先生にお任せします」

 

 リン代行がそう宣言し、そこから各学園の代表者と共に、作戦の詳細について詰めていった。

 そうして会議は無事に終わり、皆が席を立った瞬間。リモートの映像通信で参加していたトリニティ総合学園のティーパーティー、セイア生徒会長が、私と先生を名指しして別室で会話をしたいと言ってきた。

 

 会議室の面々の視線が一気に私へと集まるが、それを無視して私はその言葉に応じた。

 シャーレビルの会議室から、先生が普段執務を行なっているシャーレのオフィスに移動し、改めてセイア生徒会長の話を聞く。

 

『私の未来視では、キヴォトスは皆の奮闘むなしく終焉を迎える』

 

 いきなりぶっ込んできたな!

 確かにこの内容は、皆のいる会議室では話せない。

 

『しかしだ、道上リク。君は、その未来の光景の中に存在しなかった』

 

 と、そこでセイア生徒会長が思わぬことを言った。私が破滅の未来に存在しない……?

 

『実は、私は未来視の中で、君の姿を一度も捉えたことがないんだ』

 

 ……どういうことだろう。私がキヴォトスの外の世界から来たから? いや、それなら先生も同じように未来視に映らないはずだ。でも、セイア生徒会長は、そんなことは一言も言っていない。

 

『だから、キヴォトスの滅亡の未来を回避するとしたら……君の存在が欠かせないのだろう。そのことを念頭に置いて、君には奮闘を期待させてもらうよ』

 

 なるほど、セイア生徒会長は、私に頑張れと言いたかったのか。私が頑張らなかったら、キヴォトスは滅ぶぞと。

 

「分かった。いざとなったら古巣の宇宙船団に土下座でもして、力を貸してもらうよ」

 

『ああ。私もできるだけ未来を見られるよう努力するから、君もできることは全部してくれ。私達の未来は、君に(たく)した』

 

 ……重たい物を託されてしまったな。

 でもまあ、そんな重い物を背負って戦うなんて、アークスである私にとってはいつものことだ。救って見せようじゃないか、世界ってやつをさ。

 敵をぶっ飛ばす救い方くらいしか、私は知らないけどね!

 

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