【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在   作:Leni

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44.二人のシロコ

 ペロロジラは、私達エンジニア部の活躍により見事、撃破された。

 最期には爆発して消滅していったが、M.I.S隊には大きな被害もなく。代わりに鐘崎港は完全に崩壊してしまったが、コラテラル・ダメージということで許してほしい。

 二十メートルを超える大怪獣の上陸被害としては、少なくて済んだと見てもらいたいものだ。

 

 さて、私達は戦闘後、そのままD.U.中枢部へと向かい、最後の『虚妄のサンクトゥム』を《フォトンブラスター》の一斉射撃で破壊し終えた。それと同時に、赤く染まっていた空が青空に戻り、私達は作戦の成功を確信した。

 そして、作戦本部に塔の破壊完了を報告し、私達はひとまず作戦本部であるシャーレビルへと飛んだ。

 

 十メートルある人型ロボットを四機も置くスペースはシャーレにはないが、道路に置けばひとまずは大丈夫だろう。戒厳令下なので、車道が使われることもないだろうし。

 と、そんなことを考えながらM.I.Sを進ませていたときのこと。エーテル通信から、オペレーターのあせったような声が聞こえた。

 

『……ッ! シャーレビル内に侵入者! どうやってここまで……!?』

 

 えっ!? 作戦本部のシャーレビルは、先生がいるからガチガチに守りを固めているはずだぞ。

 そこに侵入者?

 私は急いで作戦本部と映像通信を繋げた。

 

 すると、そこに映っていたのは、先生の前に立つ、アビドスの砂狼シロコらしき姿であった。

 しかし、私が先ほどまでアビドス砂漠で会っていたシロコとは、少し様子が違う。アビドス高校の制服ではなく胸元の開いた黒いドレスを着ていて、さらに髪型がセミロングから臀部まであるロングヘアに変わっていた。

 

『"シロコ……?"』

 

 映像の中の先生も、彼女をシロコと認識したようで、彼女にそう確認を取るように話しかけた。

 すると、そのシロコらしき女性は、先生に向けて答える。

 

『……先生、ここまで来たんだ。流石だね』

 

 その声は、紛れもないシロコの声。

 私はあわてて、アビドス砂漠のベースキャンプに通信を繋げる。

 

「こちら道上リク! そちらにシロコはいる!?」

 

 すると、アヤネが即座に応答した。

 

『はい、シロコ先輩は、ちゃんとこちらにいます。私達も何がなんだか……』

 

 シロコが二人居る……?

 混乱しているうちに、映像通信の中の黒いドレスのシロコは先生に向けて話を続けた。

 

『でも、未来を変えることはできない。キヴォトスが終焉を迎えることは、決まっている』

 

 未来。セイア生徒会長は言っていた。「私の未来視では、キヴォトスは皆の奮闘むなしく終焉を迎える」と。

 黒いシロコは、そのことを言っているのか……?

 

『"シロコ……君はもしや『色彩』に……"』

 

『違う。私は『色彩』に操られてはいないよ……私は私の意志で……キヴォトスを滅ぼすの』

 

 彼女の黒い衣装は、『色彩』がもたらす神秘の反転や闇堕ちをどうしても連想させてくる。しかし、彼女は『色彩』に操られてはいないと言う。

 

『この世界を、定められた未来へと導く――その役割を私が担当しただけ。『色彩』はその手段の一つに過ぎない。……むしろ、私の方が『色彩』を利用しているのかも』

 

『"シロコ……君は……君が、『色彩の嚮導者(きょうどうしゃ)』なのかい?"』

 

『私ではないよ。それは私の役割ではない。私の役割は、全ての命を『別の場所(あのよ)』に導くこと。これは砂狼シロコが、この世界に存在した時点で確定した未来』

 

 そう黒いシロコが告げた瞬間。映像の中に、もう一人のシロコが映った。それは、エーテル通信を介した立体映像だ。アビドス砂漠のベースキャンプから作戦本部に通信を繋げたのだろう。

 その本来のシロコが、黒いシロコをにらみつけるようにして言う。

 

『おかしなことを言わないで。私はそんなことをしない』

 

 その言葉を聞いた黒いシロコは、目を伏せてしばし沈黙し、そして再び口を開く。

 

『あなたもいずれ理解する。私達は死をもたらす者。それは世界に定められたこと。そして、定められた運命を変えることはできない――それが、この世界のルール』

 

『……ッ!』

 

 本来のシロコが、映像越しに黒いシロコをさらににらむが、黒いシロコはそれを意に介さない。

 

『……キヴォトスは滅ぼす。でも、先生は傷付けたくない。だから、キヴォトスからいなくなってほしい。……そうすれば、先生に銃を向けなくて済む』

 

『"……私は、最後まで生徒達を支えるよ"』

 

 黒いシロコの警告とも言える言葉に、先生はそうハッキリと答えた。

 と、よし。シャーレビル前まで辿り付いたぞ。私は道路にM.I.Sを着地させ、エーテル通信機を持ったまま、M.I.Sのコックピットから降りる。

 そして、シャーレ軍が防備を固める横を顔パスで通り過ぎて、シャーレビルに踏みこんだ。

 

 その最中も、映像の中の会話は進む。

 

『……最初に先生を『キヴォトス(ここ)』に導いたのも、最期を見送るのも――それが、私に与えられた『本質(やくわり)』なんだと思う。いつ、その時が来たとしても……私は迷わないよ』

 

 シャーレの施設を駆け、作戦本部へと真っ直ぐに向かう私。

 そして、作戦本部に踏みこんだところで、私は武器パレットから銃剣(ガンスラッシュ)を選択して取り出し、先生と黒いシロコとの間に割り込んだ。

 

「社長参上……ってね! おう、平社員。うちらの先生に因縁をつけるとは、ずいぶんなご挨拶だね」

 

 銃剣の銃口を黒いシロコに向けながら、私はそう言葉を放った。

 すると、黒いシロコは眉をひそめ、そして言う。

 

「……邪魔が入ったね。私が二人同時に存在するのはよくないらしいし、帰るね」

 

 すると、シロコの背後の空間が突如、歪みだす。これは……空間跳躍の類で逃げる気か!

 逃がすか、と私は銃剣『アトルオービット』からフォトンの弾丸を撃ち出す。弾丸はシロコの胸に命中するが、彼女は攻撃を受けた衝撃のまま後退し、空間の歪みの中に身体を沈めていく。

 

 ……このまま逃げられるか。仕方ない。だから最後に、私は彼女へ向けて言った。

 

「運命は変えられる。この世界のルールなんて、私には通用しないよ」

 

「…………」

 

 私の言葉に答えることなく、黒いシロコは胸を押さえて歪みの向こうに消えていった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 シャーレビルの作戦本部は、多くの人員が集まり慌ただしく動いていた。

『虚妄のサンクトゥム』は全て破壊した。しかし、キヴォトスに再び高濃度のエネルギー反応が観測され、『虚妄のサンクトゥム』が再び出現すると予想された。

 そのため、私達は防衛ではなく攻めの姿勢に転換をすることになった。すなわち、黒いシロコや『色彩の嚮導者(きょうどうしゃ)』の拠点への逆侵攻だ。現在、その位置の割り出しに連邦生徒会メンバーが、慌ただしく方々へ連絡を取っている最中である。

 

 そんな中、私と先生は、一部のメンバーと映像通信を繋げて、会議を行なっていた。

 それは、先ほど姿を見せた黒いシロコが、いったい何者なのかについての検討であった。

 

『あの私はおかしなことを言っていた。最初に先生をここに導いたのは私だって』

 

 本物のシロコが、映像通信越しにそう言った。

 ここというのは、シャーレビルか、キヴォトスかのどちらかを指しているのだろうか。しかし……。

 

「シロコってシャーレの初期メンじゃないよね?」

 

 私がそう言うと、先生は「"そうだね"」と答えた。

 シャーレの初期メンバーは、セミナーのユウカ会計と、正実のハスミと、自警団のスズミと、風紀委員会のチナツだ。それと途中で合流した私を入れて、五人が連邦捜査部シャーレ発足時の部員達である。

 

『シロコちゃんが、先生をキヴォトスに呼んだ張本人だとかー?』

 

 映像の中のホシノがそんなことを言うが……それも違うだろう。

 安藤先生をキヴォトスへ呼んだのは、シャーレの設備を事前に準備していた人物と考えられる。つまり、行方不明となった連邦生徒会長だ。シロコではない。

 私達が首をかしげて考え込んでいると、今度はティーパーティーのセイア生徒会長の映像が、口を開いた。

 

『あれではないかい? 今年の四月頃に未来視で見たことがある。先生がシャーレの顧問として向かった、最初の出向先での出会いだよ。アビドス自治区で、先生が遭難したときの話だ。そこでシロコくんに助けてもらって、アビドス高等学校まで導いた、あの出来事だ』

 

 ん? 何を言っているんだ、この人は。

 

「"そんな出来事なんて、なかったよね?"」

 

 先生がこちらを見てそう言ってきたので、私はうなずいて答える。

 

「うん。あれだよね。アビドス自治区で遭難した先生を私がライドロイドに乗って助けにいったことはあるけど、そのときシロコはいなかったよ」

 

『また君か、道上リク! まったくもう!』

 

 えっ、なんでセイア生徒会長に怒られているの、私。

 

『君がいると、本来辿るはずの歴史が微妙にねじれるんだよ……』

 

 えーと、それはつまり……。

 

「あの黒いシロコが言ったことが、そのアビドスでの出会いを指しているとなると……彼女は本来辿るはずだった、それでいて起こらなかった過去について話している……?」

 

『うへー、ちょっとおじさん理解しちゃったなー』

 

 私の疑問に、映像の中のホシノがそんなことを気だるげに言う。

 

『シロコちゃんが二人いる、そこから導き出されることは……あのシロコは、ここではないどこか別の場所から来たってことだよ』

 

 別の場所。そこで私はピンと来た。

 あの黒いシロコの容姿について、私は思い出す。

 

「あの黒いシロコは、本物のシロコより明らかに成長していた。こっちのシロコより髪は長かったし、胸はワンサイズ以上大きかった」

 

 私の言葉に、立体映像のシロコに注目が集まる。そのうえで、私は言った。

 

「つまり、あのシロコは、キヴォトスが滅んだ未来から来た、未来人だったんだよ!」

 

『な、なんだってー!?』

 

 あ、ホシノパイセン、合いの手ありがとうございます。

 でも、私は結構本気で言ったよ。なにせ、私はアークスとして働いていた時代に、未来人を見ているからね。

 その名も『ダークファルス【仮面(ペルソナ)】』。未来からやってきたアークスの英雄、守護輝士(ガーディアン)その人だ。

 

 守護輝士は、時間を移動する『マターボード』という能力をマザーシップであるシオンから受け渡されていた。

 そして、今とは違う未来を辿った守護輝士は、どうしようもない結末を迎えた歴史をやり直すために、過去に戻って『ダークファルス【仮面】』となったのだ。

 

 別の次元の話だが、前例があるのだ。ここでも、同じことが起きないとは限らない。

 そんな私の説明に、その場のみんなは半信半疑で頭を悩ませる。

 ただ、キヴォトスの破滅の未来を見たセイア生徒会長は、私の黒いシロコ未来人説を完全に信じたようであり……。

 

『道上リク。もしかしたら、彼女は君のことを知らないかもしれない』

 

「えっ、そういうのあり?」

 

『私が見た破滅の未来は、いくつかのパターンがあるのだが……そのどれにも君の姿はなかった。その未来の一つから彼女が来たというのならば、君という特大のイレギュラーは彼女にとって未知の存在ということになる』

 

 ふーむ。どうなんだろうね、それ。

 

『思えば、先生との話を中断して彼女が逃げたのも、君が目の前に来たからかもしれない。未知の脅威として、逃走を選んだ可能性がある』

 

 そう言われると、一理あるように思えてくるなぁ……。

 

『だから、リク。またあの砂狼シロコと会うことがあったら、君のことを知っているか尋ねてみてほしい』

 

「分かった。対話を試みてみるよ」

 

『そして、彼女がやってきた破滅の未来に、君という存在がいなかったとしたら……』

 

 セイア生徒会長は一瞬、言葉を溜めて、そして言った。

 

『やはり、破滅の未来からキヴォトスを守るには、君の存在が鍵をにぎっているということになるね』

 

 ……私がハッピーエンドへの鍵か。

 私にしかできないこと。戦うことくらいしか考えつかないが……私だけが持つフォトンを扱う能力は、役に立ってくれるのだろうか。はあ、守護輝士をひいきしていた全知存在シオン、私にも何か助言をしてくれないかな……。

 

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