【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在   作:Leni

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47.全知の模倣体

 クロノススクールという思わぬ邪魔が入ってしまったが、いよいよ最終決戦だ。私達は再度、船橋に集まり、各自配置についた。

 連邦生徒会メンバーと、ミレニアムのリオ会長、ヒマリ部長、ユウカ会計、アビドスのアヤネ、そしてエグのケイがオペレーター役となる。オペレーターの役目は、本船の操縦と掌握、そして多次元解釈システムの操作だ。

 

 艦長……いや、船長(キャプテン)は、連邦生徒会の生徒会長代行の七神リンの役割である。

 先生ではない。彼は船橋を離れて、『アトラ・ハシースの箱舟』に乗りこむ気満々だからだ。敵拠点に率先して突撃する人に、船長は任せられない。

 

 役割を再確認したところで、リン船長が船橋に集まった私達に向けて言う。

 

「今から私達は、『ウトナピシュティムの本船』でキヴォトスの上空七五〇〇〇メートルにある『アトラ・ハシースの箱舟』に突入します。そして、箱舟を占領し機能を無効化するか、箱舟そのものを破壊します。もちろん、全員無事に地上へ戻らなければなりません」

 

 うん、要するに敵をぶっ潰して、帰ってくればいいってことね。アークスでやっていたいつもの緊急任務と変わらない。

 

「では、安藤先生。サンクトゥムタワーが失われた今、先生に本船の起動を任せることになります。よろしいですね」

 

「"うん、任せて"」

 

 先生は、いつものタブレット端末『シッテムの箱』を手に持ち、その画面をじっと見つめる。

 先生にしか声が聞こえないであろうOSのアロナから、何か激励(げきれい)でも受けているのだろうか。

 

「"アロナ、よろしくね"」

 

 先生はそう言って、タブレットをメインコンソールの上に置いた。

 

「"行こうか。真実を知りに"」

 

 ……ああ、もしかすると先生は。キヴォトスを救いに行くのではなく、生徒の一人かもしれない黒いシロコを救うために、この場にいるのかもしれない。

 まあ、先生はそれでいい。世界を救うのは先生でなくても、生徒である私達が担当しても構わないだろうからね。

 

「"それじゃあ、出発しよう"」

 

 先生がそう告げると、『シッテムの箱』が置かれたメインコンソールに青い光が灯る。

 

「メインパワーの起動を確認しました!」

 

 コンソールの画面の一つを確認しながら、アヤネがそう言った。

 どうやら、無事に『ウトナピシュティムの本船』は起動したようだ。敵対勢力であるアリスとケイへの攻撃は……どうやら起こらなかったようだ。

 

「メインコントロールシステムの稼働、完了……!」

 

「各エリアの通信システム、演算システムのチェック、オールクリア!」

 

「エンジンシステム、クリア」

 

 連邦生徒会のオペレーター達も次々と船内の状況を確認していく。

 ヒマリ部長も計器を見ながらノリノリで言った。

 

「多次元解釈システムのチェック、クリア」

 

 そして、最後にユウカ会計が告げる。

 

「管制システムチェック、オールクリア。全システム、稼働しました。発進準備完了!」

 

 準備は整った。後は、号令をかけるだけ。

 リン船長に注目が集まるが、しかし船長は先生の方を見た。

 

「先生、発進の号令をお願いします」

 

 すると、先生は目を輝かせながら言った。

 

「"――宇宙戦艦『ウトナピシュティム』、発進!"」

 

 そうして、アビドス砂漠の地下から、巨大な船が空へと舞い上がった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 本船はグングンと高度を上げていき、やがて船橋のモニターに『アトラ・ハシースの箱舟』が展開する黒い球体を映し出すところまできた。

 作戦は順調に進んでいるように思えた。しかし……船橋のコンソール画面が、いきなり赤く染まり、エラー音を出し始めた。

 

「な、何事!?」

 

 ユウカ会計が、慌ててコンソールを操作して確認する。

 すると、事態をいち早く察知したリオ会長が、叫ぶように言う。

 

「多次元解釈システムのエラーよ! 箱舟と本船の状態が一致していない……!」

 

「まさかシステムの故障ですか!?」

 

 ユウカ会計のその問いに、会長は否定の言葉を返す。

 

「『アトラ・ハシースの箱舟』の方に変化が起きている! 向こうは、こちらが多次元解釈で対抗していることを理解して、新たに次元軸を増やして対抗してきているの!」

 

「じゃあ、こちらも、さらにそれの対抗を……!」

 

「計算が間に合わない! 『ウトナピシュティムの本船』の演算装置では、衝突までに対応ができないわ!」

 

 慌ただしくコンソールを操作し続けるオペレーター達。

 うーん、もしかして、この状況ってマズイ?

 

「このままあの黒い膜に本船が突入したら、どうなるんだろう……?」

 

 私がそうつぶやくように言うと、言葉を拾ったのかヒマリ部長が答えた。

 

「通常なら、昨日飛ばした巡航ミサイルのように素通りするだけでしょうけれど……。こちらも多次元解釈の影響下にあるので、はたしてどうなるか。バラバラに弾き飛ばされるのか、次元の彼方に落ちるのか……」

 

「……ヤバすぎる!」

 

 う、うわあああ。今すぐ本船を急停止できないのかな!?

 いや、無理か。シューティングゲームの自機じゃないんだから、急に慣性を消すことなんてできない。慣性制御システムとか、そこまで高度な機能は積まれていないっぽい。多次元解釈とかできるくせに!

 

「……くっ! このままでは……!」

 

 アヤネがコンソールをいじって何か抵抗を試みているようだが、船橋の画面に映る『アトラ・ハシースの箱舟』の黒い球体は、少しずつ近づいてきている。

 まさか万事休すとか言わないよね!?

 

 そこで、コンソールとケーブルで繋がったケイが、音声を発する。

 

『仕方ありません。『ATRAHASIS』の展開を――』

 

『そう、仕方ないね。そこまで手助けするつもりはなかったけれど、割り込ませてもらうよ』

 

 と、ケイの発言に被せるように、私の手元にあるエーテル通信端末から声が聞こえた。

 その端末は、ケイと同じようにコンソールとケーブルで繋がっており……。

 

『演算、開始』

 

 そんな少年の声が、私の端末から響いた。

 この声は……シャオ?

 

「!? これは……『ウトナピシュティムの本船』の状態が、箱舟の値と合致していく……!」

 

 リオ会長が、驚くようにして言った。

 

「外部からの操作……これは……リクさんの端末から?」

 

 ヒマリ部長のその発言を受け、船橋の人々の目が私に向く。

 それに対し、いまいち事態を把握しきっていない私は答えた。

 

「えっと、エーテル通信で繋がっている別次元の宇宙船団のお偉いさんが、代わりに演算してくれているみたいな?」

 

『そうだね。多次元解釈システムの演算をこちらで肩代わりしているよ。こっちの宇宙からでは、そちらには物理的な影響を与えられない。けれど、演算結果をエーテル通信で受け渡すことくらいは訳がないよ』

 

 私の手元の端末が、皆に向けてそんな答えを発した。

 

「本船の演算装置でも、計算不可能でしたのに……」

 

 ヒマリ部長が、驚愕をあらわにして、そうつぶやくが……。

 

『演算力にはちょっと自信があるんだ。僕は、惑星規模の演算装置だからね』

 

「確か、全知存在の模倣体、でしたか……。なるほど」

 

『全知』の学位を持つと自称するヒマリ部長が、シャオと言葉を交わしている。シャオは、全知存在である惑星シオンが造り上げた、彼女自身の模倣体である。なんだか面白い光景だね。

 

「ふふっ、惑星規模の演算装置ですか。いつか作り上げてみたいものですね」

 

 ヒマリ部長はそう笑って、正面へと向き直った。

 私も正面を向くと、船橋のメインモニターに映る黒い球体は、眼前まで迫っていた。もうすぐにでもぶつかりそうな勢いだ。

 

「多次元解釈の防御膜に突入します!」

 

 連邦生徒会のアユム調停室長のそんな声と共に、船橋のメインモニターが真っ黒に染まり……それからすぐに黒はぬぐいさられる。

 やがて、モニターの向こうに、コマのような形をした巨大建築物が映し出された。

 

「防御膜を突破! 敵本拠地を発見しました!」

 

 連邦生徒会のオペレーターの報告を聞き、リン船長が指示を出す。

 

「接舷、いえ、速度を落としつつ突撃してください。総員、対ショック用意!」

 

 わお、どうやら入口を探す間も惜しんだらしく、無理やりぶつかって突入用の穴を空けるらしい。

 それから『ウトナピシュティムの本船』は、正面から『アトラ・ハシースの箱舟』の外殻へと突っ込んだ。

 

 大きな衝撃が、船内を襲う。

 

「突入成功! 本船の損害は……中枢システムにわずかなダメージあり。エンジン一時停止中」

 

「各エリアとの通信断絶……一応、乗組員全員の所持端末とのエーテル通信は通じている状態です」

 

 おっ、よかった。多次元解釈のバリアの中でも、エーテル粒子は存在しているらしい。さすが、次元を超えて移動可能な粒子だね。ちなみにフォトンも船橋内にしっかり存在しているみたいだよ。

 

「システムは衝撃で軒並み停止していますが、外殻は無傷ですね。乗組員にも怪我人はいないようです」

 

「ええっ、正面衝突したのに、こっちだけ外殻が無傷……?」

 

 アユム調停室長の報告に、私は思わずそんな驚き声を上げてしまう。すると、そこでケイが答えた。

 

『予想通りですね。なにしろ『ウトナピシュティムの本船』は、対『アトラ・ハシースの箱舟』用に作られた決戦兵器なので』

 

 決戦兵器だから、外殻の頑丈さも箱舟より本船の方が上ってこと?

 

『そもそも、この船には兵装の類が一切積まれていません。突撃しか考慮に入れられていない、頭の悪い兵器なのですよ』

 

 うわあ、そう言われると、確かに頭のおかしい兵器だな、こいつ。

 乗組員を乗せたまま箱舟に正面からぶつかって、後は乗組員を使って敵船を制圧するっていうコンセプトかぁ。ま、こっちもそれを織り込み済みで、アビドス生やゲーム開発部といった突入部隊を船に乗せてきているんだけどさ。

 

 どちらも戦闘が専門の人達じゃない? いやいや、なかなか強いんだよこの二チームは。

 

「では、先遣隊は直ちに突入準備を……」

 

 と、そこまでリン船長が言ったところで、突如、船橋内に空間の歪みが巻き起こった。

 これは……黒いシロコ、仮称『シロコ*テラー』の出現予兆か!

 

 私はとっさに、空間の歪みと先生の間に位置取りをする。それと同時に、アイテムパックから銃剣を取り出し、剣モードに変える。銃モードにして流れ弾で船橋を破壊するわけにはいかないからね。

 

 そうして戦闘準備を即座に整えると同時に、空間の歪みの中から黒いドレスに身を包んだシロコ*テラーが出現した。

 空間跳躍を自在に使いこなすのか……なかなか厄介な相手だね。

 

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