【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在   作:Leni

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48.アトラ・ハシースの箱舟占領戦

 本船の船橋内に、別存在のシロコ、仮称『シロコ*テラー』が突然現れた。

 私は先生を守るため、彼女と先生の間に身体を割り込ませて銃剣(ガンスラッシュ)を構えたが……シロコ*テラーは手に持った銃をまだ構えてはいなかった。

 銃弾の代わりに、シロコ*テラーは、私の背後の先生に向けて言葉を放ってきた。

 

「結局、ここまで来たんだ。警告したのに、どうして……?」

 

「いや、キヴォトスを滅ぼされるなんて言われて、黙っている人なんているはずないでしょ」

 

 私が先生の代わりにそう答えるが、シロコ*テラーはそれをスルー。

 先生の言葉しか聞く気はないってか?

 しかしだ、ここにはあなたが無視できない存在が、先生以外にもいてね?

 

「シロコ先輩!」

 

 オペレーターとして船橋に詰めていたアビドスのアヤネが、シロコ*テラーに向けて叫んだ。

 

「シロコ先輩、あなたは、ここではない別のキヴォトスから来たと私達は予想しています。……いったい、そちらの世界で何があったのですか?」

 

 アヤネのその問いかけに、一瞬目を伏せるシロコ*テラー。

 そして、彼女は問いに答えたくないのか、身をひるがえして船橋から去ろうとする。

 しかし、そこに船橋へ駆けつけたアビドス生の四人が、行く手をさえぎる。

 その中には、この世界のシロコも当然含まれていた。

 

「ん、もう一人の私……何があったか知らないけれど、世界は滅ぼさせない」

 

 シロコが、銃を構えてシロコ*テラーと対峙する。

 しかし、シロコ*テラーの返答は、手榴弾を取り出すことだった。

 

 突然放り投げられた手榴弾に、身を固めるアビドス生達。しかし、そこへ私が銃剣の剣モードで割って入り、手榴弾を切り捨てた。

 

「……!?」

 

 驚くシロコ*テラーに、私はそのまま肉薄し、銃剣で斬りつける。

 だが、シロコ*テラーは宙を舞ってその斬撃をかわしてみせた。私はさらに銃剣でシロコ*テラーに攻撃を加えていくが、そのことごとくが回避された。

 うーん、やっぱり近接戦闘は苦手だ。でも、船橋で銃弾を撃つわけにもいかないし。

 

 もどかしい思いをしながら攻撃を続けていくと、シロコ*テラーは周囲に空間の歪みを生み出し、空間転移で逃走を図ろうとした。

 ……ここまでか。仕方ないので、私は逃げようとするシロコ*テラーに刃ではなく言葉を向ける。

 

「まあ、待ちなよシロコ。今日は、休みの連絡まだ受けてないよ。無断欠勤はいかんよ」

 

 私がそう言うと、歪んだ空間に身をうずめながら、眉をひそめて答える。

 

「あなたは……誰?」

 

「オイオイ、このぷりちーがーるの顔を見忘れたのかい?」

 

「ヘイローがない……大人? ゲマトリアの残党……」

 

「さすがにゲマトリア扱いは心外だなぁ!?」

 

 私がそんな否定の言葉を返すころには、シロコ*テラーは完全に船橋から姿を消していた。

 ふう、とりあえず船橋に被害なく追い出すことができたか。

 

 それと、収穫もあった。

 

「やっぱりシロコ*テラーは、私のことを知らないみたいだね」

 

 私がそう言うと、アビドス生のホシノがこちらに向けて言った。

 

「うへー、社長がいなかった未来のアビドスとか、ちょっと想像したくないなぁ」

 

 まあ、そうだね。私が『エーテルフォトニクス社』を起業しないと、アビドスは借金地獄から抜け出せなかった可能性がそれなりに高い。

 借金返済の直接の要因となったリゾート群島を彼女達が獲得できたのは、私の影響が大きいのだ。リゾート島へ遊びに行ったアビドス生達のところに、私がゲヘナの風紀委員会を向かわせたから、彼女達がリゾート群島を制覇できたと言ってもよいだろう。

 

「ん、リクの影響はそれだけじゃない……。確か、エデン条約調印式のときに先生が銃で撃たれても無事だったのは、リクのお守りがあったから」

 

 シロコが数ヶ月前の出来事を掘り返すように言った。

 確かに、エデン条約を襲ったアリウススクワッドは、先生を銃で撃っていた。かなりの出血だったので、『スケープドール』がなかったら先生はどうなっていたか不明である。

 

「アビドスが借金で廃校になって、先生が大怪我して……そんな未来もあったのかもしれませんね」

 

 アビドスのノノミも、不安そうな声音でそんなことを言った。

 最悪のルートを辿った未来か。その可能性もなくはないよね。

 それなら、全てを失ったシロコ*テラーは、やけっぱちになっているかもしれない。そこを『色彩』につけ込まれたか?

 

「とにかく、あのシロコ先輩から、ちゃんと話を聞き出さないと始まらないわ」

 

 アビドスのセリカがそう話を締めて、私達は行動を開始することにした。

 戦闘部隊を箱舟に突入させて、箱舟を占領するのだ。早速、先生が部隊を編成し始める。すると、その間に船橋のオペレーター達は、なにやら話を続けていた。

 

「あのシロコ*テラーの空間転移能力……あれはおそらく、『アトラ・ハシースの箱舟』の演算能力を利用したものよ」

 

 リオ会長が、興味深いことを言う。

 戦闘部隊として突入する身としては、ちょっと聞いておかないといけないっぽいな。シロコ*テラーとは箱舟の中でもぶつかるだろうから。

 

「今、この箱舟の中は、無数の並行世界が重なり合っている状態。シロコ*テラーは、どこにもいてどこにもいない。そんな状態なら、空間転移も自由自在ね」

 

 並行世界か……。

 これまで様々な人が『キヴォトスの外』と表現してきた場所。それが私の知るあのエーテル地球ではなくて、並行世界の別のどこかの可能性もあるよね。まあ、ゲマトリアがエスカタワーのことを知っていたから、あんまり確度の高い説ではないけど。

 

 と、そんなことを考えていると、ヒマリ部長も何やら話し始めた。

 

「箱舟の内部をスキャンしましたが、この箱舟は多次元解釈システムを実現させている量子コンピュータとしても機能していますね。そして、箱舟内の各区画に、『次元エンジン』とでも呼べる量子コンピュータのコアが存在します」

 

 むっ、それ、重要情報じゃない?

 

「箱舟を占領する過程で、この『次元エンジン』を停止させれば……最終的に、箱舟を掌握して、自爆シーケンスを起動させることができそうです」

 

 重要情報だ!

 私は急いで先生を呼んで、ヒマリ部長の話を聞かせる。

 

「"つまり、四つの区画を占領して、『次元エンジン』を破壊すればいいんだね?"」

 

「その通りです。戦闘部隊の皆様には、奮闘を期待します。もちろん、病弱天才美少女も、この場所で奮闘させていただきますとも」

 

 そう言って、ヒマリ部長は手に持ったエーテル通信機を先生に見せつけた。

 地上では、部長以外のヴェリタスのメンバーが全員そろって待機している。エーテル通信越しに、箱舟のハッキングを手伝わせようという算段だろう。

 なるほど、何をすれば勝ちなのか、明確になってきたね。

 

『『アトラ・ハシースの箱舟』の掌握よりも、優先して奮闘すべき項目がありますよ』

 

 と、それまで無言で宙に浮いていたケイが、いきなり発言をした。

 そのケイの機械音声を聞き、皆が注目する。

 

『あの仮称シロコ*テラーは、本船に厄介な代物を仕掛けていきました。それの除去から始めましょう』

 

「厄介な代物……?」

 

 ヒマリ部長が、怪訝な顔をして問い返す。

 すると、ケイはなんてことないようにあっさりと重大な事実を告げた。

 

『『ウトナピシュティムの本船』のメインコンソールにバックドアを仕掛けられました。そこから、本船の自爆シーケンスを流されています』

 

 その言葉に、船橋にいた全員がギョッとした顔になる。

 

『オラクル船団のシャオと一緒に、なんとか実行を押しとどめています。オペレーターの皆さんも、バックドアの除去に協力してください』

 

 ……敵も、黙ってやられるようなタマじゃないってことか。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 そうして、『アトラ・ハシースの箱舟占領戦』が始まった。

 アビドス生とゲーム開発部、シャーレ初期メンバーによる戦闘部隊が、次元エンジンのある各エリアを攻略していく。

 一方で、私は一人、別の任務を任されていた。

 

 それは、バックドアを通じて『ウトナピシュティムの本船』へ執拗に自爆シーケンスを流し続けている、『中継端末』を破壊する任務だ。

 

 自爆シーケンスの命令自体は、箱舟の中枢部『ナラム・シンの玉座』から出されている。しかし、その中枢部に行くには、戦闘部隊が各エリアを占領し終えないと入り込むことはできない。

 なので、中枢部から本船へと命令を流している中継地点である、『中継端末』を破壊するために、一人で動いているのだ。

 なぜ私一人で動いているかというと、戦闘部隊の中で私が一番速いから。というのも、私はわざわざ『アトラ・ハシースの箱舟』に自前のライドロイドを持ちこんでいたのだ。

 

 ちなみに、他のメンバーはライドロイドを持ちこんでいないよ。みんな、私のライドロイドみたいに武装が豊富なわけじゃないからね。しょぼい武装しか持たずに敵本拠地でのんきに運転していたら、撃ち落とされる未来しか待っていない。

 

 一方で、私のライドロイドはエンジニア部の改造につぐ改造で、多種多様な武装が積まれている。もう、私の知るアークス製のライドロイドの数倍は火力があるんじゃないかな?

 

 そんなライドロイドを駆って、私は箱舟の底部にある『中継端末』に向かっている。

 スルスルと廊下を進み、曲がり角で待ち伏せしている敵兵器に対し、遠隔でロックしてホーミングするミサイルを撃ち込んでやる。

 

 箱舟内に出てくる敵は、今までキヴォトスで見てきた敵のオールスターって感じだ。

 ガスマスクハイレグシスターのユスティナ聖徒会に、『名もなき神』の遺産であるディビジョンの機械兵器、デカグラマトンが繰り出してきた機械兵器などだ。全て、ゲマトリアから奪った技術で作り出された存在だろう。

 

 襲ってくる敵の中に、生きている者はいない。

『色彩』は、外の世界から手下を大量に連れてくるといったことはしていないようだ。

 向こうの本当の手札は、謎の存在『プレナパテス』とシロコ*テラーの二枚だけと見なしていいかもしれない。

 

 さて、そんな感じで敵兵器をなぎ倒して、到着した『中継端末』の部屋の前。

 だが、そこには分厚い隔壁が立ちはだかっていた。

 おそらく、なんらかの解除手段があるのだろう。でも、私はそれを気にせずライドロイドの搭載火力をありったけ隔壁に叩き込んだ。

 

 体内からフォトンエネルギーが一気に失われる感覚が襲ってくる。

 別に辛くはないのだが……これがゲーム時代にしょっちゅう陥っていた、PP*1空っぽ状態なのだなと懐かしさを感じたりして。

 

 そんなことを思いながら、私は隔壁に空いた穴にライドロイドをねじ込んだ。

 そして、『中継端末』の部屋に入った瞬間――

 

「うおっと!」

 

 突然、死角からの攻撃を受け、私は痛みを感じてライドロイドを急カーブさせた。

 そして、とっさに周囲を見回して、部屋の状況を確認する。……いた! シロコ*テラーだ!

 巨大な装置が中央に置かれた広い部屋で、ライドロイドを急停止させ、私は大きく跳躍して機体から飛び降りた。

 すると、部屋の隅にいたシロコ*テラーの銃撃が、私のギリギリ横を通り過ぎていった。

 

「こっちにも来たんだ」

 

 私は、アイテムパックから『ユニオンライフル』を取り出しながら、部屋の隅に陣取るシロコ*テラーに話しかけた。

 

 このシロコ*テラー、『次元エンジン』を破壊して進撃を続けている戦闘部隊の前に、今まで何度も現れていたらしい。

 その彼女が、アークス端末のマップ機能ですら探知できない素早さでここに転移してきて、私を撃った。それが先ほどの痛みの原因だ。

 

「あなたには一つ、聞きたいことがある……」

 

 シロコ*テラーが、銃を構えながらそんな言葉を返してくる。

 おや、意外だな。私の言葉は無視するとばかり思っていたのに。

 

「あなたは、何者? ヘイローがないのに、ミレニアムの制服を着て……ことごとく私の邪魔をしようとしてくる」

 

 彼女にとって、私はよっぽどのイレギュラーらしい。まあ、彼女が未来から来たのなら、きっと『ウトナピシュティムの本船』に乗って攻めてきた生徒達のデータはそろっているだろう。しかし、彼女がいた未来には、私はいなかったようだ。

 だから私は、何をしでかすか分からない、シロコ*テラーにとっての最大の懸念材料であると言えた。

 

 そんな彼女に、私は教えてあげる。

 

「アビドス自治区に本社を構える、『エーテルフォトニクス社』の学生社長、道上リクだよ」

 

「私は知らない、そんな会社……」

 

「おや、ご存じない? アビドス高校の借金をゼロにした立役者だよ?」

 

「…………」

 

「ちなみに、キヴォトスの外の世界からやってきた異世界人だよ。よろしくね」

 

「やっぱりゲマトリア……?」

 

「違うっつってんでしょ!」

 

 私は思わず突っ込みを全力で入れてしまう。ついでに銃弾を撃ち込んでやろうかと思ったよ。

 そして、私は一拍置いてから、シロコ*テラーに向けて言う。

 

「とにかく、この世界では私がいて、アビドス高校は廃校を免れたの。先生は怪我をしてもすぐに私の道具で何事もなく治ったし、デカグラマトンもみんなで倒した。だから、この時間軸はこのままみんなで、面白おかしく過ごしていくところなの。そこに知らない未来から突然やってきて、世界を滅ぼそうなんてめちゃくちゃなワガママを通そうとするなんて……絶対に許さないよ」

 

「……そう。あなたはキヴォトスに幸運を運んできたんだね」

 

 シロコ*テラーはそう言うと、放った言葉とは裏腹に、銃を構えて銃口をこちらに向けた。

 

「でも、キヴォトスに死を運ぶ私が来たから、この世界は終わり」

 

 次の瞬間、シロコ*テラーの銃から弾丸が吐き出される。それを私は、ダイブロールで飛び退いて回避した。

 そこから、私達は部屋を縦横無尽に駆け、激しい戦闘を開始した。

 

 撃って撃たれて、かわしてかわされて。死の神『アヌビス』を名乗るに相応しい強さを持つ彼女は、なかなかに厄介だった。

 戦ううちに、段々こちらの戦い方を学ばれている。そんなことを直感的に理解した。

 キツい。キツいが、私の手札は結構多いのだ。

 私も相手の動きを学び、どう動こうとしているかの予想を立てる。そして、そこまでの域に辿り付いて、初めて活躍できるスキルがある。

 罠だ。

 

 はいそこ、足元危ないよ。

 そんな台詞を思わず言ってしまいそうになるくらい、シロコ*テラーが見事なほどに床に設置した罠へ足を踏み出した。それと同時に、私は罠を遠隔起動させる。

 

「!?」

 

 レンジャーのスキル《アッパートラップ》が、シロコ*テラーを宙に跳ね上げる。

 明らかな隙にチャンスを見出した私は、武器パレットから新たな武器を選択。大砲の『ユニオンランチャー』に装備を換え、フォトンアーツを放った。

《コスモスブレイカー》。低速のグレネード弾が『ユニオンランチャー』から撃ち出され、光り輝く球体がシロコ*テラーのもと……ではなく、部屋の中央に向けて進んだ。

 部屋の中央。そこにあるのは、『中継端末』だ!

 

「私が受けたクエストは、あくまで端末の破壊ってね」

 

 巨大な装置にグレネード弾が命中し、装置はフォトンエネルギーの青白い爆発に晒された。

 そして、爆発は装置を完膚なきまで破壊し尽くす。

 

 一方、罠の被害から脱し終え立ち上がったシロコ*テラー。彼女は、破壊された装置を一瞥すると、背後に空間の歪みを作って転移を試みた。

 敗北を悟ったのだろう。しかし、戦闘部隊が『次元エンジン』をいくつも破壊しているのに、まだ転移が使えるのか。

 

「……『ナラム・シンの玉座』で待ってる」

 

 シロコ*テラーは、そう告げて空間の歪みに身を委ねる。

 私はというと、大砲では逃げられる前に攻撃を当てることは難しいと考え、砲弾の代わりに言葉を投げかけた。

 

「うん、そこで決着をつけようか」

 

 きっと、そこに『プレナパテス』なる存在がいるのだろう。

 世界の存亡を決める最後の戦いが、いよいよ始まるのだ。私は乗り捨てたライドロイドを起こしに向かい、先生達との合流を急ぐのであった。

 

*1
フォトンアーツやテクニックを使うために必要なフォトンポイント。

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