【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在 作:Leni
戦闘部隊と合流した私は、ライドロイドを降りて皆と一緒に『アトラ・ハシースの箱舟』の内部を進む。
目指す先は、箱舟の中枢部である多次元解釈エンジン管制室『ナラム・シンの玉座』。
私達は、誰にも邪魔されることなくその中枢まで進んだ。いつの間にか、相手の機械兵器の抵抗は止んでいた。
ということは、中枢部にはありったけの機械兵器が私達を待っているのだろう。
改めて、私達は気合いを入れて『ナラム・シンの玉座』に踏みこんだ。
しかし、そこに待っていたのは……シロコ*テラーと、仮面を被った奇妙なローブ姿の人間の二人だけ。機械兵器の姿は無かった。
まさか、たった二人でこの人数を相手するつもりか?
そんな疑問を持ちつつも、私達戦闘部隊は何も置かれていない『ナラム・シンの玉座』の広間に展開した。
一方、仮面姿の大きな人間、推定『プレナパテス』も、ローブの懐に手をいれ、何かを取り出す。
それは……壊れたタブレット端末。銃弾を受けたのか、三つの穴が画面の中央に空いている。
そのタブレットを手に持ったまま、『プレナパテス』は仮面越しにくぐもった声をあげた。
「"……我々は望む、ジェリコの嘆きを"」
その声は、とても聞き覚えがある響きだった。
私達の後ろに立つ安藤先生と、同じ声をしていたのだ。
「"……我々は覚えている、七つの古則を"」
その宣言が終わった瞬間、壊れているはずのタブレットの画面が点灯する。
まさか。まさかあのタブレットは……!
「"『シッテムの箱』?"」
こちらの安藤先生が、驚きを露わにしてそんな言葉を発した。
すると、次の瞬間、タブレットを持った『プレナパテス』の横に、人が出現した。
それは、白髪のロングヘアに黒いセーラ服姿の少女。頭の上にはヘイローが浮いている。その謎の少女が、静かな声で言葉を発した。
「安藤優先生の生体認証、完了。――『シッテムの箱』、及び『A.R.O.N.A』、起動しました。『ナラム・シンの玉座』の多次元解釈システムにより、実体化成功」
アロナ! 安藤先生が普段から存在を示唆していた、『シッテムの箱』のOS!
だが、その姿は、安藤先生から聞いていたパステルベビーブルーを基調としたアバターとは、見た目が異なる。シロコ*テラーのように、『色彩』によって反転した姿だというのか。
『プレナパテス』の正体が安藤先生ではないかという、あまりの状況に、困惑して固まってしまった私達。だが、一人だけ冷静さを保って銃を構えて引き金を引いた者がいた。
シロコだ。彼女は、実体化したアロナに向けて、銃弾を放った。
しかし、アロナは手に持っていた黒い傘を開いて、その銃弾を軽々と弾いた。
「――危機的状況と判断。『アトラ・ハシースの箱舟』、復旧システムを起動」
傘を広げながら、アロナが淡々とした声で宣言する。
「『シッテムの箱』の権限により、破壊された『アトラ・ハシースの箱舟』を他次元の同一存在と交代・修復します」
「!?」
そのアロナの言葉を聞き、またもや驚かされる私達。
彼女は、並行世界から別の箱舟を持ってきて、壊れた箱舟を向こうの世界に押しつけようとしているのだ。
それはつまり……。
『敵船の『次元エンジン』、復旧を開始しています! 船内の敵兵器も復活しています!』
『ウトナピシュティムの本船』から通信が入る。……これは、ちょっとまずくないか?
『敵兵器、一斉に『ウトナピシュティムの本船』に向かってきます! こちら、バックドアの除去が完了したため、総員で迎撃に入ります! そちらのサポートはできないと思ってください!』
リン船長の叫ぶような声が、通信越しに聞こえてきた。
ここに来て、まさかの本船襲撃! 戦闘部隊は、全員この『ナラム・シンの玉座』にいる。オペレーター達で、本船を守り切れるのか?
私は、とっさに作戦指揮官である安藤先生の方を振り返る。
すると、安藤先生は懐から大人のカードを取り出して、言った。
「"急いで決着をつけて、本船を助けに行こう。総員、戦闘準備!"」
その声に、アビドス生、ゲーム開発部、シャーレ部員、そして私が一斉に銃を構えて『プレナパテス』へ銃口を向けた。
「あっちも先生なんだよね? 撃っちゃっていいのかな……。一発でも当たったら死んじゃうよね……」
恐る恐る言うように、ゲーム開発部のミドリが震える声で言葉を発した。
しかしだ。私は躊躇しないで、フォトンエネルギーを『ユニオンライフル』に込める。そして、ちらりと視界に映るアークス端末のマップ機能を見ながら、言った。
「『プレナパテス』には、銃弾を当てても問題ないよ。なにせ……」
マップに表示される、『プレナパテス』のマーカー。明らかに異常なそれ。
「あの先生は、すでに死んでいるから」
……マップのマーカーは、一切の生体反応を示していなかった。あの『プレナパテス』は、死体だ。
そんな私の言葉を聞いていたであろうシロコ*テラーは、『プレナパテス』をかばうようにして、彼の前に陣取る。
死んでいるはずの安藤先生が動いている。その異常事態に戦闘部隊の一同は動揺したまま……シロコ*テラーの銃撃を合図にして、戦いが始まった。
◆◇◆◇◆
仮面を被ったローブ姿の死体は、どうやら本当に安藤先生のようで……彼は、朽ちてボロボロになった大人のカードを取り出して、戦闘に介入してきた。
彼の大人のカードは、虚空から謎の攻撃を放つ効果を持つらしく、多勢に無勢だったはずの状況から五分五分の戦いまで持ちこまれた。
こちらの安藤先生も、どうにかして大人のカードを使って、その攻撃を防ごうとするが……時間が経つにつれ、敵の攻撃は激しくなっていった。
もしかしたら、『プレナパテス』は復旧しつつある多次元解釈システムを使って、並行世界から攻撃を呼び出しているのかもしれない。
そんな激しい攻撃に、戦闘部隊のメンバーが、一人、また一人と倒れていく。
「まあ、強制的に起きてもらうんだけどね。オラッ! 倒れていないで働けッ!」
私は、範囲回復を行なう薬品である『スターアトマイザー』を放り投げて、倒れた仲間を復活させる。
いける、まだいける。だから起きろ!
と、そんなことをしていたら、どうやらシロコ*テラーは私を一番厄介な存在だと思ったらしい。戦闘部隊への攻撃は『プレナパテス』に任せ、シロコ*テラーは私を執拗に狙い始めた。
回復薬の使用には、どうしても隙ができてしまう。だから、シロコ*テラーの判断は正解だ。
なので、私は長銃を構え、シロコ*テラーとの戦いに集中することにした。
回復薬を限界まで持ちこんだ私と違い、相手には回復手段はない。いや、『プレナパテス』の大人のカードならそれもどうにかできそうだが、とにかく削り続ければ倒せると信じて、私は戦いを続けた。
罠を。特殊弾を。フォトンアーツを。武器の持ち替えを。スキルを。あらゆる手段を用いて、私はシロコ*テラーを攻撃し続ける。
やがて……シロコ*テラーは、倒れた。
「くっ……」
戦闘部隊全員の銃撃を受けて、怪我を負い床に伏すシロコ*テラー。
そして、未だ無事に立ち続けている一部の戦闘部隊が、『プレナパテス』に銃口を向けた。
そんなとき、こちらの安藤先生が彼の方向へ向けて言葉を放った。
「"そちらのアロナ。答えてほしい。その人は……別の時間軸の『私』で合っている?"」
「一部肯定。対象が、連邦捜査部シャーレの顧問、安藤優先生と同一存在であることを確認」
「"そう……"」
安藤先生は、大人のカードを構えたまま言う。
「"そちらの世界は、『私』が死んで、全てが狂ってしまったんだね"」
その言葉に、アロナは否定をせず沈黙することで答えた。
一方、別の時間軸の先生であるという『プレナパテス』は、無言で大人のカードを掲げる。すると、彼の目の前に青く光る半透明の画面が現れた。そこには様々な数字や文字が書かれており……彼が画面に向けて大人のカードを向けると、画面内の数字が勢いよく変動した。
すると、次の瞬間、倒れていたシロコ*テラーの傷が治り、彼女は瞬時に立ち上がった。
そして、銃を拾い直した彼女は、淡々とした声で言う。
「――先生を殺したのは私。でも、あの世界は、私が先生を殺す前から狂っていた」
ああ、きっと。彼女がいたキヴォトスは、悲劇が連鎖してめちゃくちゃになってしまったんだろう。そうじゃないと、シロコが先生を殺すなんて事態は起きないはずだ。
でも、だからといって。こちらの世界まで狂わせていいということにはならない!
「私が先生を殺した瞬間、先生は『色彩の
そんなことを言うシロコ*テラーに対して、先生が告げる。
「"シロコ。そして『私』。君達を止めてみせるよ"」
そうして再び、激しい戦いが始まった。安藤先生の大人のカードと、『プレナパテス』の大人のカードが、互いに奇跡を起こしあい、戦場をかき乱す。
……大人のカードの使用には、リスクが存在するのだという。先生は、この戦いでどれだけのリスクを負ってしまったのだろうか。
おそらく、『プレナパテス』もそのリスクを負っているだろう。しかし。しかしだ。『プレナパテス』はすでに死んでいる。死者がリスクを負ったところで、今さら何があるというのか。
だから。
この戦いは、大人のカードの力に後押しされて、銃弾を物ともしなくなったシロコ*テラーによる蹂躙劇に変わった。
『プレナパテス』を守るようにしてその場に仁王立ちし、ひたすら銃を撃ち続けるシロコ*テラー。そして、彼女に撃たれ次々倒れる戦闘部隊のみんな。
私は必死になって回復薬をばら撒き続けるが……そのたびに、シロコ*テラーが起きた仲間へ銃を向け……。
いつの間にか、この場に立つ者は、先生と『プレナパテス』、アロナ、シロコ*テラー、そして私の五人だけになっていた。
銃撃を受けても大人のカードの力で傷を一切負わないシロコ*テラー。
ならばと『プレナパテス』を直接狙っても、アロナがそれを防ぎに入る。
戦況は明らかにあちらの有利であり……私は、武器を大剣に換え、先生の前に立ってシロコ*テラーの銃撃をガードし続ける状況に追い詰められていた。
先ほどから、シロコ*テラーは先生を狙ってきている。私を狙っても、回復手段が無数にあることを理解したのだろう。
だから私は、先生をかばい続け、先生は大人のカードで『プレナパテス』に対抗を続けた。
もしかしたら、このまま戦いを続けていたら、『プレナパテス』は大人のカードのリスクで自滅するのかもしれない。
しかし……その前に先生がやられてしまったら、私は『プレナパテス』の大人のカードの力に対抗しきれなくなって、全て終わりとなってしまう。
だから、私は先生の前で光り輝く大剣を使って、敵の猛攻をひたすら防ぎ続ける。
防ぐ、防ぐ。耐える、耐える。
「"頑張れ……"」
ひたすら耐え続けていると、ふとそんな声が背後から聞こえた。
「"頑張れ、リク。私も頑張るから……"」
先生のエールだ。
その声が、私に活力を与えてくれた。
だから私も、大剣を構えながら言った。
「頑張れ……」
背後に振り向くことなく、先生へエールを送った。
「頑張れ、先生! 私も頑張るから……!」
そこから私と先生は、互いにエールを送り合い、シロコ*テラーの猛攻をしのぎ続けた。
やがて……エールを送る者は、私達二人だけではなくなった。
『――頑張れ、せんせぇ!』
倒れた仲間達の声、ではない。
その声は、先生の左肩に浮くロボットペット、改造カメラエグから響いた。
『社長、ファイト!』
『立て! みんな立ち上がれ!』
『あと少しなんだ、いける!』
『キヴォトスの未来を救ってください!』
そんな言葉と共に、真っ白だったはずの『ナラム・シンの玉座』の床が、青く輝き始めた。
これは……フォトン? いや、違う、エーテルが一箇所に集まったときの光だ!
「"これはいったい……?"」
先生が不思議そうに言うが、私はだいたい分かったよ。
「先生、いまキヴォトス全域で生放送中だよ。視聴者の応援コメントの通り、もう少し頑張って、みんなに良いところ見せようか」
これはきっと、先生の左肩にいるカメラエグがエーテル通信で受け取った、視聴者達の声だ。
今、キヴォトスにある全てのエーテル通信施設は、『色彩』の波動に対抗するため全力稼働している。そこから発生したエーテルが、どういうわけかこの『ナラム・シンの玉座』まで押し寄せて、場を青く染めているのだ。
エーテルが場を満たしたからって、何かあるわけじゃない。
でも、こうも応援されたら。頑張るしかないでしょ?
「"そっか。うん、みんなの応援が、私の力になるんだ"」
先生が嬉しそうにそう言った次の瞬間。突如、私の前に青い板状の物体が出現し、シロコ*テラーの銃弾を完璧に防いだ。
「!?」
突然の事態に、私は驚いて固まってしまう。
だが、そこへ背後から先生の声が響く。
「"大丈夫だよ、リク。私が出した盾だから"」
その自信に満ちあふれた声に、私は思わず振り返ってしまう。
すると、そこにいた先生は、いつもの白スーツ姿ではなく……青い模様の入ったいつもより豪奢な白スーツを着込んでいて、さらに青い盾を片手に構えていた。
まさか、これは……。
「エーテルの力……!」
エーテル通信塔を建設して以来、ずっとキヴォトスで事例を全く聞かなかったため、すっかり考慮の外に置いていた、エーテルの隠された効能。
幻創種や幻創体とはまた違う、エーテルの具現化能力の一つ。
エーテルへの飛び抜けた適性を持つ人間がときおり身につける、エーテルを操る特異な力。
その名も――
「――『具現武装』!」
先生は、盾を自在に具現化する